一話
―キーンコーンカーンコーン……
7月の朝。私、白川和は自分が通っている中学校の下駄箱の前で立ち尽くしていた。
自分の下足箱を開けると、そこには大量の生ごみが。
「どうして……」
かすれた声が口から漏れる。
すると、横から声をかけられた。
「なーごみちゃんっ!」
少しびっくりして、慌ててその方向を向くと、ふわふわしたツインテールの女の子が立っていて、その周囲には、女子が2人立っていた。
ツインテールの女の子は、ニヤニヤとしながら私の肩をたたく。
「和、やっぱりあんたにはゴミがお似合いだわ」
「桃原さん……」
呆然とした目で高笑いするその子を見つめていると、細い眉がきゅっと吊り上った。
「何?あたし達がやったとでも言いたいの?」
「え……いや、そんなことは……」
たじたじになっている私を見て、桃原は私に近づく。
そして、後ずさりする私を睨みつけた。
「文句でも言いたいの?弱虫のくせに」
それだけ言うと、満面の笑みを浮かべて桃原は取り巻きの女子たちを連れて教室に戻った。
誰も居なくなったのを確認すると、私は生ごみを手でかき出し始めた。
ビチャビチャとゴミが床に落ちるが気にしない。
やっと内履きを見つけ、取り出してみたが、とてもじゃないが履ける状態じゃなかった。
内履きを手に持ったまま、魚の内臓や、腐った野菜などを眺めていると、頭に2つの漢字が浮かんだ。
『復讐』
そうだ、アイツらに復讐をしよう。
悪者には制裁を。そして……いじめっ子には降伏を。
私の目には、もう何も映ってはいなかった。
頭にある唯一のもの。
『復讐』だけ―。
二話
その後、私は一人で家に帰った。
うちの両親は共働きで、どちらも夜まで帰ってこない。
そんな中で、私は荷物を置くと、制服を着たままパソコンを立ち上げた。
どうやったらあいつらに復讐ができるか……。
どうしたらいいか……。
それだけしか考えられなかった。
「アイツら……絶対許さない」
ネットの検索スペースに、ある文字を打ち込んでいく。
『△私立○×中学校 裏サイト』
私が通っている私立の中学校。
偏差値は高いのに、どうしてあんな奴らがいるのか。
どうしてあんなことをするのか。
裏サイトと言っても、沢山種類があった。
その中で、私の目に留まったのは……。
『いじめられっ子の皆さん、しゅーごー!』
というサイトだった。
いじめられっ子……私にぴったり当てはまる言葉。
中身を見てみると、すでに400件以上のコメントが寄せられていた。
その内容は、いじめの内容や、相談や、ただの悪口など、人それぞれ。
私は一番下のコメントスペースに何を書こうか迷った。
いじめの内容を書けばいいのか、それとも……。
私はキーボードをたたいていく。
私のコメントは一行で済んだ。
『私を虐めている奴らに復讐をするにはどうしたらいいですか?』
そう書き込んで、しばらく待ったがコメントの返事は来ない。
まぁ、それもそうだろう。
だって今は、みんな学校へ行っているはずなんだから。
諦めて閉じようとしたとき。
ピロリン♪
耳触りのいい音が響いた。
慌ててコメントを確認すると、一気に3件のコメントが寄せられていた。
『やり返すのよ。今まであなたが受けてきた仕打ちを。倍にして返すの』
『そいつらに復讐する方法はただ一つ。階段から突き落としてしまえ』
『私が、力を貸してあげる』
私の口角は無意識のうちに上がっていった。
そう、そうよ……。
この人たち……この人たちならわかってくれる。
先生や親たちに言うなんて子供っぽくてばかばかしいわ。
それに、そんなことをしたら私の手で処刑ができなくなるし。
だから、だから私はこのネット世界に来たのよ。
私には二つの世界がある。
一つはリアル。もう一つはネット。
リアルがだめならネットに頼ればいい。
私の不気味な笑い声が部屋の響いた。