どうも、いろいろと夢小説を書いているアポロです。
「とっとと別の小説更新しろよ!」とお思いの方も居られるかも知れませんが、ご安心を。気まぐれに更新していきます。
アテンッション!
・長編を書き溜めていきます
・荒らし等はUターンでお帰り願います。
・ここは私個人の場なので、リレー小説ではありません
・イラスト乗せていきます
・ヒロイン固定『緋影いおり』
・成り代わり有り、転生有り
・グロ表現を含むかも知れません
では!
長編【転生姉弟】
【いおりside】
大学の帰り、友人と共に帰路へ着く。レポートやらないとダメだな、とあたしが呟くと友人は「そうね〜」と返してきた。今日は三限までしか取らなかったからまだ日は上にある。
人通りの多い交差点脇の道を歩いていた。隣は工事中なので壁が有るが、いずれなくなる。その時、だった。
ちょうど友人がクレーンから釣り下げられた鉄骨の所へ差し掛かった所で鉄骨を束ねるロープが切れる。落下してくる鉄骨。
だが友人はそれに気が付いていない。
落下してきた鉄骨が友人の頭を潰すすんでのところであたしは地を蹴り友人を突き飛ばした。
友人は助かったが、その代わり友人のいた場所にはあたしが。鉄骨はあたしの体を突き刺し貫通した。
あぁ、痛い。何かが喉の奥から上がって来たかと思えば口内が鉄の味になり、ぶはっと血を吐き出した。
尻餅を着いた友人は唖然と今のあたしの状況を見ている。そしてはっとしたかと思えば目一杯涙を溜め、「いおり!? いおり!!」とあたしの名前を呼ぶ。
周囲はだんだんとざわざわと騒ぎを初め、唸るほど女性の悲鳴、男性の嘔吐したびしゃびしゃと言う音が全て耳に入ってきた。
大泣きしてあたしに手を伸ばす友人の頬に触れ、微笑む。
肺がやられてしまったのか、息をしようにもひゅーひゅーと言う音にしかならないが、振り絞って告げた。
『……無、事で……良、かった……』
あたしの声を聞いた友人はわんわんとよりいっそう激しく泣き出した。「死なないで!! 嫌!」とあたしの冷たくなりかけの手をぎゅっとひたすらに握る。
あぁ、ちょっとやめてよ。泣けてきちゃうじゃん。
最後にあたしは笑って自然と降りてくる瞼に身を任せた。
そのあとすぐに聞こえたのは救急車と、パトカーのサイレンの音。
__馬鹿野郎、もうおせぇよ。
そこであたしは死んでしまった。
___筈だった。
.
目が覚めた。
一体どういうことなのか分からない。明るいが、自然の光ではなくLEDの光。覗き込む人は女性と男性、あと医者。
ああ、俺は生きてるのか。あんな怪我を負ったくせに。友人は無事だろうか、生きてるぞ、って言いにいかないと。
女性に「おい」と声を掛ける。が、あたしの喉から出てきた声は赤子のおぎゃあと言う泣き声。
そのあたしの声を聞いた女性がぶわっと泣き出した。
「ああ良かった、私の大事な子……」
おいおい待ってくれよ女性。あたしがあんたの子? えぇ……もしかしてこれあたしの新しい人生? 前世の記憶を持ったまま? いやいや。
おおおおおい! 神様ああああっ! あたしの記憶は残ってますよおおおおっ!
とかあたしがぎゃんぎゃん喚いてると、女性の旦那さんみたいな人が「この子の名前はいおりだ! 迅 いおり!」とあたしの名前を叫んだ。
……迅? 聞いた事が有るのだが。かの有名な遅効性SF漫画ワールドトリガーの第四主人公だぞ? いやいや、きっと名字が同じなだけだ。迅、なんてありきたり……ではないがそんな筈はない。
4/9に生まれたあたしは新しい人生を迅 いおりとして生きることになったのだ。
**
生まれてから二年が経った。前世の記憶があってか、言葉を話すのが尋常ではないくらい早かったあたしは親から「すごい!」だのなんだのと褒め称えられる。別に凄くない、前世の記憶が有るだけなのだから。
この世界での二回目の誕生日が明日に迫るなか、現在進行形であたしは病院にいる。
なぜなら母が妊娠して、今陣痛が来ているところなのだ。
出産に立ち会わんとしている父と医師、助産医、母は病室。あたしはその病室の外で椅子に座って大人しく待っている。
時計の長針と短針が12を差す。日付が、4/8から4/9へと変わったのだ。
しばらくして、赤子の泣く声が病室から聞こえてきた。生まれたらしい。どうやら誕生日はあたしと一緒だ。
病室の扉を開けて父と母に駆け寄ると、赤ちゃんは男の子。
母が「いおり、あなたの弟よ」と微笑んだ。
そして父が名前をつける。
「ゆういち、悠一だ!」
迅 悠一、この子の名前が決まる、そして、この世界がどこなのかも確定した瞬間だった。
.
それから11年、あたしと悠一は仲の良い姉弟で、小学校までは一緒に居ることが多かったが、あたしが中学生になってしまったため、家とか位しか一緒に入れなくなった。
既にあたしと悠一はボーダーに所属している。そしてサイドエフェクトは二人して未来視だったことに驚いた。
二人して師匠は最上さんで、あたしと悠一の実力は均衡、ではなく圧倒的にあたしの方が強かった。
だが悠一はそれは「まぁ歳の差じゃない?」と軽く受け流してくれたことに感謝だ。
学校にて、秋のある日。だんだんと冬が近づいてきているのか、ブレザーのジャケットを着る人が多くなった。もちろん、あたしもその一人である。
あたしはずいぶんと長身な様で、今の身長は170cmと高い。顔も弟の悠一に似てまぁ男前だろうと思う。悠一の方がイケメンだが。
荷物を持ちながら学校へと徒歩で向かっていけば女の子達に囲まれ、「迅さん! 一緒に学校行かない?」ときゃいきゃいとそう言ってきた。
女の子は嫌いではない、寧ろ好きだ。
『ああ、良いよ。行こうか』
あたしは笑って女の子達と歩き出した。
**
教室の前まで来ると女の子達は「ま、またねっ!」と頬を赤らめながら駆け足気味に行ってしまった。
その女の子達に笑顔で手を振りながら見送る。姿が見えなくなったところで上履きを履き直し、扉をがらりと開く。
『うぇーい』
そんな事を言いながら教室に入るとみんなから「どんな挨拶の仕方だよー」と笑われた。
良いし、別に? とドヤ顔をすると「うぜぇ!」「くっそ、このイケメンめ!」と男子の悔しそうな声が聞こえてきた。
さっさと荷物を自分の机に置いて、ある人物の席へと向かう。
『おはよう蒼也』
「……おはよう、いおり」
風間蒼也。あたしと同級生の少年である。いずれワールドトリガー、A級3位の風間隊を率いる優秀なアタッカーだ。そんな風間とは、恐らく友人関係では一番仲が良いだろう。
何せ小学校一年生からずっと同じクラスなのだ。なんだろう、運命を感じる。
悠一は恐らく彼の事を今は知らないだろうが、まぁ大丈夫だろう。
あたしのサイドエフェクトがそう言っている。
『蒼也、国語の宿題やって来たか?』
「……今回は写させないぞ」
『いやいや、やって来たのか聞いてるんだって、そして見せろ。
あたしホント国語ダメなんだって。
聞いたろ? あたしの前の中間の国語の点数20点代だぞ20点代。おかげでテスト420点になったんだぞ』
「他で補えてるだろ。国語以外満点じゃないか。
そんなもん自分でやれ。俺は知らない。観念しろ」
『蒼也ちゃん冷たいな!』
「蒼也ちゃん言うな」
『って、マジで蒼也助けて今日当たるんだって』
「……」
『そーうーやー』
「……はぁ」
よし。蒼也が目を伏せながら溜め息を吐けば仕方がないなとなるパターンだ。よし。よくやったぞあたし。
蒼也が自身の鞄から一枚ファイルを取り出して、「ん」と不機嫌顔でプリントを渡された。
『ありがとう蒼也』
「……次のテストは俺と勉強しろ、毎回毎回こうやるのも疲れる」
『まじすんませんした』
.
高校二年の時、第一次大規模侵攻が起きた。
あたしと悠一はひたすらに空を駆け回り、ネイバーを薙ぎ倒していく。
そして、終わったあとに気がついた。
『……母、さん?』
あたしが駆け付けたとき、家の下敷きと成り果て、亡き者になった母を見た。
唖然とそれをしばらく眺めていたが、父の唸り声がして駆け寄る。
『父さん! 大丈夫!? 父さん!』
あたしが呼び掛けると、「大、丈夫……だ」と父さんは返した。だが。
「……母さんを、俺は、守、れっ……なか、た」
『……』
父さんの顔を見、瓦礫を退けて安全な場所へと移動させる。
あたしは母さんの上に乗っている瓦礫をはねのけ、綺麗なまま、父さんの元へと持っていった。
**
シェルターに行くと、悠一や友人達の顔が見えた。その中には、蒼也も居るわけで。そうだ。確か漫画じゃ……お兄さんが、
『蒼也……』
「いおり……」
蒼也は顔を上げてあたしの顔を見る。なんとも言えない顔をしていた。
『……ごめん』
あたしが一言謝れば、「お前が謝る事じゃない。兄さんは俺を庇って死んだ。結果的には俺のせいだろ、だから、気にするな」と宥められた。
**
『……悠一』
「いお姉」
あたしが蒼也の元を離れ、悠一の所へと行くと、悠一がなんとも言えない顔で笑った。
『ごめん、あたし……読み逃した』
「いお姉が謝る事じゃないよ。むしろ、謝るのは俺の方だ」
その言葉にぱっと悠一の顔を見つめた。同じ位置にある顔を見つめ、見つめ返す。
「……俺は、視えてた。……のに。行、かなかった……いお姉、ごめん」
『悠一が謝る事じゃねえ。読み逃したあたしも悪い』
泣け泣け、とあたしは腕を広げて笑う。悠一は間極まった顔であたしを見つめたが、ぱっと勢い良く飛び込んで来た。
そのまま声を堪えて泣く悠一にあたしの頬からも一筋涙が流れた。
あれから四年半、あたしは21歳の大学三回生になった。
ボーダー本部が作られ、悠一を黒トリガー使いにして、あたしはソロでA級してて、風間はA級3位の風間隊の隊長だ。
母の事を完全に吹っ切った訳ではないが、ネイバーは何でも間でも恨んではいない。
だから、以前とあまり変わらないように生活をしている。
ボーダー本部のラウンジで、コーヒーを飲みながら資料を見つつ、漫画を描いていく。実は月刊少年誌で連載をしているあたしは〆切が迫るといつもここで原稿を描くのだ。なんと言うか、ボーダーって落ち着くから。
コーヒーの入ったカップをかちゃりと手に持ち一口飲み込む。コーヒー独特の風味が伝わってきて美味しい。今度玉狛に顔を出して木崎にでもコーヒーつくってもらおうかな。
コーヒーカップを置き、Gペンを手に取った時だった。
「いおりさーん」
「ランク戦しましょー」
「いおりさん! ランク戦やろうよ! ランク戦!」
『A級3バカ久しぶり』
出水、米屋、緑川がラウンジの通路からぴょいと顔を出した。
出水と米屋と緑川は一緒に行動することが多く、周囲からはA級3バカと呼ばれている。
前世でも三人纏めてのタグはA級3バカだったなぁ。
『ランク戦してやるけどさ、このページ仕上げてからな。最後のページだから。〆切明日なんだ』
あたしのその言葉を聞いて三人は「〆切明日!?」と口をあんぐりと開いた。
『おう、明日明日』と笑っていると、米屋が「読んで良い? 俺楽しみにしてたんだよね」と聞いてきた。
『別に良いけどネタバレ禁止な』
「「「うぇーい!」」」
米屋が原稿をばさっと取り上げ、あたしの席の机を挟んだソファに腰掛ける。出水と緑川も「次俺!」と騒ぎ出した。
『駿、公平、うるさい』
「だって早く読みたいじゃん!」
「いずみん先輩に同じく!」
『なんか書いてほしいイラスト描いてやるから大人しくしとけ』
「まじすか!」
「いおりさん!」
「俺も!」
結局この日は最後のページを仕上げてから、あたしはひたすらA級3バカのリクエストのイラストを描き、A級3バカはそれを眺めていたのでランク戦はせず、ラウンジで過ごした。
あ、明日は玉狛に行こう。
.
翌日、木崎に美味しいコーヒーを作って貰うため、玉狛に行こう! と思っていたが、途中に菊地原に捕まる未来が見えたのでやめておいた。あの子は可愛いけど、一度出会うとなかなか離してくれない。
とりあえず今は防衛任務に出ている。今までなぜか司令に指示されず、何故だろうとか思いながらもうぇいうぇいとはしゃいでいる自分が居た。そういう面をふと気づくたび、あたし、前世とは変わったなと思う。
あんなむごい死に方を、母の死に様を目にしてしまったのだ、逆にここまで普通に過ごすことに努めてきたあたしを誉めてほしい。一人ごちながらわりかし小さな瓦礫を小石のように蹴り飛ばす。
実は太刀川と模擬戦の約束をして居たのだが、まぁアイツは単純だし、「任務があった」の一言の次に「餅奢ってやるから」と言えば恐らくは丸め込めるだろう。
あたしが太刀川隊に所属していたときは常に餅を食べていたような奴だ。挙げ句七輪まで持ち寄って。
当時、B級上がりたてだった時の太刀川を隊長に、あたしは城戸司令の命で太刀川隊を作った。まぁ、あたしが居たのは出水が太刀川隊に入るまでの話だが。
一年ほど太刀川隊に居たが、当時の太刀川隊のメンバーと言えば、太刀川とあたしのみだった。オペレーターは居らず、任務やランク戦の時はフリーのオペレーターに代わる代わる頼んでいたが。
今の太刀川隊隊室はどうなっているだろうか。
不意にそんな考えがよぎり、任務が終わったらケーキでも持って太刀川隊隊室に行こうと思った。
そんな呑気な考えもここまでだ。
<ゲート出現、ゲート出現。誘導誤差0.65、ゲートが開きます>
やっと来たか。といきなり出現した黒い異世界へのゲートを呆れたように睨み付け、あたしの為に作られたオプション付き、日本刀型の弧月の柄に構えを取りながら手を添える。
その時、あまりにも場違いな、えらく間延びした聞き慣れている声が響いた。
「林藤支部長の指示で加勢に来た実力派エリート迅、現着しましたー」
どうだ。そう言わんばかりのドヤ顔でサングラスを額に押し上げながら瓦礫のてっぺんから登場した我が弟、悠一に此方はにやりと笑って本日のオペレーター、柚宇ちゃんに通信を通す。
『弟に加勢された優秀な実力派エリート迅は弟を守りながら任務しまーす』
今度はこちらがドヤ顔、いや、ゲス顔をすると、「うわいお姉ムカつく!」と胡散臭い雰囲気を漂わせながらけらけらと笑う。
『さー、悠一。ちゃっちゃと片しちまおうぜ』
「分かってるよ姉さーん」
やけに間延びした二つの声が警戒区域のある一部に響いた。
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別掲示板でもワールドトリガーを連載しています。
よろしければそちらもどうぞ。
恐らく下のURTから行けます。無理だったのなら書き込みしてタイトルを私に聞いてください。↓↓
http://www.mai-net.net/bbs/sst/sst/php?act=dump&cate=etc&all=41721&n=o&count=1
任務帰り、本部にて。ケーキを買って太刀川隊へと足を向ける。今日のケーキは良いとこのだ。唯我? あいつの口に合うケーキなんてねぇよ。なので買ってません。あたしと柚宇ちゃんと太刀川と公平の分だけ。
前世のとあるボカロを鼻唄で歌いながら廊下を歩く。
君好みアーカイブ惨敗もマージン! ってな。
そして見えてしまった。菊地原が次の瞬間あたしと鉢合わせする光景が。
案の定曲がり角で鉢合わせした。
『しろ君』
「いおりさん。しろ君て呼び方やめてよ」
嫌そうにそう呟きぶうぶう言いながらあたしの隣を陣取る。
菊地原はあたしが持っているケーキの入った箱を目に入れると、「どこかいくの?」と聞いてきた。
『太刀川の所にな』
「ふーん……じゃあ僕も行く」
『え、行くのかい? じゃあケーキはあたしの分食えよ』
そう告げて菊地原と隊室へ向かう。菊地原は「僕さっき昼食べたからいらない」と返してきた。なんだよ可愛いな。
**
太刀川隊隊室へと到着し、半自動式の扉を開ける。どうやらあたしには気が付いていないらしく、奥からゲームの効果音が響いてくる。
菊地原は「うるさいなぁ」と呟いた。とりあえずあたしはずんずん奥に入って、『お邪魔ー』と喋る。
「うわっ! いおりさん!? え、菊地原!?」
「わぁ〜、いおりさん、任務ぶり〜」
「いおりさん模擬戦しよう模擬戦」
出水と柚宇ちゃん、太刀川とゲーム画面から目を離し、おのおのの反応を見せる。
『太刀川、模擬戦はこれ食ってからな』
「あ、良いとこのケーキ!」
「マジで!? いおりさんあざーす!」
離れたところにある机にケーキの入った箱を置き、ソファに座る。本当にマイペースだな、この隊は。人も増えて賑やかだ。ただ、片付けが全員苦手なせいか多少物が散乱している。
あたしの隣に座る菊地原は「片付けしなよ出水先輩」といつの間にかあたしの正面のソファに座っていた出水に文句を垂れる。
『やっぱしろ君これ食えよ、あたしいらなくなった』
「……もうお腹いっぱいなんだけど」
あたしがチーズケーキを差し出すと、菊地原はそう呟きつつもチーズケーキを受け取る。
「マジで国近から聞いたときはえっ!? ってなりましたよいおりさん。今日は俺と模擬戦の約束だったのに」
『仕方ねぇよ。珍しく防衛任務入ったと思ったら城戸司令からだったんだ。まぁ昨日はお前の約束忘れて玉狛に行こうとしたけどな』
「なにそれいおりさん酷くない?」
『酷くねー酷くねー』
けらけらと出水の隣に座る太刀川を笑う。しゃべっている途中でもケーキ(餅入り)を頬張ってるからさらに面白い。
明日こそは玉狛に行こう。
.
さぁ玉狛、今日こそ玉狛!
と意気込んでいたら、今日はA級遠征出発の日だ。と出発場所へと足を運んだ。
『うぇーい、実力派エリートが来てやったぜうぇーい』
うぇーいを連発しながらやって来た格納庫。A級上位チームがそこには揃っていて、あたしを見て「いおりさん!」と騒ぎ出すみんな。
「いおり」
『ああ冬島さん、エンジニアで研究室籠りっぱなしだったのに体力持ちますか? 大丈夫ですか? 死にますか?』
「いきなり辛辣だなお前は。ホントに迅の姉か」
『知りませぐっふぅ!』
冬島さんと戯れていたら、後ろから腰に衝撃が走った。やべぇ死ぬ。死ぬううう!
結構力が強く、ごきっとヤバイ音が鳴る。いだだだだ。
『ちょ、誰だ……いでででででで! ヤバイヤバイごきっと来てるヤバイゴキってゴキって!』
「……うるさい」
『蒼也っちゃんいだだだだ!』
まさかの風間。ビビるよ風間あたし死ぬ。まさかの、まさかのだよ。いやまぁ風間は以外と甘えたちゃんである。っていってる暇もなく死ぬ。痛い。
周りからの視線がヤバい。とか思ってたら。
「っ!」
『うおおおおおっ!?』
世界が反転、頭をごちんと打ってしまった。バックドロップだし痛いし。
今度は首がゴキって……。
ばっと体勢を立て直し、風間から距離を取って首をさする。
流石にリノリウムの床は痛い。
『ってぇな! なにすんだ蒼也てめぇ!』
「いや……悪い。何か馬鹿なことを考えてそうだったからな」
『いやまぁ蒼也って甘えたちゃんだなとは思ったけどぅっぶ!』
素早くかつ的確に鳩尾に飛び蹴りを入れられた。クリーンヒットして鳩尾を抑えながら床に手を付き「ぐぉお……」と唸る。
「俺が帰ってきたらランク戦だ。叩きのめしてやる」
すくっ、と立ち上が風間の言葉に直ぐ様反論する。ざわっとざわめくこの中で、あたしは告げた。
『太刀川と同列でアタッカーランクNo,1総合No,1のあたしに勝てると思ってんのか』
「次こそ勝ち越す」
風間はそう言い捨て、隊の人達の所へ行ってしまった。何て横暴だ、と冬島さんに一言告げて太刀川隊のところへ歩む。
『太ー刀川ぁ、がんばれよー。蒼也の足引っ張んなよ引っ張ったら殺す』
「やめて怖いから!」
太刀川をからかうと冗談に聞こえないと真顔で言われた。
相変わらずいつもの雰囲気のボーダーに少し安心しつつ唯我が声をかけてきた。
「いおりさん、僕は遠征を懸命に遂行してきます。帰ってきたら僕とお付きあうぎゃん!」
蒼也がスコーピオンを唯我に向かって投摘した。ひゅんと唯我の頬を掠めて後ろの壁に突き刺さる。そして出水が正面から飛び付いてきた。
「いおりさんんんんん! 遠征行ってきます! また漫画見、せて、く、だ……さ、いすいませんでしたあああ!」
ぴゅっとすごすごと降りる出水の顔は真っ青だ。え、なになに。その怖いもの見たような顔は。
出水の視線に沿うように後ろを見ると悠一の姿があった。
でも、いつも通り笑ってて別に怖くは無いんだけど……どうした。
『え、え? 悠一じゃねーの。え、お前も見送り?』
「えっ? あー……そうそう。見送り見送り〜」
へらっと笑った悠一に首をかしげる。
だがみんなはこの時(シスコン怖い)とか思っていた、らしい。
遠征出発行ってこい! 頑張れ!
小説すごくおもしろいです!これからも頑張ってください!!!
あとどこで小説書いているのか教えてほしいです!!
あ、あああああ、ありがとうございますうううううう!
えーとですね、別小説は『ワールドトリガー色々集』です。よければ暇潰し程度にどうぞ。
**
遠征組が旅だって何週間。ここ最近は三門市、主にボーダー本部周りや本部内をあたしはふらついていた。
原作の流れを知っているとはいえ、イレギュラーなあたしの存在のせいで少し変わるかも知れない可能性が有るのだ。
あたしは二週間前程に、メガネを着用した。なぜか元々弱かった視力がだんだんとさらに弱ってきているのだ。如何せんトリオン体になりゃ関係無いが。
そう本部をぶらついていると、腹がグウと空腹を訴えてきた。こりゃヤバいと忍田さんに用意してもらっていた専用の個室に駆け込み漫画道具を一式持ってラウンジへと駆け込んだ。
と、まぁ。今回は巻頭カラーと表紙があるので急いでやって来た訳なのだが。
『空席が、無い』
しまった、誤算だった。今は昼時、人が密集していてもおかしくは無い。急いで漫画道具持ってきたのが無駄足となってしまった。
すると。
「……いおりさん」
後ろから聞き慣れた声が聞こえてきた。振り向けばそこにいたのはA級7位三輪隊の隊長、三輪秀次が少し戸惑った表情で立っていた。手にはラーメンの乗ったトレーが握られており、これから昼食の様だ。
『秀次! 久しぶりだな。A級の隊長に最年少でなったんだって? 祝ってやれなくて悪かった』
知っている。原作で読んだ。が、今ここにいるのは紛れもない一人の人間なので、知った風に言うと「……未来で見えてたくせに」と視線を下げられた。
とは言え三輪と会うのは元A級の時の東隊時以来だ。東さんと共に一時期隊を組んでいて、なぜか半分駆け込み寺の様なノリで城戸さんから加古と二宮と三輪を指導してやってくれと頼まれたことがあった。
本当にそれ以来会えていなかった。加古や二宮にはよく会ったりしたが。
あたしは少し懐かしくなって自分より数cm下にある頭をわしゃわしゃと撫で回す。ほとんど無意識である。やめてくださいと言われるまでやってやろうかと思ったが、こいつは言わないだろうから少ししてやめた。
『で、どうした三輪。珍しいじゃないか。お前が“迅”に声を掛けるとか』
「いおりさんは名字が迅で、きょうだいなだけで、玉狛の迅とは別人ですから」
『そうか』
すっと自然な動作で「陽介も居ますが……よかったら相席しますか?」と聞いてくる三輪の言葉を今は甘えておく。
ああ、と肯定の言葉を出せば安心したように頬を微かに染めて微かに笑った。
……別に秀次の気持ちに気がついていない訳ではない。ちゃんと言って来るまで待つつもりだ。
……言ってしまえば、秀次から言うことがあっても、あたしから言うと言うことは無い。
些か可哀想だが、あたしはこういう人間だ。こんな性格をしているから、似た性格をした迅悠一のきょうだい、姉となったのかもしれない。
・
わかりました、小説読んでみます!
三輪マジでか!!あの、あの三輪が……←失礼
小説読んできました!ヤバイヤバすぎるあなた天才ですか!?てくらいおもしろかったです!!
15:アポロ◆A.:2016/03/23(水) 22:00 ID:eG2 て、ててて、天才!? いえいえ滅相もないですよ!
コメントありがとうございました!
ここも色々集の方も亀更新ですが書いていくのでそちらも頑張って下さい!
ーなんだか最近イレギュラーゲートが開き始めているようで、あぁ原作に乗っかってるんだなって思った。
そして今日、運命の日だ。
三輪隊と協力して発生したゲートのトリオン兵を倒しにいった。にも関わらず、そのトリオン兵は木端微塵になっていたのだ。
しばらく三輪が蓮ちゃんと話をして、「いったい誰が…」と口にした。あたしに三輪に駆け寄って「とりあえず回収班を呼ぼうか」と肩を叩いた。その時ある方角を向いたときに見えた。イレギュラーゲートが開く瞬間と、白髪の小さな少年とメガネの子が。
原作を見たとはいえ、まぁなんと言うか感動に近かった。
**
翌日、三門市立第二中学校でイレギュラーゲートが発生した。未来通りである。
忍田さんに言われ、中学校への防衛に嵐山隊と同行することとなった。
「いおりさん! よろしくお願いします!」
『准、相変わらずお前は爽やかだね。今回はよろしく頼むよ』
「はい!」
そんな返事を受け、本部を出る。トリオン体にはすでになっているので心配は要らない。すると、後ろから「いおりさん」と声を掛けられた。
振り向けば少し顔が明るい木虎藍ちゃん。
『木虎、どうした?』
「あ、あのっ、よろしくお願いします」
『ああ! よろしく木虎。頼りにしてるよ』
「あっ、ありがとうございます」
顔を赤くして下を向きながらそう答える木虎に微笑んだ。とっきーが「イケメンですね」と呟いたので「そんなことない、絶対」と笑っていなした。
**
現場につけばモールモットが一刀両断されていた。
嵐山が原作通りの言葉を吐く。その横であたしは周囲を観察し、こう言った。
「おぉ……壮観だな。こんなに綺麗に斬っているのはあたし以外にもあまり見たことがない。優秀だな」
と告げると嵐山が木虎に出来るか? と問い、木虎がやってみますと返事をし、すぱぱんとやってのけた。とっきーが真顔で「どうですか? うちの木虎は」と聞いてきたので「まだまだ伸びるね、負けるかもしれないな」と言えば「いおりさんが負けることなんてそうそう無いでしょう」と言われた。
.
そのうち木虎と空閑が口論になってしまった。
「日本だと人を助けるのに誰かの許可が居るのか?」
「……それはもちろん個人の自由よ。ただし、トリガーを使わないならの話だけど」
あ、こっから空閑の「トリガーはネイバーの物だろ」発言が出るな、と思ったのと同時に未来が見えた。あぁ、原作と変わらねー。
あたしは時枝と共に校舎に入って点検を始める。おー、粉々!
そして木虎が告げる。
「トリガーを使うのならボーダーの許可が必要よ。
当然でしょ? トリガーはボーダーの物なんだから」
来るぞ空閑! と少しそわっとすると「無表情のまま、少しそわっとして、どうしたんですか?」と時枝に無表情のまま告げられた。
「なにいってんだ?
トリガーは元々ネイバーのもんだろ」
その言葉に嵐山、木虎はともかく、時枝も頭にハテナを浮かべる。「お前らはいちいちネイバーに許可とってトリガー使ってんのか?」と空閑が言うと、木虎が「あ……あなた、ボーダーの活動を否定する気!?」と強めの口調で言う。
まぁそこからごたごたがあり、長くなりそうだなと思ったところで「はいはいそこまで」と時枝が校舎から出ながら止めに入った。
それに続くようにあたしは告げる。
『現場調査は終わったぞ。回収班を呼んで撤収だ』
あ、時枝の科白とっちゃった気がするが気にしない。「時枝先輩、いおりさん……! でも……」と口籠る木虎に時枝が諭すように言った。
「三雲君の賞罰を決めるのは上の人だよ。俺達じゃない」
『とっきーの言う通りだ。そうだな? 嵐山』
「なるほど! 充といおりさんの言う通りだ!」
と三輪が出せない星を出しつつ賛同する嵐山は三雲に言い挙げ句恩が有るなどと言った。おまっ、どこまで爽やかだよ!
.
そしてまぁ、そのあとはあたしは別行動して、嵐山たちとは別れた。
そしてやって来たのは玉駒である。
相変わらず涼しげなこの場所をあたしは気に入っている。敷居を跨いで『悠一』と愛する弟の名を呼んだ。
すると階段の上からがたっ、ばたばたと慌ただしい足音が聞こえてきて、小南辺りかな、とか思っていれば、廊下から顔を出したのはたった今部屋の片付けをし終わったような顔をした悠一だった。
「いお姉!」
『え、あ、悠一……どうした。ばたばたと、うるさかったが』
あたしがそう言えば「気にしないで!」と笑顔で言われ、手招きされたので階段を上った。
.
リビングに入ると陽太郎が雷神丸のうえに鎮座していて、「いおりか……」と大人ぶるので頭をヘルメットの上からわしゃわしゃと撫でた。
奥のキッチンから何か良い匂いだなと視線を写せば木崎が鍋をお玉でかき混ぜていた。
ハ、と気が付けばもう夕飯時だ。と気がついた。
『木崎、それはなんだ? カレー?』
「ああ」
なるほど、と頷けば悠一に「二人とも無表情で会話すんのやめて」と悲願された。え、あたし無表情だった?
木崎とは高校からの付き合いだ。昔は諏訪と風間と木崎、この同級生三人でよく遊びにいった。酒をよく飲む仲でもある。まぁ四人で居酒屋に行くと必ずと言って良いほど風間だけが止められる、哀れ。
木崎が「今夜諏訪呼んで飲むか?」とアイコンタクトされたので「ああ」と頷いておく。
悠一が「え?」と繰り返すので頭をぽんぽんと叩いておいた。
『そう言えば、小南や京介、宇佐美は……どこに居るんだ?』
「ああ、小南はまだ来てないよ。宇佐美はデスクで玉狛のデータ研究してる。京介はバイト、まぁもう少しで帰ってくるんじゃない?」
あたしが目線が同じで、隣の弟に聞けば分かりやすく返してくれた。納得しつつ悠一が座っているソファの悠一の隣に腰を掛けると陽太郎が雷神丸に乗りつつやって来た。カピバライダー登場である。
「いおり、久しぶりだな! 元気だったか?」
『相変わらず偉そうだなお前は』
そう良いながら雷神丸の喉を撫でる。陽太郎は良いよな、動物と会話が出来るサイドエフェクト持ってるから。なにそれ超楽じゃん。
すると、玄関が開いた音がして「京介かな」『小南じゃないか?』と首をかしげる。扉ががちゃんと開いて視線を送ればそこには鳥丸と小南の姿があった。
「あ、いおりさん」
「いおりさん!!」
『邪魔しているぞ小南、京介。……二人一緒は珍しいな』
そう声を掛けると鳥丸が「偶然玄関の手前でばったり鉢合わせしまして」と片手をあげながら言う鳥丸に納得した。
**
現在深夜零時、みんなはもう寝てしまっている。リビングに居るのは木崎と此方だけだ。
あのあと小南が模擬戦だの勉強見てだのと騒がしかったが、夕飯を食べ終えた頃には忘れてしまっていて良かったと思っている。相変わらず京介に弄ばれていたが。
日本酒を杯に入れてちびちび飲んで少し木崎と会話をする。
『お前も大変だな、木崎。毎日あいつらの飯つくってんのか』
「そうだが、特段大変と思ったことはないな」
『流石』
二人とも酒のせいで顔が微かに紅潮させつつも呂律はまとも。まぁあたしたち二人は酒には強いらしいから。
『木崎は遠征に行きたかった……とかないのかい?』
「ないと言えば嘘になるが、別にそこまで執着はしていないからな。俺達玉狛第一は」
『そうか』
「お前は無いのか」
『ねぇな、微塵も』
机に置いてあった缶ビールを開けて口つけながら目を伏せながら言うと「相変わらずだな」と木崎は立ち上がった。キッチンに向かっていったからつまみでも作るのだろう。
『味濃いのを頼むよ』
「言うと思っていた」
.
昨日は玉狛で一晩泊まっていった。飲み終わった頃、悠一が途中から居なかったなと思い、原作を思い出せば任務ののち本部にいっていた気がする。
なるほど、と空の酒瓶や缶ビールが転がっている机に昨晩外して置いておいたメガネを掛ける。あー、ちょっとダルいかも知れない。
飲みすぎたかな、なんて思いつつ机に目をやると、つまみが入っていたらしい皿が数枚、空の缶ビールの量がえげつなく、日本酒の瓶が5か6本転がり杯が何枚もあり、「あ、やべマジ飲みすぎた」と髪の毛を乱雑に掻いた。
椅子に座り、机に突っ伏して寝ていた為所か、体中の筋肉が固まっている。肩を回せばごきごきと鳴った。
朝も明けきらない時間帯なのだが、なぜかかつおや昆布の出汁の匂いで目を覚ました訳なのだが、キッチンに目をやればやっぱり、と言うか相変わらず顔色を変えずに朝食を作る木崎の姿があった。
『悪い。片付ける』
「そうしてくれ」
『あ、やべ。諏訪呼んで無くね?』
『後で煩くなるだろ……』「だな」と会話しつつ食器を洗場へと持っていき、机がすっきりしたところで払巾を貰って机を拭く。
そうこうしている間に、鳥丸や小南、宇佐美、悠一が「おはよう」と降りてきた。その時にはすでに木崎の朝飯は出来上がっており、湯気が器から立ち上る薄味のうどんが机に並んでいた。
『おはよう、悠一』
「おはよういお姉。夜、レイジさんと飲んだの?」
『ああ。たこわさが絶品だった』
「たこわさかー」
そんなことを呟きながら席につく悠一の隣の椅子に腰を降ろした。
.
あたしがうどんをすすっていると、小南が不意に「いおりさんと風間さんって幼馴染みなのよね」と箸先を向けてきた。木崎に「箸先で人を指すのはやめろ小南」と注意してからあたしは「ああ」と頷く。それに対して悠一が「えっマジで!?」と勢いよく振り向いてきた。
『あー、悠一には言ってなかったな。蒼也とは小学一年からの付き合いだ』
あたしがそう言うと「嘘でしょ……」とからんと箸を落とした。それに鳥丸が「だからか……」と呟いたので聞こうとしたが、答えてくれない未来が視えたのでやめた。
食べ終えたのち、『ご馳走さん。あたしちょっとA級3バカとランク戦の約束してるから』と玉狛を後にする。
ふと思いだし、今日は悠一があの三人を玉狛に誘う日だったとふと思った。
まぁ、そのあとの黒トリ争奪戦にはあたしは本部側に着くけど。
.
午後、本部にて。A級3バカとランク戦やって来るなど真っ赤な嘘である。そもそも出水が遠征中で居ないのだ。
とりあえず本部のブース前ソファに座りコーラをズゴゴと吸い込みながら対戦できる奴居ねぇかなと視線を動かしていると、香取を見つけた。
丁度コーラを飲み終え、がたんと席を立ち、ゴミ箱にコップを入れて『香取』と声を掛ける。
「いっ、いおりさんっ。お久しぶりです」
『ああ、久しぶり。久しぶりついでだ。模擬戦でもしないかい?』
「ありがとうございます。でも、これからミーティングがあるので……」
『あぁ……』
「すいません」
『残念だな。また今度誘うよ』
「はい」
では。そう頭を下げて行ってしまった香取を見送り、視線を流せばそこには。
『駿、陽介』
「あ、いおりさん」
「いおりさんっ!!!! ランク戦! ランク戦しようランク戦!!」
犬コロの如くあたしの周囲をぴょんぴょん跳んで喚く緑川に「緑川やめとけって」と米屋が緑川の頭をぽむぽむと叩いた。
『お前たち二人はランク戦をしていたのか?』
「そうだよ!」
「さっきから緑川がうるさくてさー。困ってたんすよ」
いやー、助かった。と手をひらひらさせる米屋に「あたしは緑川のお守りか」と米屋にヘッドロックを決めた。
.
緑川と米屋から申し込まれたランク戦。先に相手をするのは米屋だ。あたし、米屋の戦い方を結構気に入っていたりもする。いきなり首狙いだし。さっぱりしててそう言うところは同じアタッカーとして尊敬する。
場所は遊園地内、ランダム転送であたしはお化け屋敷の屋根の上に居た。遊園地なんて粋じゃないか。どうせ米屋が「えっ、遊園地なんてあんの!? これにしよー」とか言って指定したんだろう。もちろん天候は快晴だ。
開始の合図と共に駆け出して、『米屋出てこいボケえええええ!』とか叫びたい衝動に駆られつつその代わりにあたしの身長の半分はあるであろう日本刀型弧月が建物を横に斬る。
そしてとうとう抑えられず叫んでしまった。
『米屋出てこいボケえええええ!』
そう叫んだ時、どこからかぶふっと笑い声が聞こえてきた。笑い上戸な米屋の事だ、訳のわからないツボに入って押さえられなくなったに違いない。
笑い声が聞こえた方にアステロイドを瞬時に練り合わせ、ギムレットで一面を更地にすると煙の奥から「あっぶね」と米屋が姿を表した。
「いおりさーん! アステロイドダメ、ダメっすよ!! アステロイド使ったら余計に勝てる気全くしねー! トリオン怪獣! 戦闘性格豹変!」
『木端微塵かミクロン単位の細切れになるかどっか選ばせてやろう槍バカ』
「いおりさんは剣バカでしょ!!(事実)」
『オイ誰がだクソガキこのやろう』
「口悪!!」
『模擬戦終わったら殺すこのクソ餓鬼!』
米屋たっての願いで近距離(クロスレンジ)だけで戦ってやろう。やめたところで米屋が10本中全敗するのは未来を見ても分かるし、まず、火を見るより明らかだ。
空中で爆撃と共に吹っ飛んでいる米屋を畳むなら今ぐらいしか楽なタイミングはないだろう。グラスホッパーを使うかなんて思うもあれ酔うんだよなと考え直し、得意なテレポートを使おうと思う。
いきなり姿を消したあたしに米屋は「カメレオン!? やっぱり風間さんの幼馴染みだ!」と騒ぐも残念テレポートである。
原作では黒トリ争奪戦で嵐山が使って出水が「テレポーターか!」と言っていたから瞬間移動のサブトリガーはテレポーターと勘違いされがちだがそれは瞬間移動トリガーを使う人を指す用語であり正式名称はテレポートである。イヤホント超間違われやすい。
テレポートで米屋の後ろに来ていたあたしは米屋が狙うの大好きな首を「あめぇんだよバァカ」とにやっと笑い、ずばっとちょんぱした。
斬り落とすとかそういうとなんかグロイなー、よし斬り落とすって言おううぇーい、と思っていたら風間に心を読まれたがごとく「ちょんぱにしておけ」と高校の時に言われたのでそう言っている。
結局活動体活動限界ベイルアウトと米屋は離脱。そのあとの模擬戦も全戦全勝。今だ旧ボーダー時代から今の今まで無敗を誇っているプライドは健在だ。
緑川も戦ったが、緑川とは10分もたたずに10本勝負が終わった。結果は聞いてやるな。
.
米屋と駄々と捏ねる緑川に別れを告げて、訪れたのは荒船隊隊室。荒船に用があるのだ。
こんこんこんとノックをし、『迅だ』と声を掛ければシュンと扉が開き、穂刈が「どうも」とソファに座りながら顔をこちらに向けた。
目付き悪いけどイケメン。ここにイケメンがいる。とか思いつつ、隊室内を見回すが当の目的の本人が居ない。
『穂刈、荒船は? 見当たらないが』
「荒船なら買い出しに行っててもうすぐ帰ってくる筈」
『荒船、早く帰ってこい』
そんなことを言いつつ穂刈の前の椅子に座る。作戦デスクって結構広くて良いな、なんて思いながら先程見回した際にソファで相変わらずだりーだりー言いながらゲームをしている高校一年の半崎に声を掛ける。
『半崎、加賀美はどこだ?』
「さぁ……?」
『穂刈、加賀美は?』
「仁礼とラウンジで茶ぁするとかなんとか」
『ああ、ヒカリか。今度影浦の隊室にでも顔を出そう』
そう、他愛もない会話をしていると、ウィンと扉が開き「ただいま」と右手を白いビニール袋を下げながら荒船が入ってきた。
「あ、いおりさん」
『よし荒船。行くぞ。』
あたしが席を立つと荒船はこくりと頷き「じゃあな」と穂刈と半崎に声を掛けつつ再び隊室を出た。あたしもそれに続く様に『邪魔したな』と隊室をあとにした。
廊下にて、荒船の持つビニール袋をさりげなく奪って隣を歩く。
『さっさと行かないとな。人見はもう見始めているかもしれん』
「それだけは避けねぇと」
『で、お前は何を買ってきたんだ?』
「炭酸飲料とポップコーン、あとアイスとスナック菓子です」
『……酒は無いのか』
「ここボーダーですよ」
『煙草は……いや、あれはちょっと好まない』
「? いおりさん煙草吸えないんでしたっけ?」
『いや、吸うには吸うんだが諏訪のように常には吸わない。そもそもくわえない。月に1回か2回程度だ』
「……今思ったんですけど、風間さんも酒は飲めるし煙草も吸えるんですよね。……風間さんが酒飲む姿とか想像出来ねぇ」
『蒼也か……。あいつ、凄い量飲むぞ。酒飲み対決して負けた。あたし潰れた。木崎も一回潰れた』
「いおりさんが負けるとか風間さんどんだけなんだよ……」
『あと酔うと超喋る。ほとんどが隊員自慢。一通り喋ればいきなりガクッと寝だす。毎回諏訪辺りが「風間ああああ!?」とかいきなり叫び出すな。いい加減やめてほしい、慣れろ』
そんなこんなと話をしていればとある目的の隊室へと辿り着いた。
.
こんこんこんと荒船隊の時と同じ要領でノックをして『迅と荒船だ』と声を掛ければ「どうぞー」という声と共にうぃんと扉が開き、敷居を跨ぐ。
ここは東隊、今日は人見摩子とホラー映画鑑賞会をするのだ。
人見がホラー映画が大好きと言う事は前々から東さんから聞いており、今日は旧作のバイオハザードを見るというので招待してもらったのだ。
ソファには笑顔の人見が居り、そのとなりに小荒井がびくびくしながら座っていた。あの様子では来る前にもグロテスクホラー映画を見ていたらしい。その証拠に椅子に座る東さんと奥寺の顔も少し蒼い。
『荒船がホップコーン等を持ってきているんだ。奥寺、コップ等を頼む』
「わかりました」
そういいながらそそくさとコップや紙皿を持ってくる奥寺は本当に要領がいいと思う。コイツは頭が良いんだろう。
『宇佐美と小南も一応誘ってみたが、宇佐美が「迅さんに午後から居ろって言われたし、なにより小南が超嫌がってるからまた今度誘ってねー」と言っていた』
「宇佐美ってそういうのいけたのね」
『恐らく』
あたしは人見の隣に座りつつ、モニターを見る。ちょうど始まったようだ。
のち、小荒井と荒船の叫び声と、人見の「来ると思った〜! あははっ」と言う笑い声が廊下に響きわたったのは言うまでもなかった。
.
時間は飛んで今日は遠征組の帰還の日だななんて思いながら嵐山隊の隊室をノックした。迎えに行かないのか? なんてそんなことはしない、ほら、あれだ。面倒とかじゃなくてただ忘れていたのだ、そうしとこう。
ノックをしたあと。『迅だ』と声を掛ければ中からがったんバタバタばささっ、と慌ただしい音のあと、がしゃーん! と激しい音がしたあと「ぎゃああああ!」と佐鳥の悲痛な叫びが聞こえてきた。
そしてウィンと扉が開く。先程のバタバタとしたものを片付ける音はどこへやら、綺麗な隊室じゃないかとソファに目を向ければプラスチック製のコップを両手にうつ伏せで倒れている佐鳥。その頭には同じくプラスチック製の皿が乗っていた。
扉を開けてくれた木虎に『……これはどういう状況なんだ』と聞けば「佐鳥先輩が勝手に転びました」と冷たい目で佐鳥を一蹴した。
時枝と綾辻はその反対のソファで何やら饅頭を頬張っている。
『綾辻、久しぶりだな』
「いおりさん! お久しぶりです!」
「さ……佐鳥も居ますよ〜……」
『知っている。とっととその態勢をどうにかしろ佐鳥』
佐鳥に注意をして嵐山の座る椅子の正面に腰を掛ければ「どうしたんですかいおりさん」と嵐山が声を掛けてきた。
『いや、今日の夜にあたしと迅が戦う未来が視えてな。どうやら玉狛のブラックトリガー争奪戦に准の隊もあたしも巻き込まれたらしい。気をつけろ』
「わかりました」
そう告げれは至極真面目な顔で頷く嵐山にこくりと頷き木虎と模擬戦でもしようかと声を掛けようとしたそのとき司令から伝達が入った。
『……司令から呼び出しが掛かった。来て早々悪いんだが行く。邪魔したな』
「はい! いおりさん今度外でお茶でもしましょう!」
『マスコミに見つかったら大事になるから遠慮する。ラウンジで話でもしよう』
「はい!」
そうしてあたしは綾辻と時枝、木虎、佐鳥に手を振り嵐山隊を出た。
.
あたしが急いで会議室に入れば、丁度風間が城戸司令に新しいトリガーを差し出しているところだった。
「これが今回の遠征の成果です。お納めください、城戸司令」
「御苦労、無事の帰還なによりだ」
ボーダー最精鋭部隊よ。そう付け加えた城戸司令。今見るとこの会議室の面子は壮観である。
A級二位の冬島隊体長の冬島さんは船でグロッキーなので当馬が代わりに顔を出している。風間と当馬の他、ボーダー幹部と太刀川。三輪、奈良坂が椅子に座って報告を待っている。
城戸司令直属部隊の三輪隊はやはりこういう場にも顔を出さないといけないらしいから大変だ。
どうやら物思いに耽っている間に話は進んでいたらしく、城戸司令が変わらない無表情を顔に張り付けて重たい口を開いた。
「さて、帰還早々で悪いが、おまえたちには迅いおりを含めて新しい任務がある。
現在玉狛支部にある黒トリガーの確保だ」
やっぱりか、と目を細める。みんなが各々の反応を見せるなか、城戸司令は三輪隊に説明を話させる。「はい」と言って立ち上がる奈良坂はやけに早い口調で用件を話す。少なからず緊張しているらしい奈良坂はやっぱりどこか可笑しい。
「12月14日現在、追跡調査により近界民(ネイバー)を発見。交戦したところ黒トリガーの発動を確認。
その能力は“相手の攻撃を学習して自分のものにする”」
「……!」
風間が訳を聞きたそうな顔で今にもなんだと、と言いそうな雰囲気を纏わせながら話の腰を折るまいと押しとどまる。
なお奈良坂の説明は続く。
「その後、玉狛支部の迅隊員が戦闘に介入。迅隊員とそのネイバーが面識があったため一時停戦。
そのネイバーは迅の手引きで玉狛支部に入隊した模様。
___そして現在に至ります」
奈良坂の話を聞き終えて、少なからず入隊したと言う事実にみんながみんな同様を表すなか、当馬が驚きを口にする。
「ネイバーがボーダーに入隊!? なんだそりゃ!」
『いや、玉狛なら有り得るだろうな。元々玉狛の技術者(エンジニア) はネイバーだ』
あたしが当馬に少なからず思ったことで反論すれば、風間が続いて「今回の問題はただのネイバーではなく、黒トリガー持ちだということだな」と視線を寄越してきたので頷く。
風間はそれで確信を持ったように城戸司令に意見した。
「玉狛に黒トリガーが二つとなればボーダー内のパワーバランスが逆転する」
.
風間の一言に城戸司令は「そうだ」と頷いた。それもそうだ。本部に黒トリガー使いは天羽しかいないのに対し玉狛には弟の悠一と空閑の二人も黒トリガー使いがいるのだ。おまけに玉狛にいるのはボーダー最強部隊。こちらのA級部隊を向かわせたって玉狛第一がこちらと引き分けることなんて絶対に無いだろう。
何しろ自分用のトリガーを所持しているんだ、格が違う。こちらの隊員はあの三人で一番弱い鳥丸ですら落とせはしない。それに小南はアタッカーランクNo,3だ。その名は伊達じゃない。
パワーバランスが逆転するのは目に見えている。まぁ未来じゃ逆転してるけど。
城戸司令はだが、と続けた。
「それは許されない。お前たちにはなんとしてでも黒トリガーを確保してもらう」
その言葉に太刀川が「黒トリガーの行動パターンは?」と頭の後ろで手を組みながら問い掛ける。やはり太刀川、成人してもなお黒ロングコートと二刀流スタイルを維持し続けるそのメンタルで堂々と手を組むとは。
逆に流石である。あたしがそんなことを考えているとも知らず、太刀川は続けた。
「一人になる時間帯とか決まってんの? まさか玉狛全員を相手する訳にはいかないだろ」
全く持ってその通りである。小南と10本勝負やったときは一本とられかけて危なかった。もう小南とはやらない。
太刀川の問いに三輪が視線を寄越さず画面を見つつ時間帯と状況報告を告げた。
「黒トリガーは毎朝7時ごろ玉狛支部にやって来て夜9時から11時の間に玉狛を出て自宅に戻るようです。
現在もうちの米屋と古寺が監視しています」
三輪のそれに毎日がチャンスと根付さんが言うが、それは違う。太刀川もそう思ったようでこう言った。
「今夜にしましょう、今夜」
みんなが「今夜!?」と驚く。太刀川に三輪が「あまり舐めない方がいい」と忠告するも舐めるもなにも舐めているのはお前らだ。
あたしは太刀川が口を開く前に同意を告げる。
『あたしは太刀川に賛成だ。
まず舐めるもなにも無いだろう。相手の黒トリガーは学習するトリガーなんだ。今頃玉狛でうちのトリガーを学習しているかもしれん。時間が経つほどこちらが不利になるのは目に見えている』
あたしがそう言うと三輪は「!」そうハッとするが、太刀川が言葉を続けさせないぞと言うが如く喋り出した。
「それに、長引かせたら米屋と古寺に悪いだろ。サクッと終わらせようや」
太刀川のそれに当真が「なるほどね」風間が「……確かに早い方がいいな」と賛同の声をあげる。太刀川が城戸司令に良いかと聞けば良いだろうと許可を貰った。
この部隊の指揮は太刀川。
「さて、夜まで作戦立てるか」
「襲撃地点の選定が先だな」
『蒼也に同じく』
「なるほど」
.
https://ha10.net/up/data/img/8186/jpg
女主の赤坂いおりちゃん。
今執筆している、迅さん姉と思ってもらって結構ですよ。下手ですのでスルーしてくださって構いません。
次は男主の赤坂いおり君をアップします。
https://ha10.net/up/data/img/8188.jpg
31:アポロ◆A.:2016/04/02(土) 15:36 ID:eG2上記のものは男主バージョンの赤坂さんです。こっちのほうが表情豊かだったりします。
32:アポロ◆A.:2016/04/02(土) 16:25 ID:eG2
弟と色違いの赤色の隊服ジャージが夜風になびいてはためく。トリオン体で走れば本当にあっという間なんだなと再びエンジニアに関心をするけれど、そんな陽気には居られないのが現実だ。
<目標地点まで残り1000>
そう内部通話通信から聞こえてきた距離の指示にあと1000mか、なんて考える。先頭を切って走る三輪に太刀川は「おいおい三輪、もっとゆっくり走ってくれよ。疲れちゃうぜ」なんて呑気なことを抜かす。
この黒トリガー争奪戦に関しては任務としては戦うが、それ以外ノーコメントだ。だって相手は嵐山隊も来るし、木虎が怒りそうだし。だから先に嵐山に言いにいったのだ。女の子から嫌われるのはちょっと。
そうして目標地点残り500mとなったところで太刀川が「止まれ!」と叫ぶ。ざざざと急ブレーキを掛け、前を見れば道路の真ん中で仁王立ちする弟の悠一。原作と未来通りである。もちろんみんなには悠一が立ち塞がることは伝えていないので三輪が声をあげる。
「迅……!」
「なるほど、そう来るか」
太刀川がそう告げたあと、悠一は「太刀川さん久しぶり」と腰のホルダーから下がる風刃に手をかけた。そして白々しく言い放つ。
「みんな、いお姉を連れてどちらまで?」
それに当馬が「うおっ、迅さんじゃん。何で?」と悠一に疑問を投げ掛ける。悠一は「おう当馬。冬島さんはどうした?」と疑問には答えず冬島さんの所在を聞き返した。それにたいして当馬は「うちの隊長は船酔いでダウンしてるよ」と飄々と告げる。案の定「余計なことを喋るな当馬」と風間に注意されていたが。
そのあと隊務規定違反だのボーダーにネイバーが入っただの黒トリガー寄越せだの渡さないだのと言い合う。
そのうち蒼也が宥めるような口調で口を開いた。
「あくまで抵抗を選ぶか……。
お前も当然知っているだろうが、遠征部隊に選ばれるのは黒トリガーに対抗できると判断された部隊だけだ。おまけにいおりだって居る。
他の連中相手ならともかく、俺たちの部隊を相手にお前一人で勝てるつもりか?」
「俺はそこまで自惚れてないよ。遠征部隊の強さはよく知ってる。それに加えてA級の三輪隊。俺が黒トリガーを使ったとしてもいいとこ五分だろ。
あといお姉も居るし。いお姉まで戦闘に加わったら俺の負けが確実に確定してしまう。
__「俺一人だったら」の話だけど」
「なに……!?」
近くの屋根にダンッと足音が響いた。姿を現したのは嵐山隊の嵐山、木虎、時枝。佐鳥は大方もう身を潜めているだろう、厄介だな。
「嵐山隊現着した。忍田本部長の命により、玉狛支部に加勢する!」
「嵐山……!」
「嵐山隊……!?」
各々が上を見上げて嵐山に怪訝な視線を向ける。嵐山隊はそんなの気にする素振りも無く平然と立ち振る舞う。
太刀川が「忍田本部長派と手を組んだのか……!」と妙に冷静に対処した。
「遅くなったな、迅」
嵐山隊の面々が地面にタッと降り立つ中、嵐山が悠一にそう謝罪の言葉を述べるも、悠一は「いいタイミングだ嵐山、助かるぜ」とにやりと笑う。あ、悪い顔だ。
「三雲君の隊の為と聞いたからな。彼には大きな恩がある」
「木虎もメガネ君の為に?」
「命令だからです」
相変わらず木虎は三雲に厳しいな、改めてそう思ったのは言うまでもない。
.
対悠一、嵐山隊戦兼黒トリガー争奪戦が開始された。特攻隊としては風間隊が一番なので突撃する風間達。
キィンとスコーピオンを掌に召喚しながら走る風間達はとても格好がよく、今度はスコーピオンにも手を出そうかななどと考える。
現在弧月ポイントは29856、レイガストは17439なので、スコーピオンを使えばフルコンプなのだ。
駆けてくる風間達に悠一の後ろの木虎等が銃を散弾。風間達はシールドで受け流しつつ前へと攻める。
一歩前に出た歌川が悠一と攻守共に凄まじいスピードで斬り合いを見せるが、悠一の縦からの降り下ろしをスコーピオンで受けた歌川はばきんとスコーピオンを二つに割られ、左肩から下を失う。降り下ろした隙をついてか太刀川が上から飛び上がりつつ両手で力強く握った弧月で斬りかかるが、悠一は詠んでいたのか、余裕を噛ました笑みで受けたつ。
そこから太刀川がオプションを発動させて旋空二段構え。嵐山隊、悠一共に空中へ飛びそれを回避しつつ嵐山が銃型トリガーでメテオラを一発撃った。
「四人まとまってるとなかなか殺しきれないな」
『まぁあたしの弟も居るしな』
「さりげなく弟自慢ですか」
「……しかもまだ迅は風刃を一発も撃っていない。トリオンを温存する気だ」
風間が悠一をなぜかキッと睨んだ。ちょっとちょっと蒼也、目付きがキツくなるぞ、怖い。奈良坂が通話から「後手後手だな……」と呟く。あ、未来視えた。これはあたし達が負けるパターンだ。先程の連携攻撃で未来が確定してしまった。
そんな中、菊地原が風間に意見を述べる。
「こいつら無視して黒トリガー獲りに行っちゃダメなんですか? うちの隊といおりさんだけでも」
その言葉に未来の分岐点が現れる。あ、このまま無視して行けば黒トリガー獲れる。そう思うも風間はすでに言い返しており「玉狛には木崎達がいる。ここで戦力を分散するのは危険だ」と言っていた。そしてカチリと未来は敗北へと一歩近付く。
「三輪、米屋と古寺はまだか?」
「もうすぐ合流します」
太刀川が三輪に聞いたかと思えば「出水」と自分の隊の隊員を呼ぶ。それに律儀に「はい」と返事する出水は優秀だ。
「俺といおりさんと風間隊と狙撃手は総攻撃で迅をやる。お前は三輪と米屋と組んで足止めしろ」
「えぇ……せめていおりさん下さいよ! その方がやる気が」
「……出水」
「じょ、冗談っすよ風間さん……。出水、了解」
なぜか渋る出水に風間が睨む。渋々といった様子で不貞腐れたまま返事をした出水。風間は出水から視線を外して三輪に言葉を投げた。
「黒トリガー奪取はより緊急性を増した。失敗は許されないぞ三輪」
「わかってます、風間さん」
**
迅悠一side
「……次はこっちを分断しに来そうだな」
小さく俺が呟けば、嵐山が「その場合はどうする?」と警戒を解かずして聞いてくる。別にそれでも問題は……あるっちゃあるけどないと言えばない。「別に問題無いよ。何人か嵐山達に担当してもらうだけでもかなり楽になる」
いお姉はこんなこと読み透かしてそうだなぁと微かに苦笑いを浮かべる。俺の姉、いお姉は気持ち悪いぐらい頭が良い。勉強しなくたって全国模試で上位を獲れるぐらいうらやましい頭を。それに頭の回転がとてつもなく早くて、決断が速い。IQなんて210、そんな姉を持った俺は劣等感を抱かなかったなんて無かったわけがない。でも、いお姉だしと毎回なぜか受け流せる。
「いお姉と風間さんがそっち行ってくれると嬉しいんだけど、こっち来るだろうな」
「うちの隊を足止めする役なら、多分三輪隊ですね。三輪先輩の鉛弾(レッドバレット)がある」
「どうせなら分断されたように見せ掛けて、こっちの陣に誘い込んだ方が良くないですか?」
木虎の言葉に「いや、いお姉の事だ。そんなもん読みきってるだろ」と少し疲れた笑みを見せれば嵐山はそれでも、と力強く言い放つ。
「賢と連携して迎え撃とう」
やっぱりボーダーの顔は爽やかでイケメンだなぁと再感した瞬間だった。
.
三輪隊アタッカーと出水が嵐山隊の方へと行ったのを確認し、あたしたちは交戦を再開した。
『……すまん悠一』
「任務だし仕方ないって」
『そう言うことだからな』
自分の身の丈3分の2はある日本刀型弧月をすぱんと素早く降り下ろす。それをゴゴッと受け止めたのを見計らい足払いしてずたんと尻餅をついたところに鳩尾に正面突き。どぶっとクリーンヒットしたそれは悠一の動きを鈍らせ風間があたしの後ろから姿を現しスコーピオンを投げ付ける。
顔へと向かったスコーピオンをスッと顔の位置を変え、風間のスコーピオンは先程顔があった位置にザクと突き刺さる。
そこから素早く態勢を立て直した悠一は一歩後ろへ下がるがそんなのさせてはいけない。万が一風刃を発動させられれば距離を離されてはたまったものではない。風間は不意を付くためにカメレオンで再び姿を消した。
正面のあたし、背後の風間。あたしの高速連撃を未来を頼りに勘だけで受け流し__この連撃が頬を掠め__余裕の全くない悠一を見てから風間にアイコンタクト。姿は見えないが頷いた気がした。
風間が姿を表して背後から体を回転させて遠心力で威力をつけつつ振りかぶる。だが風間の方は予知していたようでさらりと交わした。
カガッ、ギンッ、と剣の交わる音が響くなか、太刀川に内部通話で声をかける。
『太刀川、お前もヘルプに来いボケ』
「っはぁ!? いやいや、いおりさんと連携出来るのはボーダーじゃ風間さんと迅だけだって! スピードが早すぎて目が追い付かないからヘルプは無理だ! 俺が邪魔になる!」
『ちっ、仕方ない』
ぶつりと通話を斬り、いまだ斬り掛かる風間にあたしは一旦下がるぞと視線を寄越しダッと後ろへ下がる。あたしに続く風間。それと入れ替わるように太刀川が踏み込み、弧月を抜刀。
横に振り抜き悠一はそれを受けつつ威力を軽減するために弧月と同じ方向へと飛ぶ。
そこから風間が飛び出しスコーピオンを左手で下向きに構え肘うちをするが如くの様にスコーピオンで斬る。だが受けられるソレ。
風間は読んでいた様で右手をふっと動かす。それにぴくっと反応する悠一。風間は次の瞬間左腕からスコーピオンを枝分かれさせた刃先が飛び出て悠一を襲う。
『もぐら爪(モールクロー)』である。
悠一は「うおっと」と言いつつなんなくモールクローを下に避け、だがチッと髪をかする。
そこから三輪隊スナイパーの奈良坂と古寺の狙撃。またしても読んでいたのか「ほいっと」とひょいひょい避ける。
そして古寺、奈良坂、当馬の会話が聞こえてきて当馬が三輪隊、出水側にいくと言い出す。まぁ太刀川も許可を出したので良しとしよう。
「どんどん下がりますね、黒トリガーの癖に」
「包囲されない為には当然の行動だろう」
.
「突出するなよ。浮いた駒は食われるぞ」
「でもどうします? このままだと警戒区域外まで行くんじゃ……」
『いや、それは無い。悠一は市民を危険にさらさん』
風間、歌川と続いて言葉を出せば太刀川が斬り掛かる。あたしよりは遅いが素早い剣捌きで悠一と斬り合いつつ、風間が壁を走り横からスコーピオンで迎撃。それにしても悠一が風刃を使わない。ああ……今の今まで忘れていた。
「どうした迅、何を企んでいる?」
太刀川のそれに不敵に笑ったのに気が付き『なるほどな』と声に出してにたりとあたしは笑う。みんなはどういうことかとあたしを見つめるなか、悠一は「やっぱり天才が居ると面倒だな」と苦虫を噛み潰したような顔をした。
『悠一の狙いはあたしたちのトリオン切れだ。撃破より撤退の方が本部との摩擦が小さくて済むからな。
もちろん悠一はそれがうまくいく保証は無いからプランをいくつか考えているだろう。
__あたし達が玉狛の黒トリガーを獲りに行こうとすれば、風刃を使ってあたし達を倒し、性能のよく分からない黒トリガーより、A級上位チームを倒した風刃の価値方が価値があると思わせ、上と取り引きをする、とかな』
「……嘘でしょ、なんでそんなとこまでわかんのいお姉」
『俺様をナメるなよ悠一。弟の考えることは、もちろん【きょうだい】のあたしも考える事だ』
あたしがドヤ顔をすれば、「仕方ないな」と風刃を発動させた。
そこからは早かった。風刃の弾が菊地原の首をちょんぱしてベイルアウト。
のち、歌川が負傷。カメレオンを発動し、風間と歌川は上へ飛んだ。
そこから太刀川とあたしで悠一を追い詰める。まぁほとんどあたしが悠一を高速連撃で追い詰めてるんだけど。
黒江見たくイダテンを使えればざざっといけるのに。ガギッと弧月を振り、風刃がそれを受け止める。そこから弧月に力を入れて悠一を押し飛ばす。
そこに太刀川が入り風刃は距離を詰めればただのブレードと言い放つ。
そして悠一を押し込んだガレージ。
「もう逃げ場は無いぞ黒トリガー」
『っ太刀川避けろ!』
見えた未来じゃ太刀川は風刃に串刺しにされる。そして丁度声を掛けたときには風刃は一発、太刀川の肩を直撃し、ドドドドドと風刃の五弾は太刀川へと降り注いだ。
しまった、風刃に対して狭いところは有利すぎる。そこで風間と歌川が前後で攻撃するが、悠一は風刃で後ろの歌川をベイルアウトさせた。
残弾はもう零だ。だが、太刀川に6本、歌川に1本。残りの残弾は確か8本だった筈。
足を踏み込み風間と共に攻める。風間がスコーピオンで風刃を固定する形を作り、モールクローで地面を通って足から悠一の足を固定。太刀川と共に風間ごと斬る気でいれば、原作を思いだし、残弾の事を考える。そして太刀川の場から離れて悠一の後ろに回り込む。そのあたしの行動に対し悠一は「読まれたか」と小さく呟く。
太刀川が何も知らず弧月を抜いたときだった。風間の足と太刀川の腕が同じ場所に来た瞬間、残りの残弾の風刃が姿を見せて太刀川の右腕と、風間の左足を斬った。読んだあたしは無傷である。
「あんた達は強い。黒トリガーに勝ってもおかしくないけど、風刃と俺のサイドエフェクトは相性が良すぎるんだ。悪いな」
『おい悠一、あたしの事も忘れるなよ』
後ろから弧月を振りかぶる。びっくりしたような悠一は「姉さん無傷とか……!」と悔しそうな顔を見せて風刃で受ける。がきんがきんと二人で戦闘、あたしが押し気味でいれば、ベイルアウトの光が見えた。嵐山、三輪のところは時枝、米屋がベイルアウト。あたしが悠一と交戦している間に当馬がベイルアウト。そのあとトリオン切れで太刀川、風間がベイルアウトした。
そして作戦終了の指示が月見から聞かされる。失敗に終わったのだ。
『あーあ、負けた。負けたことなかったのに』
「いや、姉さんに負けはないでしょ。作戦全部見抜かれてたから俺の負け」
『ならいい』
あたしは悠一に『じゃあな』と告げてベイルアウト。
こうして黒トリガー争奪戦は一旦は幕を閉じた。
ボーダー本部から出て自販機が有るところで悠一から風刃を手放したと聞いた。
深夜なのか、空はあたし達が黒トリガー争奪戦に行ったときより暗さを増していて、トリオン体だったからわからなかったが、冬の夜風がとても冷たい。
その冷たい風が吹くなか、すぐそこの自販機で買った缶コーヒーを飲む。そんななか太刀川が口を開いた。
「全くお前は意味不明だな。なにあっさり風刃渡してんだよ、勝ち逃げする気か? 今すぐ取り返せ、それでもっかい勝負しろ!」
「無茶言うね太刀川さん」
『悠一すまん、このアホが』
ドカと太刀川を蹴り飛ばす。ぼりぼりと悠一のぼんち揚げ食いながら言うもんだからイラッとしてしまった。
風間は気にする素振りも無く「黒トリガー奪取の命令は解除された。風刃を手放す気があったなら最初からそうすればよかっただろう」と悠一に告げる。『食いながら喋るのはやめろ』と頭を撫でると「ストップ」と悠一が止めにはいる。睨み合う二人。なんだろう、この二人の間でいったい何が……。
「わざわざ俺達と戦う必要もなかった」
「いやぁどうかな。昨日の段階じゃ風刃に箔が足りなかったと思うよ」
コーンスープを飲みながらそう言う悠一。悠一は缶から口を離し、白い息を吐きながら続けた。
「太刀川さんや風間さん達のおかげでやっと、鬼怒田さんを動かせたって感じかな」
「A級上位の俺達を蹴散らすことで風刃の価値を引き上げたと言うことか?」
「ご名答、それがプランB」
「……いおりの言う通りだったんだな。まったく、ムカつくやつだ」
風間がジト目になって悠一を呆れたように睨んだ。
「そうやって風刃を売ってまでネイバーをボーダーに入れる目的はなんだ、何を企んでいる?」
「……城戸さんにもそれ訊かれたな……」
回想が入り、会議室でこんな話が繰り広げられていたとはと我ながら頭のいい弟を感心する。
「そのうちに新しく入った黒トリガー使いの遊真ってのが、結構ハードな人生送っててさ。俺はあいつに楽しい時間を作ってやりたいんだ」
「……楽しい時間、それとボーダー入隊にどう繋がる、なにか関係があるのか」
「もちろんあるさ。ボーダーにはいくらでも遊び相手がいる。きっとあいつも毎日が楽しくなる。あいつは昔の俺に似てるから」
昔の俺なら確かに昔の悠一に似ていると言うなら簡単に風刃を渡したのにも納得がいく。案外繊細な悠一のことだ、玉狛の自室に入れば後悔をとてもするんだろうな。そんななか、風間が口を開く。
「いまいち理解できないな。そんな理由で、争奪戦であれだけ執着した黒トリガーを、あれはお前の師匠の形見だろう?」
「形見を手放したぐらいで最上さんは怒んないよ。最上さんだってボーダー同士の喧嘩が収まって喜んでるだろ」
「……」
悠一は思い出したように「あ、そうだ」と口を開けて人差し指を立ててドヤ顔しながらこういった。
「俺、黒トリガーが無くなったからランク戦復帰するよ。とりあえず個人でアタッカー一位目指すからよろしく」
『「「……!?」」』
原作でも見たが実際見るととんでもない。太刀川は「そうか……! もうS級じゃないのか! そういやそうだ!」と喜んでいる。
「お前それ早く言えよ! 何年ぶりだ!? 3年ちょっとか!? こりゃあ面白くなってきた、なぁ風間さん!」
「面白くない全然面白くない」
.
それからしばらくして。本当に時の流れは早いもので、その日はやって来た。
1月8日、ボーダー正式入隊日。
今日は今月分漫画も終わっているし、ランク戦の約束もない。なので入隊訓練を見学しようとホールのバルコニーにやって来たわけだが。
『……なんでお前が居るんだ』
出水。隣で呑気にバルコニーに肘を置いて下の訓練生達をにやにやと生来のいやらしい顔付きで眺める後輩にそう告げる。
相変わらず分けた前髪目ん中にぶっこんでんなと思いつつなんでこんなところに居るんだと視線で訴えた。
「いやー、なんというか……気まぐれ?」
『知るか、聞くな』
そこから本部長の挨拶、嵐山隊の登場、各ポジションに別れる指示、ポイントの説明。
「まずは訓練の方から体験してもらう、ついてきてくれ」
下でそう告げた嵐山に『相変わらず准は爽やかだな』と眉をしかめる。その時、出水が「じゃ、俺防衛任務なんで!」といい笑顔で去ってしまった。おいおい何しに来たんだよ出水。
アタッカー、ガンナー組に着いていくことにしたあたしはバルコニーから降りてアタッカー組へと続いた。
廊下を歩いていけば木虎の姿が見えたので、声を掛けようと歩いていけば、木虎は前方の三雲へと声を掛ける。
「三雲くん」
「木虎……」
「なんで貴方がここにいるの? B級になったんでしょ?」
「転属の手続きと空閑の付き添いだよ」
三雲がそこまで言うと空閑が振り返り、「おっキトラ、久しぶりだな。俺ボーダー入ったからよろしくな」と3の口で手を振った。そこでようやくあたしは木虎に声を掛けた。
『木虎』
「いっ、いおりさん! こんにちは! どうしたんですか!? こんなところに……!」
僅かに目を輝かせながらぺこりと御辞儀をしてそう聞いてきた木虎に「あぁあの木虎に好かれてるんだなぁ」と嬉しくなり頭を撫でた。
その光景に三雲と空閑がぽかんと歩みを止めた。
『いや、ただの見学だ。悠一の大事な後輩を見に来た』
その答えに木虎は「そうなんですか」と三雲と空閑を睨んだ。おいおい睨むなよ木虎。
そんなことを考えつつ空閑を観察するがごとく眺める。
「……? 俺の顔になにかついてる?」
『いや。あたしもネイバーフッドに行ったことは有るが久しぶりでな、人型ネイバーを見るのは』
「ふーんよくわかったね、ネイバーだって。
俺、空閑 遊真。中学三年、背は小さいけど15歳。遊真でいいよ」
『よろしく。あたしも未来視のサイドエフェクトだからな。迅 いおりだ』
三雲と空閑の玉狛に居る迅悠一の姉だと告げれば「迅さんの……お姉さん!?」と三雲があんぐり口を開ける。おいおいそこまで驚くか。
「なぁキトラ、俺、なるべく早くB級に上がりたいんだけどさ。なんかいい方法ある?」
「簡単よ。訓練で全部満点をとって、ランク戦で勝ち続ければ良いわ」
『分かりやすいな木虎』
「い、いえ」
「なるほど」
木虎からそれを聞いた空閑はにやりと笑った。
.
時期的には遠征組が出発する結構前。
番外編 ボーダー提携普通高校文化祭
出水、三輪、米屋等もろもろが通うボーダー提携の普通校高。それなりに校舎もでかく、人数は多いだろうと予測される。
ざわざわとやけに騒がしい普通校高は今日が文化祭だ。夏の終わりを感じさせる幾分か涼しい風がするりと頬を撫でるかのように吹いていった快晴今日この頃。
あたしの機嫌は不機嫌さMaxである。なぜならば今年この高校に入学し、現在高校二年の出水や米屋、三輪、小佐野、高校三年の国近、当馬等から文化祭を是非見に来てほしいと言われたのだ。可愛い後輩の頼みだ、見に行こう。こうして校門の前にやって来たのだが。
『……』
なんとまぁ見知らぬ女の子からの「文化祭を一緒に回りませんかっ!」とのお誘いの応酬応酬。悠一似のイケメン顔だからだろうか悠一バカ、っていうかなにさらっと自分のことイケメン言ってんだよナルシストかよあたし死んじまえぃ。
きゃあきゃあと騒ぐ可愛い女の子からギャルのような女の子達。歩きたいのだが、周囲を固められて動けない。
真面目な奈良坂を電話で呼ぼうかとも思ったがしまったアイツ進学校だったと泣きたくなった。
次は荒船、古寺、菊地原、歌川と次々と真面目そうな奴をあげていくもなんで進学校の奴等の名前しかあがんねぇんだよとスマホを地面に叩き付けたい衝動に駆られつつ、表情には出さない。
恐らく今のあたしの顔は無表情がちの困った顔をしていることだろう、なさけなさすぎる。
そしてぱっと閃いた、真面目な奴居るじゃないか、時枝とか時枝とか鳥丸とか鳥丸とか鳥丸とか!
三輪? あいつは論外、可愛いから。
とりあえず素早くまず鳥丸に連絡すればワンコールで出てきてくれた。木崎の弟子の玉狛第二の良心!
『京介。少し助けて欲しい。女の子達に囲まれて動けん。はやく来てくれ』
「あぁ……校門の所で女子がたかってるの、やっぱりいおりさんだったんですね」
『見えていたなら助けに来い』
「すいません俺今から店の接客行くんで失礼します」
プッ、ツーツーと虚しくも通話終了の音が流れる。前言撤回アイツは玉狛の第二の良心なんかじゃない。
一旦はまだ希望は有ると時枝に通話を繋げれば「もしもし、いおりさんですか?」と声が返ってきた。
『あぁ、あたしだ時枝。助けに来てくれないか。どうせ見えてるだろ』
「はい、そうですね……クラスの女子がきゃあきゃあ言ってます」
『そうか。助けろ』
あたしがそういうと時枝からは「大丈夫ですよ、もう行きましたから」 とやけに冷静な、いやいつも通りの声色で返される。
不思議に思いあたしは顔をしかめた。
.
不意にダダダと複数の走る音が聞こえてきた。やけに急いでいるなと思うもその複数の足音は確実に此方へと近付いてきていた。
何事だ、また女子か? とげんなりと周囲で騒ぐ女の子達にバレないように溜め息をつく。だが、「いおりさん」とあたしを呼んだその声は聞き覚えのある男の声で、その後ろからも「いおりさぁーん」とぶんぶんと手を振る姿が見えた。
なんでこの未来見えなかったんだろと思うも読み逃したかと苦笑いを浮かべる。息を切らして走ってきてくれたのは、後輩の先程論外だと言ったばかりの三輪秀次と米屋陽介だった。女の子たちもいっせいに三輪と米屋の方を振り向く。三輪と米屋は女子を優しく押し退けるようにあたしの元に来た。
『秀次、米屋』
「……来るなら来ると連絡ぐらいください」
「連絡くれれば迎えに行ったのに」
『何様のつもりだ米屋』
あたしは米屋のこめかみをぐりぐりと拳で押す。いたいいたいと叫ぶ米屋になぜだろう、前世でおしまいにしたはずのドSっ気が甦ってきてしまった。
何はともあれ助かった。米屋は女の子達に断りを入れて三輪があたしの腕を掴んで歩き出す。
やっと女の子達から解放されたと階段を上って二階にやって来た所で安堵の溜め息を吐き、『ありがとう秀次、米屋。助かった』 と三輪に腕を離してもらい、礼を言えばなんとでもないと二人は首を横に振った。
「なぁいおりさん、このまま俺達のクラス来てくれよ! 弾バカが面白いことになってんだよ!」
『……面白い事とはなんだ』
「まぁ見れば分かるって!」
そのまま前進する二人の後ろを歩きつつ、辺りを見回す。先程は女の子達のおかげで校庭はあまり見れなかったが、窓から見渡せば飲食系の露店が立ち並んでおり、色鮮やかだった。
この廊下の教室系出し物もなかなかのクオリティで面白そうなので、現年齢21歳のあたしも少し心が踊る。
そして気が付けば三輪が立ち止まっており、危うく背中にぶつかる所だった。
ふと思う。三輪の身長は174cm、あたしの身長が179cmで5cmしか違わないんだなとわしゃっと三輪の髪を撫でた。
「……なにするんですか」
『いや、特には』
「……」
少し不服がちな顔をする三輪に頬を人差し指で掻き、「ここは?」と話を逸らせば「俺達のクラスの店です」とむすっと告げられる。
『男装女装喫茶……』
こんなものをやるのかと若干引いた目で見れば「そんな目で見ないでください」と三輪は項垂れた。そんな中、教室から恐らく米屋の物であろう「ぶっふぉ、ぶははははは!」と言う爆笑声が聞こえてきた。
なんだなんだと教室に入るとそこには学ランのまま、床でのたうち回りながら腹を抱えて大爆笑している米屋が目に飛び込んできた。
しまいにはひいひい言いながら目尻に涙を浮かばせている。もちろん今は営業中他の客も居るわけで、迷惑だろう。
『なにをしている、ん……だ……』
もう一歩教室へと入り、注意をしようとしたその刹那、目にさらにとんでもないものが見えた。
『……?』
いやいやそんなはずはない。半袖ジャージの上着ポケットに手を突っ込んでいやいやと目を伏せて首を振る。そして再び目を開けば……。
やはり変わらない姿がそこにあった。
『……公平か?』
いや、聞くだけ野暮と言うものだ。コイツは間違い無く出水。だが、その格好は一体……。と顎に手を添えて眉を寄せながら首をかしげつつ眺める。
明らかにこの学校の制服とは違い、可愛らしい黒と水色の女子ブレザー制服。どこかで見たことが有ると思えば以前他県の部活見学的なふざけた番組で見た女子高の制服だ。
その制服のミニスカートに白いハイソックスにローファー。明らかに女の子の制服なのに、ソレを紛れもない「A級1位太刀川隊射手出水公平」が着ていたのだ。
怒りか羞恥か両方か、出水は顔を真っ赤にし、唇を噛んで片手で顔を覆いつつ、短いスカートは風がよく通るからか、裾をもう片方の手で掴んで下へと引っ張っている。
そして無意識なうちにスマホでぱしゃりと写真を一枚撮っていた。
その音に反応したのか出水が赤かった顔をさらにカッと赤くさせてあたしに「いおりさん! なに撮ってるんですか!?」と泣きそうになりながら叫ぶ。
『……後輩の、勇姿だ』
「どこが!」
いや、それを着た勇姿だ。と真顔で眉ひとつ動かさずに言えば「バカにしてるんですか!!」とさらに顔を赤くさせた。どこまで赤くなるんだお前は。
周囲を見渡せば似たような姿の男子は居るが、出水が圧倒的にソレが似合っており、色々と注目の的だ。
だが。女子だって恥ずかしがって男装をしているはずだ。と視線をずらせばきゃっきゃと楽しそうに満喫しているではないか。なんと言うことだ。
だが、似合っているのだ。出水。お前結構手足細いからすごく可愛らしいのだ。写メって正解である。
『……まぁ、似合ってるから、心配することはないだろう』
わしゃわしゃと出水の頭を撫でればうつ向いて呻き声をあげる。あ、なんだろうこの先の未来あたしがここで手伝わされてるのが見えたぞ。
.
出水wwwww
42:アポロ◆A.:2016/04/05(火) 09:19 ID:eG2
『……それにしても』
あたしはなぜ出水の学ランを着せられてここで接客をしているんだ。未来は見えていた、回避できたかもしれない。だが、最悪だ。この未来は確定していた。
あたしがさっさとこの教室を出ていこうとしたときに出水に腕を掴まれ「責任取ってください」と涙ぐみつつ上目遣いで言われてしまった。なんとまぁ勘違いを及ぼす言い方だ。と了承してしまい、女の子達に連れられて出水の学ランを着せられたのだ。
だが、学ランはゆとりがあっても、ワイシャツのサイズは胸のせいかかなりギリギリだった。こう言うとき国近よりでかかった事を後悔する。
下は足の長さが合わず、先程と同じく短パンのままだ。あたしの足、なんでこんなに長いんだよくそが。
『……』
なんか三輪と出水と米屋にめちゃくちゃ見られているんですが。周囲の女子はきゃっきゃと騒いでいるのに、この三人だけが無言。こえぇわ。
そして一番に口を開いたのは米屋だった。
「……なんか、」
『なんだ』
「エロいと言うか」
『ぶっ殺すぞ』
とんでもない発言に勢い余ってメニュー表をブーメランの様に米屋に投げた。額に角が直撃し、ぐほぅっ! と額を押さえる米屋に『ならお前も出水と同じ格好をしろ』と冷たく告げればすいませんでした! と謝罪の言葉がひっくり返ってくる。
「……いおりさんが俺の制服着てたとか風間さんが聞いたら俺、殺されるかも」
かなり深刻そうな顔をする出水に『なんでそこで蒼也が出てくるんだ?』と首をかしげると「は?」と出水はともかく三輪も目を見開いた。
「え、何でって……えぇ!?」
「……気付いて、ないんですか?」
『何をだ?』
「……風間さんが超可哀想なんですけど」
『そうだな……アイツは身長がとても可哀想な奴だ。158cmしかない』
「いおりさんそれ暴言」
とりあえずもとの格好に着替えてきてください、目の毒ですと出水と三輪に更衣室兼教室裏へと連れていかれる。そこで女の子に引き渡され、素晴らしいぐらいの連携で素早く元の服装に戻された。
未来は回避できたかもしれない。
着替えが終わり、出水達に一言いってそこを離れた。
『……次は、三年組か』
と呟いた瞬間見計らっていたかのように「いおりさんだー」と声をかけてきたのは二年の小佐野。ああ、女の子達に会ってなかったと思い『小佐野』と声を掛ける。
「いおりさん見に来てくれたの?」
『ああ』
「じゃあ行こー。私のクラスこっちー、熊も居るよー」
と小佐野に手を引かれてやって来たのはクレープ屋、どうやらここが小佐野と熊谷のクラスらしい。
ここの服は制服にエプロンとシンプルで安心した。そして熊谷の姿を発見。『玲は?』と那須の所在を聞けば休みと返答が小佐野から返ってきた。
熊谷と小佐野と少し会話をしてクレープをひとつ頼む。
クレープは結構おいしかった。
.
小佐野達に別れを告げてやって来た三年階。流石に三年のクラスは数が多く、人も混雑している。そんな中で犬飼や影浦に会うのは難しいだろうと思っていたのだが、見慣れた後ろ姿を発見した。
『北添』
「わっ、いおりさん!? どうして……って、文化祭回ってるんですか?」
適当“炸裂弾”(メテオラ)を得意とする北添と遭遇。聞いたところ、北添は客引きに出てきていたらしい。手に持つプラカードを指差し『いおりさん寄ってく?』と聞いてくる北添に『ああ』と答える。雑踏の中北添に付いていくのは楽ではなかったが、案外早くにクラスに付いて安心した。
北添のクラスは国近、当馬がおり、北添のクラスのその出し物に納得がいった。
『……なるほどな。自作のデジタルシューティングゲームか。射的のゲーム版だな』
「国近さんと当馬がやけに意思疎通しちゃってその二人がごり押しで決まったんです」
『良いじゃないか』
「ほとんど二人の独壇場でいまだ勝者は出てないんですよ」
『参加させてもらおう』
北添に連れられて教室に入り、国近と当馬に片手をあげると「「やろう!」」と元気よく言葉が返ってきたのでそのクラスの子から銃を受けとる。モデルはボーダーの狙撃用トリガーイーグレットをモデルに仕立てあげたらしい、なんとも手先の器用な二人だ。
国近が隣で銃を構えたので、あたしもさっと銃を構える。
「今回こそゲームで勝ちます」
『あらゆる面に置いて何人たりともあたしには勝てない』
そこからはゲームスタートの合図でまだ敵は出てきていないがあたしが発砲する。発砲した瞬間にネイバーに似た小型の怪獣がぴょいと出てきたのでそれは得点となり消える。もちろん未来視のサイドエフェクトのお陰である。
「ちょ、いおりさんズルい〜!」
『なんのことだ』
「サイドエフェクトで視てるでしょー!」
『別に視ようとして視ている訳ではない。勝手に視えるから有効活用しているだけだ』
「屁理屈だよー」
『仕方がない。こればっかりはあたしにも制御できん』
ガンガンガンと連謝しつつ横を向いて親指を立てれば「悔しい〜!」と銃を発砲し続ける国近。
結果はあたしの勝ち。こんなゲームだとしても、あたしが負けることはあたし自身が許さないのだ。
ボーダーでも一番のゲーマーだと噂され、学校では確実に一番のゲーマーだと言われる国近に勝利したことで周囲がざわめき出す。別に大したことでもない、たかがゲームである。
「いやぁ、いおりさん強すぎ。手加減してよー」
『生憎手の抜き方をあたしは知らない』
「イケメンずるいー」
国近が頬を膨らませるなか、当馬が「いおりさん次俺とやろうぜ」と言うのだが、生憎次の三年のところへいきたいので断った。
**
北添に聞けば犬飼と影浦二人は隣のクラスらしい。同じクラスに居るのなら話は早い、さっさと行こう。そして隣の出し物を見て固まった。
『……給仕喫茶?』
……給仕とは、執事やメイドの事を言うのだが? あれ、目の錯覚だろうかと目を瞬くが、文字は変わらない。嘘だろ、犬飼はともかく影浦まで執事の格好すんのかよととりあえず足を踏み入れる。
そこにはどこぞのバスケ漫画の黄色モデルの様なきらっきらオーラを放つ笑顔の犬飼が執事の格好でスタッフをしていた。
.
『……犬飼』
「あっ、いおりさんじゃん! お昼食べてきます?」
へらりへらりと笑う犬飼に『その気持ちの悪い笑顔をやめろ』と腕を擦りながら言えば「いおりさん酷くね?」としゅんとする。あ、やべ鳥肌がぶわっと。
『影浦はどこにいるんだ? もしかして接客を……』
「いや、カゲなら調理班です」
『……ああ』
そうだった。影浦はお好み焼き屋の次男坊だった。なるほど、と頷けば「カゲの焼くお好み焼きはマジで美味しい」とガチな顔で言う犬飼にそれを頼んだ。
**
結局影浦とは会えなかったなと先程買ったお好み焼きを食べつつ歩く。
『……あ、一年に会ってない』
だがもう今は夕暮れ時だ。もう時間は無い。来年また来ようと決めた瞬間だった。
番外編【終】
「さぁ到着だ。まず最初の訓練は……対ネイバー戦闘訓練だ。仮想戦闘モードの部屋の中でボーダーの集積データから再現されたネイバーと戦ってもらう」
透明な対トリガー防壁に覆われ、まあ大きいだろうと思われる部屋が幾つも並ぶ訓練場に着いて、嵐山の言い放った言葉に少なからずみんなは動揺している。無理もないだろう、毎年これだ。旧ボーダー時代から居るあたしには無縁だな、なんて思い腕を組んで呆けていると、嵐山とばちりと目があった。未来がカチリと音を経てて変更される。嘘だろ。
「いおりさんじゃないですか!! ……よし」
何がよし、だ。閃いた様な顔すんな、輝くな純粋野郎。とあたしは微かに頬をひきつらせた。ざわりといっせいにあたしを見る訓練生に僅かながらたじろぐ。嵐山は「仮入隊の間に体験したものも居ると思うが、仮想戦闘モードではトリオン切れはない。怪我もしないから思いっきり戦ってくれ」と訓練場を見渡しながら言う。そして原作通りならばこのまま訓練生の実践に入るのだが、未来は違っていた。
「ここにボーダー最強のA級フリー隊員の迅いおりさんが居る、なので彼女に手本を見せてもらおうと思う」
『……やらないぞ』
もう口の端をひくひくとひきつらせつつ『勘弁してくれないか、じゅんじゅん』と手をひらひら振れば嵐山は腕を引っ付かんで笑顔で強引に引き連れていった。どうなってんの? 答えは聞いてない。っていうか何言ってんだあたしバカか。
『……やらんぞ』
「え……」
『え』
「まぁまぁ」
一瞬シュンとしたが改めてきらっきらの爽やか笑顔を振り撒きながらぐいぐいと嵐山に連れられて強制的に部屋、1号室の中に入れられた。嘘だろ。
これはもう腹を括るしかないらしい。トリガーを起動していつもの悠一と色違いの赤色のジャージとワイシャツ、鞘に入った日本刀型長刀弧月、それを支えるホルダー、飽くまでも動きやすくするための短パンと黒のニーハイソックス、それとブーツ。いつも通りの格好だ。
<1号室用意、始め!>
恐らく通信室に居る堤の開始の合図と共に迷うまでもなく弧月を抜いてコアを叩き斬る。開始直後に倒れ込むバムスターに訓練生達は唖然だ。
こんなの楽勝過ぎて言葉も出ない。
<記録、0.06秒>とマイク越しに別に驚くでもなくあたしなら当たり前、だとでも言うように堤が告げる。
会場が湧くがそんなもの知ったこっちゃない。
頭と足の位置が反対になっていたので一回転して着地する。それと同時にチンと弧月をしまう。
あ、折角鞘が有るんだ。今度居合い抜きでもしようか。居合い抜きとは、刀を鞘から抜き出すとき、目にも止まらぬ速さで抜刀し、そのまま鞘に戻す技のことだ。目にも止まらない速さなので、誰も攻撃されるまで鞘から剣を抜いたか分からないと言う芸当。これならかなり有利に立ち回れる。様は見えない程速い剣技なのだ。
とりあえず1号室から出て『手本になったか』と聞けば「レベルが高すぎて分かりませんでした!」と良い笑顔で言われ殴ろうかと思ってしまった。
.
あろうことか嵐山は「気を取り直して」と訓練生へと振り返り説明を始めて「説明は以上! 各部屋始めてくれ!」と言い放つ。え、ちょ、あたしやって見せてあげたのにスルーされたんだけど。ちょ、泣いていい!? こんなとき草壁がいれば慰めてくれる(筈)なのに!?
草壁とは緑川の隊、A級4位の草壁隊隊長である。草壁隊はA級どころかボーダーで一番の異色の隊であり、理由は何より隊長である草壁がオペレーターなのだ。こんなこと聞いたことあるか。無いよな、まだコミックス化してないし。恐らく本誌にもまだ載って居ないだろう。なら何故分かるのかって? そりゃあピクシブで草壁隊について前世で見たから。(もし嘘だと思うならピクシブ大百科で検索して見て下さい。恐らく事実です。違ってたらすいません byアポロ)
『准の奴……』
あたしは無言で嵐山を睨み続けるが、嵐山は気が付かない。知らないって良いね。
訓練生はまだ青く、少し手こずっている様だ。ガンナー志望か銃で層厚を破ろうとするもの、アタッカーの弧月でバムスターから振り落とされるものと実に様々だ。
木虎の元に戻り、『木虎の合格基準はどうだ』と聞くと「初めてなら一分切れればいいほうですね」と辛口評価だ。そして「あなたのときは何秒かかったの? 三雲くん」と木虎が聞けば三雲は言葉を濁す。まぁ原作知ってるから。
<2号室終了、記録58秒>
漫画でやけに威張っていたハウンドのオールバックが自慢気に鼻で笑う。もう少し早く終わるだろうと落胆の溜め息を吐く。
当の新3バカは周りから「一分切った」「すげー……!」と声を上げられ調子に乗り、「さすがだな」「まぁこんなもんだろ」とリーダー格が片手をあげる。調子に乗んな。
木虎は隣で「58秒、まあまあね」と至って顔色を変えない。
そして次は空閑遊真の番だ。
そう意気込めば後ろから「いおり」と幼馴染みの声が聞こえ、振り向けば風間が手招きをしていた。
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ワールドトリガー夢小説ランキングで拝見したサイトでここのパクリがあったのでルールを追加します。
・パクリ駄目、絶対。いやホント勘弁してください。パクリ目的ならばUターンでどうぞお帰り下さい。
『すまん、蒼也が呼んでるから行ってくる』
「……はい、分かりました」
風間の名前を出せば少し不機嫌になり、後ろを向いて風間、菊地原、歌川に一瞥する。あたしも振り向いて階段を上り、風間の隣につく。
バルコニーはえらく眺めがよく、最初からここで待っていればよかったと後悔した。ここにいればあんなことにはならなかった筈なのに。
「あれがお前の弟の後輩……なるほど、確かに使えそうなやつだ」
「そうですか? 誰だってなれればあれくらい……」
「素人の動きじゃないですね、やっぱネイバーか……」
『黒トリガー使いだしな。あいつのお目付け役の黒トリガーとして付いている自立型トリオン兵も頭が良いみたいだ』
あたしがそこまで言うと菊地原は「なにそれ聞いてない」とふくれたので『言っていないからな』と腕を組みながら下を見下ろす。『あたしも未来で視ただけだ』と菊地原に言えば「ふうん」で終わらせられた。解せん。
しばらくここで観戦していたのだが、おもむろに風間が階段を降りていく。あたしもそれに付いていくように降りれば風間は「なるほどな……」とそこにいる空閑に向けて呟く。
「風間さん、来てたんですか」
「訓練室をひとつ貸せ嵐山」
『蒼也は悠一の後輩とやらの実力を確かめたいらしいぞ』
「ほう」
既にトリオン体になっている言葉足らずな風間の代わりに補足すると、空閑が意味ありげに微笑む。すかさず嵐山は「待ってください風間さん! 彼はまだ訓練生ですよ? トリガーだって訓練用だ!」と慌てて止めにはいる嵐山を見た風間にあたしにまるで「言葉が足りていない」とでも言いたげな視線を寄越された。いや、元々はお前の言葉足らずを言ってやったんだぞ。
「違う、ソイツじゃない。俺が確かめたいのは……。
お前だ、三雲 修」
空閑から目を放し三雲を見つめる風間。いつの間にやら三雲の隣にはすました顔の烏丸が立っている。いつの間に来たんだお前。
風間から告げられた言葉を聞いて空閑は「!」三雲は「……え!?」と多大な驚きを見せた。っていうか三雲お前ホント冷や汗絶えないな。
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https://ha10.net/up/data/img/8397.jpg
女主のいおりさん戦闘体です。迅姉の戦闘体と一緒です。出なければお知らせ下さい
いおりさんの男主の種類は二種類あります。二種類目です!
https://ha10.net/up/data/img/8398.jpg
出なければお知らせ下さい。
上の二つの画像を3DSで見るならばこちらです。
https://ha10.net/up/data/img/8397.jpg
https://ha10.net/up/data/img/8398.jpg
こちらも出なければ教えてください
間違えました。こちらです。
https://ha10.net/up/data/img/8403.jpg
https://ha10.net/up/data/img/8405.net
また出なければ教えてください。
今日の更新はもうじき行います。
.
何回もすいません。
男主の方が出てこなくて。
https://ha10.net/up/data/img/8406.jpg
これで恐らく最後
「オサムと……」
「風間先輩が模擬戦……!?」
空閑が風間と三雲を眺め、木虎が観客席から身を乗り出して発言する。嵐山が「何を言い出すんだ風間さん」と笑顔を消し去り風間を見つめる。風間は「コイツは正隊員だろう? 俺と模擬戦する分にはなんの問題もない」としれっと言い放つ。いやまぁその通りなんだけどさ。
だんだんとC級も理解していき、ざわめき出す。
『……嵐山』
「何ですか? いおりさん」
『悪いことは言わない、止めるのは諦めろ。ああなった蒼也は絶対に譲らん。
……そうだよな、蒼也』
呆れた様にして嵐山に告げれば同意の視線を寄越しながら「うるさいぞいおり」となぜか辛辣な言葉が返ってくる。腕を組んで溜め息を吐きつつ『事実だろ』と言えば不服そうに黙った。
風間は意外と頑固である。あたしはこれで昔からとんでもない目に会ってきたのだ。そりゃもう言葉には表せられない様なぶっ飛んだ目に。いやマジで。分かってくれますか? 分かりませんよね、わかります。あぁすいません。ちょっといま、思考回路は煩悩賛歌……じゃねぇわ、頭ちょっとショートしてるわ。ここでそ○るの絶望性:ヒーロー治療薬出てくるとかマジでショートしてるわ。
あたしが遠い目をしているのに気が付いたのか嵐山が「お疲れ様です」と苦笑いしたので「すまない」口角をつり上げる。すると嵐山とあたしの間にスコーピオンが飛んできて壁にざくっと刺さった。のを見て風間を見る。え、何事だよ。……え!? 思わず壁に刺さったスコーピオンを二度見したのはあたしだけではないはず。
「何をしている嵐山」
風間が嵐山を睨む。え、だから何事!? と周囲に視線を回せばサッと逸らされた。なぜだ。
嵐山は苦笑いして一歩下がる。え、ちょっと待ってあたし嫌われてんのもしかして。
風間は何事もなかったかのように三雲に向き直り「訓練室へ入れ、三雲」と指示するが、とんでもない量の冷や汗を掻く三雲に風間は首をかしげる。
「無理に受ける必要はないぞ、三雲くん」
「模擬戦を強制することは出来ない。イヤなら断れる」
嵐山、鳥丸からの言葉に少し眉が寄る。その言い方じゃあまるで風間が悪者じゃないか否定するつもりなんて微塵も有りはしないが。
すると三雲はこう口を開く。
「受けます。やりましょう、模擬戦」
『……やっぱりか……』
やはり、原作と未来に間違いはなかった。
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『流石に一方的、か』
最初に。風間は手加減をしない。ここからはアイツの持論なのだが、もし自分が相手より弱かったとして、自分が弱いからと相手から情けで手加減をされれば、アイツは必ず怒るだろう。
「手加減されてもし勝ててもそれは勝利ではない」二年ほど前、以前あたしと模擬戦をし終えた時に風間はそういった。
だから風間は例え自分より相手が遥かに弱くとも手加減はしない。
とは言えこの試合展開は三雲にドンマイとしか言えないのだ。だって24戦中風間が今のところ全勝。もう話は収まったのか、風間が訓練室から出ていこうとすれば再び会話をし、最後にもう一戦することになった。
三雲はまず低速散弾で風間のカメレオンを封じるが、風間は低速散弾をスコーピオンで叩き落とす。そこから三雲へと駆けていく風間。だが三雲はレイガストを構え、手のひらサイズのアステロイドを出した。
誰もがレイガストで風間の動きを制限して大玉で迎え撃つと考えたその時、三雲は皆の予想をいい方向に裏切り、「スラスターON」とレイガストに掴まりながらシールド突撃(チャージ)を行う。これには風間も驚いたようで、ガッと言うけたたましい音を響かせて風間を巻き添えにした。
背中方面に散らばる低速散弾をシールドで回避したが壁へと追い込まれた風間。そこからスコーピオンで攻撃するもレイガストのシールドモードで閉じ込められた。
そして三雲はシールドに小さな穴を開け、「アステロイド」とゼロ距離射撃に投じる。
ドンと言う爆発音を響かせみんなが目を見開くなか、「決まった」と空閑が口を開いてそういった。
煙が晴れていくにつれ、三雲達は姿を表すが、三雲の首にはスコーピオンが貫通している。シールド内はまだ煙が散漫しているが、穴へと向けた風間の手のひらから伸び出たスコーピオンが三雲の伝達系を切断していた。
<伝達系切断、三雲ダウン>と堤が告げるなか、みんなは恐らく読み合いでは三雲の勝ちだったと思っているはずだ。
まぁそれは事実だ。だが、風間もそこで収まる男ではなかっただけの話だ。まぁ、ここで終わらないが。
『……蒼也も蒼也だな』
そう苦笑いした瞬間、ドッと風間の左腕が地面とこんにちはした。煙が晴れ、見えた風間は左肩から下を失っていた。
<トリオン漏出過多、風間ダウン!!>
三雲の刄はきちんと風間に届いていたのだ。
.
「最後は相打ち……引き分けだ」
風間のその言葉にみんなの顔が衝撃を受けたような顔になる。菊地原なんか「嘘でしょ信じらんない」とでも言いそうだ。模擬戦終了! と堤の上擦った声が響く。
『……珍しいな、蒼也。B級とお前が引き分けるのは』
「……」
『なんか言え』
隣に立ってからかえば睨むだけで無視だ。なんか言え。すると、「うちの弟子がお世話になりました」と鳥丸に背後から声を掛けられた。
「烏丸……。そうか……お前の弟子か。最後の戦法はお前の入れ知恵か?」
「いえ、俺が教えたのは基礎のトリオン分割と射撃だけです。
あとは全部あいつ自身のアイデアですよ。
風間さん、いおりさん、どうでした? うちの三雲は」
烏丸が風間とあたしに問い掛ける。風間はトリオン体を解いたのを見て、あたしもまだ解いていなかったと冷静に思いだし、解除する。
ボーダーの黒布地で赤のラインが入ったジャージと短パンである。
「……はっきり言って、弱いな」
『……悪いが蒼也に同意する。トリオンも身体能力もギリギリのレベルだ、弟が推すほどの素質は感じん』
あたしが言えば風間はこくりと頷く。三雲の顔が強ばるのが分かった。だが、君には悪いところばかりじゃない。原作を知らなければ、あの発想はあたしにもなかったはずだ。恐らく。
「だが、自分の弱さをよく自覚していてそれゆえの発想と相手を読む頭がある」
『お前は弱いが、馬鹿ではないだろう』
「『知恵と工夫を使う戦い方は、俺達/あたし達は嫌いじゃない』」
二人で声を揃えて言えば三雲は「!」と反応する。心なしか嬉しそうだ。「邪魔したな、三雲」と背を向けて階段を上がる風間に溜め息を吐き、あとを追うように階段を上る。
「あれ? 結局俺とは勝負してくんないの?」
そこで空閑が風間を呼び止めた。「勝負……? お前は訓練生だろう」と視線だけ空閑に寄越したが、『あたしは別に構わないが』と言えば「駄目に決まってるだろ、この剣バカ」と風間に一蹴されつつチョップを貰った。暴力反対である。
「勝負したければこちらまで上がってこい」
そう言い残して階段を再び上る風間に苦笑いをした。
**
本部内廊下にて。風間隊隊員と合流し、歩みを進めながら会話をする。
隣にちょいと出てきた菊地原に可愛さを覚えたのは内緒である。
「あんなのと引き分けちゃダメですよ。僕なら100回戦って100回勝てる、あんなパッとしない眼鏡」
早速菊地原がぶつぶつ言い出した。歌川は「そうか? 遅い弾を埋めるとか良い手だったと思うが……」と三雲をフォローするも、菊地原は「あんなのトリオン無限ルールだから出来たことでしょ」とド正論を突き付けた。
「最後の大玉だって一回両防御(フルガード)して、それから刺し返せば良かったんですよ」
ともっとも実用的な案を言う。確かにそれもあったのだが、如何せん、風間は負けず嫌いだ。『まぁ、それもアリだな』と同意すれば菊地原の顔が僅かに明るくなった気がした。すすすと隣に寄ってくる菊地原を少しあざといと思いつつ苦笑いを浮かべる。
「そうだな、張り合ってカウンターを狙った俺の負けだ」
微かに微笑んだ風間に少しキョトンとするも、『……チビなのに負けず嫌いと言い頑固と言い』と言うと「チビ言うな剣バカ」と鳩尾に一発貰った。痛い、が鍛えてるので無事である。っていうか剣バカ余計じゃね?
「もう、しっかりしてくださいよ風間さん」
「お前はなんでそんなに偉そうなんだ……」
.
番外編【21歳組高校時代】
突然で申し訳ないが、家の本棚を整理していると、高校時代のアルバムが出てきた。
今日は非番だし何をしようと家の自室で椅子に座って考えていると、ふと目には言ったのはボーダーの書類の入ったファイルや、書店で購入した本が乱雑に重ねて置いてある。
ここ最近忙しくて『仕方ない』とか言って適当に重ねていたなと思いだし、整理をすることに至ったのだ。山積みにされたファイルは突起事項特筆事項機密事項等の詳細が詳しく書かれており、あたしはボーダーに入った頃からこう言った書類のコピーを保存しているのだ。だって城戸司令とかに指示されるとわざわざ本部の資料室に行かなくてはならないから面倒、と言う理由だ。
一ヶ月単位で書類が挟んであるファイルはあたしがボーダーに入ったのは中学に入学した頃からだから、もう9年、12ヶ月×9だから……108ヶ月分、108冊のファイルがある。それでもまだゆとりのあるこの本棚は優秀だろう。とは言え書籍やコミックス等を入れればギリギリだ。
ほとんどを片付け、さてリビングに降りようかと思ったところで、本棚の一番上に横にして置いてある本のような何かをふたつ見つけた。
あたしの身長、179cmより少し高いこの本棚の一番上の物を取るのは少し苦労したが、無事回収。見てみると高校の写真が入った分厚いアルバムと卒業アルバムだった。
懐かしくなって立ったまま分厚い方のアルバムの表紙を開けば最初に見えたのは、三角市普通高校の制服を着た、まだ幼さが残る顔立ちのあたしと、童顔が今とあまり変わらない風間が写っていた。
『……ああ、これあれだ。入学翌日の奴だ』
確かクラスが一緒で記念に、って撮ったんだったか。久しぶりに見る写真に少し楽しくなって自分のデスクのキャスター付きの椅子に腰を掛けて次のページを捲った。
.
そのページには数枚の写真が挟んであり、最初の一年はまだボーダーが表に出ていなかったからか、風間との写真や、悠一、その他の友人の写真ばかり。
そして高二の頃の写真は諏訪や木崎が登場し出す。ボーダーが出来たのである。
そして、高三の所である写真を発見した。
『……帰り道?』
それはあたしと風間と諏訪と木崎で白い息を吐きながら肉まんを食べている写真だった。……これ、誰が撮ったんだ?
**
その日は寒かった。朝、今日の気温は如何程かと外に出てみれば凍てつく様な寒さに素早く玄関に引っ込んだのを覚えている。
高校三年になったあたしはボーダーでも長年居たからか、色々と後輩の事を頼まれる。学生服に身を包み、上からボーダーに貰ったジャージを羽織る。
『悠一、今日凄まじいぐらい寒いぞ、死ぬ』
「えー、いお姉が死ぬのは困るなぁ……防寒具居るねー」
普通高の一年、悠一はどこかからかマフラーを取り出す。そしてあたしにも「はい、いお姉」と赤いマフラーを差し出した。それを受け取って首に巻く。あたたかい。
もう結構な時間なので、玄関でローファーを履いた。
『悠一も行くか?』
「そーする」
二人で歩く登校時の道を歩く。実はあたしバイクの免許を数種類取ったので、ボーダーの給料が貯まれば買うつもりでいるのだ。白い息をは、と吐き、鼻を赤くさせる弟に『寒いな』と一人言を呟いた。
**
『おはよう蒼也』
朝一番、結局義務教育間全て同じクラス、高校でも奇跡的に全て同じクラスと何か学校側の陰謀が隠されているのではないかと思ってしまうくらいずっと一緒の風間蒼也に声を掛ける。
椅子に座って「おはよう」とあたしを見上げて言ってくる辺り、可愛くて掲げたくなる。まずそんなことをすれば本気の鉄拳制裁が下されるからやらないけど。
「今日はお前、任務が無いらしいな」
『ああ、久しぶりに帰れるぞ』
「そうか」
『諏訪と木崎も誘おうか』
「……そうか」
諏訪と木崎の名前を出した途端むすっとし出す風間に疑問を浮かべつつ、二人にメールを送る。以前、木崎と諏訪と交換したあと、風間に携帯を貸せと言われ渋りつつ渡せばボーダー関係者以外の男子のアドレスを消されていた。なんで!? その時は本当にびっくりしたか、まぁ良いやと今でも放置だ。
『蒼也、お前今日任務はどうなんだ』
「夜勤だ」
『ご苦労さん』
「そう思うなら手伝え」
『了解』
そして『蒼也、お前隊は作らないのか』と聞けば「オペレーターとアタッカー一人はすでに確保している」とさらりと返される。あぁもう取り掛かっていたのか。
「今は強化聴力のサイドエフェクトを持っている奴を勧誘している」
『……あー。良いよな、強化聴力のサイドエフェクト。カメレオン使うときとかすごく楽じゃないのか? それ』
強化聴力のサイドエフェクトの隊員は恐らく菊地原だ。風間は後輩大好きだ。そのサイドエフェクトを、ましてや後輩に向けてしょぼい等言わないだろう。勧誘してるとこ見たかった。
『もう動いているんだな』
「お前は作らないのか」
『……あー、今は東隊に所属してるし。多分後で隊を作ってやれとか言われるだろうから、多分今は作らない』
「今は、か」
『機会があれば作る』
.
放課後、諏訪と木崎、風間の三人と下校。まだくわえ煙草をしていない諏訪は新鮮だなとか思いつつ息を吐く。
「……寒いな」
「だな」
『同意』
風間の言葉に木崎と賛同すると諏訪が「お前らなんでそんなに無表情なんだよ」と呆れられる。と言うか呆れられる意味が分からないんですがなんなのお前。
『黙れ諏訪キューブ』
「はぁ!? いおりてめぇ、俺のどこがキューブなんだよ!」
『吠えるな余計負け犬に見える。……キューブキューブ言うのは未来でお前が一番最初にキューブ化するからだ』
「んな未来変えてやるっての! っていうかどういう意味だよキューブ化って!」
『残念だがもうこれは確定している未来だ。後輩からはキューブ先輩と言うイメージが焼き付くだろうな』
諏訪を横からげしげしと蹴る。いてぇってやめろと喚く諏訪をさらにからかおうと思ったが、風間の睨みと木崎からのなぜか憐れむ様な視線を頂いた。やめろよ照れるだろ! ってあたしなに言ってんのマジ死んじまえ。
そして突然風間が隣でぐうと腹を鳴らし、「腹が減った」と恥ずかしがる素振りも無く言い切る。あぁ風間は小さいわりに諏訪より食べるからすぐに腹が減るんだなと物思いに更ける。この小型かつ高性能かつ暴食め。
「……すぐそこにコンビニがあるから寄るか」
「俺も腹減ってきたしな」
木崎の提案に諏訪が賛成し、すぐそばにあったコンビニに寄った。
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みんな揃って温かい肉まんを購入する。あたしは右手に肉まんを持ちつつ左手に肉まんが四つほど入ったビニール袋を下げているのだが、諏訪と木崎からなぜか視線をもらった。
「……お前、そんなに喰うのか……?」
「女子の食う量じゃねぇだろいおり、身長から顔立ちからしてその暴乳以外全部男じゃ「黙れ諏訪」っでぇ! 風間てめぇなにすんだ!」
『もっとやれ蒼也』
うぃんとコンビニのドアから姿を表した風間が出てきて早々諏訪の背中にドカッとなぜかは知らないが蹴りをいれる。ばっと振り向く諏訪と、その諏訪を追って後ろを向くあたしと木崎。だが、そこで目線が行ってしまったのは風間の顔、ではなく風間の手に下がるビニール袋だった。
利き手には肉まんが持たれており、モグモグと粗嚼する姿は可愛らしい。が、それよりビニール袋の中身だ。
『……』
「……おいいおり、風間はこんなに食う方だったのか?」
『……そうだな』
木崎に問われ、少し唖然としつつこくりと頷く。とーうざいとうざい、その左手に下げられておりまするは、ビニール袋でこざいまする。その中身は肉まんが10個ほど詰め込まれておりますて。……なんでだ、この喋り方は歌舞伎だ、なんで出てきた。もう一度言う、なんでだ。
『……まぁ、蒼也は元々大食いな方だしな』
「ぶははっ! 風間ぁ! お前そんなちっせぇ体して大食いとかどこにそんな量がおさまんぶっ!」
出ました風間蒼也の強烈な飛び蹴り! 強烈な飛び蹴りをモロに喰らった諏訪洸太郎は成す術もなく鳩尾を押さえて撃沈ー!
とか脳内で解説しつつ無表情で戯れ(一方的に風間が痛めつけてる様にも見え)る光景を眺めた。この光景を木崎と傍観していれば風間は恐らくちっせぇだのと言われて怒ったんだろうな。身長が低いのは全く気にしてないけど、言われるとかなり怒るから。
__そうだ、この写真はこの時の写真だ。確か偶然通り掛かった忍田さんが微笑ましいだのと言って撮って本部で四人揃って貰った物だ。ああ思い出したぞ。
『くっ、かっかっかっ! マジ懐かしいなぁオイ!』
前世と同じテンションの喋り方が不意に漏れた。いけないいけない、今更こんな喋り方で本部行くと熱だしたのかとみんなから心配されてしまう。だが、いまぐらいは良いだろうと背中を丸め、頬杖をつきながら眺めさせてくれ。
そんな非番の今日この頃。
番外編 終
番外編【いおりと言う人物】
迅side
俺の姉、『いおり』はどれを取っても欠如している場所が無い。
成績優秀、容姿端麗、博識厚遇、運動神経抜群、ボーダー最強と才色兼備な姉に、劣等感を抱かなかったと言えば嘘になる。だが、俺はそれ以上に姉が好きだった。シスコンと言う自覚はある。
だからこそ、風間さんが気に入らない。幼馴染みなのは妥協しているが、あの人も大抵な過保護だ。学生時代、今も尚大学ではいお姉を絶対に一人にさせなかったとレイジさんから聞いた。
姉は今や忍田さんでさえ到底敵わない位の弧月の実力を持ち、ボーダー最強だ。俺は姉さんが負けたところを見たことは無い。無敵、無双、『天才』である。
今日はそんな彼女の印象をいろんな人に聞いてみた。
東さんの場合は「自慢の元エースだな」とどこか誇らしげに言っていた。確かに、姉さんが東隊に居た頃は負けなしだった筈だ。
太刀川さんは「天才だろ、俺まだ勝った事無いし」と悔しそうに口を尖らせていた。太刀川さん、俺の前でそんなことしても別に可愛くもなんともないから。
国近に聞けば「爆乳の超イケメンお姉さんかなぁ、かっこいーもん。あとゲーム出来る!」と恍惚とした表情で姉を思い浮かべているのか知らないが、俺にそういった。
確かに、姉さんはイケメンだ。それこそ、女子の本気の告白が絶えなかったぐらいに。そのクールな性格に甘いマスクは似合いすぎる。最近はメガネをしているからよりいっそうだ。メガネ超似合う。学生時代の女子はみんな「迅くん」や「いおりくん」と愛しそうに君付けで名前を呼んでいたのは鮮明に記憶に残っている。
次は出水に聞けば「そりゃあなんでも出来る系イケメン漫画家じゃないですか?」とあんた何当たり前のこと言ってんだと怪訝な視線を送られ俺がお前に「何当たり前のことの様なの?」と聞き返した。
当馬に聞けば「そりゃボーダー最強だろー!」と呑気に返ってきた。そんなの周知の事実だ。
風間さんに聞けば「……剣バカだろう?」と首をかしげながら逆に聞かれた。別に事実である。訂正するつもりもない。俺の姉は弧月(刃が自分の身の丈の三分の二はある日本刀型)が大好きだ、そう言われてもしかながない。
姉を呼ぶ固定ネームは大抵『剣バカ』『いおり』『帝王』だ。帝王なんて、物騒かも知れないが本気の戦闘スイッチが入れば他の追随を許さないと言うが如くの実力だ。姉も、自分が負けることは許さないとしている。
次は、誰に聞こうか。
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番外編は前回で終わりです。今回から本編。
佐鳥の土下座返しを見れなくて少し残念だったが、あたしは菊地原、歌川たちと別れて風間と共に歩きながら悠一に連絡を入れる。
「よしよし、みんな無事入隊したか。派手に目立っただろあの三人、サイドエフェクト使わなくてもわかる」
『まぁな』
「俺の後輩だからな、今ごろきっとウワサになってるぞ」
『ああ、ウワサになっているな』
あたしは周囲を見回す。今居るのはロビーだ。聞こえてきたのは三雲の話のみだが。「……けどあの三人が注目されるのはまだまだこれからだよ」と含んだ喋り方をする悠一に苦笑いが漏れた。
しばらく歩いて会議室に入った。
**
聞いた話じゃ空閑が今日の訓練全てを一位で通過したとのこと。やはり原作通りだ。それはとても喜ばしいのだが、……最近、可笑しいと思うんだ。いや、別に原作の進み具合が可笑しいとか言う訳じゃない。あたしの体の容態だ。……視力の低下が著しい。頭痛も時々だが激しいのだ。なんでこうなっているのかはわからないが。大規模侵攻に近付くたび、それが大きい。
何か、起こるのだろうか。嫌な予感がする。「……いおり?」と下から風間が顔を覗き込んできた。やっとあたしが呆けていた事に気が付きハッとする。
「……どうした?」
『いや……また視力が落ちたらしい。困ったな……』
「……そうか」
あたしが眼鏡の下から瞼を押さえれば風間は俄感せずと言ったように視線を前に向けた。「あれが、空閑の息子か」と城戸さんが口を開く。
「そう、空閑遊真。なかなかの腕だろ」
「……風間、いおり。お前たちの目から見てやつはどうだ?」
「……まだC級なので確実なことは言えませんが、明らかに戦い慣れた動きです。戦闘用トリガーを使えば恐らくマスターレベル。8000点以上の実力はあるでしょう」
「8000……!」
忍田さんがあたしが口を開く前に喋り出した。「それなら、一般のC級と一緒にしたのはまずかったかもしれんな、はじめから3000点位にして、早めにB級にあげるべきだった。確か木虎は3600スタートだっただろう」と言う。まぁそうかもしれないが、それでは周りがうるさいだろう。空閑は、ネイバーだから。
そこから話は進んで結局あたしが口を開く前に救出か復讐の話へと切り替わった。
「でもまぁ何か目標があった方がやる気出るでしょ。救出だろうが復讐だろうが。
なあ? 蒼也、いおり」
林藤さんが風間とあたしに含んだ言い方で聞いてきた。確かに、あたしは母を殺されているし、風間も兄を殺されている。風間の兄には会った事は無いが、一度ひたすらに明るかったよと微かに微笑んだ風間から聞いたことがあった。
あたしと風間はこう答える。
「……三輪辺りはそうでしょう。……自分は別に兄の復讐をしようとは思っていません」
『……あたしも蒼也と同じです。もちろん、母も好いていました……けど、悠一か蒼也が死んでいたとなると話は全く別です、多分復讐ばかりで今の三輪より酷い状態かもしれませんね。
悠一は大切な弟ですし、蒼也は大事な幼馴染みですから』
あたしがそう言えば「……迅」と城戸さんに睨まれたが、『言ったでしょう、蒼也と同じく思ってない、と』と目を逸らさず告げた。林藤さんはにやにやしつつ風間に聞いた。
「二人とも、少し価値観が変わったか?」
「……自分は今までと何も変わりません。ボーダーの司令にしたがってネイバーを排除するのみです」
『右に同じく』
「三輪は先月の小競り合い以降、何やら悩み込んでいる様ですが」
風間がそう言うと林藤さんが「ありゃまどしたの?」と聞いてくる。風間は「嵐山に何か言われたようです」と律儀に答えるが、「へぇ……なんだろな」と興味が無くなったようだ。流石KY(空気が読めない)嵐山、母さんが死んだの話したなあんにゃろう。
そこで悠一が入ってきて、この話はおしまいとなった。
.
会議の議題は大規模侵攻の話だった。しばらく作戦を言っていれば三輪が来た。そろそろ空閑と緑川のランク戦かなとか思っていれば、忍田さんが「どうした、風間」と隣の風間に聞く。
「失礼……C級のブースで……玉狛の空閑が、緑川を圧倒しているようです」
それを聞いた瞬間そわっとした。いや、未来で見えてたけど実際口にされるとこう、なんというか……そわっとする。一人でそわそわしていれば「姉さんなにそわそわしてんの」と怪訝な目で見られた。そんな顔するなよお姉さん傷付くだろ。
**
城戸さんの指示で悠一が空閑と三雲を呼びに行ったあと、移動して別の部屋にいく。どうやらレプリカ君の力を借りるべくあちらの世界の立体図を起動させるためらしい、なるほど。他にもメンバーは増えて宇佐美登場だ。メガネ仲間。
そして悠一が三雲達を連れて現れた。なぜか陽太郎も居るが仕方ないのである。
あたしは隣に風間が居るのにも関わらずつまらなすぎて眠ってしまったらしい。風間に殴られて起きれば忍田さんが「さあ、ネイバーを迎え撃つぞ」と言い、三雲たちと共に出ていったところだった。やべぇ寝た。みんながたがたと立ち上がるのであたしも立ち上がればふらりと立ち眩みがした。あ、悠一も行っちゃった。
『……っ』
「どうしたんですか、いおりさん」
『いや、大丈夫だ』
慌てて背中を支えた三輪に礼を言い、離れながらも頭の中がぐわんぐわんと動いている感覚がする。ヤバイ、気持ち悪い。なんでこんなときに頭痛……と顔をしかめて考えていたら、ふっと足の力が抜けて顔が机に向かった。あ、勢いで眼鏡飛んだ。
『っが、いってぇ!!』
ガゴッと顔面を強打する音とあたしの大きな叫び声と眼鏡の落ちたかしゃんと言う音が同時に会議室に響く。『あー』と顔面をぶつけた態勢のまま唸る。
「っ、いおり!」
隣の風間があたしの背中に手を置いた。やば、息が上がってる。みんながばたばたと駆け寄ってくるのが分かった。あ……目が回る。世界が回転する。寝てしまう前はぴんぴんしていたのに、とてつもないぐらいの吐き気が。酒を飲んでもこんなことにはならないのに。
『……気分が、悪いっ、頭が割れる……』
「林藤さん! 医務室に連れていきます!」
「いや、俺が連れていく。三輪は迅に知らせろ」
そこで、あたしの意識はシャットアウトだ。
.
夢を、見た。
『……これは、葬式か?』
天気はどしゃ降りの雨、空中から大量に集まる喪服を着た人々を眺めるあたし。どういうことだか、あたしは宙に居るのだ。そして誰も気がつかない。おかしいな、なんて考えながらその葬式を挙げられている亡くなった方でも見に行こうかと意識を寄せればスイ、と動いた。やべぇなんだこりゃ楽しい。
そうして遺影に辿り着いたとき、あたしは驚愕した。
そこには眼鏡を掛けた、いつも通りのあたしの姿があったのだ。
『……嘘だろ、なんだこれは、』
口元を震わせる。まさか、死んだのか? あたしは。第二の人生も成人近くで死んだのか?
報われなさすぎる、と周囲を見渡せば最近の見知った顔は無い。あるのは前世の両親、血縁者、友人達……そして、あたしが守ったあの子だ。恐らく、これはWT世界じゃない。あたしのもといた世界のあたしの葬式。
「いっ、おり……! あたしの不注意で! あたしがっ! どんくさかったから……!
あたしのせいで……! いおりはもう、あたしの事を許してなんか……っ!」
やめて、そんな風に泣かないで。怒ってないよ、許してる以前に怒ってないから。泣かないで。お願い。
あたしは涙がみたくて庇った訳じゃないんだよ。
そこに、あたしの親がやって来た。あたしの両親の姿を認めた親友はびくりと肩を揺らす。
「……」
「ごめっ…ひぐっ…ごめんなさ……」
「謝らなくていいのよ、」
母は笑いながら肩を叩いた。「いおりが生きてて良かったと貴方に言ったなら、きっといおりは怒ってなんかないわ」と安心させる様に笑った母に親友は微笑みながらなきじゃくった。流石母、相変わらずサバサバしてる、安心した。
……ああ、よかった。
**
「いおり……っ!」
……あー、誰かの必死な声が聞こえる。蒼也かな、この声は。重たい瞼をゆっくりと開けば、予想通り蒼也がいた。少し焦った様な表情が彼にしては珍しい。
『……そ、うや。ここは……医務室か?』
むくりと上体を起こして辺りを見回す。きょろきょろと見回す度に薬品の匂いが鼻に着いて少し顔をしかめる。
少し感心したような風間はベッド脇に備えてある椅子に再び深く腰を掛ける。腕を組んで足も組んで、いつものスタイルだ。
『……あー、あたし。倒れたのか』
.
『……蒼也、あたしが倒れてどれくらい経った?』
「……30分ちょっとだな」
『……まじか』
悠一と三輪の風刃の絡みが見たかったが、間に合わないだろう。
**
Noside
迅悠一は僅かながら焦っていた。姉が倒れたのだ。自分が出ていったすぐあとに。
未来は見えない、見えなかった。これは別に今回だけの問題ではない。黒トリガー争奪戦や、遡ってボーダーに入るまで、視た時の未来には姉は存在しなかった。
少し気掛かりだ。本当なら風間に任さず自分が飛んでいきたい限りなのに、ここで未来の選択を変えておかなければ、後々支障が出るだろう。
そんな思いを胸に秘め、迅は屋上のドアを開く。
屋上の縁には三輪が腰を掛けている姿が見えた。三輪は迅の気配に気が付き、「……何の用だ、迅」と底冷えするような声で告げる。
彼もまた、迅の姉のいおりの元へと今すぐにでも駆け付けたい人種の一人だった。理由は簡単だ、またも風間が「俺一人でいい、お前は少し風に当たってこい」と告げられたからである。
「風間さんにお前がへこんでるって聞いてさー」
「……」
口を開かない三輪に、迅は横目で彼をあくまでも客観的に眺めながら口を開く。
「秀次、実はお前に頼みたいことがあるんだ」
三輪は白いマフラーを風にはためかせ、立っている迅を意味深げに睨み、「俺に頼みだと……?」と疑問をぶつけた。
「うん、そう」
迅は某猫型ロボットの様にどこからかぼんち揚げの袋を取り出し、中身をぼりぼり頬張る。三輪はそれをどこか他人事の様に見つめ、後に視線をはずして「断る、他を当たれ」ともはや敬語の欠片すら見付けられない言葉を投げた。
.
迅の頼みとは、今回の大規模侵攻の流れのどこかでピンチになる三雲修を助けてやってほしいとのことだった。しかし三輪は、それを断った。だが。
「城戸さんが」
三輪は自分の直属の上司の名が出てピタリと動きを止める。
「風刃を誰に使わせるかで悩んでいるらしい。
第一候補の風間さんといおり姉さんが辞退したんだと」
その言葉にぴくりと反応を見せた三輪。迅は「嵐山と木虎も外向きの仕事があるから候補から外れた」と告げる。
「今候補に上がってるのは八人。
加古さん、佐伯、生駒っち、片桐、雪丸、弓場ちゃん、鋼。そんでお前だ」
迅は頼みを聞いてくれるならお前を推薦すると言う。彼らしくもない言い回しに三輪には、姉が倒れて焦っているんだと見てとれた。
「……ふざけるな。あんたの一存で黒トリガーの持ち手が決まる訳がない。話は終わりだ」
三輪は敢えて辛辣な言葉を投げる。が、迅はそれを無視して「お前はきっとメガネ君を助けるよ」と背を向ける三輪に言い放った。
「俺のサイドエフェクトがそう言っている」
.
いおりside
来る。やって来る。
あたしは大事を取って一晩病院に泊まった。目が覚めたとき、一番に目に入れたのは風間。そして『感知した』。
風間が液体の黒トリガーと戦う所を。恐らくそいつはエネドラだ。駄目だ、風間が。出会わせない。絶対に。あたしが……風間が、来る前に潰す。潰……あれ?
……未来は視えたか? 今、未来は……本当に視えたのか? 答えは否だ。視えてない。一回も。
意識を集中して未来を視ようとするが、未来どころか、これから死ぬ人の未来に掛かるノイズすら視えない。
『……嘘だ……』
「いおり?」
『蒼也……』
今のあたしは絶望的な顔をしているだろう。風間が血相を変えて顔を覗き込んで来る。考えたが……彼は一晩着いていてくれたのだろうか。感謝しなければ。こいつはやっぱり最高の幼馴染みだ。
だがそんなことを考えてこの絶望的状況が変わる訳ではない。現実逃避をするな。現実至上主義をナメるなよ。
『……蒼也、どうしようか』
「何をだ? いおり。それになんでそんな顔……」
『……いや、悪い。後で話す。確かめたいことが有るんだ』
ゆっくりと上体を起こしつつ、「蒼也、誰でもいい。数人呼んでここにつれてきてくれ」と頼めば納得はしていないが渋々頷いてくれた。大丈夫、一番に蒼也に言うから。
**
風間が連れてきたのは太刀川、米屋、佐鳥。風間の事だ、適当に理由をつけて連れてきてあたしの用が終わればさっさと追い出すだろう。
病室に入ってきた太刀川、米屋、佐鳥はあたしの姿を見つけると各々「いおりさん」と反応を見せた。
「いやー、風間さんがいきなり俺達を連れて歩くもんだから聞いてみれば「いおりが適当に誰かと話がいたいらしい」って聞いてびっくりしましたよ」
『太刀川、あたしは別に数人呼んでここに連れて来てくれと言っただけで話したいとは言っていない』
「「「えぇ!!?」」」
三人が勢い良く風間を見れば風間はしれっと「そうでも言わないと来ないだろ?」と告げた。
.
あたしは一晩、と思っていたが案外あれから時間は経っていないらしい。時計を見れば9時。それなら高校生が今この時間に居るのも伺える。
太刀川達が帰ったあと、風間は口を開いた。
「……いきなりどうしたんだ。数人連れてこいとは」
『……未来が視えなかったんだ、お前を視たとき。ノイズは掛かって居なかったし、別に死ぬとかそう言うのではないから安心しろ。
少し不安になって他の人を視ようと思ったが、予想通り視えなかった』
つまり、あたしにはサイドエフェクトが無くなったんだ。そう告げれば風間は目を見開いて「それを司令には相談するのか?」と質問してきた。
『一応、大規模侵攻が終わったあとにな』
そうかと呟いた風間は微かに微笑んで「お前が俺に話してくれてよかった。……俺はこれから家に帰る。じゃあな」と荷物を持って行ってしまった。
『……行ったか』
さて、どうしようか。頭痛が激しい、吐き気が酷い。泣きそうだ。こんなの、普通じゃない。
そうして一度、あたしは眠りに着いた。
.
あたしが目を覚ましたのはけたたましいサイレンの音だった。ウウ〜、となり響くその音に目蓋を開けて、上体を起こす。
寝てみたがやはり未来は見えない。やっぱりSEが完全に無くなったんだと理解する。これはもう諦めた方が良いだろう。
頭痛も吐き気も今日は無い。昨日は熱でもあったのだろうか、体はすっきりしている。
このサイレンは恐らく大規模侵攻だ。あいつらの狙いはC級だ。駄目だ、C級は。
『C級にはメイントリガーは自分で選んだ一種しか渡されていない! サブトリガーなんて持っての他だ!』
そうなのだ。C級にはトリガーは一種類しか選べないのだ。例えばシューターでアステロイドを選んだとしてもひとつしか使えないから合成弾は出せないし、弧月を選べばスコーピオンやレイガストは使えない。
様はトリガーホルダーに様々なトリガー、サブトリガー、オプショントリガーなんてB級に上がってからでは無いとセット出来ないのだ。
これはC級優先か。C級や『玉狛のトリオン怪獣雨取千佳』が狙われる。あの子はボーダートップの出水とあたしの二倍はトリオンを持っている。
漫画でも、アフトクラトルのハイレインに真っ先に狙われるのはあの子だ!
慌ててすぐそこのテーブルに置いてあった赤色のトリガーホルダーを掴んで起動させる。いつもの赤い布地に黒のライン、半袖カッターシャツに黒の短パン、ニーハイとブーツ。
左の腰のホルダーにはあたし特注の赤と白と黒の日本刀型弧月、反対の腰のホルスターには銃が下がっている。
それを確認してボーダー内の病室から飛び出せば直ぐ様通信が本部から繋がれた。
聞こえてきた声は本部長の声。
<いおり!>
『なんですか本部長』
<今、爆撃用トリオン兵イルガーが基地に衝突しようとしている数は五、そのうちの三つは我々の主砲で潰すが>
『その他をやればいいんですね』
<ああ、一体は慶がやる。お前は一体をやってくれ>
『迅、了解』
丁度良かった。屋上はすぐそこだ。階段を駆け上がり屋上に繋がる扉を開く。強い風が吹き、ジャージがはためいた。空は黒い。
屋上には既に先客が居り、両腰から下がる弧月に手を掛け、たった今打たれた二発目の主砲の爆風をまともに見に受けている。
『太刀川』
「あ、いおりさん!」
『一体は頼むぞ太刀川』
「うぃーす」
そこで第二波、新たに三体が姿を見せた。そして直ぐ様一体は主砲で爆撃。指示はあたしに一任されている。さて、行こうか。
.
『行くぞ太刀川!!』
「太刀川了解!」
二人して剣を抜き、屋上から飛び出す。太刀川は旋空弧月で、あたしはあたし専用オプションの大太刀弧月で叩き斬る。あたしは真っ二つに斬った。誇る。
二つを叩き斬り、空中で膝を折りつつバランスを取って弧月を鞘に戻す。そしてすぐ、忍田本部長から通信が入った。
<慶! お前の相手は新型だ。斬れるだけ斬って来い>
「了解了解。さっさと片付けて昼飯の続きだ」
<いおり、お前は未来視のサイドエフェクトで立ち回ってくれ!>
『……それなんですが忍田さん、すいません』
<どうした!?>
『あたし……サイドエフェクト、なくなってしまいました……っ』
なんだと!? と忍田さんが驚愕の声をあげる。それもそうだ、サイドエフェクトが無くなった事例は今まででもなかった事態だ。だが忍田さんはなら、と話す。
<いおり、検査はこの第二次大規模侵攻が終わった後だ! お前は分かる範囲のサポートを……>
『忍田さん、サイドエフェクトが消えましたが、結末は無くなる寸前に確定した物が見えました』
<なんだと!?>
そうしてあたしは本部のみに通信を繋げる。
『全て話しておきます。状況は危ないです。奴等はアフトクラトル、狙いはC級、及び玉狛の雨取! 一般人、死者零、軽傷68、重傷22、ボーダー、死者は6、全て通信室オペレーター、さらわれるC級の数は32、重傷が4、うち一人は三雲。
ネイバーは人型が6、死者は一人、捕虜一名。人型ネイバーには黒トリガーが複数いる!
あとはレプリカ先生が行方不明となります!
気をつけて下さい! これからあたしは出水達に加勢します!』
<……よくわかった>
そうしてあたしは屋根に降り全速力で旧三門大学へと向かった。
.
しばらく駆けて居れば、通信を入れるのを忘れていたと思い出す。
『東さん』
<!? いおり、体はもう大丈夫なのか!?>
『心配おかけしました。今からそちらへ向かいます』
<助かった。出水達にも伝えておくから早く来てくれ。目標は今大学へ入った>
『迅姉、了解』
そうして相手の情報が送られて来て、ああやられたなと顔をしかめた。眼鏡のブリッチを押し上げてもうすぐそこの大学へ足を早めた。
そして近くの駐車場でストップする。
見えた姿は出水、米屋、緑川。後ろから声を掛ければうわぁ! と声をあげた。
「「「いおりさん!?」」」
『ああ。今からお前達に加勢する。蒼也をやったその敵をぶっ潰したい所だが、今は優先してこちらに来た』
「いおりさんが居れば百人力だ!」
「気合い入るなー」
「いおりさん!」
緑川が悠一の前でやる迅悠一の舞いをあたしのまわりでも行う。ヤバイあたしの弟子達超可愛い。
そうして大学へと移動し、出水がトマホークを作った。そしてあたしも合成弾を作成する。アステロイド+バイパー+メテオラの三つの合成弾だ。まず合成弾を作った第一人者はあたしだし、三つの合成弾を作るなんて造作もないことだ。
二人で敵、ランバネインに向かって合成弾を撃つ。出水は身を隠しながら再び合成弾を作るが、あたしは弾と共に駆け出す。
あたしの本職は、アタッカーだ。
.
爆撃を受けて煙が円満するなか、緑川が飛び込み、グラスホッパーを取り出してピンボールの様にタタンと飛び回り、陽動を図る。が、ランバネインはそれに気が付き後ろから出てきた米屋にシールドを張る。が、幻揺弧月でシールドを華麗に避け、肩を貫く。
「やっぱりいきなり首は無理か」
そこから米屋とランバネインの攻防が行われ、これも実は陽動なのだがそれも気が付き後ろに弾を飛ばす。緑川が本命だったのだが仕方がない。
出るか。
「うひゃあ」
「流石に二度目はばればれか」
「白兵が二人」
直ぐ様出水の弾が炸裂するが、シールドで防がれ「新手の火兵が一人!」と弾が飛んできた方向へ弾を撃つが出水の引いた弾道はそこではないが。
ランバネインは「数の有利を生かした挟撃にも手馴れている、なかなかに手強い相手だ」と呟き空へと飛ぶ。上から弾を爆散させる気だろうがそうはさせない。
『残念だったな、これは読んでいた』
「っ! 新手の白兵!」
『元々居たぞ!』
飛び上がったランバネインのすぐ背後に居たあたしは弧月で背中に斬り掛かるが、シールドで防がれる。
だが。
『んなもん薄ぇんだよカスが!!』
ばきんと叩き割り、ようやく背中を斬りつける。あたしの大太刀弧月をなめるんじゃない。大太刀弧月に斬れないものはこの世に無いんだよ!
そこから即座に背中を蹴って離れればランバネインは落ちない。しくった。そうしてランバネインは弾を乱射。
テレポーターで移動して建物の影に隠れた。
『こんの×××野郎!』
<<<いおりさんっ! 口悪い!!>>>
禁止用語を連発していればランバネインは緑川に狙いを定めたようだ。だが、次に爆発が起き、緑川が出てくる。ランバネインを見れば足を削ったようだ。
『よくやった緑川』
<えっへへへー!>
『……集中しろ緑川ボケえ!』
<ゴメンナサイ!!>
あたしの弟子の一人、緑川はやはりボーダーの愛玩小型犬だ。
.
「一人ずつなら問題なく倒せると言う認識、改める必要があるな……」
『んだとコラてんめぇえええええ! お前が俺様を倒せる訳ねぇだろーが!! ボーダー最強ナメんじゃねぇよ、ぶっ殺すぞ!』
<いおりさん!? 落ち着いて!>
米屋から宥められている間にランバネインは再び飛び上がった。それを見た米屋が「また飛びやがった! 落とせ弾バカ!」と叫ぶ。『おい公平!! その×××××××××××××野郎ぶち落とせ!!』と怒鳴れば「そんなこと叫ばないでくれよ……」と回線から呆れ気味の荒船の声が聞こえてきた。うるせぇ今あたしは気がたってんだよばーか!
「落として下さい、だろ。ハウンド!!」
『偉そうにしてんじゃねぇぞ公平!』
「ゴメンナサイ!!」
ハウンドに追い掛けられて逃げ回るランバネインに向かって東さんと荒船が発砲。ドドッと命中して荒船が「やっとまともに当たったぜ」と移動する。
ランバネインはそのビルに弾を送るが、アクション映画好きの荒船はそのビルから飛び降りた。
だがタイミングを遅らせてもう一発が放たれる。
それは荒船の右腕を奪った。
ランバネインはずしっと大学へと着地すると同時に出水に発弾。出水はシールドで凌ぐもちょうど割られてしまった。
そして東さんから指令が入る。
<今が攻め時だ、ガンガン押すぞ。B級各員人型を包囲しろ>
<奥寺了解!>
<ここで押すのか!? 何が変わったってんだ東さん!?>
柿崎が東さんに説明を求めると、「さっきまでの人型は、俺達全員に意識を割いてもまだ余裕を残していた。その余裕を使った正確なガードと火力を活かした大雑把な攻撃がやつのスタイル。自分の弱さを知っている割り切った戦い方だ」としゃべる。
「だが、A級の三人、いや主に……ボーダー最強のいおりがやつの警戒レベルを引き上げた。反撃の制度は上がったが余裕がなくなって隙が生まれ始めている。
数の優位が活きる場面だ。バラけてやつの意識を散らせ。まとまってると一発で持ってかれるぞ」
「了解!!」
全員が理解し、全員が配置につく。あたしが『アタッカー配置完了だ、弾で獲物を追い込め』と言えば出水が「了解っす、しっかり仕留めて下さいよ」と言われ『当然だ』と返す。
生意気言うなよ出水。
スナイパー、ガンナーがドンドン弾を撃つなか、ランバネインは柿崎に弾を撃った。そして低い高度で大学の間を通過。
狙いは来馬か。だが。奥寺、緑川が「かかった!」「いおりさんとよねやん先輩のほうか!」と反応する。
米屋は上からランバネインに槍を向ける。だが、ランバネインはぐるりと向きを変えて米屋と向き合う。
「こうして敵を呼び込むわけだな。よく理解できたよ」
そのまま米屋に向かってランバネインは弾を撃った。
.
「と、思うじゃん?」
米屋がそう呟いたとき、ぶわんと幾重にも重なるシールドが出現し、米屋はそれと共に落下していく。
まあ、
『あたしをナメた事を後悔しろ』
「!?」
そのランバネインの背後からあたしが横真っ二つにランバネインを叩き斬る。原作なら米屋があのまま突き刺すのだがイラついたからあたしが斬った。
「こっちは部隊(チーム)なんで、悪いな」
米屋はそのまま地面にすたっと着地すると同時にランバネインも煙をあげながら落ちた。ランバネインは喚装は解け、仰向けに寝転がる。
「……見事。よもやこの俺が五人足らずしか仕留められんとは……ヴィザ翁の言う通り、ミデンの進歩も目覚ましい」
「11対1だからな。ボーダー最強のいおりさん居るし、流石に勝てなきゃやばいだろ。わりーな、サシでやれなくて」
『あたしをナメたお前が悪いな』
「……そうだな、ナメたのはすまんかった。だが、謝る必要はあるまい。これは戦争だからな」
ランバネインがそういった直後、あたしと米屋の回りには黒い窓が出現し、どどどと黒い針が飛び出してきた。
だが、米屋は上に飛び上がり、あたしはそれを全て叩き折ったので二人して無傷だ。
「流石に、一人で来てるわけねーよな」
『当たり前だ』
するとランバネインの背後に大窓が開き、ミラが顔を出した。あーヤバいやっぱり超美人だわこの人。
「退却よランバネイン。あなたの仕事はここまでだわ」
「はっはっは! 不意打ちも通じんとは完敗だな!
楽しかったぞミデンの戦士たち。縁があったらまた戦おう」
『こちらから願い下げだ』
「はっはっは! 流石最強と言われるだけあってクールだな!」
そうしてゲートはキンと姿を消した。
.
『みんなよくやった。だがまだ終わってはいない。B級合同部隊は南部地区の防衛に戻れ』
「了解!」
あたしがそのまま指示を出し、一息つけば東さんが声を掛けてきた。
「いおり、お前はどうする?」
『あたしは色々とサポートに行く』
「出水たちは?」
「逃げてるC級のサポートに行こっかなーと。今フリーなの俺らだけみたいなんで」
「そうか、分かった。助かったよ、4人とも、今度なんかメシ奢らせろ」
『「「「じゃあ焼肉で」」」』
「いおりはそれにぜんざいだな」
『理解が早くて助かります』
**
Noside
「おっ。未来が動いたな。俺らが戦う相手が一人減った」
「ふむ?」
警戒区域住宅街、ここでは迅悠一と空閑遊真が居た。C級のサポートに行くべく二人は駆ける。
「宇佐美、戦況はどうなってる?」
<いおりさん、陽介、いずみん、駿君の四人がB級合同と組んで人型を撃退!>
「それだな」
宇佐美からそれを聞いた迅は「さすがいおり姉、頼りになるぜ」と笑いながらシスコンっぷりを見せる。空閑は「じゃあオサムとチカはもう大丈夫なの?」と質問を投げれば迅は「残念ながらそう簡単にはいかない」とあまり良い答えを言わなかった。
「未来ってのは良い未来から悪い未来まで順番に並んでる訳じゃない。最善の道と最悪の道が隣りあってる場合もある。揺れ動く未来はレールを転がる玉みたいなもんだ。ちょっとした風や出っ張りに弾かれて隣のレールに移る。今はみんなでその玉をふうふう吹いて、自分の望む道に玉をのせようとしてるわけだな。
そんでいま、悪い道にのせようとしてるやつが一人消えた。楽になったってのはそういうことだ」
迅が告げ終えれば「ふむ、なるほど」と頷く空閑。黒トリガーを発動させており、全体的に黒く赤いラインが入っているのを見にまとっている彼は今ではあまり見ない。
「とりあえず俺の予知だとメガネ君たちを基地まで逃がす。それが二人が助かる未来を決定するための大きなポイントになってる。
俺達三人の役目は、追っ手を食い止めてメガネ君たちを守ることだ。気合い入れて行くぞ」
「了解」
«心得た»
彼らは知らない。その予知が決定的に違っていることには、気が付かない。
.
あたしが市街地へと向かおうとしているトリオン兵を倒していれば、もうそれなりに時間が経っており、ハイレインが姿を現し、雨取がキューブになった頃だろうと伺える。
あたしは今倒したモールモッドを最後にその場から駆け出した。三雲を『助ける』為に。
**
Noside
一方こちらは雨取がキューブになった直後だった。
三雲は地面に落ちている雨取のキューブを拾い振り返って叫ぶ。
「基地に向かいます! サポートお願いします!」
力強くそう叫んだ彼に出水が「オー行け行け」とアステロイドを分割させたものを自身の周りに並べ、目の先にいるハイレインを睨んだ。
「コイツには、一発お返ししなきゃ気がすまねーぜ」
イケイケで決めた出水だが、フリーの新型、ラービットが二体、三雲へ向かう。どうやら先程ハイレインのアレクトールにやられた緑川の分らしい。
気が付いた米屋が叫んだ。
「!! フリーになったやつがそっちいくぞ!」
<フリーにしてごめーん>
気の抜けた謝罪が聞こえるなか、三雲の方にはランバネイン型のラービットとヒュース型のラービットが襲ってきていた。狙いはキューブになった雨取千佳だ。
だが三雲はすんでの所で「スラスターオン!」とレイガストのスラスターを起動させてそこから上へ飛ぶ。ランバネイン型ラービットはドンと何もない地面を破壊した。
直ぐ様ヒュース型ラービットは磁石を三雲に向かって飛ばす。シールドでガードするも、ランバネイン型ラービットの砲撃が続けて襲ってきた。
三雲はレイガストのシールドモードで防ごうとするもあまりの威力に吹き飛ばされた。その際、脇に抱えていた雨取のキューブが離れる。
それを見つけたランバネイン型ラービットは飛び付くがそれより早く三雲がスラスターを発動し、「させるかぁぁああ!!」とそのまま投げた。
そのままレイガストはランバネイン型ラービットの首に刺さり、その隙に三雲はぱしっとキューブを再び抱えて走り出す。
ここまで来ると三雲の根性はとても凄い物だと思える。
だがランバネイン型ラービットからの砲撃により態勢を崩す。そこにヒュース型ラービットの磁石を周りに撃ち込まれる。そのままランバネイン型ラービットが最後の砲撃をしようと言うときに三雲はシールドと叫んだ。
.
出てきたシールドの層甲は厚く、中心に盾と書かれた紋様、これはまさしく彼の相棒、空閑遊真のものだった。そして姿を現したのは。
«ユーマの指示でチカとオサムを護衛しに来た»
「レプリカ!」
«待たせたな、オサム»
そう、相棒空閑のお目付け役、レプリカだった。黒いボディに横線が三本、やはりレプリカだ。
レプリカがゲートと呟けば、バチバチと小さなゲートが出現、そのゲートからは黒いラービットが姿を現した。
«迅の予知も大詰めだ。出し惜しみなしでいこう»
ランバネイン型ラービットが襲い掛かって来るが、レプリカの出した黒いラービットはその攻撃を受け止め、ブーストの印を使って殴りかかった。それはランバネイン型ラービットの顔左半分に直撃し粉々に砕く。そこから反撃と言わんばかりにランバネイン型ラービットは口を開けて砲撃したが盾の印が付いたシールドで防がれてしまった。そして再び別の印を出し、砲撃。
どうやらコイツは空閑のトリガーを使えるようだ。
«立て、オサム。
キューブ化の能力をはずしてかなりコストは抑えてあるが、私の内蔵トリオンでは二体目のラービットは作れない。もし増援が来れば分が悪くなる。今のうちに離れろ»
そうして三雲はレプリカと共に再び走り出した。
そこから鳥丸、ラービットを片付けた米屋がハイレインの足止めで、鳥丸が三分しか持たないガイストを発動。だが、逆に足止めされていたらしく、鳥丸はベイルアウト。ハイレインはワープで三雲を追った。
«とりまるがベイルアウトした»
「!! 鳥丸先輩が……!」
«基地(ゴール)までおよそ120m。最後の壁だ。突っ切るぞオサム»
先を急ぐ三雲とレプリカの前にハイレインが立ち塞がった。
予想外の最悪な未来は、このあとだ。
.
三雲はそこからレプリカと共に民家を突っ切りながら走る。上からも死角になるからと考えたのだろう。
それを見たハイレインは屋上でスナイパーの相手をしているミラを呼び戻す。その場はラービットに任せるらしい。
入り口解析に向かわせた小型レプリカは降りてきたミラによって破壊。そうしてハイレインと三雲は対面するのだが。三雲とハイレインは気が付いた。誰かが増援に来たことに。
(あの人達は……!)
三雲は目をしばたかせた。
<陽介君がC級を連れてくるわ。人型ネイバーからガードしてください>
『……了解だ』
「標的を確認した。処理を開始する」
やって来たのは迅いおりと三輪秀次。そう、いおりはつい先程、三輪と合流したのだ。三輪、いおりの表情は真剣そのものだった。
**
「……ちっ、飽くまで俺を使う気か……! 迅……!」
隣で怒りを露にする後輩に苦い顔しか出来ない。いやホント弟がごめん。そう心の中で三輪に謝っていると、「三輪先輩!」と三雲が三輪に声を掛ける。
「千佳を……コイツを頼みます! キューブにされたうちの隊のC級です! 僕はここでネイバーを食い止めます! 千佳を……千佳を助けてやってください!」
それを聞いたあたしはあのシーンが見れるのかとそわっとする。すると三輪はいきなりずどっと三雲の腹を蹴り飛ばした。
「知るか。他人(ひと)にすがるな」
どどっと転がる三雲を横目にあたしは三輪を見つめた。なんだろう、超そわっとする。「なんだ……? お前はあいつの味方じゃないのか?」とハイレインが三輪に聞くなか三輪は肩をいからせる。
「黙っていろネイバー。どちらにしろ、お前は俺が殺す」
不謹慎だが叫びそうになった。
.
三輪が駆け出すと共に、三雲はレプリカに説明を受けている。あたしが三雲達の元に着けば三雲はアステロイドをハイレインに向かって撃った。
三輪が舌打ちしたが、『よくやった三雲』と褒める。落ちてきたトリオンキューブと雨取のキューブを取り換え共に走り出す。
基地の入り口付近に来れば目につくのは大きな穴だ。レプリカから«あれがワープ使いのトリガーだ。遠征挺から空間を直接繋げているようだ»と教えてもらう。でも誰も居ない。
チャンスだと気が緩んだ瞬間ワープ使いのトリガーで穴から針が出てきた。あたしは三雲の足に刺さる前にそれを斬り落とす。
「目標確認」
『調子に乗るなよ』
そしてレプリカとミラの攻防が始まった。
«開けた場所に出るな。さっきの棘で狙い撃ちされるぞ»
「まもなく目標を捕えます。問題ありません」
<よし、俺もそちらへ向かう。金の雛鳥を捕え次第船で離脱する>
「承知致しました」
そうしてワープ女は茂みから出てきた三雲、あたし、レプリカの前にワープして現れる。
「諦めなさい。悪あがきは好きじゃないの」
『あたしが居るんだから悪あがきにはならないだろ?』
あたしは大太刀弧月でミラの右腕を斬る。すぱんと飛んでいった腕を見て顔をしかめた。
«マーカーか……!»
「気付くのが遅かったようね」
«……いや、そうでもないようだ»
レプリカがそう言った瞬間、黒ラービットが降ってきた。
「ラービット!?」
「追い付いてきたのか!」
ドドドドと攻撃を続けた黒ラービットを上から見るミラは「どこでそれを手に入れたのかしら?」とラービットに針を乱射するがそれを腕で防いだ黒ラービット。
«ラービットから離れすぎるな。ワープで先回りされる»
その瞬間棘が出現。咄嗟に剣で受けようとしたはのだがあたしの剣ごとレプリカは斬られてしまった。
.
「レ……!」
「言ったはずよ? 悪あがきは好きじゃないの」
ドドッと二つに割れたレプリカとあたしの大太刀弧月の半分が落ちる。
「レプリカ!」
『このクソ女!』
途端黒ラービットがミラに殴り掛かるがワープして避ける。
そこから攻防が続き、ラービットがやられかける。そんな中レプリカがワープ女のマーカーを外した。レプリカは無事ではないが予備システムに切り換えたらしい。三雲がこのまま持っていけば良いのかと聞く。だが入り口の解析が終わっていなかったらしく、レプリカは提案を出した。
**
«やり方はオサムとイオリに任せるが、作戦を実行に移すなら三輪が戦っている今しかない»
『理解している』
「千佳を守るためだ、覚悟は決まった」
途端ハイレインの方に屋上で戦っていたラービットが降ってきて意識がそちらに向いたとき。
『今だ……!』
そうしてあたしと三雲が走り出す。あたしは周囲を警戒しながらだ。
<! 運び手が出ました>
<運び手を狙ったまま待て>
そこからハイレインが弾を飛ばすがやられかけのラービットが庇う。
«ラービットは仕留めた。ミラ。
捕まえろ»
途端三雲に向かって棘が飛ばされるがあたしが庇って代わりに受ける。あたしのトリオン体は串刺しだが三雲よりはマシだ。
そのままハイレインはアレクトールを飛ばしてくるがここからが勝負だ。
『トリガーオフ!』
三雲が先に走るなか、あたしもトリガーを解除して走る。もう一発、庇わないと。
三雲に向かって再び飛ばされるがあたしが受ける。
「いおりさん!」
『気にするな三雲! 行け!』
「チッ、ミラ。奴を……」
そう聞こえたが三輪がカバーしてくれたらしい。有難い。
だがハイレインが直接向かってくる。
だが行ける。この距離なら、確実に!
そして下から出てきた棘が三雲を襲う瞬間三雲を突き飛ばしてあたしが身代わりになる。
『……ち、ぃっ……!』
「いおりさん!?」
ああ、いたい。が、仕方ない。三雲は無事だ。
『……三、雲! はや……く、なげろ……!』
そうして三雲はレプリカを『敵の遠征挺』に向かって投げた。
そこであたしの意識は消えた。
.
三雲side
僕がレプリカを投摘したあと、レプリカが敵の遠征挺に帰還命令を下ろしたらしくアフトクラトルは去っていった。
これもレプリカといおりさんや直前に攻撃してくれたC級、空閑、三輪先輩のおかげなのだが……。
「いおりさん! いおりさん!?」
いおりさんが僕を庇って大怪我を負ってしまった。僕がいおりさんに駆け寄りそのまま名前を呼び続けていると、夏目さんと米屋先輩が来た。
「メガネ先輩! 隠してたチカ子見つけてきたっすよ!」
「ありがとう夏目さん」
「! いおりさん大怪我じゃねぇか!」
「そうなんです、どうします!?」
「血ぃやべぇな。傷口だけ縛って本部の医務室につれてこう、病院よかそっちのがはえぇ。手伝え!」
「「はい!」」
米屋先輩に言われて慌てて傷口を縛る。それから米屋先輩がいおりさんを背負って本部へ入っていった。
僕たちも千佳を解析班に回すために動き出した。
だがなぜいおりさんは僕を二度も庇ったのだろう。一度目は分かる。二度目は僕はトリオン体だから刺さっても解除すれば良かっただけのことだし、いおりさんが僕にそこまでしてくれる理由が分からない。
「……メガネ先輩?」
「っ、あ、いや。なんでもないよ」
.
風間side
基地の自隊オペレータールームに三上と居ると放送で、<緊急、緊急です! 重傷者一名! 重傷者は迅……迅いおりさんです!>とけたたましい音量で湿った声を出しながら国近が叫んだ。その瞬間三上が後ろの俺をバッと振り返り「風間さん!」と慌て気味に聞いて来た。どうしようもなく動揺しているのか、焦点が合わない。俺だって落ち着けと言いたいところだが、それは叶わなかった。
恐らく、今の俺の方が三上より動揺しているだろう。これほど動揺したのは久しぶりだ、情けない。
「風間さん! 行かないんですか!?」
「っ! すまん三上、任せる!」
「はいっ!」
三上の声に弾かれたように駆け出しながらそう告げれば力強い返事が返ってきた。やはり、三上は宇佐美同等の優秀なオペレーターだ。
風間隊隊室を飛び出して無我夢中で走った。俺にしてはこのうえなく格好が悪いが、今はそんなことを考えている余裕はない。
いおり。兄さんに次いでお前まで居なくなったら、俺は……
「……いおりっ!」
**
太刀川side
ラービットと戦っていた村上に合流した俺は村上に僅かながら舌を巻いた。村上鋼は『高校三年生』にして3、4体のラービットを相手に今までベイルアウトせず闘ってきたのだ。
全てを斬り終え、C級を数えてみるが数が合わない。数人連れ去られたらしい。さっと本部と通信を繋ぎ、報告する。
「こちら太刀川、C級の数が合わない。俺が来る前に何人か連れ去られたらしい」
俺が話すと東さんも通信に入ってきて<此方もそうだ>と告げる。そんなときだった。国近の放送が流れたのは。
<緊急、緊急です! 重傷者一名! 重傷者は迅……迅いおりさんです!>
その放送に耳を疑った。
おいおい、いおりさんだぞ? 俺がまだ一度も勝った事がない無敗を誇るいおりさんがやられるわけ無いだろ!?
だが、このうえなく慌て、鼻をすすり湿った声を出しながら叫んだ国近が嘘を言っている様には思えない。
この通信を聞いたであろう村上に視線を向けるとバチリと目が合った。生憎村上の顔は眠そうながら真っ青だ。
「……村上、」
「ここは任せてください、ここの残りのネイバーは俺が斬ります」
「頼んだぞ!」
俺は、全力で駆け出した。
いおりさん、死ぬなよ。あんたが居なかったら太刀川隊は無かったし、俺が全力で戦える数少ない相手も減る。
それに俺はまだあんたから一本も取れてない! 勝ち逃げとか、
「許さねぇからな!」
.
小南side
ネイバーを双月で斬り裂く。こんなの楽勝過ぎて溜め息が出るが今はそんな余裕は無い。
「ネイバーが来るぞ!」
「きゃああああ!」
悲鳴を挙げながら逃げる一般市民を庇いながら倒すには、敵が散りすぎててあたし一人じゃカバーしきれない。
一体のモールモッドが市民へ近付いていく。間に合わない!
そんなとき、モールモッドの目玉や周辺の層厚に二発の銃弾が飛ぶ。これは……!
「市民の皆様、お待たせいたしましたぁ! 唯一無二のツインスナイパーこの佐鳥賢が来たからには……」
そこでバムスターの光線が佐鳥の居る民家の屋根を破壊。のわー! と宙を舞い、叫びながらこんにゃろうと再び銃を二挺構えた佐鳥はどぱっと二発そのバムスターへと命中させた。性格はともかく、射撃の腕は上位に入る佐鳥、流石だ。
そして次を待たずしてモールモッドが時枝と嵐山のクロスで倒される。そして市民の一人が「あ、嵐山隊! 嵐山隊だ!」とこの場が湧く。
「准!」
「迅の指示で加勢しに来た! 一人でよく頑張ったな桐絵!」
あたしの従兄弟、嵐山准がインカムで通信してくる。佐鳥も<小南先輩見た見た〜? 俺のツインスナイプ!>と通信越しで騒ぐ。
すると。
「残念、もうほとんど終わってるのね。出遅れちゃったわ」
トリオン兵の残骸から姿を表したのは加古望さんだ。その脇には黒江双葉も共に居る。「加古さん!」とあたしが叫んだ時、本部から放送が入った。
<緊急、緊急! 重傷者一名! 重傷者は迅……迅いおりさんです!>
その放送を聞き、准が顔を真っ青にさせた。僅かながら初めての好意を抱いた相手が重傷と来れば流石のKY、准だってこうなるだろう。
黒江ちゃんの顔も絶望的だ。ある意味師匠に当たり、尊敬している人が生と死の狭間をさ迷っているのだ、無理もない。
かく言うあたしも、泣きそうだ。
「……桐絵ちゃん、嵐山君。事態は深刻よ、ここは私達二人に任せていってあげて。遅れた分はしっかり働かないと、私達はいおりさんに会わせる顔がないわ」
「感謝します加古さん! 時枝、任せたぞ!」
「はい」
「加古さんありがとう!」
そうしてあたしと准は本部へと向かう。
「……加古さん、良いんですか? 行かなくて」
「そりゃあ私も行きたいわ。でも、ここで行っちゃうと、ホントにいおりさんに会わせる顔がないの。
行くわよ双葉」
「はい!」
.
ピッ、ピッ、と機械的な音が規則的に木霊する、ここは集中医療室待機所だ。ここでは数人、主にトップ隊員が居る。他にも大勢のもボーダー隊員がわんさと押し寄せてきたのだが、外で待機していた。現在ボーダーアタッカー、総合の上位、嵐山が立ち入っている。
そんな中、風間は椅子に座って膝に腕を置きながら深刻な顔をしていた。今にも何もかもを投げ出しそうな、泣きそうなその風間の顔を見るのは皆はじめてで、誰も声を掛けず、そっとしている。
「……いおりさん、死なないわよね」
アタッカーランクNo.3、小南は治療室と待機所を分ける硝子に手を着いた。それに「……わからない。いおりさんだけは、迅の予知にも映らないらしい」と太刀川が肩を叩いた。信じていようと言っている様なその目に小南はうつ向きながらそこを離れる。
「……そう言えば、コイツの弟の迅はどこにいった?」
シューターNo.1、総合No.2(No.3)、二宮隊隊長の二宮匡貴は不機嫌そうに今この場に居ない迅悠一の居場所を聞けば、アタッカーランクNo.2(No.3)総合No.3、風間がやっと顔をあげた。
「……迅なら俺が来る前に、既にここに居た。俺が来た途端泣きそうに笑って出ていった」
恐らく泣きに行ったんだろうな。上げた顔を真っ直ぐベッドで寝ている今だ意識の覚醒しないいおりへ向けて、そう言い捨てる。そうですかと納得したように呟いた二宮は「なら、三雲は?」と聞く。
迅の予知では本来怪我を負うのは三雲だったはず。忍田に言われたいおりの予知でもそうだった。
なぜ、いおりが怪我を負ったのか。それは三雲を庇ったからだ。
「本来これは元々三雲のせいの筈」
「二宮」
「なのになぜ……」
「二宮!」
二宮の言葉に珍しく風間が怒鳴った。怒鳴った風間に皆一様に目を見開き彼を見つめる。
「……いおりが庇ったんだ。いおりが、『したかったこと』だ、『やらなければならないこと』だったんだ。
今、「いおりが三雲のせいで怪我を負った」と言ってしまえばそれはいおりの行動を否定することになる。
……いおりは弟の迅と同じ、意味のないことはしない女だ」
風間はそう言って再び顔をうつ向けさせた。
嵐山は思う。風間は誰よりも、弟の迅よりもいおりを理解し、愛しているのだと。彼は多少過保護な所が有るが、彼女のやらなければならない事、やりたい事を止めたことは一度もなかった。それも、先程言った言葉の通り。
敵わないなぁ。
嵐山はそう自嘲を含んだ笑みを浮かべ、早く起きてほしいと言う意味で一筋涙を流した。
.
いおりside
ピ、ピ、と機械的音が規則的に鼓膜を震わせてやって来る。ゆっくりと目を開けば辺りは暗く、上体を起こして周囲を見回す、誰も居ない。
『……ここは、』
ボーダー本部じゃない。そう言おうとしたのだが足に激痛が走り、うずくまった。腹にも違和感は有るが足の方が痛い。手元にナースコールのボタンが見えるから、恐らくここは三門市立病院だろう。あたしはあまりの痛さにナースコールを力任せに握ってボタンを押す。
しばらくして、ばたばたと慌ただしい音が聞こえてきた。がらりと病室が開き見えたのは驚いた顔のナース、看護師だ。
看護師はあたしを見た途端「少しお待ちください!」と血相を変えて駆け出した。
**
どうやらあたしは二本の棘が躯に刺さったらしい。三雲を庇ったときに態勢が変わり、一本は避けたんだと言う。
腹部に一本、足に一本。どうりで痛いわけだ。病室で日にちを見ればあれから二週間。これ以上寝ていれば死ぬと言われていたらしい。良かった。
棚には見舞いの品が置いてあり、色とりどりだ。果物の詰め合わせ、カップのぜんざい。ほとんどが果物や甘味やお菓子。みんな気を使ってくれているらしい。
月刊連載している編集社にも事情を話して今月は休載したらしい。有難い。
腹部の怪我はほとんど直っているらしい、足はまだ掛かるようだが。まぁ松葉杖さえあれば歩けるので明日はもう退院だ。
ボーダーは上層部しか知らされないらしい。本部に行ったときのみんなの顔を見るのが楽しみだ。
.
翌日、松葉杖をつきながらボーダー本部に行けば最近見ていなかった顔を見掛けた。なにやら深刻に考え込んでぶつぶつ呟いている。
現在あたしはフードを目深に被っているので大体の人は気が付かないだろう。そいつの後ろから肩を叩く。
『……おい』
「今ちょっと黙ってろ! ……あの人は苦手だかんな、見舞いに行くか考えてんだ!」
『……そうか、その必要は今無くなったぞ』
ソイツの持っていた和菓子の詰め合えをひとつ手に取り口に入れる。うん、うまい。
「あっ、おいてめ……! あ……」
『久しぶりだな、剣人』
「久しぶりっすいおりさん!!」
『剣人』
「はい!」
『後でブースに来い。相手をしてやる』
「ういっす」
水美剣人、現在高校二年生である。ボーダー提携ではないが、私立三門高校に通っているランクNo.1太刀川隊に所属する優秀な人材である。唯我など赤子の手を捻るに等しい。唯我弱い。
以前私立三門高校に三輪、宇佐美、国近等も通い始めたと聞いた。
水美は一人県外へとスカウトの為、大規模侵攻事は居なかったと見たが、恐らくこの事態を聞いて飛んで帰ってきたのだろう。これからのガロプラ、アニオリ沿いがあればそこから活躍してくれるだろう。アタッカーランクNo.5(No.6)の実力を持つのだ、絶対活躍する。活躍する未来が今視えた……あれ? 未来視える? 嘘だろサイドエフェクト帰ってきたフォオオオオ!!!
しゅんとする水美にあ、いけめんとか考えながら歳を考えろと頭を微かに横に振り、「これから蒼也に会ってくる。模擬戦は2対1だな」とにやりと笑いながらその場を後にした。
.
ひゃー、出していただけてる!本当にありがと!!
88:アポロ◆A.:2016/04/20(水) 21:23 ID:eG2
松葉杖をつき、足を引きずりながらながらひょこひょこ移動する。
やって来た風間隊隊室。その扉の前に佇むあたしは恐らくフードを被っているから不審者だ。
こんこんと拳でノックすればしばらくしてうぃんと扉が開く。目の前に居たのは三上で「……どちら様でしょうか?」と首をかしげる。
そんな三上に可愛いなと思いつつ頭をわしゃわしゃと撫でれば「!? いきなりなんですかあなた!?」と目を見開いた。
そしてあたしの鼓動の音でも聞いたのだろう菊地原が目を見開き「……え」と声をあげる。
それを不思議に思ったミーティング中だったであろう風間、歌川、三上が菊地原を見つめる。
「……もしかしなくても、いおりさんですよね」
その言葉に勢い良く振り向いてあたしを見つめる風間に頬を微かに緩める。常にポーカーフェイスを保っていても、こればっかりは少しぐらい緩む。
『……正解だ。よく分かったな、菊地原』
ぱさりとフードを外して締め切っているチャックを一気に下へと下ろし解放されたあたしの大きな胸が揺れる。
無表情でぶいとピースすると風間が立ち上がった。
「いおり」
『……』
「おまえは……」
『はい』
「……馬鹿か? 馬鹿なのか!? 考える頭もないのかお前は!? お前の頭は勉強や指揮以外に使えないのか!? お前が三雲を一発かばったあと、三雲はトリオン体だったと聞く! トリオン体なら庇う必要など無かっただろうがなにもしなければ良かったものを! ふざけるな! お前が万が一死んでしまえばボーダーは回らなくなるんだぞ!? 隊員達の士気も無くなる! 迅など、ここ二週間姿は見ていない! 太刀川でさえランク戦をしなくなった!
みんなどれ程心配していたと思っているんだ! 少しそこになおれ!」
『ういっす』
たらりと冷や汗を一粒流しながらソファに座る。なおれ! と言われたときはどうにかして風間より低い位置につかなければならない。今回風間は立ったまま説教の様なのでソファに座ったと言うわけだ。風間顔怖い。
そのあと、延々と誰がどれ程心配したかと訊かされあたしはこんなに人から心配してもらっていたんだと嬉しくなり少し微笑めばまた激しく叱られた。怖かった。
.
剣人side
いおりさんと遭遇してから三時間、岩崎や氷川、出水、米屋とラウンジに居たら、ボーダー支給のスマホのバイブレーションが私服の胸ポケットを揺らす。
今日は日曜日と完全休日なので学生服ではなく私服なのだ。半袖カッターシャツの胸ポケットからスマホを取り出せばディスプレイには「迅 いおり」と写し出されている。
やっとか、なんて思いながら「わりー、俺ランク戦だわ」と隣の米屋に声を掛けて立ち上がる。
「剣人、ランク戦って誰とだ?」
出水の質問に「いおりさんと風間さんペア」と苦笑いしながら返す。事実、俺は普段のいおりさんは嫌いじゃない。身長は高いし声は低いし迅さんとはあまり似ていると言いがたいがイケメンだし胸はデカいし、二年前にランク戦に参加するのをやめたにも関わらずずっとアタッカーランクはNo.1に鎮座している。いや、ちょくちょく参加してるけど。現在やめているため、現在参加している人達での順位の後ろにかっこで表されている順位はやめた人も総合の順位が示して有るものなので理解してほしい。
恐らくボーダー、弧月で20000ポイント越えは彼女だけだ。と思ったのに現在30000ポイントを越している。何この超人。あと忍田さんを含めボーダーじゃ無敗無双だ。俺まだ一本も取れてない。
天帝の名は伊達じゃないってこった。
それに指揮能力も高いし、IQ200らしいし勉強は全国トップだと風間さんは言っていた。いおりさん自身誰かに負けることを妥協しないからもう非の付け所がない。
そんな完璧超人ないおりさんの事を尊敬しているのは確かだ。二回目だが普段も嫌いじゃない。
苦手なのは、ランク戦で風間さんとタッグを組んだときだ。えげつない。あれはえげつない。
いおりさんが正面、カメレオンの風間さんが背後。いおりさんカメレオン使ってないくせにカメレオン使ってる人の位置が分かっちゃうからとんでもない連携を見せる。トラウマレベルにえげつない。
そういう面じゃ苦手かも。と身震いするまで間0.5秒。
出水、米屋は「ええええ!?」と叫んだ。
「いおりさん退院したの!?」
「マジで!? 俺達知らされてねぇ!」
知らされて無いと言う米屋に「いおりさん上層部にしか連絡入れてないんだな」と感付く。どうせ後で放送で退院しただの言うだろう。
そんななか、氷川と岩崎が揃えて口を開いた。
.
ひゃー!オリキャラまで出していただいている!感謝感激です!!
91:アポロ◆A.:2016/04/20(水) 22:10 ID:eG2 剣人side
「ねぇケン、公クン、米屋クン。いおりさんって誰なの?」
「タイインってなんだ?」
氷川の問い掛けに出水が「ボーダー最強の女の人だな」と米屋に同意を求めれば「ここにいる誰もいおりさんから一本も取ったことねぇしな」と頷く。岩崎は退院ぐらい辞書を引きなさい。
俺は飲み掛けのコーラを飲み干し氷をがりっと噛みながら「俺、その人と今からランク戦なんだ」と溜め息をつく。
「剣人でも勝てねぇのか? その、いおりさんってのに」
「あー、そうだな。あの人忍田さんよりつえーし、ボーダーじゃ無敗無双。旧ボーダーから今までの戦績見たけど負けはねぇし。
なにせ太刀川さんでも一本も取れねー」
「何それ強すぎじゃねぇ?」
「それに未来視のサイドエフェクトだぜ? 姉弟揃っておんなじサイドエフェクト」
米屋がやれやれ、と首を振れば岩崎が「いおりさん迅さんのお姉さんなのかよ!」と目を見開いた。こくんと頷く出水に氷川が「美人?」と聞く。
そんな氷川の問いに俺、米屋、出水は揃えてこう言った。
「「「イケメン」」」
その言葉に「……え?」と岩崎までもが目を丸くする。
するとそこにタイミングを見計らっていたかのように颯爽と現れたいおりさん、隣には風間さんもいる。相変わらず身長差が激しい凸凹コンビ。
『剣人』と呼ぶ声は女性と言うにはあまりに低く、男性のようだ。だが胸でかい。氷川はその胸を見ても「イケメン……!?」と目を見開く。ああそうか。岩崎と氷川はお互い始めてみるんだっけ。いおりさんは不思議そうに氷川と岩崎を見つめ、視線を寄越してきた。説明しろ、と眼鏡の奥の鋭い瞳が訴える。
「いおりさん、コイツら二人は私立三門高校の同級生っす! 右は氷川、左は岩崎」
『……そうか』
「氷川、岩崎。この人がいおりさんだ!」
「は、はじめまして」
「はじめましていおりさん!」
よろしく、言葉少なく返してくるいおりさんはやはりいつも通りクールである。と言うか21歳組って無表情が多い気がする。気のせい?
『剣人、行くぞ』
「えぇ、マジでやるんですか?」
『当たり前だ』
「ぐえっ」
いおりさんが俺の襟を松葉杖を持ってないの手で掴んで引きずりながら歩き出す。いおりさん松葉杖つきながら男引きずるって腕力やべえ。
あ、いおりさん待って待って。 息できない、死ぬ!
傍らで哀れむような視線を向けてくる風間さんに助けを求めれば「離してやれ」と助け船を出してくれた。風間さんやっぱり出来る男! ふっと力が緩み息が出来るようになった。
あー! 空気うめぇ! 酸素うめぇ、もう二酸化炭素ですらうめぇ! アルゴンもうめぇ! アルゴンってなんだ? アルゴンが何か知らねぇけど空気超うめぇ! 自然の空気最高!
俺が空気のうまさに感動していると、いおりさんが口を開いた。
『……担いで連れていけと言うのか蒼也』
「なぜそうなった」
「ほんとですよ! 普通に歩きますって! 逃げませんから!」
とりあえず離してもらって歩いてブースへ入った。後ろから出水を筆頭に先程のメンバーがついてきている。まあ、いいかな。
.
確かに無表情多いかも!けどその分、諏訪さんが表情豊か!!
93:アポロ◆A.:2016/04/20(水) 23:33 ID:eG2 happy>>それなwwww
**
剣人side
あれからブースに放り込まれて模擬戦開始。いきなり飛ばされたそのステージは市街地A。粗方高い建物が多く、また視界を遮り、遮られやすい位置だった。
どっちもどっちか。
そう呟いてアステロイドとアステロイドを練り合わせる。ギムレットを作り、それを俺の周囲に散らして弧月に手を添えながら移動する。
するといきなりわりと大きめのビルが縦一線に真っ二つに斬られて倒壊する。
いおりさんか!
と斬られて視界が開けた先を見るがそこには誰もいない。その代わり、このビルを斬るときに巻き込まれたのであろうここから100m間の建造物は粉々になっていた。つまり、ここから一番奥に行けばそこにいおりさん専用オプション、大太刀弧月を構えた本人が居るのだろう。
そう思い駆け出した。だが。
「釣られたな」
真横から風間さんが飛び出してきて足から飛び出たモールクローですぱんと蹴りを入れられるが間一髪反射神経を活かしてシールドを起動。
風間さんの蹴りの威力はそこそこだったのだが、モールクローと思われていたスコーピオンは体内で枝分かれしていたらしく、掌からスコーピオンが顔を出す。
そのまま掌底(しょうてい)でシールドを思いきり押した。
ばきんとスコーピオンのお陰でヒビが入ったシールドはそのままだがそこからシールドごと俺の身体は後ろへ吹き飛ばされた。
ただでさえいおりさんだけでも強いと言うのに風間さんなど持っての他だ、と顔をしかめる。
そのまま風間さんはばっと俺に向かって駆け出してきた。
だが。
「釣られたのは、あんただ風間さん!」
「っ!」
密かに仕掛けておいた足首程の高さのスパイダー。色は保護色にしていたから気付かれなかったようだ。
思惑通り足を引っ掻けた風間さん。俺初めて風間さんが転けるとこ見るかもと期待していれば風間さんは前のめりになり地面に片手をついて回転、態勢を立て直した。
再びスコーピオンを構える風間さんに冷や汗が垂れる。後ろはコンクリートの壁。弧月で叩き斬れなくもないがそんなことをすれば首が飛ぶ。
すると風間さんはばっと上へジャンプした。その行動を訝しげに見つめていれば理解する。
後ろから、いおりさんの大太刀弧月が来る!
恐らく風間さんは上に飛んだので横一線だ。俺はグラスホッパーで飛び上がりビルの壁に弧月をつき立てる。その瞬間ビルの下層が斬られ、轟音を轟かせながら俺を支えているビルは崩れた。
前に向いていた視線を下に向ければ風間さんが今スコーピオンをふりかぶっている所だった。
俺は咄嗟に身を捩らせて下から飛んでくるスコーピオンを交わす。
まだこれはいい方だ。いおりさんがこの場に来る方が不味い。いおりさんと風間さんの連携はほぼボーダー1といっていい。二人が揃えば前も言ったがえげつない。
だが、それが起こらないと言う可能性は無い。いや、9割り方いおりさんはここに来る。
いおりさんのメイントリガーは俺の記憶が正しければ弧月、テレポーター、大太刀のみ。サブはシールドとバッグワームの合計5つ。
いおりさんは確かグラスホッパー、カメレオンを使っていなかったはずだ。それに掛けて次、仕掛けよう。
そう思ったときだった。
.
いきなり俺の右腕が握っていた弧月ごと吹っ飛んだ。慌てて横を見れば相変わらずの無表情、ポーカーフェイスを保ったまま日本刀型弧月、大太刀をもう既に再び構え直しているいおりさんの姿が目に入った。
嘘だろ今どっから出てきたこの人!
壁を蹴っていおりさんから距離を取る。地面に着地し、態勢を建て直した。が、いおりさんは微かに口端をあげて笑う。なんだろう?
『……掛かったな』
聞き取れるか否か程の小さな声量で呟いたいおりさんはそこから姿を徐々に消し、透明と化した。
嘘だろカメレオン!?
俺が内心驚くが、別にそこまでのものでもない。俺が他県にスカウト遠征に行った頃からずいぶんと時間が経っている。プラスやマイナスをしていても可笑しくはない。
が、今の俺にそんなことを考える余裕等なかった。
「くっ、うお!」
正面にいおりさん、背後に風間さん。これはもう二人の連携が始まった。カメレオンをスコーピオン起動時に起動、解除しながら細やかかつ繊細にトリガーを切り換える背後の風間さんと片手で凄まじい剣速を弾き出しながら攻撃が止まないいおりさん。時々アイコンタクトをしていたりするから、いおりさんは未来視で風間さんの動きを読んでいるのだろう。
俺も例外じゃない。
いおりさんのサイドエフェクトは未来視だが、迅さんのものとはまた違う。
迅さんはいくつもの未来が枝分かれしてそれを自身で行動を起こしながら自力で良い未来へと導き確定させるものだが、いおりさんの未来視は既に確定した未来しか見えないのだ。
確定した未来を徐々に移動させるのがいおりさんの未来視。
言えば迅さんはいくつもの未来の選択肢を選択して変えていくもの、いおりさんは確定している未来を徐々に動かすものだ。
俺も今、いおりさんによっていおりさんと風間さん二人の都合の良い展開へと動かされている。
こういうところも苦手だ、俺は。
がきんがきんと前後の剣を受けたり捌いたりシールド張ったりと凌いでいるがだんだんといおりさんの剣速の速さが増していく。
駄目だ、追い付けない___!
次の瞬間俺は首を吹っ飛ばされてベイルアウトしてしまった。
もうこのコンビとはやりたくない。
.
以前の話は氷川と表記しましたが月原さんにします。
いおりside
『……剣人が思いの外強くなっていて驚いた』
一足先にブースの外に出てソファに腰掛ける水美に無表情で称賛を送る。水美は嫌味ですかと不機嫌そうに微かに頬を膨らませる。
どうやら野次馬が集まっていたらしく、すげぇ! と観客が湧く。
水美のあとについて観戦していた米屋、出水は「相変わらずの連携っすね」等の言葉を被せる。岩崎、月原は「剣人がこうもあっさり」と目を見開いていたが。
あたしは煩いところはあまり好まない。人気(ひとけ)の多いところにはあまり寄らないようにしている。だって酔うし、人酔いするし。
『腕が鈍ったか。……蒼也』
「分かった」
言葉少なくアイコンタクトを送れば風間は理解したようにコクリと頷いて再びブースの奥へと姿を消す。それに続いてあたしも隣のブースに入ろうとすれば剣人が呼び止め、振り向く。
「いおりさん! またランク戦よろしくお願いします!」
『……構わないが、暑苦しいのは御免だ』
そう告げて再びブースの扉を開く。後方から寡黙だななどと言われるが、本音を見ればただのハイテンションが残るだけだ。前世と合わせれば、現在の年齢は41なのだから。まぁ、気にしない気にしない。
ブースで風間に通話を入れる。
『……蒼也、気候や場所はどこでも構わん。あたしの不利な立地にしてくれ』
「お前に対して不利な立地など無いだろう、剣バカ」
『……心外だな』
二戦続けの模擬戦が始まった。
.
転送された場所、そこは雪の河川敷だった。雪で足元が覆われ、これは動きにくいと顔をしかめる。通信が入ってきて、<どんな感じだ?>と風間に聞かれ、『……一番やりにくいかもしれない。動きにくい』と不満げに返す。通信の奥で風間が少し笑った気がした。
『……蒼也は、どこだ?』
パッとレーダーを写し出せば案外遠くない場所に居た。風間は迂回しつつ、確実にあたしのもとへと近付いてくる。今日こそは勝つ、だのと思っているだろうが、残念。
今日の勝者もあたしだ。あたしは全ての勝負に勝利し続ける。それが弟を、みんなを守る力にもなるし、あたしの存在意義だ。
レーダーの位置を見極めて。
『……大太刀!』
日本刀型弧月を握り、そう叫ぶ。叫んだ途端刀身は大きく長くなり、大剣へと変化。これはリーチも長くなり、尚且つ旋空弧月の能力も取り入れられているあたしの作ったあたしだけのオプショントリガーだ。以前開発室を借りて作った。どやぁ。
そんなことを表に出さないように無表情で横に大太刀弧月を振る。すぱんと豆腐の様に横に斬れた住宅街の建物は轟音を轟かせながら崩れ落ちる。奥には「きたか」と言わんばかりの顔をした風間。
『……大太刀オフ』
大太刀は一人に対する小回り戦闘には向いていない。太いし長いしで動くのが遅くなるのだ。あたしが大体大太刀を使うタイミングは大勢の敵を面倒臭がって一気に倒すときか、視界を広げるために建物を壊すかのどれか。強力なトリガーほど、扱いは不便だ。
.
なんだか大太刀を引っ込めた途端小細工をする気もなくなって純粋に剣の腕の勝負だ。駆け出して来る風間に身構えつつ迎え撃ってやる。伸びてきたスコーピオンを叩き折り、そこから下から上に弧月を振り上げれば反応が出来なかったのか、左肩を切り裂く。吹き飛ぶまでは行かなかったが多大な量のトリオンが粒子として宙に消えていく。風間は顔を盛大にしかめるが右腕からモールクローを飛ばしてきた。
『読めてんだよ!』
「っ!」
目にも止まらぬ速さで吹っ飛んできたモールクローをシールドでガード。不意をついて弧月を振るうがスコーピオンでガードされ、そこから二人での鋭い剣技の交じり合いだ。というか戦闘に必死になりすぎて言葉遣いが前世のものになってしまっている、直さねば。後輩に示しを付けるために。
ガキンガキンと剣がこすれる音が響き無表情で戦闘の場面をテンポを変えていく。さあ、最終局面だ。
『終わりだ』
「っ! くそっ」
首を吹き飛ばし、風間がベイルアウト。際に見た風間の顔には悔しそうな笑顔だった気がする。
.
ブースから出ればむすりとした表情の風間が腕を組んで壁に寄りかかりつつ待っていた。
風間は身長もあるが、顔も童顔なのでもうそれこそここまで来たら中学生だ。
風間は「足」と顎をクッとあたしの左足へとやる。『大丈夫だ』と伏し目がちに告げてやる。風間はそうかと頷く。
するとどう言う事やら、出水等の先程のメンバーが飛んできた。
「いおりさん俺ともランク戦!」
『……黙れ米屋。今日はもう無理だ』
「そーだぜ陽介、いおりさんホントは怪我人なんだかんな!」
『……騒ぐな剣人』
「いおりさん俺に剣教えてください!」
『……今のあたしを見てから言え岩崎』
わちゃわちゃとやって来る人々に冷や汗を垂らしつつもそれぞれに対応する。子供は好きじゃないんだよなぁ。水美、お前一番常識有るんだから月原と共にあたしを助けろよ。
だが。
「剣バカ、行くぞ」
『……おい。剣バカ言うな』
「日本刀のことしか考えてないやつがよく言う」
風間に多少強引に腕を引っ張られ、それに着いていくように松葉杖と共に足を動かす。日本刀のことしか考えてないとか心外だな、少しは別のことも考えてるよちゃんと! ……多分! うん多分!
**
取り残された水美達は出水、米屋以外唖然としていた。まさか風間が引っ張るようにして強引にいおりを連れていってしまったのだ。岩崎や月原としてはもう少し教えを__教えてもらってないけど__乞いたかったのだが。
水美も風間があのように急(せ)いでいるのは初めて見た。多少強引なところも疑問だ、普段、水美のイメージの風間はそんなことしない。
すると米屋と出水はそんな三人を見て笑い出した。
「ぶっぶはっうははははは!」
「ひっ、ひぃ……おま、ぇらサイッコ……」
辛うじて喋る息はある出水。だが目尻に涙を浮かべ、ぜっぜ、と窒息しそうなほど笑っていた。米屋なんか論外だ。意外と笑いの沸点が低い米屋は床に伏して肩をぴくぴくと動かすだけだ。せめて息はしろ。
「な、なんだよ出水!」
岩崎は笑われたことに微かに腹をたてながら、出水を指差しつつ怒鳴る。出水は「かっ、は……悪、い、ひひっ」と腹を抱える。
やっと落ち着いた二人は口を開いた。
「おまえらさー、見て気付かねぇ?」
米屋が涙を拭いながらそういう。その言葉に月原は気が付いたが水美と岩崎はますますハテナマークを頭上に浮かべた。心なしか月原の目が輝いているのは放っておこう。
.
なんだなんだと揃えて首をかしげる水美と岩崎、目を輝かせる月原。その三人に、主に水美と岩崎に分からせるように出水は告げた。
「風間さんは『いおりさん大好き』なんだ。いやもう本人なんで気が付かないの、ってぐらい」
「それでも気が付かないいおりさん」
米屋は笑いだし出水は何かを思い出して顔を青ざめた。だが水美は首をかしげる。
「でもいおりさんって迅さんのお姉さんなんだろ? 迅さんどうなの? そこ」
水美の言うことももっともである。みんなが気が付くほどにアピールしているならば、迅弟本人も気がついているはず。いや迅弟も姉のように鈍感ではないのでちゃんと気が付いている。
水美の質問に米屋は答えた。
「あー……迅さんもちゃんと気が付いてる。でもなぁ……迅さん重度のシスコンだからなぁ、任務外じゃ火花散ってんだ」
米屋の言葉に出水以外がええと驚きの声をあげた。あの迅さんが、と岩崎が目を遠くした。すると。
「どーも、俺の預かり知らぬ所でシスコンと言われている実力派エリート迅悠一でーす」
米屋の後ろから肩に腕を置きながら噂の本人、迅悠一が登場した。噂をすればなんとやらである。
「いやー、事実シスコンだから良いんだけどね。そこに風間さんが出てくるのは気に入らないな〜」
迅はそう言いながら米屋と出水の肩に手をおいた。笑顔の迅の肩を掴む力は強く、めきっと指が食い込む。「いでででで」と二人は肩を掴む迅の手を叩いた。痛そう。
.
いおりside
風間に聞いた話だが、論功行賞があったらしい。ああ、確か庇った三雲は一級戦功だったはず。
「まず特級戦功だな。三輪、太刀川、天羽、空閑」
『遊真、黒トリガー使ったんだろ?』
「戦いに貢献したと言うことで流された」
『そうか』
次は? と促せば特級はもう一人いる。と返される。あの四人以外にもう一人? 誰だろうか。風間は「いおり、お前だ」と手に持っている戦功のプリントから顔をあげて言う。
『……あたしがか?』
「ああ。
A級フリー、本部所属、迅 いおり。
基地を襲う爆撃型トリオン兵撃退、その後対大学射撃人型ネイバーA,B合同戦で主力としても戦い、敵側の主力を大幅に削った。ネイバーの遠征艇を攻撃、ネイバーを撤退させた。ラービット撃破数0」
『最後は大袈裟だな。ネイバーの遠征艇を攻撃、撤退させたのは三雲だろ』
「だがサポートしたのはお前だ」
『なるほどな』
どうやら一週間ほど前に三雲の会見は終わったようだ。これから忙しくなるであろう。大変だ。
**
実を言うと今日は2月1日、ボーダーB級ランク戦、開始日だ。
今回、あたしは傍観者になるだろう。来るべき時のために動かないといけない。
治療は進めていこう。
「そう言えば、三雲も怪我を負っていたな」
『!? なんだと? なぜ……』
「骨折だそうだ。訳は知らん」
三雲が怪我を負っていたのに驚きだ。ランク戦に参加すると思っていたが、やはり解説席に居るらしい。
『気になるなら見に行くか?』
「……なぜだ?」
『少し、観に行きたそうな顔をしていた』
「本当に観に行きたいのはお前だろ」
『本音を言えばな。でも上に呼ばれているんだ』
ログを見るよ。そう言って上へ向かうべく風間とは一旦別れた。
.
上に呼ばれた理由は退院おめでとうと言うことに関してだった。それと同時になぜ二回も三雲を庇ったと言うことを聞かれた。実を言うと庇った事には理由があり、それをつらつらとあたしは述べた。
二回庇ったのは保険だ。一回目をあたしが庇い、二回目が三雲に当たっていたならば、もし三回目が来たとして対処できる人間が居なくなる。これは非常に駄目だ。トリオン体を両方解けばそこを狙われ二人とも死と言うのだって有り得る。被害は少ない方が良い。
そう告げれば皆それもそうだと感嘆し、賛同してくれた。そのあと、忍田さんがサイドエフェクト検査を用いてきたのだが、とっくに回復していたのでやんわりと断りを入れた。上からの命令はとりあえずボーダーに居るときは常にトリオン体で居ろとのこと。まあ骨折したままじゃ動きづらいしね。
ああ、城戸さんに言っとかないと。
『……城戸さん』
「なんだ、迅」
『記者会見、見ました』
「ほう。何か言いたいことが在るのか?」
『……別に、ああいうやり方で根付さんが会見開くのは予知が無くても見えてましたし構いません。
……ですが、今後三雲を使ってその様なことをすれば、あたしはボーダーをやめます』
ざわりと会議室がざわめく。次々と視線があたしに突き刺さっていた。その視線はなぜお前が三雲をそこまで庇うのかと言っている。それに、今あたしにボーダーをやめられたら困るのはそちらのはずだ。これからのガロプラ戦に向けてあたしの、あたしたちの予知は必要不可欠。
「……分かった、覚えておこう。
だが、なぜお前がそこまで三雲を気にかける?」
『……なぜって、それは』
__この先三雲の存在が必要不可欠だからに決まってるじゃないですか。
そう言えば予知かと言われ首を縦に振る。理解したとばかりに頷いた城戸さんを見てあたしは会議室を後にした。
.
観覧席にて、B級ランク戦を見るべく足を運んだ。
「ボーダーの皆さんこんばんは! 海老名隊オペレーター武富桜子です!
B級新シーズン開幕! 初日、夜の部を実況していきます! 本日の解説者は……。
「俺のツインスナイプ見た?」でおなじみ! 嵐山隊の佐鳥先輩!」
「どーもどーも」
「そしてもう一方……本日がB級デビュー戦! 玉狛第二の三雲隊長です!」
「ど、どうも……」
「三雲隊長はお怪我で今日はお休みとのことなので、解説席にお越しいただきました!」
それを聞いてギャラリーが記者会見でとか騒ぎ出す。うるさいなぁとか思いながら腕を組んで背もたれに体重を預ける。後に隊員の転送がスタート。佐鳥のランク戦の説明が入ったあと転送完了。
武富が三雲に人数は大丈夫かと聞けば、三雲は恐らく大丈夫と言う。その瞬間空閑がモニター越しに吉里隊を殲滅。原作をこの目で見れるとは感無量です。そのあとすぐに雨取の砲撃。やはり感無量です。
あっという間に終わった夜の部初戦は玉狛第二の圧倒だった。すげぇ。
.
ランク戦夜の部も終わり、次の相手は荒船隊、諏訪隊に決定した。次の勝敗の結果もすでに視え、それに知っているので玉狛を心配する必要も無いかと思い、あたしは風間隊隊室へと向かっていた。
以前から最近風間と飲んでないなと言うことは気が付いていたので、久しぶりに飲む気でいる。その証拠に左手から下がる紙袋の中身は日本酒等であった。
「あれ、いおりさんじゃないですか?」
後ろから声を掛けられ、三上だと気付く、もちろん未来が視えていたからである。振り返り『三上か』と流し目で呟いた。みかみか超可愛い。今すぐにでも飛び付いて抱き上げたいところだがそれでは後輩に示しがつかないので顔には出さない。
「今からどちらに? もう遅いですよ?」
『お前の隊の隊室に向かっているところだ』
紙袋を手前に出しながら呟けば「ほどほどにしてくださいね」と苦笑いして共に歩き出した。
**
「三上、ただいま戻りました」
『あたしも来たぞ』
そう言いながら隊室に入っていけば全員が揃っており、各々のやりたいことをしていた。いきなりのあたしの登場にみんな目を見張るが、紙袋を見せれば納得したように声をかけてきた。
ここで酒を飲むのももう普通になってきたのでみんな気にしなくなったらしい。
「いおりさんまたですか?」
『……またとはなんだ菊地原、最近来てなかっただろうが』
「まあそうですけど。散らかさないでくださいよ」
「お前はなんで偉そうなんだ……」
歌川が菊地原を注意するも気にするなと制する。別に悪気がある訳じゃない。その証拠にあたしが座ればすすすと寄ってくるところが可愛い。
風間は立ち上がってコップを取り、あたしの向かいに座って「いおり」と催促してきた。
あたしは紙袋を机におき、中から酒を取り出す。
『どうする? 諏訪呼ぶか? アイツともお前飲んでないだろ』
「いいだろう別に」
『お前諏訪に対して扱いが最近どんどん雑になってきたな』
.
翌日、風間隊で飲み明かしたあたしと風間は酔いを冷ますためボーダー内をぶらりぶらりと散歩を踏まえ、彷徨いていた。
「……頭が痛い」
『飲みすぎだろ蒼也』
「お前に言われたくない」
ぐりぐりと肩に拳をぶつけて来る風間に「早く酔いを冷ませよ」とあたしの飲み掛けのミネラルウォーターを渡した。ミネラルウォーターは先程自販機で購入したもので、風間はとっくに飲み干している。
だが。
「……いらない」
ふるふると首を振ってペットボトルを突き返してきた。なんだこいつ可愛い。『なんでだ』と問えば「今水を飲むと吐きそうだ」と返ってきたのでやめる。流石に吐かれると臭いや吐瀉物処理が面倒だ、困るし。
『お前ホント大丈夫か』
「……大丈夫じゃない」
『なんで大丈夫じゃないのに散歩しようなんて言ったんだ……』
「酔っていた」
『分かっているから』
背中を擦ってロビーのソファへと座るよう促す。風間をソファに座らせたあと、「茶、買ってきてやるから」と飲みたいものを聞いて付近の自販機へと足を向けた。
早朝だからか人は少なく、いつもは騒がしいロビーもシンと静まり返り不思議な感じだ。
いざ自販機に目をやると見覚えのある人影が三つ。太刀川隊の唯我を抜いた戦闘員達である。
「あ、いおりさん」
『おはよう剣人、太刀川隊は今日は夜勤だったのか?』
「うぃっす。もう眠くて眠くて」
『仮眠室使え』
水美に「うわ! いおりさん酒くさ!」と言われそんなに酒臭かったのかと思う。恐らく風間も自分が酒臭くて酔いが冷めなかったのだろうと反省した。
「あ、いおりさん! おはざーす」
『出水も眠そうだな』
「酒臭いっすね」
『飲んだからな。どけ太刀川あたしのバイクで轢くぞ』
「いおりさん朝からなに!?」
出水にまで酒臭いと言われトリガーを起動し変換体になる。自販機の前で悩む太刀川を一蹴しちゃりんちゃりんと小銭をやや乱暴に突っ込む。
「いおりさん昨日酒飲んだの? 誘ってくれれば良かったのに」
『静かに飲みたかったからな。うるさい奴は呼ばず蒼也と二人で飲んだ』
「風間さんか〜。隊室でっすか?」
『ああ。後輩は途中で帰った。起きたのはさっきだ』
「飲み明かしですか。風間さんは?」
『ソファに座ってグロッキー、飲み物を買いに来た』
太刀川、出水、水美の順に答えていきガコンと落ちてきたお茶のペットボトルを手に取り「じゃあな」と口で告げる。
太刀川や出水はランク戦をしてくれとの事を言っていたが水美は「お大事に」と言ってくれたので水美に今度ランク戦を申し込もう。
**
『ほら蒼也』
「ああ」
ペットボトルを渡して風間の隣に座る。酔いは冷めたのか頭は押さえつつも少しすっきりしたような面持ちでペットボトルの中身を喉に通していく風間に少し安心した。
『玉狛、初戦で8得点だと』
「……下位だからな」
『お前、三雲に少し甘いように思えるんだが違うか?』
「そんなことはない」
『……そうか』
.
『……』
「……」
しばらく何も喋らない沈黙が続いた。静かすぎて耳鳴りが起こりそうなのでとりあえずと口を開こうとすると、先に風間が口を開く。
「いおり」
『なんだ』
あたしが聞き返せばそれきり喋らなくなった風間に不審を抱き『なんだ、蒼也』と口を開く。不意に放置していた右手がきゅと握られた。酔いが、やはりまだ抜けていないらしい。じゃないとこんなことはしない男のはずだ、風間蒼也という男は。
『蒼也』
「……ずっと」
開いて、閉じる口。言葉を紡ぐには単語だけで、とても言葉と言えたものではない。きっと、酔いが回っているんだ。
「俺の側にいろ、いおり」
明確に告げられた好意の言葉に微かな頭痛が起こる。トリオン体の筈なのに、頭痛なんて感じる訳は無いのに。風間の口からそんな言葉を聞かされるとは、未来も視えていなかった。今思えば、風間に関しての未来は出会ってから一度も視たこと無かったかもしれない。理由なんてものは知らない。だが明確に好意を言われた今なら予想はつく。
好意を寄せている相手に未来視は使えない。悠一はそんなことないかもしれないが、あたしがそうらしい。それなら合点が行くし、納得も出来る。
あたしはコイツが好きなんだ。
納得して、その言葉はやけにすとんと胸に落ちてきた。
『離すなよ』
「離すわけ無いだろ」
早朝、誰も居ないロビーのソファ。唐突な告白とあっさりした発端だった。
.
迅がいおりと風間が付き合い出したと言うことを知ったのは、玉狛で木崎の未来を視た時だった。
そのとたんいきなり木崎のケータイに通話が入り、もしもしと木崎が出ればどうやらそれは風間だった様で、ぞわりと、軽くギャグ的な嫌な予感が背中を駆ける。しばらく通話をして、じゃあなとケータイの通話モードを切った木崎に「風間さん、何て?」とへらりと笑顔を浮かべながら確認のため迅は聞いた。嘘であってほしいと願いながら。
「……風間がいおりと付き合い出したそうだ」
「ガッデム」
やはり自分の予知は的確だった。再三それを思い知った迅はガッデムと心からの叫びを小さく呟きながら額をテーブルにがんと打ち付ける。木崎はそれに対し「お前のシスコンは度が過ぎるんだろ」と言えば迅は「姉さんは俺がシスコンって事に気が付いてないよ」と口を尖らせながら拗ねた。
「……迅さん、なにしてんですか」
「京介……」
ソファに座ってテレビに集中していた鳥丸が迅のガッデムにあざとく反応し、ソファ越しから振り返ってそう訪ねる。相変わらずの無表情である。
迅は起き上がり鳥丸に視線を送りつつ「聞いてた?」と聞き返す。絶対聞いていたであろう鳥丸は素知らぬ顔で「なんのことですか?」と返してくる。迅は生意気な後輩にひくりと頬がひきつるのが分かった。
「風間さんがお義兄さんとか勘弁してよ……」
「風間以外なら良いのか?」
「むしろ駄目、絶対駄目。風間さん以外認めないよ俺。許さないよ」
「矛盾しまくりっすね」
うるさいよ、と鳥丸を一喝しながら迅はここに居ない姉を頭に浮かべ、隣に風間を置く。ブッと吹き出して「身長差……!」とけらけら笑う。木崎は「笑ってやるな」と迅を咎めた。
**
「っくしゅ!」
『おい大丈夫か蒼也。風邪か』
「そうかもな。体調管理を怠らない様にする」
.
2/5、B級ランク戦夜の部。あたしはそれを風間隊の面々と観覧席にて観ることになった。もちろん風間の誘いである。
『今日の解説は東さんと駿か』
「そうですね」
あたしの一人の呟きを歌川が拾い、返してくれた。歌川、お前はいいやつだ。
「今回の注目はなんといっても、前回完全試合で八点をあげた玉狛第二! 注目度の高さから会場にもちらほらと非番のA級の姿も見られます!
さて東さん。一試合で八点と言うのはあまりお目にかかれませんが……」
「いや、すごいですね。それだけ玉狛第二が新人離れしてるってことでしょう」
「遊真先輩は強いよ、あっという間にB級上がってたし」
武富の質問に東さんがすらすらとコメントを述べたあと、緑川が空閑の事を称賛する。
緑川が空閑に8-2で負けたと言うことで、会場がざわめいた。
玉狛第二が選んだステージは市街地C。緑川のコメント通り、諏訪は今頃キレてるだろう。
**
ランク戦の結果は6-2-1で玉狛の勝利、最後のエースの空閑を囮に三雲が諏訪を取ったのは良かった。
「……さて。振り返ってみてこの試合いかがだったでしょうか?」
「そうですね、終始玉狛が作戦勝ちしていたと言う印象ですね」
東さんの言葉に緑川がうんうんと頷き、東さんが「相手の得意な陣形を崩す、エースの空閑をうまく当てる。この二つを徹底して実行できたことが6点と言う結果に繋がったと思います」と人差し指、中指を立てて言えば、緑川も真似をしてしたり顔で頷く。
そして次の玉狛第二の相手は那須隊、鈴鳴第一となった。
.
風間side
風間隊隊室にて。ミーティングを終えて少しの休憩を取っていた時、唐突に扉がノックされた。『あたしだ』と扉越しからくぐもった声が聞こえてきて、扉を開ける。そこには片手に四角い箱を持ったいおりがそこにいた。
『蒼也、ちょうどミーティングが終わったろ。色々甘いもの買ってきた』
そう言うと俺の返事を聞く事もなく隊室に入ってきたいおりに溜め息をはきながら扉を閉める。
いおりのいきなりの登場に菊地原と歌川、三上が目を見開いて驚くが、テーブルに箱を置いて『食え』といおりが催促すれば三人がそこに寄り付く。
いおりは存外後輩に甘いと思う。太刀川は抜きにしても後輩に甘い、断言する。ランク戦等の面倒なこと以外なら何でもするし、差し入れと称して値の高い食べ物を持ってきたりする。
以前金の扱いがぞんざいだなと聞いたことがある。いおりは相変わらずのポーカーフェイスを保ちながら『これ以外に金を使うことがない』と言った。無欲である。
『蒼也、お前も早く来い。三上が大福を食べきってしまう』
「や、やですよいおりさん! 私そんな……!」
「太るよ三上先輩」
「こら菊地原! 失礼だぞ!」
相変わらず変わらない自分の隊の隊員に微かに苦笑いしながら俺もそこへと歩み寄り、箱のなかを覗く。なるほど種類が豊富だ。
『蒼也はなにがいい。いろいろあるぞ』
「なんでもいい」
『ほら』
渡されたのは瓶に入ったミルクプリン。以前テレビで嵐山達がレポートをしていた気がする。俺が牛乳をよく飲むのを知ってか知らずか、牛乳の割合は多いみたいだ。
各々が食べたいものを口に運ぶなか、いおりは『何かほしいものがあれば言えよ、買ってきてやるから』と三上等に訪ねる。が、歌川が困ったように聞き返す。
「でも金額とかが……」
『大丈夫だ。これ以外に金の使い道がない』
「寂しくないですか」
『……言うな菊地原』
「いおりは無欲なんだ」
「じゃあいおりさん! 今度駅前に新しく出来たお店のマカロンが食べたいです!」
『分かった、覚えておく』
.
『いた、蒼也いでっ、いだだだ!』
「……」
現在あたしの自室。今月分の漫画を書き終えてカラーに移ろうとしていたのだが、突然こんこんと扉がノックされ、開ければ風間が立っていた。
なんだ風間かと部屋へ招き入れて再び椅子に座ってデスクと向き合ってきたのに、唐突に風間が肩に頭を置いてぐりぐりしだしたのだ。痛い、これは痛い。ヤバイヤバイヤバイ痛いコレは痛い死ぬ。
『蒼也……痛、っでぇ!』
「充電だ」
『だだだだ!』
やめろと言えばさらに力を強めてぐりぐりと頭を押し付けてくる風間に「何がしたいんだ」と言えば返ってくる言葉は「充電」のみ。ちょちょちょ痛い!
やっと退いたかと思えば「うぅ」と唸り声をあげながら首に巻き付いてきた。ちょっと待って原作の風間さんはこんなことしないぜよ! どうなってるんだ風間さん!
『……本当にどうした蒼也、お前らしくないな』
「本音はどんなに崇高な戦法を考えてもお前と戦ったら負ける気しかしなくてムカついただけだ」
『八つ当たりじゃないか』
「知らん」
『ぐえっ、絞まってる絞まってる』
今日の風間は数年に一度見れるか見れないかの甘えたちゃんになっているらしい。
……そんなところもいつも通り可愛いぜよ蒼也! 愛してる!
「……お前、そんなキャラだったか……?」
『声に出てたのか』
「いつも無表情でポーカーフェイスを貫いているクールなお前がそんなことを考えていたとはな」
『引くなよ』
「むしろ俺は強く惹かれたな」
『……お前、そんなキャラだったか? 天然か? 狙ってんのか? 可愛すぎる、襲うぞ蒼也』
「お前なら俺は構わない」
『やめろ真摯に受け止めんのはお前らしくない。あたしの知ってる蒼也はもっとこう……紳士だぞ』
「失礼だな、俺だってお前といかがわしいあれやこれやをしたいと思ってる」
『蒼也は健全な男性だったか。安心しろあたしも同じだ。だが今は猛烈にやり返したいな』
バッと振り返って蒼也にチョークスリーパーを吹っ掛ける。やめろ痛いとバシバシ容赦なく腕を叩いて来る風間に苦笑いがもれた。
数年後、あたしの名字が迅から風間に変わっている未来が視えたのは本人には秘密である。
【転生姉弟】完
**
やっと終わりました。あぁ良かった無事終わった。落ちなんて考えてなかったんで即興です、もう疲れました。最後の方もうなんか雑です。下ネタっぽいの混ざりましたかね?
一応この長編は完結しましたが、まだまだ他にも書きたい事があるので、短編にてまた登場するかもしれません。
次の長編は恐らく誰かと恋愛するか、トリップするか、また誰かのきょうだいに転生するかですね。多分すぐ書くと思われます。
アデュー!
.
三輪と出水のお話
【憎しみで埋める】
一卵性双子の兄は姉が好きだった。そしてあたしも姉が好きだったし、尊敬もしていた。
だが多分、姉が一番好きだったのは兄だろう。だから、同性で顔は姉に似ているが性格は真反対だったあたしを兄は恐らくよく思っていない。「お前が嫌いだ」ともはっきり言われたことがある。
だが、あたしはそれでも兄が好きだった。兄はどうすればあたしを認めてくれるんだろう。
必死に努力して、勉強を頑張って運動を頑張って、兄をイジめようとする輩は全力で凪ぎ払った。空手や少林寺拳法、剣道等の武術を習い始めたのだって兄の為だ。
でも結局空回りして、学校じゃ高嶺の花等と言われるが、兄が認めてくれなきゃそもそもの意味がない。
だが、それが兄に対する憎悪へと変貌した。それは本当に吃驚するぐらい突然だった。
キッカケはあの忌々しい『第一次大規模侵攻』。無愛想なあたしの隣にいつも居てくれた親友との帰り道だった。
何が起こったか分からず、親友とあたしは身内の安全を確認するべく後で合流しようと約束し半ば駆け出す形で別れる。
そしてしばらく走ればやっと見つかる兄の影。喉の奥は血の味しかせず倒れそうだが、そんなことより身内であった。
『っ、秀次!』
兄、三輪秀次の元に駆け寄って気が付いた。姉も居る、それも見るも無惨な亡骸で。胸をくり貫かれた様な傷を負って絶命していた。
ああ嘘だ姉さん。起きて、姉さん。
ぼたぼたと涙を流す兄の横で呆然と姉を呼ぶ。泣きはしない、だって兄が泣いているんだから。大丈夫秀次、あたしがいる。
肩に手を置こうとして、叩き払われた。
ああそうだ。忘れもしないここだ、秀次を憎悪の対象として見たのは。
『……秀「なんでお前が生きてるんだ! なんでお前じゃなくて姉さんが死んでるんだ! なんで俺が嫌いなお前が!」……』
此方を見ずにそう泣き叫んだ兄を見るあたしの目は既に冷めた。なんであたしがそんなことを言われなきゃなんないんだ。ふざけるな、じゃあお前が守ればよかったじゃないか。
確かに姉さんはあたしと違って明るく陽気な人だった、それと正反対なあたしにそんな事を思うだけなら構わない。口にするからだ。
ここで兄に対する愛情はひっくり返って憎悪へと変換される。人とはこんなに簡単に人に対する感情を変えられるのかとと言うことを目の当たりにした瞬間だった。
さらに何かを言おうと秀次が振り返った時には、自分の片割れの妹の姿はどこにもなかった。
.
いおりは数日の間、壊れた町をふらりふらりと行く宛もなくさまよった。家にも帰らず、何も食べず。ただし、悪かった目はコンタクトから黒ぶち眼鏡に変え、腰まであった長い髪はショートカットにするようにばっさり切った。こうしてしまえば、眼鏡を掛けているため兄にも似ず、ただの一人の女に見える。
クセなのか知らないが短く切った髪の毛先は外に跳ねている。これもこれで兄の血縁とは分からないだろう。
これからどうしようか。
ぽつりと誰もいないところでいおりは呟いた。ただ、決めているのは三輪姓を捨てることのみ。今頃親はあたしを探しているだろうが兄は清々しているだろう。あたしも清々している。
そして気がつく。あたしから兄を取れば何も残らない。ああこの13年間をドブに捨てたな。
はた、と気が付く。前方に男の影が見える。あぁ、あれが噂のボーダーかと腰もとの鞘を見て納得する。そしてあたしはなんの躊躇いもなくその人に声を掛ける。
『なあ』
不思議そうに振り返ったその男は「どうした? 一般市民の女の子か?」と聞いてくる。
確かに女だが、もう喋り方は男にしよう。あたしは気にせずに、飛びっきりに声を低くして口を開いた。
『【俺】を、ボーダーに入れてくれ』
男は目を見開いたのち、何かを察したように頷いて「……我々ボーダーは君を歓迎しよう」と手を差し伸べてくれた。
あたしはその手を握って『よろしくお願いします』と返す。
「君、名前は?」
あ、やばい。三輪姓を捨てるとは言ったが名字はまだ思い付いていない。なら、とつっかえずに告げる。
『赤坂いおり』
「私は忍田。動機は?」
動機? そんなの決まってる。
『ネイバー……の復讐』
兄の、とは言わない。ネイバーに復讐したいのは、大切な姉を殺されたからだ。
恐らく兄もボーダーに入隊するだろうが、そのときはその時。
ボーダーで、力を磨く。
身寄りが無いととりあえず伝えれば、「ボーダー基地に君の個室を作ろう、これからはそこが君の家だ。必要なものは全て我々が揃える」と伝えられ、いい人だなと、泣きそうになった。
.
三輪side
俺がいおりに本音を告げた。悪いとは思っていない。姉さんよりアイツが死んだ方が良いと思ったのは本心からだ。
さらに言おうとして振り返ったときにはネイバーが視界を遮って向こうの家へと衝突した。
ネイバーの層甲が俺の頬をかすった。赤く腫れ上がるが、俺は別の事を考えていた。
確かに、先程まで双子の妹のいおりはここにいた。そこにネイバーの突進、いおりの姿は無い。
それなら、考えられることはひとつ。
「……い、おり」
この白い化け物に食われた。
嘘だろ、俺の言葉の直後だぞ、やめろ、死ぬな、いおり、やめろ。そこにボーダーがやって来て、そのネイバーを始末する。
ネイバーが衝突した家の壁に血痕が飛び散っていた。やはり、いおりは、
考えたくない。俺のせいか? 俺があんなこと言ったから?
元々いおりは気にくわなかった筈だ。澄ました無表情で、淡々とやることをこなし、それを当たり前とする。そんな気にくわない奴で、俺はそれが嫌いだった筈。
__なのに。
どうしてこんなに胸が苦しいんだ、どうしてこんなに涙が出てくるんだ。どうして、俺の周りから人が居なくなるんだ。
悲しくなんてないのに悲しくて涙が出てくる。先程のいおりに告げた言葉を今更後悔した。あれが最後の会話? ふざけるなそんなのって無いだろ。
憎い憎い憎い、勝手に俺を置いていったいおりも、姉さんといおりを殺したネイバーも。
憎い憎い憎い、ネイバーは敵だ。俺がすべてをぶち壊してやる。
.
いおりside
ボーダーに入って一年、ボーダーはすでに我が家となっており、超くつろげるマジかクソ楽。そして兄が入隊した。中二の始めである。入隊式で姿を見たときは目の前が真っ白になってぶち殺したい衝動に駈られたが、ただひたすら耐えて爪が手のひらに食い込んで血があふれでるのも気にせず拳を作り続けた。あれはまだ治りきっておらず跡が残ってしまった、なんだと。
最近『水美剣人』と言う同い年の少年に目をつけており、すでにB級へと昇格、フリーのA級に上り詰めた俺は現在モニター越しにランク戦中の入りたてのその水美剣人を眺めていた。
『もうちょっとで上がってくるか』
そんなことを呟きながらフイと視線をずらせば金髪。え、嘘だろ金髪?
一瞬葛藤仕掛けたがまぁ自分には関係無いやと自己鍛練の為にブースに入った。
**
現在アタッカーランク六位を死守し続けている俺は弧月で頑張っている。一位には到底追い付けない。だって今はアタッカー用トリガーは弧月ひとつしかないし、大変だし。無理だし。
そう言えばまだ会ったことは無いが、会って一番最初にセクハラしてきた(ので超笑顔で「触んじゃねぇよ殺されてぇのか、埋めんぞ」と回し蹴りをぶち噛ました)迅さんにお姉さんが居ると言う。どうにも下の名前の『いおり』が一緒らしい。噂じゃ長身巨乳天才完璧主義者イケメンで、サイドエフェクトが姉弟揃って未来視だとかなんだそりゃ羨ましいハイスペックかよチートかよ、私なんか胸普通だぞ分けろよクソが。
アタッカーランク一位はその人だと聞いたがなるほど叶わん。
ブースを出ればあらら何々さっき自分には関係無いやとか思った金髪が、わぁおイケメン。
「お前が赤坂いおりか?」
『そうですがなにか』
いきなりなんだその不躾な口調は。なめてんのか? なめてんだな焼くぞ埋めんぞ頭が高いぞ。
「俺は出水公平、俺とランク戦してくんね?」
『いきなりなんだと不躾な口だなてめぇ。なめてんのか、なめてんだな埋めんぞ! 誰がガンナーとランク戦やるか』
「良いじゃんやろうぜ! ガンナーって銃邪魔だよな、もう俺そのまま撃ってみようかなって思ってるんだよな、付き合えよA級!」
『いやだっつーの! 実験台じゃねーか!』
「俺も混ぜてくれよー!」
『誰だよカチューシャ野郎てめえ!』
「俺? 俺、米屋陽介。さっきの赤坂のランク戦見ててやってみてーなーって!」
『もう今後ランク戦やらねぇわ俺』
「あ、俺もやりてぇ!」
『よし水美に免じてランク戦やろうぜ!』
水美も乱入してきたことで気が変わった。やろう、即やろう。水美イケメンヤバイかっこいい惚れる、いや無いか鑑賞用だわ鑑賞用。
水美がなんで俺の名前知ってんの? って聞いてきたから『お前のこと強くて良いなって思って目ぇ付けてた』つったら笑われた。いけめん死んでまえクソが殺す気かよ、俺を。
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赤坂ちゃんの名前をいおりから稲葉へと変更します。
あのランク戦の一件からあのメンバーとよく一緒に居るようになった。まあ大体はランク戦ばっかだけど。
だが問題は目の前のコイツだ。
「……おい、赤坂」
『なんだい三輪』
「陽介をどうにかしろ」
『俺に聞くな自分でやれ』
憎き三輪秀次と対面中だ。それもこれも米屋が「秀次ともなかよくしよーぜー!」とか言いながら三輪を連れてきたことが原因だ。クソ米屋が余計なことを……! 一生三輪を影から憎み続ける気でいたのに米屋くそぅ……。
普通に対応しようとしてもどうしても微かに言い方がキツくなってしまう、あああゴメンねはっきりした方がいいよね、はっきりするんだったらめっちゃ嫌うわ俺!
どうやら三輪も自分の片割れの妹にそっくりな人物に出会って困惑しているようだ。まあ放置だ放置。
それにしても周りからの好奇の視線が痛い、頭痛する、バファリン飲みたい。
『米屋ぶっ殺!』
「やめろ! お前が言うとマジに聞こえる!」
とりあえず米屋にはアッパーを決めておいた。さて、三輪と知り合ってしまった俺はどうする? 決まってるだろそんなこと。
とりあえず俺の尊敬しているアタッカーを教える!
『三輪は尊敬してるアタッカーとかいる?』
「いおりさん」
『……え』
「いおりさんだ」
『いおりさんって……あの天帝の? 忍田さんより強い無敗のイケメン美人? 迅さんのお姉さんの?』
「ああ」
『ふーん。俺は風間さん、質実剛健って感じがかっこよかった』
「……そうか」
「いおりさんと風間さんって幼馴染みなんだぜ」
『え、マジで? 嘘だったら埋めるぜ米屋』
「やめろこええ! ってかこれはマジ! あの二人いつも一緒に居るからなぁ」
「……風間さんも尊敬しているが、倒すべき敵だ」
『三輪、いおりさん大好きかよ』
「いやいや、風間さんには負けるんじゃね? 風間さんいおりさんに関することは超敏感だから、むしろセンサーだから」
「……陽介ブースに入れ」
「ゴメンナサイしゅーじ!」
なるほど、風間さんはいおりさん大好きか。
『……ならいおりさん気が付いてるんじゃないのか? 付き合ってねーの?』
「「付き合って無いな/ねぇわ」」
『二人して即答かよ』
「弟の迅さん超シスコンでさ、未来視で度々邪魔してるし。いおりさん自身鈍感だから全く気が付かねー」
『フラグ回収中みてぇ』
「それな」
そして思う。俺、三輪と超楽しげにしゃべってんじゃんと。でも復讐心は消えない。それだけ深いのだろうか、俺の復讐心は。
自分で自分がこええ。
.
そして時間とは経つのが早いもので、もう高校二年生の冬。第二次大規模侵攻が終わって少し経っている。
俺はと言えば太刀川に勧誘されて出水、水美と共に太刀川隊へと入れられた。
いおりさんとは一年前にランク戦でご指導ご鞭撻頂いたときにこんなにイケメンがこのボーダーに居たのかと戦慄したのをはっきり覚えている。そして国近柚宇会長が設立したいおりさんファンクラブに入った、あのときの俺はそれはそれは素早かった。と出水は語る。
第二次大規模侵攻で尊敬すべきいおりさんが敵にやられ、入院。だがどうやら二週間後退院したようだ。
新シーズンランク戦終わり、玉狛が諏訪隊や荒船隊に勝った次の日の朝、つまり一昨日の朝だ。風間さんと二人でロビーのソファに座っていたと夜勤明けで自販機の前でたむろしていたらしい出水、水美、太刀川からいおりさんが言っていたと聞いた。くそ、俺も夜勤行けば良かった、是非あの美貌を今すぐ目に納めたい。
あ、やべ。緑川が迅さんに迅さんの舞いを見せている時の気持ち分かるわ、まさか俺第二の緑川……?
相変わらず三輪とはよくやっている、復讐対象なのにこんなに仲良くしていて良いのか? 今度飯行く約束したぞ、三輪のおすすめの店はいつも美味しい。まてまて和むな。
そんなこんなで太刀川隊隊室にて。
『おら太刀川、だらだらすんな沈めるぞ。どーせまだレポート終わってねぇんだろ、ちゃっちゃと終わらせろよ埋めんぞ。俺が手伝ってやっから、やらねぇなら焼くぞこら』
ソファに寝転んで漫画を読むだらしのない我が隊長の腹を蹴り飛ばす。「おっふ!」と腹を抱えてうずくまる太刀川の頭にノートパソコンを叩きつけた。奥の部屋で国近と出水と水美が三人で固まって震え上がって居るが興味なし。怖い顔をしている自覚はある、こればかりは直らん。
「稲葉あのさぁ、もうちょっと隊長を敬えよ、俺の方が歳上なんだぞ。せめて太刀川にさんをつけて」
『知るか。だらしねぇ駄目隊長尊敬してたら俺らが駄目になるわ散らすぞ。尊敬してほしいならそれなりの態度取れよ、身体バラされてぇのかそうなんだなバラすぞ。
確かにてめぇは俺より歳上だがボーダー歴は俺の方が上だ。後輩にさん付けしてどーすんだ、むしろ俺にさん付けろ』
「ゴメンナサイ稲葉さん! 頼むからバラすのはやめろ怖い! のーぱそを頭に叩き付けるのもやめろ! 壊れるし俺がバカになる」
『のーぱそもカタカナで言えねぇ奴はいおりさんと風間さんと忍田さんの三人に遠々説教されるか単位落として留年しろ、てめぇがバカになるんならいくらでも俺がPCで頭ぶっ叩いてやる、骨は出水に拾ってもらえ。あ、イケメンの剣人と出水ー、どっちでも良いからそこにある鉄パイプ取ってー』
「殺す気か! 殺す気なんだなお前!」
実際太刀川用に置いてある鉄パイプを近くにいた出水と水美に要求すれば太刀川は漫画を放り捨て泣き喚きながらレポートに取り組み始めた。よしよし。
.
「稲葉ちゃんすごーい、太刀川さん手懐けてるー」
『へっへへ〜、どーも柚宇さん』
「手懐けてるっつーか脅してる様にも見えたな」
『出水シバくぞてめー』
「あー、あれだな、ヤクザみてぇ!」
『剣人はいけめんだから許す、でももう言うな』
「お前、剣人に甘くねぇ?」
『当たり前だろーが! イケメンじゃんじゃん贔屓するよ俺! 京介とかイケメンだからめっちゃ飯奢ってるよ!』
「お前それ絶対……いや、なんでもねぇわ。じゃ、俺は?」
『限りなく普通寄りのイケメン。イケメンと言えるのかラインぎりぎり。だから贔屓しない、弾バカだし』
「えぇ……そりゃねーだろ相棒」
『埋めんぞ』
太刀川を放り四人で星のカービィのゲームをしながらのんびり会話をする。とりあえず相棒は事実だから良いとして、なんかムカついたから出水蹴っといた。あ、出水落ちた。
「メタナイトーーーー!」
『うるせぇよ』
「協力プレイなんだからちったあ協力しろよお前ら! コンビだろ!」
『だったら俺、剣人とコンビ組みたい。絶対楽、絶対サボれる。初代弾バカより二世代目弾バカの方が話通じるし。時々頭良くて剣人何いってるか分からんけど』
「それな!」
「それな〜」
国近まで乗ってきてわちゃわちゃと会話をする。一段落ついたので太刀川の様子を見に行くべく一旦抜けた。
**
出水side
「……稲葉、太刀川さん見に行ってさ、太刀川さん何もしてなかったら何する気だろうな」
「想像出来ねぇ」
「えー、私は×××して××したあとに××××から××して鉄パイプでぶっ殺すと思うなぁ」
「「柚宇さん伏せ字使わないで」」
稲葉が行ったあとに何をするかと相談すればまさか柚宇さんの口からぶっ殺すと言うあんな物騒な言葉が出てるとは思わなかった。伏せ字使ってるけど下ネタじゃねぇから安心しとけ。
直後『太刀川くそが! 真っ白じゃねえか!』と言う怒鳴り声が響いてきて、「馬鹿すぎて悪かった!」と言う太刀川さんの情けない言葉が聞こえた。
ふと鉄パイプのあった場所を見てみるとあれ、おかしいな。そこにあったはずなのになぁ、無いなぁおかしいなぁ。
『鉄パイプで骨まで潰されてグチャグチャになって肉片になるか脳漿飛び散らせて死ぬか選ばせてやる。わぁ俺超優しい!』
「生きる選択肢をくれ!」
全く持ってその通りである。その後、太刀川さんの悲惨な断末魔が聞こえてきたのは言うまでもない。
.
『米屋』
「おう」
ボーダー提携普通校の2-Bにて。前の席である米屋に俺は声を掛けた。
俺は自身のケータイを米屋に差し出して、メール画面を開く。そこには画面いっぱいが三輪からのメールで埋まっていた。
『……どう思う、部下として』
「こりゃなつかれてんな」
『マッジかよジーザス!!!!!』
「ぶははっ! うるせぇ!」
米屋は付け足して、「前に赤坂はネイバーに殺された双子の妹に似てるって秀次言ってたし」と言った。マジかよ。
眼鏡は外しているものの、髪の色も暗いといっても茶色に変えてるんだぞ。髪型も変えてるんだぞ。
復讐対象になつかれてどうするんだよ俺!
まあ、直接的な復讐はせず、心の中で憎悪を燃やし続けるだけなんだが。
『……米屋あああ! 助けろ俺を! 俺は三輪苦手なんだよ!』
「良いじゃん、秀次がなつくとかホント珍しいんだし」
『うーわ』
マジでか。……でも、妹に似ているならなんで避けないんだ? アイツ俺のこと大嫌いだっただろ? ん? え?
疑問ばかりが募る中、出水の御目見えである。
『うぇい出水! 頼んだもん買ってきたか?』
「おー」
『ありがとうパシリ君』
「くっそあん時グー出さなきゃ良かった!」
出水には昼飯を頼んでいたのだ。実はパシリしようぜと出水が俺に向かって言い出し、じゃんけんした結果出水が負けた。
言い出しっぺが負けるのは御約束だ。
.
今気が付いた。剣人君入れて太刀川隊戦闘員四人だ……どうしよう。
……仕方がない、例外って事で。柚宇さんが戦闘員五人にも指示出来るスキルがあるからって事で。柚宇さんがすごいって事で。
__
ボーダー本部にて。
やばい事に……なった。
「大丈夫か」
『大丈夫ですけど大丈夫じゃねえっす!』
**
事の発端は唯我をぼこぼこにしてブースを出た後の事だった。
「赤坂」
ブースを出てすぐ目の前に立っていた、天羽も敵わないボーダー最強完璧NO.1アタッカーいおりさん。
あれ、デジャヴ? なんて事も考え、目を擦ろうとしたが、目の前のいおりさんの神々しさに目が潰れそうだったので擦るのはやめた。
それにしても。
『どうしたんすか、いおりさん。俺なんかのブースの前で』
「いや、ランク戦を頼もうとな」
『風間さんは……』
「お前だってたまには違うやつともランク戦をしてみたいだろう」
『つまり、飽きたと』
「いや、飽きてなどいない。そもそもあたしが蒼也で飽きる事は天地がひっくり返っても絶対に有り得ない」
『いおりさんもたいがいですね……』
「?」
最後の一言を尻すぼみになって言えばいおりさんは腕を組んで全く表情の読めないポーカーフェイスが張り付けられた顔ごと首を微かにかしげる。流石いおりさん、そんな事でも様になってます! イケメンってずるい!
そこに。
「いおりさーん! レポート手伝ってー!」
奥の方から間抜けた声がいおりさんを呼んだ。途端いおりさんは眉を眉間に寄せ、「……くそが」と微かに呟いた気がした。多分気のせい、いおりさんがそんな事を言う……ときも、有るかもしれないが、気にしない。
その声の主は我が太刀川隊隊長ことボーダー1ダメ男の太刀川慶。あ、いおりさんのくそが発言は気のせいじゃなかったわ。これなら言ってもしかたねぇわ。
「行くぞ赤坂」
『へ』
いおりさんは生身のまま俺を肩に担いで駆け出す。そのまま俺は『えええええ!?』と叫ぶもその叫びは風によって流される、つまりいおりさん俺を抱えててもクソ速い。ホントに生身か。
**
と言う訳である。やっと追ってくる太刀川を撒いて俺は地面へと降ろされた。
うぷ、体が揺れすぎて胃の中がぐるぐるして、
『おええ……』
「やめろ吐くな汚い」
『原因アンタ……』
.
ちょっとした番外編で恋愛的な。時系列は本編と同時進行。
国近side
普通校の三年のある教室での昼休み。私は席に付き、ゲームをしていた。別に友達が少なくてゲームをしている訳じゃない。他の短い休み時間は友達と楽しくお喋りしたり遊んだりする。
だけど昼休みはゲームをしたくて、友人も了承済みとして行っている。今はPSPでの超ハイスピード推理ゲーム、【ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生】をプレイ。
最近手に入れたのだが、凄く面白い、グラフィックもキャラクターもとても綺麗だ。
あらましは高校一年生の主人公、苗木 誠君が、『国立希望ヶ峰学園』に毎年平均的高校生から抽選で選ばれる超高校級の幸運として入学する所から始まる。
苗木が希望の学園に一歩足を踏み出した途端目眩に襲われ、目覚めたら完全に外と隔離されてる、希望ヶ峰学園校内と宿舎に閉じ込められる。
そこから出れる方法はひとつだけ、人が人を殺すこと。次々と起こる殺人事件と学園の謎を解いていくと言う興味深いゲーム。
私が意気揚々と第三の事件に挑もうとしたときだった。
「また国近ゲームしてる!」
「マジか、キモい」
「ゲーマーかよ」
席のずっと前、教卓から男子の声がそう聞こえる。終いにはゲームを見てないのに「きっと乙女ゲームだ!」と騒ぐ。
見てないのにそんなの言わないで欲しい。だが口は開かず、頑なに唇を噛み締めるだけ。こんなことを学校で言える度胸は私はそれほど持っていない。とにかく早く本部に行きたい。ゲート、開かないかな。
周りがひそひそと私と相手側を見て何かを話す、気分が悪い。
そんなとき、がらりと扉が開いて「うぇーい!」とか叫びながら誰かがその教卓に居た男子グループのリーダーみたいな人に飛び蹴りを咬ました。
『俺も混ぜてやー! って何倒れとんお前ー』
「てめぇが蹴ったんだろーが梅樹!」
『知らん、身に覚えがないわー。やめられない止まらない』
「いきなりかっぱえびせんかよ!」
『んー? っちゅーていやいやー、お前ら、国近ちゃんがカワエエからってそんなこと言っちゃ駄目やろー、好きな子に構いたくなるんはわかるけどー』
「っ、ちげーわ!」
語尾を伸ばす癖がある神戸弁の黒髪の青年は宮路 梅樹(みやじ うめき)。髪型はテニプリの仁王雅治の如くだ、黒髪だけど。
彼はボーダーがスカウトした我が本部の天才エンジニアである。元々機械をイジるのが好きだったらしく、快くスカウトされてくれた、と根付さんと鬼怒田さんからとても好評されていた爽やかイケメンだ。
彼はワザとか否か、私から話題を逸らし、あろうことか逆にその男子をからかい始め、周りもそれに乗っかった。友達の多い宮路はクラスの中心である。
放課後になり、結局今日はゲートは……開いたものの、別の隊が向かったらしく、出動は無かった。ぷぅ、と頬を膨らまして机に突っ伏して居ると、『お、国近ちゃんやー』と宮路が昼休みと同じ様に再びがらりと扉を開けた。私は机に突っ伏したまま名前を呼ぶ。
「みゃーじ」
みゃーじとは宮路のニックネームである、クラスはもちろん先生達もみゃーじだ。ボーダーでもほとんどもだ。公用語となっている。
宮路は私の様子を見て、『なんやすまんなー』と謝る。恐らく昼休みの事を言っているのだろう。
「別にみゃーじが悪い訳じゃないよー」
『でもなー、俺のグループのしでかしたことやからなー。国近ちゃんはキモないからなー? 俺もやからー』
「みゃーじも?」
『多分国近ちゃん程ちゃう思うけどなぁ』
「へぇ〜」
『国近ちゃんは人より数倍かわええからなー?』
その言葉と同時にみゃーじを見ると相変わらずいつも通りの爽やかな笑顔を浮かべていた。私が見つめていたのに気が付いたのか、『?』と首をかしげるみゃーじはずるい。不意と反対側を見て突っ伏す。
『俺もう本部行くけど一緒に行くか?』
「……んー、もうちょっとここに居るー」
『さよかー。じゃあ本部でなー』
みゃーじが教室を出ていったのを確認すると、私は体を起こした。そして手の甲を頬に当てる。熱い。頬が熱い。
こんなに優しい君を好きにならない訳がない。国近柚宇、たった今初恋をしました。
.
本編。
稲葉side
どうにも最近国近の挙動がおかしい。有るときは憂いの表情をしてハアと溜め息をつき、いきなり壁に頭をぶつけたりと少し恐怖だ。
今も作戦室でゲームもせずに机に突っ伏している。俺は出水と顔を見合わせ、歩み寄る。
『どしたの柚宇さん、ゲームしねーの?』
「俺新作持ってきたんだけどさー、柚宇さんやらねーの?」
「んー……今は良いかなぁ……」
『「(ダメだこりゃ)」』
重度のアレだ。この原因を俺と出水、周りの人間は突き止めていた。と言うより、周知の事実である、本人と相手を除いて。恋煩いと言う言葉は聞いたことがあるだろうか、今の柚宇さんがまさにそれである。
本人も重度の鈍感で、それに気が付かない。と言っても柚宇さんは、風間さんがいおりさんにしたみたくぐいぐいとアピールしているわけではないのだが。
遠目から見つめ、話かれられれば顔を微かに赤く染めて話を続ける。なんとも女の子に有りがちな感じの類い。
だがしかし、御相手の『宮路 梅樹』先輩は爽やか系イケメンであり、女子の競争率は……そうだな、進学校に通う奈良坂にも匹敵する。
遠目に見つめるだけじゃ取られるぞ柚宇さん!
と言うわけで発足したのが『国近柚宇の恋を応援し隊』と言う同盟。
メンバーはとりあえずコレを知っている上層部以外だ。風間さんが乗ってくれるとは思わなかった。風間さんは「……なぜかわかるんだ」と心なしか疲れた顔をしながらそういった。確かに、風間さんは好意を抱いてから14年ちょいと言う長い初恋だ。最近いおりさんと付き合い始めたとの噂、良かったですね風間さん。
三輪も乗るとは思っておらず『……マジでか?』と思わず失礼にも二度見三度見してしまった。三輪は理由は話してはくれなかったが、自分の恋が成就しなかった苦さを他人に味わってほしないのだろう。流石元兄、優しい。だが復讐心はじくじくとお前をなぶり殺しているビジョンしか無い。そしてここでも伺えるいおりさんの人気の高さ。
『んでさー、出水ちゃん』
「ちゃん付けすんなっつの」
『あれはなんだ』
「知らね」
『……バイクの鍵、ポケットのどこ入れたっけ……』
「やめろ! マジで!」
前方から走ってくる俺達と同じ隊服を着たもじゃもじゃ頭。
『……チャッアームーポーイーンートはーアーゴー髭とー鉄格子のーお目ー目ー』
「ぶっ!」
まてまて、テニプリの某俺様キングの『チャームポイントは泣きボクロ』の替え歌を即興でやっちゃったよ。てか出水吹くなよきたねーな笑うんじゃねー。
前から俺達を目指して全力疾走してくんのは我が隊隊長の太刀川である。
どうせ「レポート手伝って」とかの類いだ。
「お前らあああああ! レポート手伝ってくれえええ!」
ほら見ろ。
『太刀川と鬼ごっこだ。捕まんねーように逃げねーとな』
「おう」
『行くぜ出水』
「っしゃあ!」
途端俺達二人は駆け出した。
その後うまく太刀川を誘導し、いおりさんと風間さんの元まで案内し、説教される太刀川を見て爆笑する俺達二人であった。
.
お久〜!テストで来れなかった!
太刀川さんww
おおお、久しぶりー! テストお疲れさん!
いおりさんと風間さんをちょいちょい出しつつ剣人君を愛でて新連載開始してるよー。
双子の兄の三輪を憎む妹ちゃんが名字を変えて髪型を変えて太刀川隊で柚宇さんの恋を応援するお話。
またそっちにも遊びにいくねー。
これまた番外編。
いおりside
最近、
「いおり」
『あ、蒼也』
風間があたしにべったり、な気がする。
本当に気のせいかも知れないし、あたしの自意識過剰かもしれない。
原作の風間蒼也はこんなに人と共に行動していた様な人だっただろうか。いや、別にあたし的には風間と居れて万々歳なのだが。あたしが風間への気持ちを自覚してからと言うもの、なんかもう心の中じゃ歯止めが聞かなくなってきている。頭の中が蒼也ばっかりで顔が無表情とか自分でもちょっとビビる。あたしはポーカーフェイスが得意になったらしい。嬉しい限りである。
「昼飯はどうするんだ」
『漫画が溜まってるから気晴らしにラウンジで描きながら食うことにする』
「なら部屋に荷物を取りに行くのか」
『ああ』
「席を取って待っている、来たら探せ」
『了解』
一旦はそこで別れ、借りている部屋に駆け込む。どうやら赤坂は居ないようだ。
……赤坂についてだが、原作にあんなキャラクター居ただろうか。剣人はよしとして、赤坂が入って太刀川隊の戦闘員は五人、オペレーター一人の計六人。規定の人数を越えている。そこは上が特例を出したと見てまちがいないだろう。
ただ、赤坂稲葉の雰囲気が、どうにも三輪秀次と被る。顔立ちや、細かなクセが。確か三輪には双子の妹が居たと本人から聞いたことがある。原作はどうだかそんな細かいことは詳しく覚えていない。
三輪は亡き妹が今は好きらしいが、妹が死ぬ直前、とんでもなくひどい事をいったと言う。それは三輪の姉が死んだ直後だったらしく、気が動転したのだろう。三輪も恐らく後悔しているだろう。
だが、あたしにはどうも、その妹が本当に死んだのか疑問なのだ。遺体は目も当てられない状態だと言うし、それは誰か分からず、三輪の証言で妹と言うことになっているが。
……気にしすぎか。
そそくさと机へ向かい、道具一式を持って部屋を出る。
……あ、蒼也に連絡入れないと。
.
剣人side
俺達太刀川隊戦闘員がラウンジに来てみれば、偶然向かい合って座っているいおりさんと風間さんを発見。どうやら昼食を取りながらいおりさんは今月号の原稿を書き上げているらしい。
太刀川さんが定食の乗ったトレーを持ちながら「いおりさん、風間さん。ここいい?」と笑顔で入っていく。空気読めよ太刀川さん! 風間さんキレんぞ! 隣の出水も青い顔してるって! 赤坂の笑顔が怖い! オーラがヤバイよ太刀川さん!
「……太刀川」
「太刀川か、邪魔になるからあっちに行け」
風間さんが太刀川さんの名前を呼べばいおりさんが原稿から目を離さずに一蹴した。相変わらず太刀川さんに辛辣ないおりさんは太刀川さんに恨みでもあるのだろうか。そしていおりさんの言葉を聞いて微かに勝ち誇ったような顔をする風間さん。大人げない。
だがしかし、諦めずに笑顔で「いいじゃんいいじゃん」と同席を強請う太刀川さん。俺が止めるかな、なんて考えて声を掛けようとしたその時。
『おらクソ太刀川、風間さんといおりさん困ってんだろ埋めんぞ』
赤坂がラーメンの乗ったトレーを手に持ってそう言い、太刀川さんの背に思いきり正面蹴りを食らわせた。それに出水も同調し、「そうですよ太刀川さん」と呆れた声を出す。
「なにすんだ赤坂! 飯溢すだろ!」
『るせぇ太刀川、邪魔だっつってんだよクソが吊るすぞ。飯こぼして金をドブに捨てちまえ、ざまぁ』
「俺はお前の上司だぞ!?」
『年季の要りは俺の方が上だろーが、もっと先輩を敬え! そして平れ伏せ!』
赤坂はトレーを右手で持ちながら左手の親指を立てて下に向け、右から左へとサッと動かした。死んでしまえの合図である。相変わらずコイツの太刀川さんへの当たりは誰から見ても酷いものだ。俺がそんなことされたらハートブレイクされて引きこもりになる、ぜってーなる。
相変わらず女とは思えないぐらいの男口調に苦笑いしながら、赤坂が太刀川さんの足をげしげしと蹴りつける様を眺めた。
そしてその目の前で二人して無表情でそれを見つめる席に座った風間さんといおりさんはシュール過ぎる。
「で、でみずいずみ君や。赤坂は太刀川さんと良い感じに見えますがどう思いますか」
くるりと振り向いて先程から喋らない出水に声を掛ける。出水は「誰だよでみずいずみ」と頬をひきつらせて俺を睨む。
「……別に何も思わねーよ」
「はあ? そのうち三輪に取られんぞ」
「やめろ剣人! 自信が無くなる!」
「でも三輪、結構赤坂に本気だかんな? どうにも亡くなった妹に似てるとか言ってたぜ」
「……妹に似た人を恋愛対象として見てるとか、三輪……」
「お前も柚宇さんもどっこいどっこいだな」
「マジかよ」
ボーダーはリア充ばっかかこのやろー!
.
三輪side
赤坂稲葉は、俺の片割れの三輪稲葉にとてもよく似ていた。
違うところと言えば雰囲気と髪型と喋り方、性格だ。顔立ちがそっくりで、何度稲葉と呼びそうになったことかと苦労する。
アイツが死ぬ前は性格と雰囲気が暗かった。アイツが死ぬ前は髪が腰ほどまであった。
世界にはそっくりな奴が三人はいると言われている。ならこの世界の多大に存在する人々の中の三人の一人が、これほど近くにいたと言うことだ。
アイツに死ぬ前に殴るように叫んだ言葉が頭から離れない。「お前が死んでしまえば良かったんだ」と。後悔と自分への憎悪しかない。
だから、今回は死なせない。
「_次__秀次?」
「っ、なんだ、来てたのか陽介」
「おう。ってかさ、お前にしては珍しいな。ボーッとするとか」
隣のクラスからやって来て廊下側の窓から顔を覗かせた陽介が俺の顔を覗き込む。神なんて信じていないが居るのならば俺はアンタを呪う。なんで俺を窓際の席にしたんだ。そのせいで陽介と出水がノートを借りに来るじゃないか。
「しゅーうーじ! ノート貸ーして!」
「嫌だ」
陽介は俺の断りの言葉を聞くと頬を膨らませた。男がやっても別にかわいくもなんともない。ただ虚しいだけと知れ。
「なら赤坂に借りよ」
「ほら」
赤坂に借りるなど言語道断、それなら俺のノートを貸した方がマシだ。赤坂の物に触らせるか。
俺は陽介にノートを投げ渡して窓をぴしゃんと閉めた。鍵を掛けることも忘れずに。陽介は「しゅーじ開けろって!」と窓をガタガタと揺らすが知ったことか、早く教室に帰れ。
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アニオリ沿い:赤坂side
今日は隣町に出来たタマガタワーに古寺、米屋、三輪(主に三輪)にやや強引に連れられてやって来た。どうやら米屋のレポートの件で、歴史の展示を見に来たらしい。
くそっ、奈良坂め……なんで断った……! お前のせいで俺拉致られただろーが。奈良坂が上手いこと誘いを交わしたらしくそれの代役として白羽の矢が立ったのが俺だ。ホントなんてことしやがる。くっ。
悪態をつきながらあれよあれよとやって来たフードコート。あろうことか四人席に座り、あまつさえ米屋が古寺の隣に座りやがった。そして空いた三輪の隣の空席を三輪が座れと催促してくる。もうやだなんか仕組まれてる気がする。(後に米屋によって仕組まれていたことが判明する)
復讐対象の隣に座るとか、もうコイツをグチャグチャに殺す未来しか見えない。俺のサイドエフェクトがそういっている。
しかも! 最近新型のネイバー、トリオン兵が頻繁に出没していると言われるのだ。なんてこったこんなことしている暇は無い。
それを理由に連れていかれていた直後に本部で喚いていればいおりさんと迅さん姉弟が見計らった様に現れ二人とも口を揃えて「赤坂も行った方が良い」と言われてしまった。
いきなりの迅さんの登場に三輪が顔をしかめてグルルと効果音が付きそうなほど、迅さん弟のみを敵視していた。三輪もいおりさん大好き人間である。
そしてなんてこった。迅さん一人なら言うことなんて聞かなかったのに、女神を連れてくるとは何事だ、いおりさん眼鏡で隠れてるけど隈出来てるよ漫画で疲れてるんだよ休ませてあげて! 卑怯にも程がある。いおりさんを出されたら断るどころか従順になること知ってるだろ!
その時も「いおりさんが言うなら喜んで行ってきます!」って返事したよ俺!
とにもかくにも、二人が言うんだから何か起こるんだろう。用心しておこう。
とりあえず、正面の米屋の脛を席につきながら蹴り飛ばし、俺の隣でカレーを頬張る三輪を気が付かれないように睨んだ。
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またまた番外編【柚宇さんシリーズ】時系列は三輪達がタマガタワーに居るとき。
**
「太刀川さんのばか〜」
エンジニアが居る開発室へと続く廊下で、国近は段ボールを片手にぷくっと頬を膨らませて踵を鳴らしながらそう呟いた。
彼女は普段ここは通らない。ここを歩いていてるのには理由があり、ボーダーでもトップのダメンズ、太刀川慶のせいだ。どうにもエンジニアに提出予定のカスタマイズ資料を出し忘れていたようで、「ランク戦してくる! 頼んだぞ国近」と真夏のカブトムシを探す少年のように隊室を飛び出して行ったのだ。
心優しい国近は甘んじてそれを了承し、迅の姉であり、風間の彼女の(風間隊に入るかもしれないと噂が立っている)いおりが太刀川隊にいた頃から存在する(餅を焼く用の)七輪を蹴飛ばして壊すだけにしてあげたのだ。それだけで収まるとは、なんと心優しい。
「太刀川さんに今度ゲーム買ってもらおー」
のんきに微笑み、失礼しまーす。と開発室の扉を開ける。ざわざわとあちらこちらで話し合いを行っていて煩いわりかし広い開発室を一望し、担当さんへと段ボールを渡した。これで国近の任務は完了である。(のちにそれが太刀川の取り寄せた特産の餅と言うことが判明し、開発室の皆さんが差し入れと勘違いして美味しくいただいた。太刀川さんは自分で資料を持ってきた)
さて隊室に戻って水美とゲームしようかな、なんて思って踵を返したのだが、「よし。宮路、お前一昨日から徹夜してたろ、休んでこい」『えーっ! 全然眠ないで!? 俺はまだやれるんやで!?』「お前一昨日からなんも喰ってねーだろーが。あと上司に敬語を使え」と会話が聞こえてきて、向こうからふてくされた宮路がとぼとぼ歩いてきたのだ。
身長185cmの長身はいつも通り目立つが、研究用白衣と相まっていつもよりイケメン度が大幅アップしている気がする。
「みゃーじー!」
『おー? おお! 国近ちゃんやー』
「今からご飯なのかね〜?」
『せやねんなー』
「一緒にいこー!」
『うぇーい』
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いおりside
数日前、米屋や赤坂、三輪、古寺が訪れたタマガタワーで大規模な戦闘が行われた。未来はもちろん、アニメも見ていたのでこうなることは分かっていた。
今までの大二次大規模侵攻の時のキャラクターの台詞はコミックスと変わりは無く、コミックス通りの台詞を喋っていた、一字一句間違えず。これはちゃんと覚えている、台詞を覚えていたから。
だからこうなることも分かっていた。
夜、あたしたちはボーダーに緊急収集を掛けられ、集まったのだがどうも四塚市の遊園地で敵側が同じくしてやって来たゼノ、リリスを含めた三雲達を閉じ込めたようだ。遊園地全域を使って。ここまで来たか、と瞼を閉じる。恐らくそこには玉狛第一と出水、米屋、古寺がいるはずだ。その壁のようなもので囲まれた遊園地の外に。
それと同時に周りに大量の新型ネイバーが出現、B級以上が狩り出された。
ヘリに乗っているあたしはドア付近でアタシも連れていってくださいと言っていた夏目に待機していろと命令を出しているところだ。いやしかし、ここに赤坂の姿は見受けられない。はて、どこにいるのだろうか。
話を終え、あたしの横に座った風間に聞く。
『蒼也、赤坂はどこにいる』
「……赤坂は出水達と居るらしい」
『は。そんな未来は視ていないぞ』
「……どういうことだ」
『あたしが聞きたい、一体どうなっているんだ』
.
補足
ここで書いている原作沿いは完全にコミックスと同じ台詞を喋らせています。ちょくちょくいおりさん出現し、台詞を取られたり、ランク戦は他のキャラクター視点で捏造して書いていますが、原作沿いを書いている人は台詞と流れのみ参考にしていただければ幸いです。
いおりside
さて、新型が出てきたりゼノやリリスの出てきた怒涛の一週間があっという間に過ぎていき、明日は三雲隊の上位戦だ! なんて結果は知っているけど、解説で呼ばれているあたしは微量ながら奮起していたのだが。
目の前でやけに真剣な表情をしている風間へと視線を向ける。
『……もう一度言え、蒼也』
頼むから冗談であってくれと内心思いながら風間に告げる。
ここはあたしの部屋。どういうわけか赤坂とは別室になったわけで、今この部屋に居るのはあたしと風間のみ。
風間は変わらない表情で先程と同じ言葉を紡ぐ。
「抱かせろ」
『抱いてくれの間違いじゃねえのか』
いやはや、しょっぱなから下品な事で申し訳無い。些か雑になって本来の喋り方が飛び出て来てしまったが、割愛してほしい。
目の前で腕組みして平然とする風間を見つめる。先程のあたしの発言で気を悪くしたようだ。いやだって身長さほぼ12cm差ぐふっ!
思考を読み取ったのか腹部に強烈な正拳突きをかまされた。たまらず風間の肩に手を置いて腹を抱える。
『……そ、うや……なに、をする……』
「お前今失礼なこと考えなかったか」
『……悪い……身長差が約12センぐっ!』
嘘をつけばぶっ殺されると思ったあたしは素直に思ったことを言ったのに綺麗な上段右回し蹴りを頂いた。なにこいつ。型、超綺麗なんだけど。少林寺拳法でもやってたのかよ……。少林寺拳法って形重視だよなぁ、威力もそこそこあるし……空手は威力第一だけどさあ。そもそも彼女ばきばき殴る蹴るする彼氏ってどうよ、未来の嫁さn……違った旦那さんだった。これは素直に悪かった。
『とりあえず、なんで今なんだ』
「俺がお前とヤりたくなったからに決まってるだろうが」
『字が違うだろ』
「合っている」
『えぇ……そんな決まり知らないんだが蒼也』
「……」
『いや、そんなを顔するなよ』
「……」
『やめろ』
「……」
『やめろ』
しぶしぶと言ったように引き下がった風間にほっとし、可愛くなって子供の様に頭を撫でくり回した。結果顎に頭突きを喰らった。
嘘だろいってぇ……。
.
いおりさんside
『あ¨?』
「え」
……なぜあたしが目の前に居るんだ。
待て待て、皆さんに経緯を話そう。事は30分前へと遡る。
**
今日は久々に太刀川隊の隊室へと様子を見に来ていた。なぜか太刀川が部屋の隅でうずくまっていたのを出水と水美に聞けばどうやら以前国近に提出忘れの資料を運んでおいてくれと言った際、国近の気分を害してしまったらしく、あたしがまだ太刀川隊にいた頃A級昇格祝いでやった七輪を割られたそうだ。そしてそのまま一週間このままだと言う。なんてめんどくさい男なんだ太刀川慶。
「おら太刀川、いおりさんきてくださってんだぞいつまでもメソメソしてねぇでシャンとしろだらしねぇ飛ばすぞ。」
「何を飛ばすの赤坂!?」
「……辞書?」
「殺す気満々!?」
「いちいちうるせえよトリガーホルダー叩き割るぞ。ついでに大学の課題とレポートもしろ埋めんぞくそが」
「赤坂なにいおりさんの前で余計なこと……!」
『……よし来た任せろ赤坂。後で太刀川を蒼也とシバく』
無表情で親指をたてれば出水が「いおりさんサイコー!」と爆笑し出す。とりあえず出水にはそこにあったゲームのコントローラーをぶん投げた。
『次は風間隊に顔を出す予定なんだ。後でまた来る』
「ホント風間さんといおりさん仲良いですね」
『……そうか? 普通じゃないのか?(ったりめーだろ。なに言ってんだ蒼也マジ天使だぞなめてんのか轢くぞ出水! そりゃ今にでも襲って犯してぇわ! 紅潮した蒼也の顔拝みてぇわ! 恍惚としてぇわ! それをなけなしの理性をかき集めて必死に押さえてんだよ分かれよボケカス! てめぇらみてぇな思春期じゃねんだよくそが! ああもうもどかしいなオイ!)』
「……なぁ出水、俺今いおりさんの副音声聞こえた気がしたんだけど」
「そうだな剣人、なんかいつものいおりさんじゃないような……」
『お前達、なにを言ってるんだ? ?』
その頃の風間。
「っくしゅ!」
「大丈夫ですか? 風間さん?」
「……ああ、悪い歌川」
「やめてくださいよ風間さん、今からいおりさん来るのに」
「そうだな菊地原」
「あ、私ちょっと見てきますね」
「頼んだぞ三上」
そして太刀川隊隊室から出たあたしは早く行かねばと駆け出して曲がり角であたしの様子を見に来た三上と遭遇。
三上も走っていたので正面衝突、人格が入れ替わって今に至るのだ。
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なんやかんやで二人はもとに戻った。ww
オリジナルで話を書く。ここから稲葉ちゃんメイン。いおりさんシリアスになる。
稲葉side
嫌な予感がする。こう、胸のうちを抉られるような、尊敬する人のばれたくない秘密がバレる様な。
「稲葉?」
「どした?」
教室の昼休みにて、嫌な予感がすることについて悩んでいれば出水と米屋に声を掛けられ我に返る。
もくもくと二人して惣菜パンを頬張っているのを見て笑ってなんでもねぇと返す。
『ただ、嫌な予感がしてさ……』
「やめろよ稲葉! こええ!」
「お前の予感は当たるからな!? 自覚しろよ!?」
二人して騒ぎ出すものだからその場しのぎで気のせいかもなー、とぼやかす。気のせいではないのは、確かなんだが。
『当たらなきゃ、良いんだがなぁ』
そう呟いた途端だ。遠くでウゥーと唸るような警報が鳴り、何事かと目を見開く。
『なんだろな?』
「ゲートはひとつだけっぽいからなあ」
「いつも通りトリオン兵じゃね? 人型ネイバーってことはねぇだろ」
『そうだといいんだけどなあ』
その時は気にも止めず、昼食を再開。だがしばらくしてボーダー支給のスマホがバイブレーションで震え出す。三人一斉に、だ。
『こちら普通校2-B組、本部。どうしました!?』
<A級全員出動命令だ! 先程開いたゲートから人型ネイバーが現れた! 現在二宮隊の二宮と鈴鳴第一の村上がベイルアウトした!>
これは、ヤバイ。
考える暇もなく三人でトリガーを起動しトリオン体へと変換する。やって来た担任に『ボーダー緊急出動命令が出たんで午後は出ません!』とだけ告げて教室の窓から三人で飛び出して目的地へ向かう。
胸騒ぎというなの嫌な予感は益々増してきた。
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稲葉side
「赤坂の嫌な予感は的中、ってか?」
『多分ちげぇ。胸騒ぎは大きくなるばっかだし、これじゃねえ』
俺と出水は米屋と別れて水美を拾いに向かっていた。この三人が揃わないとやっぱナリじゃないって言うか。
屋根の上を掛けていれば同じように走っていた水美と遭遇。どうやら同じことを考えていたようだ。
「ヤバそうだなコレ!」
『嬉しそうな顔すんじゃねえ水美、これはホントにやべー』
今はヤバイとしか言えないが、ホントにヤバイ。何かが壊れそうだ。
俺の……いや、あたしの秘密がバレるまであと___5400秒。
.
『っ!!』
場に到着してから三人での得意な戦闘に入ったのだが、相手があまりにも強すぎる。刀のような黒い刃物、恐らく黒トリガーと思われるもので俺は吹き飛ばされた。いや、弧月で受け太刀をしたから左腕を無くした程度で助かった。
吹き飛ばされてそのままバックのビルにぶつかり勢いで壁が破壊。瓦礫が降ってきて弧月を使いながらかわす。
<赤坂!>
<大丈夫か稲葉!?>
『大丈夫だ出水。結構ぎりぎりでな。でも左腕無くしちまった。援護頼むわ! 二人とも』
<任せろ! 剣人行くぞ!>
<おう! っていうか太刀川さんまだかよ!>
『これが終わったらまず隊室の太刀川さんの餅含めた私物轢く』
<<手伝うぜ>>
そこからグラスホッパーを駆使して相手に接近して旋空からの幻踊。黒トリガーを狙ったのだがあっさりかわされた。
「視線が丸見えだよ、赤坂稲葉ちゃん」
『……!? なんでてめぇが名前しってんだよ!』
「そりゃあ、見てたからね。ずっと、ずぅっと__」
人型ネイバーが俺にそういったあとにやりとわざとらしく口角を吊り上げた。途端ゾッとした冷たい空気に襲われ本能的に腰を低くして弧月を構える。
「……なんだっけ? 君がボーダーに入った理由」
『うるせぇ! てめえにゃ関係ねぇだろくそネイバー!』
「ふふっ。僕は君のことなら何でも知ってるよ、あれだよね? 自分に姉の代わりに死んでしまえば良かったと言った兄弟への……いや」
『うるせえっつってんのが聞こえねぇのか! 黙れよ埋めるぞ!』
コイツ、どこまで知ってんだ? 何を知ってて何が知らないんだ? 嫌だ、やめろ。知ったような素振りをしないでくれ。
「ネイバーじゃない、同じ人間への復讐か」
コイツがそれを言い終える前に、俺は首を掴まれた。物凄い力で。吸肺気管が圧迫されて、息が……!
あー、ヤーベェ。
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途端、ずどんとソイツの腕が切り落とされ、俺の体も重力に逆らわずどさりと落ちる。ざかざかとわざと足を鳴らしてやって来る四つの足音に目を向ければ。
『しゅ……三輪……』
その先頭には我が憎き兄、三輪秀次。その後ろに出水と水美。一番後ろにはとてつもないオーラを放ついおりさんの姿があった。恐らくコイツの腕を斬り落としたのは三輪だ。だって弧月抜刀してるし。有難いが、嫌だ、来るな。こいつは俺の過去を知ってる、絶対バラす、三輪にだけは、嫌だ!
咄嗟に立ち上がり弧月を構え直す。冷や汗がたらりと背中を辿った。それと同時に目の前の人型ネイバーがくすりと笑う。
やめろ、喋るな喋るな喋るな喋るな喋るな喋るな喋るな喋るな喋るな喋るな!!
「ああ、いおりさんだぁ……」
だが、そいつが口にしたのは俺の事ではなくいおりさんの名前。なぜか恍惚とした表情でふるりと肩を震わせ、自分の抱き締めるように腕を抱いた。それが気持ち悪くて仕方なかった。キモいキモいキモいキモいキモい! 気持ち悪い!
血の気がサッと引くのが分かった。だがしかし、いおりさんはピクリとも眉ひとつ動かさず、いつも通りのポーカーフェイスで自身の紅い弧月に手を掛ける。前髪が邪魔で目は見えない。多分この場に風間さんか迅さんがいれば首を獲りに行っただろう。セコム怖い。
「僕は貴方の事なら、何でも知ってるよぉ……! 生まれた時から、生まれる前から! なぜならあなたを愛しているから!」
その言葉にいおりさん以外が首をかしげた。生まれた時から? 生まれる前から? コイツは本当に何を言っているんだ? と言うか愛しているから! って……これが無線で聞こえてりゃ風間さんに心身共にズタズタにされるぞおい。風間さんいおりさん大好きなんだぞ、怖いんだぞ!
「気持ちの悪い事を、言うな!」
今まで黙って聞いていた三輪が目を釣り上がらせて弧月を構えた。左手はバックのハンドガンへと伸びている。やめろ、三輪! 来るな!
人型ネイバーはにこにこしながら「わぁ怒ってる」とにへらと笑う。ゾッとした。三輪を前にこんなに余裕でいれるこいつに。
「ねえ、稲葉ちゃん……! 君の片割れが怒ってるよ……妹の首を圧迫されていたから、お兄さんの秀次君が怒ってるよぉ! ねえ! 三輪稲葉ちゃん!」
『っ!』
言い切った。言い切ったな、コイツ。三輪稲葉と、秀次の前で、言い切ったな、お前。三輪の目が見開かれ、後方の出水と水美が驚きの声をあげている。いおりさんはどこからか知らないが予想がついていたらしく、「やはりか」と小さく呟いた。
.
「ねえ! 今どんな気分だい三輪秀次君! 妹に激似の女の子は本当に君の妹だったんだよ! 死んだと思われていた妹だったんだよ! ねえ!」
その言葉で三輪、秀次がこちらを向いた。まるで嘘だと言っているように、本当なのかと答えを問う様に。
震える唇を必死に動かして、秀次は口を開いた。
「あ、かさか……それは、本当なのか、」
そんな問いには顔を背けることしか出来ない。はーやだやだ、出水とか水美とかも深刻な顔しちゃってさー。
深刻な状況ながら笑って居るのは人型ネイバーのみで、反吐が出そうだ。
「ねえ! 三輪君! どうなの? 妹に騙され続けていた気持ちは! 是非教えてほし「黙れ」
その瞬間足元が割れて、俺の右足ごと人型ネイバーは二つに斬られた。視線を向ければその先には目のハイライトが消えている、と言うことだけが違う、無表情のいおりさんが弧月に手を掛けている所だった。
……え? いつ抜いたの刀。もう鞘に収まってるし……え?
いおりさんは俺の疑問を知ってか知らずか次に進む。
「……はあ。お前さぁ、さっきから聞いてりゃゴチャゴチャゴチャゴチャグチャグチャヌチャヌチャと粘着質にうるせぇんだよド変態野郎。なんなんだよウゼェんだよいい加減にしろよマジぶっ飛ばすぞこれ以上仕事増やしてんじゃねーよ報告書とかさ、意外にめんどくせぇんだわ。どうしてくれんだこの野郎。あー苛つくわー、それこそグチャグチャのヌチャヌチャのズダズダのバキバキにしてやるぞっつーか何でもいいんだけどさ、とりあえずうるせぇから黙ってろよ、そんあとに全力で勝手にしんでろ他に迷惑かけに来んんじゃねーよド底辺野郎吊り上げるぞ」
この長い文章をつらつらつらつらとノンブレスで言い切ったいおりさんは凄いが、口調がどうも……と言うかいつもと全然違う。雰囲気すら別物だ。いつものいおりさんは寡黙かつクールなのに、今はあれだ、何て言うんだっけ……そうだ、なげやりと言うか無気力と言うかめんどくさがってると言うかいつものいおりさんとは架け離れている。いおりさんの本心はこうなのかなと理解し掛けたとき、人型はトリオン体から生身に戻り「ゲーム終了、あーあ、案外速かったなぁ流石いおりさん」と呑気にアクビを咬ました。
それにいおりさんは苛ついたのか知らないが再び溜め息を吐いて頭を掻く。そのあと無表情に戻ってそのネイバーの顔面をブーツの爪先で蹴り飛ばした。えぇ……? 蹴り飛んだよ……。
「てめーの戯言に付き合う気はねえ」
「いったた、流石いおりさん。何事においても完璧で居たいからと演技も完璧だ、本心みたいだ……ぐぷっ」
演技もとソイツがいったあといおりさんは無表情で弧月をそいつの心臓に突き刺した。
「演技もバレるのか……バレると言うのは完璧ではないからか、のちに試行錯誤でもしようか」
ネイバーを殺すことに何の躊躇いもないのか、そのままグチャグチャと弧月を心臓に突き刺したままこねくりまわす。あれ絶対痛いわ……っていうかもう死んでんじゃね? アイツ。動かないし。
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どうやらあのストーカー染みた男は死んだらしく、一件落着。今回の論功行賞の特級戦功は多分と言うか確定でいおりさんだろう。
さて。男の方は解決したが、俺の方は兄のことが落着していない。ああクソめんどくせえな!
戦い終えて瓦礫ばかりになったこの場で、いおりさんは「ちょっと報告してくる、ついでに回収班も呼んでやるから早く事を済ませろ」と言い通信を繋いでいた。副音声で風間さんの下の名前を連呼していたように思う。いおりさんも大概の風間さん大好き人間だ。
さあ、ちゃっちゃと事を終わらせようか。変換体を解いて目線を送れば、目の前で此方をジッと見つめてくる三輪が口を開いた。
「お前は本当に、稲葉なんだな? 三輪稲葉なんだな?」
『いぇすあいどぅ。正真正銘、俺は三輪双子の片割れの三輪稲葉だよ、もう縁は切ったけどな』
そう言えば三輪はずかずかと歩いてきて俺の肩をがっしりと掴んだ。そしてばっと顔をあげれば目に水の膜を張って今にも泣き出しそうな顔で俺を見つめる。
「俺はお前に、取り返しの、つかない事を言った」
『知ってる』
「それ以前から、冷たく当たっていた」
『知ってるよ』
「居なくなってから、大切さに気が付いた」
『……知ってる』
「お前が俺を憎むのには、正当性がある。でも、」
『……』
ぼろ、そんな効果音が付きそうなくらい大粒の涙を一粒流して、最後の一言を三輪は言いきった。
「もう、いなく、ならないでくれ……。……もう一度、俺の双子で居て、くれ……!」
その言葉に俺、いや、あたしも涙がぶわっと込み上げてきて、二人して地面に座り込んで、声を殺して泣き出した。
「俺に、もう一度、お前を愛する資格をくれ……!」
『……しゅ、じぼけ、ぇ……くそぼけ……!』
それから二人揃ってわんわんと大泣きした。慌てて水美と出水が駆け寄ってきて何も言わず見ていてくれた。
.
Noside
ボーダー本部通路で、いおりは頭を悩ませていた。原因はもちろん今回の件と三輪稲葉のことでだ。
『(原作にはこんなトラブルは絶対に無かった。だって今はB級ランク戦の途中、そんなことあり得ない。ガロプラだってまだなはず。イレギュラーといえば、やはりあたし……。しかし、三輪妹は居ただろうか、原作に。思い出せる限りのBBFには三輪の家族構成は父母姉のみだったはず……。こんな事態、普通はあり得ない。今回の件と言い、見覚えのないキャラクターの件と言い……イレギュラーは、)
やはり、あたしか……』
「なにがだ」
つかつかと通路を考えながら歩いていたからか、背後の気配に気が付かなかった。後ろを振り向けばやはりそこにいたのは風間。怪訝な顔をしていると言う可愛らしいおまけつきだ。
『蒼也……』
「相当考え込んでいる様だないおり。会議室通り越してるぞ」
『……悪い、疲れた』
いおりはそう呟いてトンと風間の肩に額を乗っける。風間が「どうした」と聞けば『諸事情だ』と幾分か疲れの見える声色でいおりはそう返した。やはり、わからない。
『……あたしのサイドエフェクトに、今回の事は引っ掛からなかった』
「なんだと?」
『ああ、こんな事が起こる未来は無かったんだ』
.
「稲葉、戸籍はどうするんだ」
翌日のボーダー、詳しく言えば三輪隊隊室で、隊長である我が兄三輪秀次が和室で正面に座る俺に声を掛ける。
『あー、戸籍はそのままだな。だって一応死んじまったことになってるし』
「……そうか、そうだな」
妙にうっすらとした笑みを讃えた秀次は昔とは比べ物にならないほど雰囲気が丸くなった気がする。以前なんて近寄んなオーラを俺にたいして撒き散らしていたくせに。どうやら俺の大切さに気が付いたようだ。偉い偉い。
『あー、秀次と仲直りしたし、隊でも移動しますかね』
「太刀川隊を抜けるのか?」
『おー。城戸さんに無理言って三輪隊入らせてもらおうかなって。あ、でも月見さん全員分の情報処理大丈夫かな』
「それなら多分大丈夫だ、月見さんだぞ」
『秀次が言うなら大丈夫っぽいな、よしよし。俺三輪隊入るわ、よろしく三輪隊長』
「お前も元三輪だろ」
『俺今赤坂、三輪違う、旧姓』
「片言か、面倒だな」
『うわコイツ双子の片割れに面倒っつった、今コイツ面倒っつった!』
「うるさい黙れ」
『うぃっす』
.
どうも、ごきげんようアポロです。
実は続きを書くか迷っていたのですが、悩みに悩み抜き結局完結ということに致しました。
いやはや、ここまで長かったですよ。そりゃあもう長かった長かった。
と言うわけで、最後に番外編でちまちま書いていた国近さんの続きをのせようと思います。
でわでわ。
国近の続きを書くだのなんだの言って書かなかったアポロです。改名してぜんざいになりました。
発表します!
国近さんのお話は皆さんのご想像にお任せするとして、次のお話は「三輪隊セコムとB級に留まるけだるげ実力派エリート」の話を書こうと思います!
発表は以上!
夢主設定はいおりさんにバンダナをつけてダルそうにした感じです。実力派だけどA級に上がるのがめんどくさいという思考の持ち主です。
やはりイケメソ。いや、イケメンです。
.
高二設定で普通校。名前は『明智 伊奈』で。オリジナルキャラクター出てきます。夢主彼氏有。
**
今日も長かった一日の授業が終わり、くあとあくびをする。思い立ったかのようにばっさばっさと女子がするとは思えない程適当に教科書類を鞄に詰め込んでガタリと席を立つ。
出水曰く『死んだ目』をしている私は目のハイライトは無いわ目付きは悪いわ隈は酷いわで近寄る人はあまり居ない。別に寂しいなんて思わない。むしろ静かにしててくれてありがとうと感謝だ。ボーダーの奴等が煩すぎるのだホントに。
まあ、今偶然を装ってやって来た下心丸出しのバカな男子生徒みたいなのは頻繁に現れるからそれこそ存在が煩い。どうせあれだろ、胸だろ。ボンキュボンなんてこと自覚している。自分としては男のような体型が良かった。だって私身長は179cmもあるからもう男でいいような気もする。
「なあ明智、今日暇? 暇だったら一緒に遊びに行かね? 二人で」
同じクラスになってから気になってたんだよねー、と軽い言葉を投げる自称同じクラスの男子生徒を上から冷めた目で見るも、気付く様子はない。面倒だから聞き流そう。
結果、勘違いされた。聞き流しているのを了承と取ったのか知らん事ばかり進め始め、私の手を握る男子生徒。別に行きたくないしこれからボーダーで任務なんだけど、いい加減にしろカス。
そこで、私の親友とも言える同じクラスの男子生徒、真揮が「おいやめろって!」と血相を変えて割り込んできた。と、同時に手が離れたので顔には出さず、ホッとする。
ありがとう真揮、お前のこと大好きだ。
目の前の自称同じクラスの男子生徒はまるで彼女とのやり取りを邪魔されたように不機嫌に顔を歪めた。
心底うざい勘違いクソ男だ。真揮に謝れ、愛しいまきまきに謝れ!!!
「おい暁、邪魔すんなよな。興が削がれるしさー、今俺明智と予定話をしてんの。余計なことすんなって」
「いやいやー、やめた方が良いぜ。伊奈に手ぇ出すの」
「明智と俺の間にお前が手ぇ出すのやめろよ、マジで」
面倒になってカバンを肩にかけて歩き出そうとすると男子生徒は私が「早く行こう」と急かしているように見えたのか、気持ちの悪い笑みを浮かべ、真揮こと暁 真揮から視線をそらしてそれでさぁと手を繋がれる。そのまま歩き出す男子生徒に嫌気が差した。手を振りほどこうかと思ったその時、繋いだ手の上からチョップが飛んできたのだ。
あ。
「お前、なにしてる」
三輪隊長が降臨なされた。いや、まあクラス一緒だからそりゃそうなるよね。隊長は今まで米屋や出水のいる二組に居たそうですハイ。
.
【セコム】友人が助けてくれた【キタコレ】
1:知りたい名無し
なんだこのスレ
2:知りたい名無し
釣り?
3:知らせたい名無し
すまねえ事実だ
4:知りたい名無し
おっ。スレ主か!! とりあえずコテハンとスペック頼むわ!
5:知りたい名無し
頼むわ!
6:明智
了解!( `∀´ゝ
明智←これ私
ボーダー所属のしがない隊員。尊敬してる人はみんな知ってる迅 いおりさん。なんか周りからボーッとしてるって言われる。
要らんセコムがいる。喧嘩上等!
大事な友人
真 前髪の半分を赤いピンで止めている男子生徒。茶髪がさらっさらで髪がはねまくっている。人なつっこくてイケメンの癖にムカつかない可愛い奴。空気が読める(
彼氏
隠 髪の毛もふもふしてる男子生徒。イケメンで泣き黒子。ボーダーのとある隊に所属。通常『機動型スナイパー』関西弁。
セコムども。
三 目の下の隈が酷い。お姉さんをネイバーに殺されて復讐心を燃やす。目付きが悪すぎる。とある隊の隊長。イケメン。
奈良 キノコ頭のキノコ派を装うたけのこ王子。凄腕スナイパー。これまたイケメンだからむかつく。
米 カチューシャをしている死んだ魚の目をしている首狙いから最近は足狙いの槍使い。飲み物が好き。お魚ジュースを飲んでいるところをよく見る。三馬鹿のうちの一人、槍バカ。
出 金髪で分けた前髪をわざわざ目にぶっこんでいる。ボーダーのとある隊で感覚でシューターをやっている天才肌。エビフライが好き。三馬鹿のうちの一人、弾バカ。
7:知りたい名無し
ぼ、ボーダー所属だと!? もしかして同じ学校か!? いつも守ってくれてありがとう!
8:知りたい名無し
えっ、>>7学校一緒かもしれないのか!?
9:知りたい名無し
羨ましいなおい!
10:知りたい名無し
もしかして知ってたりする!?
11:知りたい名無し
羨ましいわねこの!
12:明智
聞けや
13:知りたい名無し
14:知りたい名無し
15:知りたい名無し
16:知りたい名無し
17:知りたい名無し
18:知りたい名無し
こ、KOEEEEEEEEEE!!
19:知りたい名無し
ごっ、ごめんなさい!! 怒らないで!
20:明智
ならよし。今現在進行形で要らんセコムVS自称同級生の攻防戦が目の前で行われているわけだが……。
知りたい人ーーー!!
21:知りたい名無し
はーい∀´/
22:知りたい名無し
はーい∀´/
23:知りたい名無し
早くしろよ、寒いだろ
24:知りたい名無し
うるせえ変態。これでも着てろ。
ゝコート
25:知りたい名無し
ゝブーツ
26:知りたい名無し
ゝ帽子
27:知りたい名無し
変態じゃねーかwwwww
28:明智
経緯はこうだ! どどぉーん
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2chで経緯を話し、結果も伝える。勝者は三輪である。「明智は今日ボーダー防衛任務だ、余計なことをするな、邪魔だ」と切り捨てた。わぁこわぁい。2ch内でも容赦ねー! とかこわーいと似たような反応が。
そこでやって来たのが三輪の双子の妹である稲葉ちゃん。
「おう? 秀次なにしてんだ? 伊奈ちんも、早くいこうぜー」
私と三輪の首根っこを掴んてずるずると引きずっていく稲葉ちゃんの腕力に感服。三輪は三輪で「……自分で歩ける」と手を振りほどき、隣を完全キープしていた、出水が「!!」と反応していたのが見える。まあ、あれだ、出水は稲葉ちゃんに惚れているのさ。ふっ。
すると隣からぴょいと顔を覗かせた人物が。真輝である。
「無事かー? お前も大変だなー、三輪隊その他のセコムに囲まれて」
『マジそれな』
「あっ、てか知ってた? いおりさん近々風間さんと籍入れるらしいぜ」
『え、マジ!?』
「マジマジ、みかたん情報だし」
『彼女が風間隊だと情報はえーな』
「ふへへー、みかみかは天使だな、大天使歌歩エル」
『ミカエルみてえに言うなよ』
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突然の長編。【WT×FA】書きます! マスタング大佐がワートリにトリップします。
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瞼がやけに重たかった。いつから寝てしまっていたのか、確か溜まりに溜まった書類を中尉に押し付けられ、泣く泣く片していたはずだ。ホムンクルスとの大戦から半年、私は准将として我が右腕を振るっていた。国家錬金術師としての資格もあと数年で取り消されるだろう、その時私はどうなるのかと未来に頭を抱えていた。のに。
重たい瞼を開き、むくりと上体を起き上がらせると、視界には淡く光る刀身の刀を持つものや、銃を構えるものが居た、なぜかキョトンとした顔をしながら。明らかに私に向けられているそれに警戒を強めて手袋を力強く填め直す。そしてゆっくりとした、だが威厳は無くさない言い方で私は言葉を発した。
『……一体どういうことだ。ここはどこだ、説明しろ』
明らかに警戒されているのは私のようなので、腰に下がる拳銃をコトリと地面に起き、両手をあげた。衣服はデスクワークをしていたときと同じ青い、私の命を守る軍服で。
私が差し出した拳銃を凝視するやからも居たようだが、この場で一番権力を持っていそうな男が口を開く。
「それはこちらの台詞だ。お前はなぜここに突然現れた」
『愚問だ、それを問うているのは私の方だ。居眠りをしてしまう前に私は確か机に向いてサボりにサボって溜まりまくった書類を整備していた筈。ここの雰囲気は軍とはまるで違う』
「……近界民(ネイバー)か」
『ネイバー? 聞いたことも無いな、少なくとも私の知る国でそんな名のものはない』
両手をあげながら淡々と会話していけば微かに聞こえる小声。「あの城戸司令に普通に喋ってるぜあいつ……」と耳に入って来た、なるほど彼がこの集まりのトップか。
「……近界民ではないと断定できるものがないな」
『話に聞くがそのネイバーとやらはなんだ、ホムンクルスの様なものか?』
「なら聞こう、ホムンクルスとは」
『簡単に言えば賢者の石を埋め込まれて造られた人間だ。奴等は賢者の石の能力で不老不死となり何回殺しても死なない、まあある程度殺せば灰になって死ぬが。そいつらの力は規格外でな、この私も腹を二ヶ所ほど貫かれた、一度視力も奪われた事もある』
色欲のホムンクルス、ラストと戦った時に着いた傷と、それを塞ぐために自身の錬金術で焼いた箇所を服の上からさする。そして最後に皮肉げに「その人間を凌駕した人間が人間の作った軍のトップに居たんだから笑えん話だ」と告げれば周囲は私を見つめたが、城戸と呼ばれる男は「賢者の石とは」と再び質問してくる。
『……賢者の石とは、完全なる物質で出来た真っ赤な血のような石だ。それがあれば錬金術術師なら錬成陣無しで錬成出来るし、失った手足や臓物も作ることができる。そう、人を甦らせることだって簡単だ」
その話を聞いたタヌキの様な男がおぉ……! と嬉しそうに呟くのを聞いて、「だが」と続ける。
『賢者の石も自然とぽんぽん、それこそ湧き水のように産み出されるものでもない。そんな完璧なものを作るには等価交換としてそれなりの材料が必要となる。……その材料とは、人の命だ』
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