なんとまあ暗めな超見づらい短編(集になるかも)
行き当たりばったり星の住人やってます矛盾には目をつぶってくだせ
「結衣!」
「え!あ、あぁ、ごめん、菜々香」
少しだけ怒った様子で私の机を叩いたのは、高木菜々香だった。
菜々香と結衣は中学生からの友人で、高校になってクラスが離れてからも度々話す仲だった。
「あんたは英語得意なんだから問題ないだろうけど。あたしにとっては死活問題なんだよー!分かれ天才!」
「だから天才じゃないって言ってんじゃん!」
「いーやあんたは天才だね!天才じゃないってんならテストの点あたしに負けてから言いな!」
「それは菜々香が馬鹿なだけでしょーが!」
「同じ高校なんだからそこまで差あるわけないでしょ!」
いや、まあ、そうだけど、と曖昧な返事を返す。
そりゃ菜々香だって頭が悪いわけじゃない。ただこの子はいかんせん運動が得意なものだから、部活にいつも心を注いでいるせいであまり勉強に手をつけることができていない。
もとが努力家だから勉強も頑張れるのだけど、だからといって部活を頑張るな、というのは違う気もする。
「にしてもなァ、英語のスピーチとか、ダルいの極みよね」
「ほんとね、恥ずかしくて死んじゃいそう…」
「だからあんたは英語得意でしょーが」
緊張と高揚が混じり合った4月、あれからもう1年が経とうとしている。
あの頃の気持ちなんて今はもう全部なくなってしまった。
おまけに出されたのは、英語教師が「1年間の復習」だと言って出されたスピーチ。
『1年間頑張ったこと、そしてこれから頑張っていきたいこと』
内容は授業のことじゃなくても構わないらしいが、オール英語。
自分が今まで培ってきた英語力を出せという。グローバル化の進む社会なのだから、とのこと。
「つうか、言いたい内容ないんだけど。今年頑張ったことなんて部活くらいだし」
「じゃあそれでいいじゃん!」
「えー、卓球って英語で何て言うっけ?」
「テーブルテニス」
「あー、えっと、I'm on the teble tennis them?テーブルテニスって間空白あったっけ」
「そんなんエキサイト翻訳に任せればいいじゃん」
「いやそれがさぁ、いや、それがさあ!」
「急になに」
「結衣さあ、昨日変な画像送ってきたじゃん?」
「え?」
「だから、変な画像!」
「え、ああ、あれ!?あれ全然変じゃなくない!?」
「あれやばかったんだけどめっちゃ笑い堪えるの大変だった!」
そこからしばらく、そのギャグ画像の話で盛り上がってしまって結局菜々香が何を言いたかったのかは分からなくなってしまった。
「なあ、高木見た?」
「もう部活行ったけど」
3か月ほど前から菜々香が付き合い始めたのは笹原隼人という男だった。
少しばかり頭は悪いものの、決して悪くはない見た目や同級生とはしゃいでる姿が魅力的とはよく聞いた話なのだが、私はいかんせんこの男が苦手だった。
おまえ、藤と付き合ってんの。
私がこのクラスの中で1,2を争うほど苦手な奴と付き合ってるだなんて!とその時は激昂してしまい、それを笹原は照れ隠しだと思ったらしく何度もからかってきた。
藤なんて、付き合うわけないだろ馬鹿野郎。
あたしが、あんな奴と付き合うとでも思ってんのか!
「ンでそんな怒ってんだよ」
「別に怒ってないけど」
「いやいやどう考えても怒ってんじゃん」
「怒ってないし。てか、はやく菜々香のとこ行ってあげれば?変な噂立つよ」
「変な噂って」
「あんたが私を好きって噂」
「はぁ?」
「あんたら付き合ってんの秘密なんでしょ?こうやって私に着いてきてたら変な噂立つって」
「え?」
「だから、」
「いや、俺たち、別に付き合ってなんかねえけど…」
「えっ」
「は、え?えええ?意味わかんない、だって菜々香が」
「いや確かに告ったけど。別に付き合ってない」
廊下のど真ん中で行われるこの言い合い。委員会後で人が少ないのだけが幸いだった。
誰もいないから逆に誰かが居たら全部筒抜けというのが怖い点だけれど。
「告白したのに付き合ってないって何?」
「え、罰ゲームで無理矢理告白させられて」
「は」
「OKされたんだけど。なんか申し訳ないから別れた」
「でも菜々香はまだ付き合ってるって」
「たまにラインは来る」
「どうやって別れたの」
「あー、どうだったか。やめよう、みたいな感じだったはず」
「罰ゲームだったってことは」
「言ってなくても伝わるかと」
「伝わるわけないでしょ馬鹿!」
菜々香は未だに少しだけノロケる。
毎日ラインで会話してんだよ、とかクラスで話さないのは恥ずかしいからだ、とか、私には少しだけ優しい、とか。
告白された当初は好きではなかったみたいだけど、OKしてしまったからか少しずつ良い点を探すようになって、それから、本当に好きになった。
その過程を全部全部聞いて、悩みにも全部答えてきた私には、それが許せなかった。