通勤時間だけを利用して書く。
これ以上無い程のしょうもない話になるよう頑張る。
〜とある国の、とある首都。そこに佇む一人の人間〜
オレの名は、サトウ。だが、どこにでも居るただのサトウではない。オレはいづれ、この世界を変える偉人。
何故ならオレには、この地球上の生命体より高次的である筈のとある存在(神……と言っても差し支えは無いだろう。兎も角そういった、庶民共には信じることが出来ても一生縁は訪れないであろう非ィ現実的な何かだ)より課せられた、崇高かつ壮大な使命があるからだ。それが何かは言えない。何故なら、それはオレの最高機密事項だから。それが知りたくば1億円よこせ。ま、貴様らの樣な雑魚庶民には無理だろうがな。
何度も言うが、オレはただの人間ではない。
オレこそが、この地球上における主人公。オレ以外の人間など、クズだ。どいつもこいつも、自己中心的なナルシスト野郎であろう。道行く人々を見りゃ分かる。顔付きとかなんかムカつくし、オレの端麗な容姿とは雲泥の差だ。奴らは全員、人に媚びた顔をしている。本来もっと自由であれる筈の自分を殺した生活など、下らない人生だ。そのような者共が、このオレと釣り合う筈は無い。
■第1話
オレの人生における目的は、自身に課せられた崇高かつ壮大な使命を果たすことである。それ以外のことなどどうでもいいが、しかし、使命を果たす為にはまず己が健康であらねばならない。これは大前提だ。
そして己が健康であるためには、まず、毎日の食生活が必然だ。それも、出来るだけ豊かな食生活であることが望ましい。
つまり、食べたい時に食べたいものを食べ、飲みたい時に飲みたいものを飲む。
この自由な食生活こそが、より己を幸福にする。しかし、これがなかなか難しい。何故なら、金が要るからだ。非常に忌々しいことだが、このオレ様でさえ、金の力には縛られる。
だが、オレはそれに抗う。
是が非でも働かぬ。社会に媚びてはならぬのだ。この地球上で最高の存在であるオレが、つまらない仕事に現を抜かすなど、おかしいことだ。オレの人生はもっと豪華じゃなきゃ嫌だ。
因みに金は、人の財布から奪い取るものだ。まあ、これにはかなりの技術が要るから難しいがな。
そこでひとつ、もっと簡単に金が手に入る方法がある。聞いて驚け。使うのはそう、街中の自販機だけだ。
そこかしこにズラリと並ぶ自販機。そして、人はこれを物凄い勢いで使用しまくる。ペットボトル1本、スーパーで買えば安いものを、その手間に掛かるホンの数分を惜しんで自販機を使ってしまう雑魚人間共のサガ。オレはそれを、利用する。
見ていろ。まずはこうだ。釣り銭口に手を入れる。
「……チッ…、無いか」
無かった。
だが、諦めるのはまだ早い。
「ガンガンいくぜ」
オレは横に並ぶ自販機の前に立ち、釣り銭口へと手を入れた。
「………んー、無いなあ」
大丈夫だ、問題無い。自販機はまだまだある。この国は、自販機大国。ましてやここは首都。オレが住む町だけを見ても、かなり大量の自販機が設置されている。オレの計算上、その数およそ百五十。
「腕が鳴るぜ!」
オレはさらに横へと並ぶ自販機の釣り銭口に手を入れた。だが、またしても……無い。例の感触が来ない。
この場には三台しか自販機が設置されていない。オレはその場をすぐに離れ、数十メートル先にある次の自販機ゾーンへと足早に移動した。そうして次々と釣り銭口に手を入れては落胆を繰り返し、約2時間を掛けてこの町の自販機をほぼ全てチェックして周った。
残る自販機の数は、あと五台。
「マズい……マズいぞ」
焦るオレ。
「頼む……自販機の女神よ!微笑んでくれ!」
ここまで来てしまえば、もう神頼みだ。
オレは自販機の釣り銭口にそっと手を入れた。労るように、手を入れた。そして撫でる。平たい金属の無機質な感触。
「なぜだ……!」
跳ねるようにしてオレはその自販機から離れた。背中を伝う汗が異様に冷たい。
「はあ、はあ……これはちょっちマズいぞぉ……」
だが、まだだ!これは試練だ。大丈夫、オレならイける……。
乱れる呼吸をグッと堪えて、隣の自販機へと移動する。そして、藁にも縋る思いで釣り銭口をまさぐる。
「ああぁあぁああ」
無い。そんな馬鹿な。昨日はあったのに!
そう、昨日は確かにあったのだ。ミッション開始から僅か五分。調べ始めの自販機からたったの七台目、そこに百円。さらに二十台目、そこに七十円。そしてさらに八十台目、ここにも七十円。合計二百四十円の収入である。
それが今日は……!無い!無い!
「無い……」
こんな馬鹿なコトって無いよ……。
もうヤケだ。オレは残す自販機三台の内二台の釣り銭口目掛けて同時に手を入れた。
「………現れろ!現れろ!!」
何かが変わると信じて、オレは叫んだ。
「金よ、来い……!我が元に!!!」
でも……駄目だった。
マジでどうすればいいんだ。このままじゃオレの生活が危うい。
「待て……待て待て。落ち着くんだ。まだ最後の一台がある」
オレは、両手を自販機の釣り銭口が取り出し、手のひらを合わせてコキコキと関節を鳴らした。そして身体の位置を左にずらす。目の前に聳える最後の一台。その立派な姿に気圧され、オレは暫し黙祷した。こういう場合は、まずリスペクトだ。形だけでも相手をリスペクト。
「あぁ、いつも雑魚庶民共の相手に明け暮れ、そんなボロボロになって……」
オレには見えるよ、お前の苦痛が。悲痛なる叫びが。本当に、お疲れ様です。
だが、オレには及ばない。オレの凄さには及ばんぞ。オレはこの地球上の頂点に君臨する最強の生命体。そう、オレこそが……。
心の中に脈打つ高揚感。気持ちを新たにし、スッと目を見開く。
「てめえがラスボスか……!」
ここまでの道程、自販機約百五十台相手に全戦全敗。でも……そんなの関係ねえ!!
上等だよぉォオオオ!!やってやる!!今ならどう考えても勝てる!なぜなら貴様は今このオレにリスペクトされた直後で油断している!
だからオレは、すぐに人生最大級の覚悟を決め、持てる限りの意識を右手に集中し「えい!」という気合いと共に釣り銭口の蓋を突き破り「弁償など知ったことかあああああ!!!」と、雄叫びを上げながら素早く中を撫で上げた。
――しかしその瞬間、全身を駆け巡るおぞましい程の戦慄――
オレはたまらず手を引き抜いた。
「待て!!待て待て待ってよ、ちょっと待て!」
ちょっくら待ってよ、それは無い。ここまで来といて、それは無い。
「……いや、いやいや大丈夫。多分、今のは夢だ」
……だって、有り得ないもん。こんなコトって、あっちゃ駄目だもん……!
金が……無かったのだ。ナッシング。永遠のゼロ。オレがニ時間以上も努力した結果。
収入……ゼロ。
本日の収入……ゼロ。ミッション成功ならず。
せめて10円でも拾えれば、じゃなかった、収入があれば今日の飯には困らなかった。10円で、なんか買えた筈なんだ!
でももう無理。だって今、オレの所持金1円だし……。
なんじゃこりゃ!
酷過ぎワロタ
久々に更新してみようかな。いづれwww
酷く落胆したオレは、足取りも重く帰路の途に付いた。
時刻は午前2時を回ったところ。人通りの引いた0時から作業を開始していたが、結果は散々。
飯を求めてお腹が鳴る。
"グー!"
グーじゃねえよ!ふざけんな!
パーだわ!
オレの努力がパーだわ!!
"グゥー!!グゥウー!グッド!グッド!グー!グゥー!笑"
「ちくしょうがああああああ!!」
何か手は無いものか!
もう何でも良いからオレに救いを!
半ば自暴自棄になりかけたその時!
視界の端にキラリと光る何かが見えた…!
「……ん!?」
正確に言うと、自販機の影にチラっと、輝く粒のようなものが見えた。
「ん!?んんー!??」
心にゾワリとした何かを感じ、2時間の労働で疲労した身体に鞭打ち、ダッシュで駆け寄る。
「うわ!こ、これは……!」
手にとったそれは、コインであった。どこかのパチスロか、ゲーセンのコイン。
「なぜこのような場所に?」
いや、待て。
まさか………財布か何かから……落ちた?
身体に電源が走り、ハッと「その可能性」に気付くオレ。
「……そうか……ハハッ…!アッハッハッハッハッハッハ!!!」
自販機の女神は、まだオレを見捨てちゃいなかった!
「ミッション……再開」
ねっとりとした不敵な笑みを浮かべ、オレは再びスタート地点へと舞い戻る…。
その後陽が昇り、彼は、ここディストピアシンフォニー国の都民達が荒波のように会社へ出勤していく時刻、幽鬼のような表情を浮かべながらベンチで力付きていたところをポリスに通報されましたとさ。
〜完〜