温かい春風が吹く素晴らしい日に、一人の女の子が生まれました。
大人たちは、その子を「純」と名付けました。
「いつまでも、純粋な心のままでいてほしい」
という想いが込められた名前でした。
それから、その子はすくすくと育ってゆきました。
純はある日、二人の少女に出会いました。
一人は、泣いていました。
「どうして泣いているの?」
一人は、笑っていました。
「どうして笑っているの?」
ずっと泣き続けてきた少女の瞳は、夜の闇よりも深かった。
ただ、声も上げずに、感情を水に変えて、泣き続けることでしか自分を守れなかったのです。
ずっと笑い続けてきた少女の瞳には、何も映ってはいなかった。
ただ、自分の意思を押し殺して、表情を保ち続けることでしか自分を守れなかったのです。
この二人の少女を見た純は、あることに気付き始めました。
―あぁ、同じだ。
この二人は、全く同じでした。
泣き続けた少女と、笑い続けた少女。
何が同じなのか。
全く逆ではないか。
確かにそうでしょう。
笑いと、涙。
笑顔と、悲しみ。
全く逆のこの言葉。
しかし、本当に逆なのでしょうか。
この少女たちは、真逆の感情の使い方が同じだったのです。