私が創作板で練った短編を投げるだけ
ジャンルは色々です
亀更新になると思います
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美術室の白と透明
「透明なんだね、君は」
真っ白なキャンバスを前に、先輩がそう言った。先輩の手はあまり動いていなかった。
「……そうですか…」
いきなりの先輩の言葉に素っ気なく返事をしてしまった。顔は赤く染まっていないだろうか。美術室の窓に撮された茜色の空が隠してくれていればよいのだが…。
「しかし…先輩の方が透明って感じがしますけど…」
茜色の空を眺めながらそう言ってみる。
「私…?私はきっと白だよ」
「白…?」
「そう…何色にでも染まれてしまう白」
藍色の表情を浮かべ、そう言った。僕には先輩の言っていることがよく分からなかった。先輩はどちらかと言えば独りでいるタイプだし、他人の色に染まるだなんてなかなか想像できない。寧ろ僕の方が白と言ってもいいのではないだろうか。
「じゃあなんで僕が透明なんです?」
「なんでって…そりゃ君は誰の色にも染まることがないからでしょう?」
「そうなんですかね…?」
「そうなんだよ」
キャンバスから目を逸らし此方を見る先輩は西日に照らされて一層綺麗だった。嗚呼、この瞬間を、この表情を、この全てを僕は全て収めたい。
貴女は僕が透明だと言った。そして自分は白だと言った。でも貴女色に染まってしまう僕もきっと白なのだろう。
「透明になれれば楽だったのに…」
という小さい呟きは最終下校時刻を告げるチャイムに溶けていく。
「帰ろっか」
「そうですね」
まだ残っていたかった美術室から出て、カラカラと扉を閉めれば次第に太陽は山の向こうへ帰っていく途中だった。
先輩は丁寧に鍵を閉めた。それから二人並んで歩き出す。
貴女の隣を歩きながら願おう。もう少し透明な僕で居させてくれ、と。
美術室の白と透明
目の前に広がるのはまるで私の様な白だった。さっきからずっと進まない筆は私と君との会話のようだ。私は一人ボーッと考え事をしていた。
「透明なんだね、君は」
頭の中で呟いただけの筈たったのについ口から出てしまったようだ。何を言っているんだ、と言われるのかと思ったけれど君からは何時もの様か素っ気ない返事が返って来て。君の顔が少し赤く見えるのはやはり夕焼けのせいだろう。私だったらいいのだけれどそうではないはず。
「しかし…先輩の方が透明って感じがしますけど…」
そんな訳ないじゃないか。私は何時でも君色に染まってしまう。
「私…?私はきっと白だよ」
「白…?」
「そう…何色にでも染まれてしまう白」
そうだ。私は白だ。他の色に染まってしまう白。その他の色とは君なのだけど。そんなことを考えながら目を伏せる。
「じゃあなんで僕が透明なんです?」
「なんでって…そりゃ君は誰の色にも染まることがないからでしょう?」
何時だって君は私色に染まってはくれない。何時だって透明のままだ。
「そうなんですかね…?」
「そうなんだよ」
全く…。気付いていないのがまたもどかしい。君の方を向くと西日が顔を照らしてくる。
「 」
君が何か呟いた。しかしその声を塗りつぶすように最終下校時刻を告げるチャイムが鳴る。タイミングの悪い奴だ。君ともっともっと一緒に居たかったのに。
「帰ろっか」
私は立ち上がる。
「そうですね」
君もそう言って立ち上がった。
カラカラと扉を閉め、君と話した宝箱に鍵をかけた。誰にも知られませんように、なんて願っても無駄なのにそう願ってしまう。
君の横顔を盗み見て思う。少しは他の色に染まってみてくれないかい?