こうなったら好き勝手にやるの巻
乱入〇 百合しかないから苦手な方は閲覧注意
お題(診断メーカーより)
あの子のためなら何でもできる/ひとりにしないで/わざとだ
よ/どうでもいいよ
↓
「はっ、はっ……」
皆が見ている、でもそんなの気にしない。
今の私に、走るというのは自滅行為である。でもね、走らなくちゃいけないんだ。これもあの子の為だから。
だって、縁を切った友達を心配させるなんて、バカのすることでしょ? あの子が居なくても大丈夫だって、あの子自身に証明しなくちゃ。
「はぁ……はぁ……ふぅ」
沢山走って、私は校舎裏の駐車場に辿り着いた。
ここなら大丈夫、誰かが来るわけがない。自分にそう言い聞かせて、ようやく安心する事が出来た。
―――どうして、こうなっちゃったのかな。
私は、私が何をしたいのかよく分からない。
心配されたくないってだけであの子のことを傷付けたし、それで私も傷付いた。それで勝手に「もういっその事縁切った方がいい」なんて思っちゃって、今こうしている。
「……」
自慢じゃないけど、私はかなりめんどくさい性格だ。自分から進んで一人になったのに、寂しくなっちゃって。「一人にしないで」って、自分の身体を恨んでる。
でもやっぱり、あの子は優しいから。きっと――――
「葵っ!!」
こうやって、私がどこにいても探してくれるんだ。
あの子。私がそう呼んでいるのは、加奈って名前の女の子。しっかりしていて、心配性で、優しくて。めんどくて、意地悪な私とは真逆の存在だな、って、いつも思う。
「なんでこんな所にいるの!?」
「……ねえ、何で私のことを探してくれるの?」
出来るだけいつもの声で、息が切れているのがバレないように、声を振り絞って私は尋ねた。
いつもの加奈なら、「質問を質問で返すんじゃない!」って怒るよね。でも、今はそんな雰囲気じゃないから、加奈は怒った顔をして私を睨んでるだけ。
「まずはあたしの質問に答えてよ」
そう言った加奈の気迫が凄くて、私は思わず目をそらす。
どうやら、完全に逃げ場を失ってしまったみたい。なんて、まるで他人事のようにも思う。
「はあ、大体私がどこにいようとどうでも……」
「どうでもよくない!!」
―――だって、あたし達幼馴染でしょ!? あおちゃんって、なーちゃんって、呼び合ってたじゃん!!
涙声で、それでも一生懸命叫ぶ加奈に、私は相当心を揺さぶられたと思う。どうでもいいよ、って言われても、私はめんどくさいから落ち込んだと思うけどね。
そう言えば、さっき始業のチャイムがなった気がするから、授業はとっくに始まってるだろう。だけど、私も加奈もそんなこと気にしていない。私は意地を張ってるだけで、加奈は答えを待ってるだけ。
「言います言います。私は加奈から逃げてました」
「なんで?」
「体調悪くてさ。加奈って、すぐ私のことに気付くじゃない?」
「当たり前でしょ?」
……本当、相変わらずだよね。
縁切るだとか、心配しないでだとか、勝手に怒ってた私がバカだったよ。何しても、どこに行っても、この子は今みたいに追いかけてくるんだから。
「……次、私の質問」
「なんだっけ?」
いや、この子わざとなの?
あのセリフ、地味に恥ずかしいのに。「葵の珍しいセリフもう一回聞きたい」なんて思ってないよね、この人。
絶対確信犯だと思うけど、とりあえず聞いてみる。
「それ、わざと?」
「わざとだよ」
清々しい程の即答だよね。私びっくり。
前言撤回、優しくないよ加奈も。こいつは私以上の意地悪だって、よく意地悪って言われる私が証明するから。
心の中でそう悪態をつきつつ、私は目と同時に逸らしてた顔を戻して、もう一度加奈と向き合った。
「もう一度聞くね。何で私のことを探しに来てくれるの?」
「うーんと……」
私の質問に、加奈はよく考えているフリをするけど、何となくわかる。もう、この子が答えを準備していることは。
私が無言で回答を促していると、不意に加奈がにこりと笑いかけてきた。目を逸らしたくなるほど、綺麗な顔で。
そして、そのままこう言った。
「―――あたし、葵のためなら何でもできるから」
ー加恋ちゃんは気を引きたいー
「加恋ちゃん、また私の筆箱隠して!」
「あははっ! 綾音(あやね)ちゃん、ごめーん」
今、私の目の前にいる荒木加恋(あらきかれん)ちゃんは、私にちょっかいをかける事が大好きだ。いつもこうやって謝るけど、加恋ちゃんは楽しそうな顔をしている。
「―――って事なんですけど、黒木先輩。私嫌われてないんですか?」
思い込みだったら恥ずかしいけど、加恋ちゃんは私が困ってるのを見て嬉しそうな顔をする。
だから、ひょっとしたら加恋ちゃんは私を嫌ってるのかもしれない。そう考えて、私は加恋ちゃんと親しい黒木先輩に相談をした。
「あー、大丈夫大丈夫。そんな事ないよ」
いつものだから。なんて含みのありありと見える言葉と一緒に、先輩は否定してくれた。
……それにしても、先輩ってどうやって加恋ちゃんと仲良くなったのだろう。学年だって違うし、相性だってよくなさそうだし。
「……黒木先輩って、加恋ちゃんとどうやって仲良くなったんですか?」
気になった事はすぐに聞く。それが私。
躊躇いもせずに尋ねると、先輩はちょっとばつの悪そうな顔をした後、仕方が無さそうに答えた。
「親戚なんだ、あの子と」
「ええっ!?」
先輩と加恋ちゃんが親戚っ!?
思いもよらない事実に、私は思わず声を上げてしまった。そしてよく先輩の顔を見てみると、確かに少しだけ、加恋ちゃんに似てるような気がした。
……目つきの悪い所とか。
「変わってないんだねえ、アプローチの仕方も」
「は? アプローチ?」
「……えーと、」
―――あの子、悪さをしないと構ってもらえないって思ってるから。
そんな先輩の言葉に、私はますます「は?」と言いたくなったが、それを抑えて尋ねた。
「どういう事ですか?」
「あたしが言ったなんて言わないでよ。……そのまんまの意味。加恋、叔母さん――あの子の母親に、放任されて育ってるからさ」
……ああ、なるほど。
加恋ちゃんはお母さんに見てもらいたくて、悪い事したら本当に見てもらえて。
それで、私の気を引きたいからあんな事を……
「あたしもよくされたね。綾音、度が過ぎてるようならあたしから叱っておくけど、大目に見てやってくれない?」
「は、はいっ!」
……なんか、切ないよね。
私は両親から普通に愛情を注がれて、それなりの躾をされて育ってきたけど、加恋ちゃんは違う。
今までもこうやって、周りの大人や友達の気を引くために、いたずらをしたり。
「あっ先輩! ありがとうございました!」
とりあえず、心のモヤモヤは無くなった。
私は先輩にお礼をして、教室に帰る。……その途中、気付いてしまった。
「私、加恋ちゃんに……」
まるで自惚れているようだけど、そこそこの好意を寄せられている事に。構って欲しい、なんて思われちゃっている事に。そう考えると、途端に恥ずかしくなって、顔が熱くなってきた。
「私――――」
あの子に、どんな顔して会えばいいの!?