書きたいものを書きたいだけ
2:PT◆So:2016/09/24(土) 13:26 海には歌が溢れている。
電子音のようなアザラシの歌、ギーギーと軋むようなイッカクの歌、ピュイっと短いホイッスルはイルカの歌、ズーンと響く低音は鯨の歌。
彼らは歌で会話する。家族と仲間と恋人と。
もし。······もし、自分の歌が自分にしか歌えないものならどんなに孤独だろうか。
広い広い海でたった独りの歌。
52ヘルツーーーー孤独な周波数
世界で最も孤独な鯨について書かれた本を閉じる。
歌で溢れる海はきっととても静かで心地いいのだろう。教室はーーー私の海は、声で溢れている。
帰りに何処其処のケーキを食べに行こう、新しい雑誌みた?誰某くんが表紙なの、隣のクラスのアイツ胸でけーよな。
あーあーあー、うるさい。
蕪木望(かぶらぎ のぞみ)こと、私は小さい頃から都市の割に大人しいと言われてきた。静かな子、大人しい子、賢い子。大人から見た評価でしかない。
自分と同じ周波数の人がなかなか見つからず、話も弾まないから席で本を読む。ただそれだけなのだ。
アッ( "ω" )誤字
×都市の割に→○年の割に
話しかけてくれる人がいないわけではない。いわゆる不思議ちゃんの野ノ原志保(ののはら しほ)とか。
「望ちゃん、帰りに一緒にケーキいこ!」
帰りにはこうして誘ってくれる。
「うん、いつものところ?」
私も余裕があれば誘いに乗る。金銭的な余裕、時間的な余裕、心の余裕。
合わなければ合わないなりにこうして人と付き合っていく。周波数は合わなくても身を寄せ合う。
世界で最も孤独な鯨はほかの鯨と身を寄せ合うのだろうか?
教科書、ノート、プリント、筆記用具···は塾ないし家の使うから置いていく。カバンと机の整理をする私まで声が届く。
「しほー、なんで蕪木誘ったの?絡みづらいからヤなんだけど」
心底嫌そうな声のクラスメイト。
「だって、仲良くなりたいなーって!みんなも友達になろ?ね?ね?」
フォローしてくれるのは嬉しいと思う。でも、周りも私との周波数の違い分かっているんだ。だから無理に誘わなくていいのに、なんて思うのだ。私は孤独な鯨でいいんだって思うのだ。