『スランプ完全脱出』を目指してがんばる。
とにかく色んな話、色んな視点で書いて文才上げる。
魔法が使えるようになったら、君の願い事はなんでも叶うだろう。それこそ、嫌いな村人を殺すことだってね。
マリアの小さな手をとって、目の前の黒いやつは言った。
ごうごうと風がふき、その風は周りの木々を倒さんばかりに揺らす。どこからか、パキリと音がして、小枝がマリアの前に落ちた。
その小枝を、空いている方の手で掴む。
マリアの手をとっている、黒くて大きなもじゃもじゃした手に、容赦なく小枝を突き刺すと、黒いやつは悲鳴ではなく、笑い声をあげた。
「さすがだ、さすが我が見込んだだけはある!お前は素晴らしい!さあ、我と契約しようではないか!」
そんなの勘弁。
だって、『けいやく』は国王様がやることだもの。マリアみたいな子供はしちゃいけないのよ。
そんなことも知らないの?
マリアは手を振り払って、村に向かって走り出した。
第一、あいつはマリアが村人を嫌いだと言うけれど、マリアは村人が大好きだ。
例えば村長のアポカリス。あの人は、マリアに遊びを教えてくれた。
隣の家のエリャアーチェもそう。一緒に遊んでくれるし、最近では足し算というものを教えてもらった。
みんな大事な人達。嫌いになんてなれない。ひとつの村で、ひとつの家族。それを知らないなんて可哀想な人ね。
森を抜けても、まだ声は聞こえる。
マリアは耳を塞ぎたかったけど、耳を塞いだら振る腕が無くなっちゃうから無理。
声は低くて、獣みたい。そう、威嚇してる狼みたいな。
マリアは棒になりそうな足を励ましながら走った。
「ああ、そうとも、村へと帰るがいい!だがしかし、お前の還る家など、もうどこにもないがなああァ!」
「……ママ?……パパ?……ママ、パパ、ねぇ、ねぇ、どうしたの、ねぇッ!?」
マリアの泣きじゃくる声が、崩れかけの家にこだます。
誰がこんな酷いことをしたかは、もう見当がついていた。けど、そいつに復讐してこないのは、まだその力がないから。
力が欲しい。復讐がしたい。でも、どうすればいいか分からない。
分からないなんて………そのためなら、どんな恐ろしいことだってしてみせるのに!
マリアの背後で、またあの笑い声が聞こえた。
あれは飴玉。とってもとっても美味しい飴玉。青色をしているから、きっと食べたら、ソーダの味がするんでしょうね。
それはチョコ。とても大きいでしょ?少し黒っぽいのよ。それが残念ね。ブラックなのかも。
これはりんご。りんごって日に焼けるのかしら?日に焼けるのは健康の証だから、きっとこの赤黒いりんごも、健康なのよね。
「お客様、何にいたしますか?」
メニュー表を差し出すと、お客様はそうだなあと考え込んだ。
どれもこれも美味しそうだから、きっと迷ってるんだわ。数々の料理は、レジ近くの料理のサンプルを見ただけで美味しいものだと分かっちゃうもの。
一応メニュー表には、どういう味なのか書いてあるけど、それはきっと必要ないでしょうね。
だって、見ただけで味が分かっちゃいそうなんだもの!
「そうだね、ではこれを頼もうかね」
あらまあ素敵!お客様が決めた料理は、当店イチオシのステーキだわ!
このステーキ、実は一品に付き、ステーキは二枚なの。とってもお得なのよ。
さすがに大きすぎるし、食べれないって人が多くてなかなか頼んでくれないのだけれど……この人、食のスペシャリストかなにかなのかしら?
わたしは激しくなる動悸を、お客様に悟られないよう、静かに言う。
「かしこまりました。……ちなみに、味付けの方は、どういたしましょうか?」
「ああ、そのままで構わないよ」
「となると……特性ソースも無しでいいのですか?」
「そのまま食べてみたいからね」
やっぱり食のスペシャリストなのだわ!
このステーキを、味付けもソースも無しでそのままなんて……わたしですら、そんなこと考えたことなかったわ!
常連さんになってもらって、いつか弟子にしてもらいましょう。ええ、そうしましょうとも!
「あと、これも」
つ、次はこのワイン……!?
もうダメ、この人、食を司る神なのね……!
「は、はい。では、ご注文の品を確認させてもらいます。10代女子(おなご)の肺のステーキ一つと、生まれたての子供の生き血ワイン一つですね」
「ああ、よろしく頼むよ」
ああもう素敵!なんて素敵なんでしょう!
わたしは鼻歌まじりに厨房へ向かう。
シェフがおや、とわたしを見た。
「珍しいね、君がそんなに浮かれるなんて」
「ええ、師匠がようやく見つかりましたの!」
「ほお……これでようやく、君もこちら側に正式に来れるってことだ!」
「ええ、ええ!そうなんですよ!ああああっ、今すぐ弟子入りしてこなければ!」
きっと、素晴らしいカニバリズムを伝授して下さるはずですもの!
ガリガリガリ……
「たつやぁー、たつやあぁー」
ガリガリガリ……
母さんはうるさい。僕は今仕事をしているんだ。それを毎日毎日邪魔しに来ては、騒音で部屋を埋めつくそうとする。
仕事が捗らないじゃないか。
ガリガリガリ……
僕は痒くなった首を掻いた。首を掻けば、白っぽい粉が床に落ちていった。
「たつやぁ、お願いだから出てきてぇー」
うるさい、僕は仕事をしているんだ!
『お願いだから』?んなの知るか。僕は僕の考えだけに従うんだ。
ガリガリガリ……
「たつやああああ!!」
ああくそ!失敗しちゃったじゃないか!
ああ、ああ、あああああ、こんなに目安の線から、大きくずれてしまっているよ!
これはとても難しい作業なのに!
どうしよう、完成の形を変えるしかないのか……___
「たつや!出てきなさい!たつやッ!」
「ああもう、うっせぇんだよッ!!黙れよこのクソババアがあぁ!!僕ぁねぇ、今仕事をしてるんだよおおおッ!!!!」
再びガリガリガリ……という音がする。
それからしばらくして、僕はなんとか腕を切り終えて、ふぅと一息ついた。
予定よりずれたけど、まあ、これくらいなら良しとしようかな……。
あのババア、仕入れに行くときに視界に入ったら、すぐに家具の飾り物にしてやる。
たつや、と僕を呼ぶ声がする。
僕はそれを無視して、腕と胴体、そして足を組み立てていく。
今日作ったのは小物入れ。材料が小さいからしょうがないけど。
取り出した要らないものは、近くのレストランに売って金を得る。しかも、一つの臓器につき5万円!
ふふふ……美味しい仕事だ。
「たつや、いつまでそんなことをしているの……警察が怖いなら、山奥へ行こう。母さんと一緒に。ね?いいでしょう、たつや」
「うっせえ、黙っとれクソババアァッ!!!!」
ああ、イライラする。気を紛らわすため、今日中には小物入れを完成させてしまおうかな。
___………あ。
この頭どうしよう。あのレストラン、脳みそ取り扱ってたっけ……小物入れには頭要らないんだよなあ。
僕はその頭を抱えた。
手を振った。そしたら、たくさんの幼虫たちが落っこちていった。
足を鳴らした。そしたら、たくさんの蝶々が踏んづけられて潰れてしまった。
頭を振った。そしたら、たくさんの小鳥が落下し、骨を折った。
息を吸った。そしたら、たくさんの人間が倒れて道を塞いだ。
それだけのことで、今日もどこかで何かが死んでいく。
それでも自分は平和だ。自分だけは平和で、誰かが手を振ったり、足を鳴らしたり、頭を振ったり、息を吸って、その影響が自分に出ないまで、きっとずっとこのまま。
どこかでバイバイと声がして、手が振られた。
どこかで生きているものが死ぬ。
ああ、可笑しいな。
なぜか息が苦しくなった。
ああ可笑しいな。
なぜか頭が痛くなった。
ああ可笑しいな。
足が痛くなった。
ああ可笑しいな。
手が痛くなった。
そうか、と自分は最後の空気を吸い込む。
自分はもう死ぬのだと確信して、静かに目を閉じた。
願うことが許されるのならば、今度はもっと長い平和を見ていたい、感じていたい。
___老人が、粗末なベッドで死に絶えた。
老人は誰を恨むこともせず、息を引き取った。……最後に願い事をして。
いつの世も、平和は長く続かない。
些細なことで、全て崩れ去っていく。老人の『生』も、まさにそれだった。
ぼくは自他ともに認める天才だ。それは死んでも変わらない!
「やあ、マークスくん。君は天才らしいじゃないか」
ぼくはニコリと笑って「ああそうとも、ぼくは天才だ。それが何か?」と言った。
教授が、それならばと話を持ちかける。
「外国語の方はどうかね。天才なのだろう?」
もちろん、とぼくは頷いた。
ぼくはドイツ語、フランス語、中国語となんでも分かるからね。日常会話どころか、現地の人でも使わないような言葉だって知っている。昔は、人がぼくを語学の天才と呼ぶことだってあった。
教授が満足げに頷いた。当たり前だ。ぼくは人を満足にさせられるほどの天才なのだから。
「そうか。なら、あそこに東洋人がいるだろう。彼女は日本人だ。彼女と何か会話をしてくれないか」
指差す東洋人は、周りの西洋人……つまり、ぼくらのような人間よりも、凄く小さな体をしていた。
東洋人特有と黄色い肌が、シャンデリアの光で、より黄色く見える。うーん、まさにイエローモンキー。
同じ人間なのに、どうもこうして違うのか……研究したくなってしまうな。
教授は近くの人を呼んだ。その人は、生粋の西洋人のようだった。
彼は何で呼ばれたのか分からないようで、教授とぼくの顔を交互に見ていた。
そのせわしなく動く目を止めるように、教授が話をした。
「今から、本当に彼が__」そこでぼくを親指で指差した。
「語学の天才なのか、調べるところなんだ。君は日本語を話せたね。だから、本当に彼が日本語を喋っているかどうか、見極めてほしいんだ」
そうなんですか、とぼくと彼は頷く。
ぼくは内心焦っていた。実はぼくはあらゆる外国語に精通していようと、あまり未来的にも使わないような日本語を学んでいないのだ。
つまるところ、日本語なんて無理というわけだ。
「おうい、ケイコォ」
日本人へと呼び掛ける教授。ケイコ、というのは彼女の名前なのだろうか。
ケイコがぼくたちのところに向かってくる。少し片言の英語で、教授に「なんでショうか」と尋ねた。
「実はだね、彼__……マークスくんと、日本語で話をしてもらいたい」
「はあ……なんででショうか?」
「彼が本当に語学の天才かを調べるためさ」
ケイコは少し迷った様子を見せたが、そこまで時間を使わず、返事を決めたようだった。
返事はイエス。ぼくと彼女の日本語での会話が始まるのだ。
とりあえず、挨拶を交わしておけば大丈夫だ。日本語に精通しているという西洋人もいるが、まあ、なんとか誤魔化せるはずだ。
この僕の天才なる頭を使えばね!
「では始めよう」
教授が両手をパチン叩き合わせると、ケイコがこう言った。
「本当に日本語をお話になるんで?」
ぼくは見よう見まね(聞こう聞まね、と言うべきだろうか!)で、少し長めの挨拶(勘違い!)と思われる言葉を発した。
「ホんトー、ニほんゴおはなしになんデー」
すると、ケイコは驚いたような顔をした。どうしたのだろうか。返事が可笑しかったのだろうか?
ぼくは冷や汗をかきながら、彼女の次の言葉を待った。待ったとしても、発せられる日本語は分からないが。
「まあ」
彼女は英語で言った。
「こんなこトだろうと思いまシたわ。言葉を上手く発せなくて、こうやって方言で言っテしまうノデスヨ!」
教授の目がぼくを捉えた。
その目に含むのは、嘲笑だった。
ケイコはぼくにとどめを刺すように、続けてこう言った。
「それに、冷や汗をカイて、目を泳がせていましたもノ!」
それからぼくは、自分で天才だと言わなくなった。
お題『雨』
僕は今、とてもリアルな夢を見ている。
日光で温められ、熱でいっぱいになった道路がジュワァっと音をたてながら、急速に冷えていき、その冷たさは、とうとう君の体をも覆った。
君の体が、冷たくなっていった。
とてもリアルな夢だった。
僕は目を開けた。飛び込んでくるのは、いつもの天井。
瞬きをすると、また景色があの道路に変わった。君の体は、冷たい水で濡れている。
僕は君のだらしなく落ちている手をとって、君の体を起こそうとしたけれど、君はなんの反応を見せてくれず、代わりにギィっという、骨が軋むような音がした。
君の手を放して、僕は自分の手のひらを見つめる。黒かった。けど、水で色が薄められ、黒から赤にへと変わった。そこで、これは『黒』なんかじゃなく、『赤黒』なんだと分かった。
また瞬きをすると、いつもの部屋で、僕の手のひらには何もついていなかった。
外では雨が降っている。
ああ、そうか、と僕は窓の外を見た。たくさんの人が、色とりどりの傘を差して、足を速く動かしている。
その中に君はいない。
君はもう、ここにいない。
僕は前に進まなくちゃいけないんだ。
君という過去を乗り越えて、『今』にたどり着かなければならないんだ。
瞬きをしても、もう景色は変わらない。
君が死んで一周忌。ようやく現実に戻ってこれました。
お題『夢』
「諦めなさい、君には到底無理だ」
白い紙を握りしめて、僕は歩く。
「諦めろよ、お前には無理な話なんだから」
白い紙がお婆ちゃんみたいにしわくちゃになった。
「諦めなよ、あなたは才能無いんだから」
白い紙に、何が書かれていたか分からなくなるほど、僕の涙が零れ落ちた。
いつまでたっても成果を出さない僕に、みんな言う。諦めろ、と。最初に諦めろと言ったのは、誰でもない母さんだった。
「諦めなさい。あんたにはできないんだから」
諦めろと言われても、僕は頑張って成果を出そうとした。けど、何年立とうと成果は出ない。
すっかり僕は変わり者扱いをされるようになった。
外を出歩けば嘲笑され、小さな子供に指を指されて笑われる始末。
兄さんには、一緒に歩きたくなどない、と言われた。
僕は変わり者。一緒にいたら、そいつも変わり者。なんてバカな考えなんだろう。
……僕がそう言える立場でないのは、よく分かっている。
握りしめた白い紙を、バラバラに割いた。大きさも形もバラバラになった紙たちは、地面に落ちた。
ヒラリヒラリと落ちていって、ついには土にかえった。
その土には栄養が少なからず行き渡り、それを踏みしめて僕は背筋をしっかりと伸ばす。
諦めろ、人は僕にそう言った。
できない、と母さんは言った。
僕は『将来の夢』を、今ここで破り捨てた。
夢は終わって、ここでようやくリアルに戻る。将来が現実となる。
ちっぽけな作文なんていらない。そんな夢物語なんていらない。
僕に要るのは、書かれていたものを読み上げる時間じゃなくて、夢をリアルにする時間だ。
前を見据えて、僕は笑った。
「やあ母さん、先生、父さんに、友よ。今日はよく来てくれました」
諦めなくて良かった。作文を破り捨てて良かった。夢だと気づいて良かった。
「僕は成功しましたよ。ちゃんと、こうして成果を出せた。夢だと気づいたら、至極簡単だったよ」
ねえ、また僕に諦めろって言えるかい?
私は何も求めていない。私はただこの流れに乗っていたいだけ。
邪魔するものは許さない。
そう。例えば貴方とかね。
……ああそうか。もう死んでるから、私の言葉は聞こえないのか、可哀想に。
「クスクスクス……」
可哀想な可哀想な子。私の邪魔をしたから命を絶たれちゃった。なんて可哀想。
ねえ、貴方は一体、私の邪魔をして何がしたかったの?
__無理しなくていいんだよ。
最後のあの言葉は、私に向けた言葉なのかしら?