原案:角川ゲームス「艦隊これくしょん」
__:松本零士「超時空戦艦まほろば」
筆:Sin
【_艦隊これくしょん_黒い旗の軍艦(いくさぶね)】
「ねえ、知ってる?あの噂。」
「『黒い軍艦旗の艦娘』のことかい?名前は聞いたことがあるよ。」
「何なのです?始めて聞いたのです。」
「そんなんじゃダメよ!このご時世、どんな些細な情報でも、見逃したらいけないんだから。」
「でも、所詮は噂話でしょ?『ただ一人で戦争をする艦娘』だなんているわけが……一流のレディーなら噂話に流されちゃダメだと思うわ。」
「でも、色んな人が見たと言っているよ。案外噂で片付かないものかもしれないね。」
「気になるのです、教えてほしいのです!」
「良いとも。それは……」
【続】
注:こんなのを書き始めておいて何ですが、実はまだ「超時空戦艦まほろば」の原作を読んでいないばかりか艦これもプレイしていません。見切り発車です。色んな矛盾がありましたらご免なさい。
byサクシャ
_黒い旭日旗を掲げた、大和型をすら上回る重武装の艦娘がどこの鎮守府にも属さず、艦隊をすら組まず孤独な戦いを続けている。二ヶ月程前から、複数の戦域で流行している噂話である。当然ながら提督は勿論、多くの艦娘はこの噂を一笑に伏した。絶え間ない戦火に堪えかねた、希望を伴った妄想であると。現実問題として、あり得る話ではない。引き合いに出された大和型でさえ、莫大な資材と時間を必要とするのだ。故に軍部の管理は徹底しており、それ以上の艦娘が、まして実在も定かでないほどに隠匿出来る筈はないのだから。
だが噂を煽るように、奇妙な兆候が戦場に現れていた。
【続】
_某日、伊豆大島沖
「しっかりついて来い!ノロマは置いてくぞ。」
霧深く夜も明けぬ海上に複数の艦娘の姿があった。単縦陣の先頭を往くは、眼帯とグラマーな肢体が特徴の軽巡洋艦娘「天龍」である。彼女に率いられるは駆逐艦娘が四名、艦船としての前世に由来し、第六駆逐隊のくくりで呼ばれる者たちであった。
編制は、天龍に続き響、暁、電、雷の順である。
「Да。心配ないよ天龍。私はどこにも行かない。」
「むー……何で響が前なのよ……私がお姉さんなのに……。」
「ま、まぁまぁ……ともかく、何事もなく帰れそうで良かったのです!」
「本当ね!ふわ……帰ったら早く寝ましょ。疲れちゃった。」
資材確保を目的とした遠征はつつがなく終わり、残すは帰投を待つばかりである。
「明日は龍田に代わってもらうかな……『無理しちゃダメよ〜?』って言ってたしな……。」
「ハラショー、流石にそっくりだね。」
「む……からかうなよ響。旗艦は俺だぞ。その態度は何だよ全く……。」
ちょっとした息抜きの物真似である。無論、この程度のからかいで本気で怒る天龍ではないが、それでも年長者として恥ずかしかったのか響を嗜める。
「電探に目を通しておけよな、全くよう……っ!言った側からこれだ!」
「はわわ!こっちでも捕捉したのです!」
「おおお、落ち着きなさい!一人前のレディーはう、狼狽えないのよ……!」
「あなたが一番狼狽えてるわよ暁ったら。……響、そっちは?」
「……少しまずいかもしれない。艦影が大きいみたいだ。そうだろう?天龍。」
「ああ、見えてる……馬鹿にしやがって、戦艦だ。」
接近するのは人型の深海棲艦、戦艦ル級二隻と……最新鋭艦、レ級が一隻である。両軍の戦力差は明白であった。
「全艦、歓迎委員会に付き合う必要はねえ。ずらかるぞ!俺から離れるな!」
敵に背を向け、全速力で退避行動に入る。ジグザグの回避運動を行う遠征艦隊と、その隙間に上がる水柱。未だ射程圏内。
「ダメ……!逃げられないの……?」
「弱音を吐くな暁!私たちは必ず大丈夫だ!」
「はわわ!……きゃあっ!」
金属のぶつかる鈍い音、閃光、爆音。電のいた場所。
「っ!電!?電!大丈夫なの!?返事をして!」
雷が悲鳴とともに接近すれば、海上に突っ伏していた電を抱き起こす。残り三名も反転し、二人を庇うように遠くの敵へ向き直る。
「っ!電ァ!へたばんなよな!」
「けほ……大丈夫……なのです……。でも、艤装が……!」
敵砲弾や破壊された艤装の破片が、電の体に少なからぬ傷を与えていた。命に別状は無いようだったが、艤装は最早電を浮かばせるのが精一杯であり、航行は望むべくもない。
「大丈夫よ!私たちで曳航すればいいわ!」
「そ、そうね!電の一人や二人くらい、レディーにお任せよ!」
「問題は、奴らから逃げ切れるか、だけれど……」
互いを元気づける姉妹たちをよそに、響は現実を見ていた。電を曳航すれば、今以上に逃げるのが難しくなる……だが、当電を見捨てられるわけがない。
【続】
先頭は雷。響、暁が電を抱き抱えて曳航し、天龍が殿を努めて撤退を開始する。暫しの航行の後、岩礁地帯に身を隠し、僅かな間ながら体力回復に努める。
「いつまで隠れられるか……。」
その時、電が呟く。
「……みんな。電は大丈夫なのです。このままじゃ皆やられちゃうのです。」
負傷の苦しみに堪えながらの震える声と、普段と変わりない笑顔で、諭すように。
「……電?どういうことだい。」
「電は皆に無事でいて欲しいのです!だから……!」
「はっきり言いたまえ。」
「……電を置いていくのです。少しは時間稼ぎに……っ!」
「電のバカ!」
乾いた音と怒鳴り声。響である。電は頬を押さえる。
「人の気も知らないで……!勝手に先走って!残される者の身にもなってみろ!」
雪のような髪を振り乱し、普段からは想像もつかない怒りを露にした。だが直後、怒りの形相をくしゃくしゃにして響は泣き出した。
「もう……私を置いていかないでくれ……!」
前世……艦船であった頃の記憶。最後の第六駆逐隊は響只一隻だった。
「電……あなた本当にバカよ。お姉ちゃん、あなたを生け贄にした人生なんて堪えられない。」
電の頭を撫でる暁。
「電、『沈んだ敵も助けたい』なんて言える貴方が、仲間を辛い目に遭わせてどうするの……。」
響の涙を拭う雷。
「……ごめんなさいなのです。」
そこへ天龍が割り込み、仁王立ちのあと深く息を吸い……語る。
「全くだ。良いか、電。テメーの命は俺の預かりだ。勝手にくたばんのは許さねえからな!無論!テメーは、いやテメーら全員!俺が責任持って鎮守府に帰してやる!分かったな!」
勇ましき宣言。六駆の面子はあっけに取られながらも、緩やかに笑みを取り戻していった。
「あ、当たり前よ!暁は一人前のレディーなんだから沈んだりしないわ!」
天龍、頷く。
「Ура!不死鳥の名は伊達ではないよ。」
天龍、歯を見せて笑み、頷く。
「大丈夫よ!むしろ、もーっと私に頼って良いのよ?」
天龍、肩を揺らして笑いながら頷く。
「……もう、弱音は吐かないのです!絶対に皆で帰るのです!」
「よし!」
天龍は会心、とばかりに拳を握った。
【続】
「とは言え、やることは一つしかねえ。」
直後、一行の隠れていた岩礁に砲弾が飛来する。
「チッ!流石に見つけるか!逃げろ!」
天龍は岩礁に身を隠しながら六駆に脱出を命じ、彼女らもそれに従った……ただ一人、響を残して。
「おい、聞こえなかったか。」
「天龍こそ、自分で逃げろと言ったくせに。」
「そりゃあお前、俺はお前らとは錬度が違うんだよ。俺なら残っても死なねー。」
「でも……。」
「ごちゃごちゃ言うんじゃねえ。ほら、あいつらあそこで待ってるぞ。」
不思議そうに首を傾げつつも、敵の発砲炎と残った二人を見れば焦りだす六駆の三人。遠くから手を振ったり、何か叫んでいるようだ。
「君を待ってるんだろ。逃げるも残るも一緒……っ!」
響の顔に……天龍の刀が突きつけられている。
「……早く行けよ。俺は沈まん。」
「……死ぬなよ。」
響は帽子を目深に被って背を向ければ小さく呟くが、天龍がすかさず彼女を小突く。
「縁起でもねーこと言うなよ……少し遊んでから帰る。あいつらにも言っとけ」
【続】
離れていく響たちを見送った天龍は、岩礁の陰より敵の姿を伺う。
「さて……ああ言っちまった以上、くたばる訳にはいかねえな。」
いつもなら、提督に「死ぬまで戦わせろ」と懇願する天龍であったが、「遊んでから帰る」とも「責任持って鎮守府に帰してやる」とも彼女らに言ってしまった手前、先の電の提案を肩代わりするつもりは無かった。時間を稼ぎつつ、自らの生存も成さなければならない。
「何にしても……。オラァ!天龍様はここだぜ!しっかり狙いやがれ!」
敵の注意を引けるよう、探照灯を光らせ勇ましく叫んだ。早速敵艦隊が食い付き、天龍の周囲に水柱がいくつも上がる。
「っ……!素直で結構!」
唯一敵艦に勝る速力を活かし、敵中を矢のように突き抜けた。背後へ抜けた天龍を追うように、180°回頭する深海棲艦たち……直後、ル級の片割れが爆発を生じ、海面に崩れ落ちた。突然の事態に僚艦を見やる残り二隻。
「一丁上がりィ!海水をたらふく飲みやがれ!」
天龍の魚雷発射管は、六門全てが空だった。すれ違い様に全弾を叩き込んだのだ。盾状の艤装の裏側に着弾した酸素魚雷は、防御を掻い潜り艤装と本体を分かれさせるように爆轟を生じ、ル級は仰向けに倒されたまま海中へ消えていった。
【続】
だが、喜んでばかりもいられない。魚雷を撃ち尽くした今、敵に有効打を与えられる火器は最早無い。牽制の為に主砲を撃ち込むが、その全てが弾かれている。
「まだだ、まだ足りねえ……!」
最早敵を沈めることは叶わないが、逃走に転じるにはまだ早すぎる。今少し、時間を稼がねば……。
「っ!」
天龍が刀を振るうと、背後に水柱が二つ上がる。飛来した砲弾を叩き切ったのである。動きの止まった天龍目掛け、砲撃が殺到した。
「ちっ……動けやしねえ……だろーがっ!」
一瞬の隙を見せた内に、敵は照準を定めてしまった。着弾の密度が増し、下手に動けば被弾してしまう。仕方なく、天龍は敵弾を切り払い続けた。
その太刀筋は只の一発さえも通さない。徹甲弾は勿論、時折混じる通常弾は、避弾経始めいて受け流す。信管を作動させぬ繊細な剣技に衰えは無い。
しかし……。
【続】
「っ……!やべっ……!」
戦艦主砲を受け続け、酷使された刀は半ばより砕け折れた。無論……防ぐ術を失った天龍には砲弾が殺到し、彼女は爆風と炎の中へ消えた。
「ヤッタゾ。シブトイ奴ダッタナ。」
「クヒヒッ、最初ヤラレタノハ焦ッタケド……所詮ハ軽巡一人、余裕ヨユウ☆」
ル級はやれやれという風にため息をつき、対称的にレ級は口元を押さえ、肩をすくめて天龍を嘲った。
両者は立ち上る黒煙に近寄り、レ級の方が尻尾の様な艤装を黒煙のただ中へ突っ込み、手探りするように掻き回した。
「ンー?沈ンジャッタノカナ?手加減シタツモリダッタンダケドナ……ア!見ッケ!」
尻尾の先に付いた巨大な口が何かをくわえていた……衣服に至るまでの装備を無惨に破壊され、力なく項垂れて虫の息の天龍を。
「……ぐ……ぅ……。」
「マダ浮イテイタカ……。改メテ、シブトイ奴。」
「ネ、ネ。命乞イシタラ助ケテアゲルヨ。『雑魚ガ粋ガッテスミマセンデシタ』ッテ。ア、ソレカラ『死ニタクナイカラアナタノ手下ニナリマス』ッテ。ソレカラ……ン?」
レ級は目前に何かが突き出されたのに気付いた。天龍の手である。弱々しくも……その手は挑発的に中指を立て、口元に微かな笑みが浮かんでいる。ル級はそれを見ればレ級をからかうように鼻で笑った。
レ級は暫し呆気に取られていたが、すぐに無邪気な笑みを一瞬の内に失い無表情になった。
「アッソ。ジャア死ネヨ。マ、遺言ノ時間クライハヤル。」
天龍に噛みついている尻尾、その牙が天龍の体に食い込む。
「っぐ……っっ!!……ぁ……!」
歯を食い縛り耐えようとする天龍だが、体を圧迫され呼吸を乱す。残った服を貫き、その柔肌にも既に歯形が刻まれ始めている。
一思いに噛み砕く事も出来たが、今際の際の挑発に腹を立てたようでわざとらしくゆっくりと力を強めていった。
【続】
・ア卜力゛‡
そういえば提督の存在忘れてた。
(カッコ悪いなぁ……あいつらにあんな啖呵切っといてよう……。怒るだろうなあ。特に響と電……。)
意識が朦朧としていくなか、痛みも分からなくなってきた天龍は心中でぼやいた。自己犠牲を諌めておきながら、結局自分がそうなってしまった。
そんな自分の姿にひどく悔しい思いをしていたが、もうどうにもならないと覚悟を決めた。
(すまねえ龍田、戻れそうにねえわ……。)
体へ食い込むレ級の牙を一瞥すれば、自分の体の末路を想像して憂鬱になって再び項垂れた。
(あばよ提督。また俺を建造してくれよな。龍田が寂しがるからよ。)
届かぬ遺言を呟き、天龍は眠るように目を閉じて意識を手放した……筈であった。
【続】
閃光と唐突な浮遊感。天に召される感覚かとも思ったが、直後に叩きつけられた水面の衝撃と冷たさがそれを現実に引き戻した。
「っぐ……?何……だよ……。あ……?」
天龍は腹部の圧迫感が和らいだのに気付いた。放り投げられたのか?違う。牙の異物感と痛みは確かに残っていて、身を起こして見ればやはりレ級の艤装は食い付いたままだ。
「……?どうなってやがる……っ。」
一度は起こした体を仰向けに投げ出し、逆さまになった天龍の視線にその答えが映り、同時に何か耳障りな音も耳に入った。
「……ッッアアアア゛ア゛!!」
尻尾を押さえ、喉を引き裂くような荒れた声で叫ぶレ級の姿。身の丈程もある尻尾は半ばから千切れていたのだ。更に注視すれば、レ級の特徴の一つであるパーカーが失われていて、露となった青ざめた肌を炎が包んでいた。
その背後のル級はその状況を飲み込めない様子で、呆然と突っ立っている。
【続】
「グ……ウギッ……!アイツ!アイツガヤリヤガッタ!」
「……ッ!コンナ海域ニッ!」
天龍の視界の及ばぬところを、レ級が怒鳴り声と共に指差し、ル級は我に帰ると、慌ててレ級を庇うように移動。武装を失ったレ級に変わって砲撃する。
「へっ……遠征の……尻拭いには……ちと、贅沢だな……。」
遠距離からレ級を大破せしめる火力、それは戦艦を置いて他ならない。資源確保の為に出撃した自分を助けに、資源を浪費する戦艦がやって来た。元の取れないであろう事実に、天龍は肩の力が抜けてしまった。
「だが、ありがと、よ……。」
六駆が呼んでくれたのか、それとも助けに来たわけでなく通りすがったのか、天龍には分からなかった。だが、微かな希望を感じつつ天龍は今度こそ意識を手放した。
【続】
「……はっ!」
眩しい。天龍は自身の意識が続いている事に驚き、慌てて飛び起きた。どれだけ倒れていたのか日はすっかり昇っていた。
「……マジかよ、生きてら。……はは、は。ツイてるぜ!……いてっ、いて……ん?」
沸き上がる喜びに後押しされる天龍だったが、傷が痛みふらついた。傷の具合を確かめようと自身の体を見回すと、不思議なことに気が付いた。
「何だこりゃ……。」
生身の体には丁寧に包帯が巻かれていたのだ。顔に触れれば、そこにもガーゼが貼られており、露出した傷は無いようであった。
「ありがてえんだがよ……。」
天龍は誰にともなく礼を述べつつも、不満そうにむくれた。何しろ……。
「ここまでやるなら連れて帰れよ!要領悪ぃな!助けてもらって言うのも何だがよう!ったく……そう言えば、奴らはどうなったん……。」
ふと振り向いて見れば、天龍は言葉を失ってそれを見ないようにした。
「うっ……。くそ、夢に出るだろーが……。片付けとけよ……。」
”深海棲艦だったもの”から逃げ出すように、天龍はふらつきながらも立ち上がって帰路についた。艤装は流石に修理されておらず、10ktにも満たない鈍足を余儀なくされた。
「それにしても、何処のどいつだったんだ?面も拝めなかった。」
出張中の提督が帰ってきてから、他の鎮守府に確認をとってもらう予定を考えた天龍だが、程なくして不安が過る。
「龍田は、怒るよなあ……暫く出撃させてくれねえかも……はは……。」
提督さえ態度を窺う龍田にかかれば、自身の自室謹慎もあり得るかもしれない……と、鎮守府への足取りを重く感じる天龍であった。
【序篇:完 】
【次回:一章】【続】
【もしもいたら、読者の方へ】
感想などありましたら、是非お寄せくださいませ。
by作者
ごめんなさい、艦これは知りませんが感想書かさして頂きます
とっても、上手いです!むしろ、この文才を私に分けて欲しい位上手いです!
>15
コメントありがとうございます。お誉めに預かり恐縮です。
出来映えはともかく、本気で書いてはいたので非常に嬉しいです!
本編続き
【一章】
天龍が横須賀鎮守府に帰還したのは、更に日も進んで夕暮れ時となっていた頃だった。天龍は岩場に隠れて、鎮守府の様子を伺っている。
「……よし、ドック空いてるな。こんなナリじゃ合わす顔がねえ。」
艦娘達が装備を整え、発進していくドックは折よく人気が無かった。彼女は別に身だしなみを気にしたわけではない。こんな負傷と損傷を見られたとあっては、余程の危険に晒されたと分かってしまう。
六駆は元より他の艦娘達に心配をかけるのは勿論、厄介なのは妹たる龍田の事である。
天龍にとっては当然可愛い妹であるが、時折度を越した姉妹愛を感じる時があるのだ。
「……出撃どころか外出まで出来なくなったりして、な。はは……。」
だが、中々どうして現実味がある為天龍は乾いた笑いを漏らした。
天龍が進入したのは、薄い長方形型に岩壁をくりぬいたドックである。設備は本物の船舶のそれとよく似ていて、しかし人間大の艦娘たちに合わせてミニチュアめいて小さなものだ。
その埠頭に集まっていた何者かの群れが、天龍を指差して声もなく、しかしせわしなく驚いている。
「し、しーっ……!」
天龍はそれらに向け、人差し指を立てて静粛を促し、群れもそれにしたがった。。掌に乗るほどに小さな人型のそれらは、「妖精」の愛称で呼ばれる不可思議な生物である。艦娘達の装備品を手入れしたり、時には航空機を操る事さえある頼れる仲間であった。
「誰か、明石呼んできてくれねーか?俺が帰ってきたのは内緒だぞ。それから残りは、艤装を外してくれ。」
【続】
一人の妖精がミニカーに乗り込んで立ち去る。残りはクレーンを動かしたり、工具を抱えて天龍によじ登って艤装を外していく。
背中と足だけであったので、武装解除はすぐに終わった。陸に上がろうとした天龍の足下へ、妖精がスリッパを運んできた。
「お、サンキュ。気が利くな。」
しゃがんでその妖精たちを撫でて労ったりしている内に、慌ただしい足音がドック内に入ってきた。
「……んもー!妖精さん!待ってったら!理由も言わずに呼び出しといてさっさと行かない……で……?」
走ってきたのはピンク髪のセーラー服の少女。天龍を見るなり、言葉を失っていく。天龍もまた、緊張した様子で辿々しく口を開く。
「よ、よう明石……帰りが遅く……」
「み、皆さー……」
「オラァァァァァッ!!!」
「ゲンイチーッ!」
明石と呼ばれた少女が大声で人を呼びそうだったので、天龍は大慌てでラリアットを決めこれを阻止した。
クリーンヒットで痙攣状態の明石を物陰に連れていくと、顔をぺちぺちと叩いて目覚めさせる。
「明石、おい明石。」
「……っは!!やっぱり天龍さん!?」
「ああ、見ての通り天龍だよ。すまねえ、ちょっと訳あって静かにして欲しいんだが。」
「わ、分かりました……それにしても……。」
「?」
「……皆、心配してたんですよ……!それに、こんな傷だらけになって……!」
暫し天龍を見つめていたら、堰を切った様に泣きじゃくる明石。その様子に天龍は、困った顔をしながら明石を抱き寄せて、背中を叩いて落ち着かせる。
「そうだよな。本当にすまん。すぐに帰ってくるつもりだったんだ。」
「全くです……ご自分を大事にしてくださいよ、もう……包帯は誰が?」
「それについては追って話すよ。……で、頼みがあるんだが。泣き止んでくれるか?」
「ぐすっ……はい……。ご用向きは……?」
ハンカチで涙を拭いながらも、平静を取り戻しつつ尋ねる。
「艤装、出来るだけでいいから直してくれねえか?それから修復バケツをくれ。……こんなんじゃ、皆お前みたいに泣いちまうからよ。」
【続】
・了卜力”‡
ラリアットのくだりは浦安鉄筋家族風に脳内再生推奨。
「天龍さん、残念ながら……バケツはまだ現物も材料もなくて……何にしても今すぐは調達できないんです。」
それを聞けば、天龍は俄に焦りの表情を滲ませた。
「マジかよ……。どうすんだこの傷……。」
「『お風呂』ですかねえ。中身は似たようなもんですし……。」
明石が『お風呂』と呼んだそれは、正式名称を「入渠」という。非常に高い治癒効果を持った艦娘専用の医薬品を、浴槽の湯に注いでそこに艦娘を浸からせることで、怪我の治療を行うものだ。
また、バケツとはその原液を持ち歩く為の専用の携帯容器で、こちらの正式名称は『高速修復材』。原液を直接用いれば、効果はけた違いであるため天龍は所望したのだが……。
「風呂じゃ遅すぎる気がするけどな……それはいいとして、絶対見つかるぞこれ。」
「いえ、この明石に妙案が。」
「何だよ?ステルスマントでも作ってくれんのかよ?」
「それは……。」
「それは……?」
【続】
・今回は短い
「うーちゃんはがっかりだぴょん。」
「頭に来ました。」
「あと二時間も待たなきゃいけないなんて……不幸だわ……。」
「瑞雲はいいぞ。」
それは先の明石と会談より数分のちのことである。天龍の浴場に殺到する艦娘達は、口々に不満を述べている。そんな彼女らに頭を下げ続けているのが、他ならぬ明石である。
「すみません、本当にすみません……。すぐに直しますから……。」
真摯な謝罪に一応は宥められ、立ち去っていった艦娘達を見送る明石……と、背後に立っている作業着の人物。
「……何か悪ぃな。あいつらにも、お前にも。」
「私の事なら構いませんよ!さ、急いでくださいな。そういつまでも引き留めてられませんから!」
明石は浴場入り口に『準備中』の立て札を置き、作業着の人物を脱衣場へ押し込んだ。
脱衣場内で帽子を脱ぐ、作業着の人物。正体は天龍であった。
「出入りの業者のフリたぁ考えたな……。お陰で何とか騒ぎにならずに済んだよ。」
「龍田さんに出会ってたら分かりませんでしたけどね、あはは……。」
変装による潜入は成功し、天龍は礼を述べながら作業着を脱いでいく。そのグラマーな肢体……は、未だ包帯に包まれ露でなかったが、それでも、豊満な胸元や引き締まった腹部など体型がはっきりと分かる。
「いーい体してますね〜……じゃ、なくて。包帯、剥がしますよ〜。」
「……っ!ゆ、ゆっくりやれよな……?結構血ィついて貼り付いちまってるから……。」
羨望の眼差しで天龍の全身を眺める明石は、直後に自身のセクハラ発言を自戒し包帯に手をかける。
天龍もまたそれを許すが、なにやら脅えたように眉を下げている。
「分かってますって!行きますよ〜……そりゃっ!」
一瞬の内に露となる傷だらけの天龍の背中。目を見開き焦りを隠せない明石。口元を押さえて仰け反る天龍。
【続】
(ッッッ!痛ェ〜ッッ!明石コラタココラァ!何だコラゆっくりって言ったじゃねーかオイコラァ!ナニコラ不器用すぎんだろコラァ!)
声は上げないようにしているが、あまりの激痛に心中で天龍なのに長州めいて明石に毒づきながらも、我を忘れて転げ回ったりして忙しなく暴れている。
「そ、そんなに暴れたら見つかりますって!落ち着いて!いきなりですみませんでしたけど落ち着いて!」
慌てて天龍に馬乗りになって押さえ込もうとする明石と、止めるなとばかりにその下で暴れる天龍。……一番うるさかったのは、何しろこの取っ組み合いであり……。二人の背後で、カラカラと扉が開いて誰かが入ってしまった。
「あらあら、騒がしいわね〜。明石ちゃんったら、何をして……。」
甘く纏わりつくような、聞き覚えのある声に両者とも血の気を失って扉の方を見やる。
紫のセミロングヘアに、天使の様な輪を頭部に浮かべた艦娘。
「た、た、龍田さん……。」
「よ、よう龍田……しばらく……。」
恐れていた最悪の事態が現実となってしまった。
【続】
「……明石ちゃん?少し席を外してくださる?」
「へ?は、はいっ!はひっ!」
二人の様子を見ていた龍田はしばし表情を失っていたが、すぐにいつもの優しげな笑みを浮かべて告げる。明石は尻に火がついたように立ち上がり、腰を抜かしたまま足取りも辿々しく脱衣場から去っていった。残されたのは、天龍型軽巡姉妹二人。
無言で自身を見下ろしている龍田に、天龍は目を合わせることが出来なかった。
(こ、殺される……。事はないだろうけど生きてるのがイヤんなるくらい怒られる〜ッッ……!)「ひっ!」
天龍は電気を流されたように縮こまった。龍田が歩みを進めた為だ。
「天龍ちゃん。」
「ハイ。」
返事も素直になるほど、天龍はいつもの強気がすっかり霧散してしまった。
「座って。」
「ハイ。」
自然と正座になる天龍は、一歩ずつ龍田が近くなるにつれて落ち着きがなくなってくる。呼吸も乱れ、包帯くらいしか纏っていない全身にじっとりと冷や汗がにじんでくる。
そして、龍田が目の前に来たところで痺れを切らし……座ったまま土下座した。
「し、心配かけてスミマセンデシタ……。」
【続】
...それなりに期待はしているわ(訳:とても面白いです!頑張ってください!龍田ちゃんが話してるところ脳内再生余裕ですw
24:sin:2016/09/24(土) 16:49 ID:y6s >23
ありがとうございます!龍田様は艦娘の中でもTOP10に入る好きなキャラなので、イメージを崩さないよう頑張ります!
【本編】
龍田の前で地に伏す天龍。一分にも満たない時間が、天龍にとっては永遠に続いている様に錯覚された。
そんな沈黙を破ったのは龍田の側からであった。
「顔を上げて。天龍ちゃん。」
「……?わ……。」
黙って身を起こした天龍は、いつの間にか目の前で座っていた龍田に驚いていて身を跳ねさせた。いつもの穏やかな笑顔がそこにあったが、腹の読めない佇まいが余計に恐ろしく感じられた。
「た、龍田……その、本当にごめんな。でも、ちょっとしくじっただけでわざと無茶したわけじゃ……。」
「違うわ。」
「へ……?」
なお弁解に努める天龍は、龍田に言葉を遮られて首を傾げた。『違うわ』?いまいち噛み合わない返答に思われた。
「ち、違わねーよ……本当に無傷で帰ってくるつもりで!」
「それは分かってるわ。そういうことじゃなくて。」
龍田が膝で立ち、天龍に近寄ってくる。緩やかな動きに天龍は怯えて目を瞑り……。
「ひ、ひ、ぃ……っ!……ん?」
直後、上半身一杯の圧迫感、そして温もりと柔らかさに目を開いた。
「家に帰ったら、まず何て言うのかしら?」
天龍に抱き付いた龍田は、天龍の左肩に頭を載せて尋ねている。……その声が、俄に震えを帯びている事に気付いて、天龍は妹に怯えた自身を恥じた。
「そうだよな……今、思い出したよ。簡単な事なのにな。」
天龍は妹の背中を優しく撫でながら、その耳元に囁く。
「ただいま、龍田。」
「お帰りなさい……天龍ちゃん。……良かった……!本当に良かった……!」
滅多に崩さない笑顔が、一杯の涙に沈んだ。
(やれやれ……まだまだ、手間のかかる妹だな。)
心中にて呟くものの、天龍また瞳が潤んでしまった。心配させた事への罪悪感と、待ち続けた人への感謝。
【続】
【作者近況】
「君の名は。」を見てきました。いい映画だったけど、各所で感じる「焦り」が心臓に辛かったですたい……。
やはり僕はシン・ゴジラ派です。
【本編】
鎮守府食堂に、大勢の艦娘が集められた。任務に出撃ないし緊急発進に備えた物を除き、ほぼ全員とも言える数だ。
それら艦娘が席につき、それらを前にして起立するのは天龍である。
「この度は皆を心配させたり……俺の居なくなった分苦労したと思う。だからこうして集まってもらった皆に、一言言わせてほしい。」
深呼吸と、深々とした一礼。
「本当に申し訳なかった!」
しばしの沈黙のあと、最前列にいた艦娘が口を開いた。
「そうとも、皆がお前の帰りを待っていた。反省することだ。……もう、無茶はするなよ。」
相手の無茶を嗜めつつも、最後には安らかな笑みを見せたのは長門である。
「……ありがとう。俺の話は終わりだ。」
食堂内を、静かな拍手が包み込んだ。
【続】
【本編】
その後は仲間達が殺到し、帰還を喜ばれつつ揉みくちゃにされるなど一騒ぎあったが、翌日の任務や訓練に支障が出る為長門が強制的に解散させた。
惜しまれつつも解放された天龍は浴場に向かっていた。
「痛て……怪我人を大事にしてくれよな……俺のせいだけど。」
元より負っていた傷に加えて少々手荒い労いを受けたため、その足取りはおぼつかない様子であった。
当初の予定から大きく外れて、入渠に向かっていたのである。
程なくして辿り着いた浴場にて、天龍は服を脱いで恐る恐る
包帯に手をかけた。
「じ、自分でやりゃあ失敗しない……よな……。」
怯えつつも包帯を外そうと引っ張るが、痛みで随分渋い顔をする羽目になった。
「ッッ〜……あ、明石のよりはマシか……明石のヤロー、何でいつもみたく器用に出来なかったんだろな。」
明石の艦種は工作艦。艤装の修理や開発を行うのだからと、天龍は前の不器用さを不思議に思った。
包帯を全て剥ぎ取ると、天龍は浴場に入るが……。
「待ってたわよ〜。」
浴槽には既に艦娘が浸かっていた。誰あろう龍田である。
「おわ!龍田!待ってたって……?」
「背中、流してあげようと思ってね……。それに、これがいるでしょ?塗ってあげるわね。」
龍田が掲げたのは、天龍が帰還直後に所望した高速修復材の原液、つまり『バケツ』であった。
「お、おう……サンキュ。でもあれだ、大丈夫だぜ?そこに浸かってりゃ治るし。」
「え〜?でも、治りが早い方がいいと思うわ?直接塗った方が効くのよ?マッサージもしてあげちゃうんだから〜。」
浴槽から上がり、やたらと塗る事に拘りつつ迫る妹に天龍は数歩後ずさった。が……。
「ま、まあ塗ってくれるってんなら……別に、断らねーけど……。」
「やったあ!」
「おうっ!?」
天龍が曖昧ながらも了承すると、食い気味に龍田が飛びかかり馬乗りになった。
「うふふ♪天龍ちゃんのお肌、すべすべ……。」
「おい龍田コラ!傷に塗るって言ってたよなさっき!ていうかそれにしたって馬乗りはおかしいだろコラァ!」
【続】
数分の格闘ののち、龍田は何とか宥められて天龍の背中を流していた。
「……ったく。お前はホントに甘え癖が抜けねーなあ。」
「ごめんなさい……。」
しょんぼりとした様子の龍田を見て気まずさを感じた天龍は、龍田の頭を振り向き様に撫でてやった。
「そ、そこまで嫌ってわけじゃねーんだ。ただ、もう少し落ち着いてやってくれって言ってんだ。その……マッサージは気持ちいいしな。ありがとよ。」
「……あら、気に入ってもらってたのね。嬉しいわ。今日は念入りにサービスしてあげちゃうから!」
回復の早さと張り切った手付きに閉口しつつも、修復材を塗って欲しい場所に龍田の手を導く。だが、やはり……。
「……ひゃんっ!?た、龍田!そこは自分で塗るよ!」
「遠慮しなくていいのよ〜?それとも恥ずかしい?姉妹なのに?」
「ちっ、ち、違わい!く、くすぐったいから自分でやるってんだ……」
勝ち気なで男勝りな常時からはあまりに浮いた、甲高い悲鳴をあげる天龍に、体を密着させながら背後から詰め寄る龍田……。
【続】
・あとがさ
もっと詳細に書きたかったお風呂回。しかしやり過ぎると表に出せなくなる……。
「はじめまして、龍田だよ」
「砲雷撃戦、はじめるね〜?」
龍田様のこーいう口調がかなり難しい。中性的な言葉使いと言うか……。
今回も素晴らしい…
29:Sin:2016/09/26(月) 23:18 ID:2J6 >>28
恐れ入ります〜。好評を頂けて何よりでございます!
宜しければ、続けて御覧くださいませ!
【本編】
そしてまた暫く後、二人の姿は浴槽の中にあった。淑やかな佇まいで座り込む龍田と、大の字に体を開いて寄りかかる天龍の姿は対照的であった。似ているのは精々、揃って水に浮かぶグラマラスな二人の双丘位のものである。
龍田の直塗りとマッサージが効いたものか、傷口はすっかり薄くなり天龍は気持ち良さそうにため息をついた。
「はー……色々言ったがありがとうな?おかげで明日にはもう出撃できそうだ。」
「だーめ。一日くらい養生するべきよ。提督もそう言うわ。見た目は大丈夫でも、きっと開いちゃうわよ?」
傷口のあった場所を指でなぞりながら忠告する龍田。天龍の危惧は半ば当たってしまった。
「やっぱりか……ま、心配かけた手前我慢してやるがよ。」
「良かった♪明日は私も非番だし、ずっと一緒よ……天龍ちゃん……うふ、うふふ♪」
「は、はは……明日は忙しくなりそうだぜ……。」
他意は無いのだろうが、滲み出る姉妹愛が重くのし掛かり、天龍は乾いた笑いを漏らした。
「忙しくなるの?出撃はさせないから……♪」
「わわ、分かってるって!そうじゃない。お礼参りしなきゃならねえからよ。」
「お礼参り?」
「ああ、あの出撃の時なんだが……どっかの艦娘が助けてくれたんだ。たぶん他所の鎮守府の奴だと思う。」
首を傾げる龍田に説明する天龍は、湯から出した腕を手先に向けて撫でていく。
「手当てだけされてほったらかしとか、詰めの甘ェ奴だったがよ……それでも、命助けられたんだ。ありがとうの一言くらいは、な。提督に聞けば探してくれるだろ。」
「帰りは明日になるらしいけれどね……。私も、一緒に行っていいかしら。私からもお礼しなきゃ。おかげで今、天龍ちゃんと一緒にお風呂入れてるんだから……。」
「ああ、来いよ……。」
天龍の肩に寄りかかる龍田。微笑みながら龍田を抱き寄せ、妹の頭に頬擦りする天龍。穏やかな、二人きりの時間……。
「天龍ゥゥゥゥゥッ!」
……は、血相を変えて浴場の扉を勢いよく開いた、一人の男性が幕を閉じてしまった。
「……オイ提督。」
「……あら〜♪提督?」
白い目で迎えられた制服の男は、横須賀鎮守府司令、戌走宗一であった。
「よ、良かった、無事なんだな……。」
「テメーの心配したほうが良さそうだぜ。」
拳を握り、指の間接を鳴らす天龍。
「わざわざ女湯まで?御苦労様〜♪」
先の安らぎとは異なる、威圧感漂う笑顔の龍田。
「あ」
自身の不手際に気付いた戌走提督。
その夜、浴場からは悲鳴と水飛沫の音が絶えなかったという……。
「いくら心配とはいえ、浴場まで見に行くかなー、普通。教えたのはアタシだけどさ。」
「北上さんは悪くないわ。普通に考えてしないもの、そんなこと。」
「だよねー。」
【一章:完 】
【次回:二章】【続】
・めとがさ
いきなり登場の提督。20代のホワイト提督というくらいしか設定がない。
最後の一言は誰でも良かったけど、他人事っぽく話せる北上さまにした。
あとサイコレズ妹繋がり。
次回から話が動く……かも。
【番外】
=艦娘誕生史=
194X年と194X年代:世界大戦終結。相互講話と譲歩を重ね、戦勝国のない終戦と相成った。
終戦から程なくして、世界中に未曾有の大規模流星群が降り注ぎ、それら天体の90%が地球に落着する。人的、物的被害は極めて微少。
天体群の総質量は、当初地球の約0.15%程とされていたが、現在はそれ以上の量が採掘されていることが分かっている。
天体群は未知の金属物質であることが判明し、「M天体群」と名付けられ各国で研究が進む。
●
195X年代:M天体群の研究が進み、金属物質の加工技術が確立され、「コスモナイト」と名付けられる。アメリカ合衆国、「コスモナイト」を大量に使用して戦艦「ユナイテッド・ステーツ」を建造する。コスモナイトを保有する列強各国もこれに続くが、単艦で三個艦隊に匹敵する高コストが発生し、それぞれが一隻を竣工した所でコスモナイトの兵器利用と研究は中断される。
●
196X年代:民間船舶の海難事故が多発。調査の過程で、後に「深海棲艦」と名付けられる不明海洋勢力と遭遇。各国海軍はこれと交戦を余儀なくされる。
程なくして、国連軍が設立され、国際共同のもと深海棲艦に対処する。
●
197X年代:従来の深海棲艦を擬人化したような人型の深海棲艦、並びに非常に小型化された深海棲艦が出現し、深海棲艦勢力は物量を増す。これら新型は従来型より弱体化するも、国連軍艦艇の絶対数不足により対処が遅れ制海権の喪失が広がる。
●
198X年代:人型深海棲艦をヒントに、嘗ての大戦で計画されていた「海戦歩兵計画」と、コスモナイト技術を統合した「TF(TrooperFleet=歩兵艦隊)計画」が始動。男性兵士の不足から、開発協力一般若しくは軍属の女性志願者を募る。
同年代後半、最初の海戦歩兵が誕生し通常艦艇の穴を埋める形で実戦投入され、通常艦艇に劣らぬ戦果を挙げて制海権の奪回が進む。
●
199X年代:海戦歩兵の完全人工化の研究が進み、従来の女性志願者から人工培養された複数の女性クローン人間を素体とするようになる。これらクローンは記憶の穴埋めと戦闘能力の適性化の為、また海上兵力としての特化を目的とし、嘗ての大戦で使用された艦艇の戦闘データや記録が植え付けられていて、またそれに合わせて武装も嘗ての艦艇のそれと同じものがコスモナイトでミニチュアサイズに新造されて装備される。
この段階を以て、新型の海戦歩兵は「Fleetgirl=艦娘」と呼ばれるようになった。
●
現在:艦娘達の戦いは今も続いている……それが人々を守るため、海に生きる艦娘たちの鋼鉄(くろがね)の使命なのだから……。
【終】
・ぬとがち
戦うのがなぜ艦娘なのか?と出来るだけ無理のない必要性を与えられる歴史を、足りない頭で捏造しました(でも未知の金属物質含んだ隕石が一番無理がある!)。
つまり彼女らは通常艦艇の低コスト下位互換なのです。
強さで言えば本物の船が強いんだけど、艦娘の方が新型深海棲艦に対しては便利に立ち回れる力がある、という設定。
クローンだけど当然人権が保証されていて、尚且つ世間では活躍が認められて半ば英雄扱いされています。
WWII装備に統一されてるのは、実戦経験のある艦のデータが必要だったことや、今はイージス艦や原子力空母クラスの武装をコスモナイトで作れないからなのです。恐らくはまた半世紀かけて、艦娘の艤装も同じように進化していくのでしょう。
旧型の深海棲艦は、レ級にせよヲ級にせよ「通常艦艇型の深海棲艦」がいて、お馴染みの人型はそれを擬人化した姿ということです。これは弱体化と引き換えに物量を重視した結果となり、小型(艦娘と戦ってるサイズ)のやつも同じ理由で小型なのです。このなりでも、並の貨客船ならあっという間に沈めてしまうので、通常艦艇の手が回らない場所で片っ端から通商破壊を行っております。
因みになぜ小型と人型の二つがあるのかと言えば、劇中で明らかにする予定であります。
一番の問題はコスモナイトのご都合主義ぶり。一応本物よりは火力は低めながらも、艦艇の武装を小さくできて使えちゃうなんて……(笑)
【次回:本編二章】
【続】
【作者注】
>>30
の設定は作者:Sinの妄想かつ二次創作なので、一切公式設定ではありません!
【注終】
【二章】
場所は提督執務室。受話器を置きながら、横須賀鎮守府司令戌走宗一大将は訝しげに同席の艦娘を振り返った。
「……聞いての通りだ、天龍。」
「いやいやいや、ありえねーって……確かに見たんだぜ?」
冗談は止せとばかりに苦笑を混じえ、天龍は提督の発言を否定した。
天龍は、先日命を助けてくれた艦娘を見つけ出すため、提督を頼って日本中の鎮守府に連絡を入れてもらった。
大湊、舞鶴、呉、佐世保……だが、返答は一様かつ不可解なものであった。
『鎮守府に所属する全ての艦娘において、当日に当該海域への出撃は行っておらず、無断出撃の報告も形跡もない。』と……。
艦娘を始め、国連軍の備品や資源は全て参加国の血税により賄われているのは勿論、それゆえに消費や調達は厳重な管理下にあることは言うまでもない。
無論、これが当該事案において各鎮守府の関与を否定する証拠となる。
最終的に、善からぬ考えを起こした者が記録を改竄することもあり得なくはないとして、調査が続けられる事とはなったのだが……。
「間違いなく助けられたんだよ。そいつが無断出撃してたにせよ命の恩人には変わりねえ。誰か分かったら必ず教えてくれよな?……提督!聞いてんのか!」
受話器を置いてから、何か考え事に耽っていた提督は慌てて天龍に向き直った。
「あ、ああ……すまん。嫌、少し気になることがあってな……。」
「あ?何か心当たりでもあんのか?」
「一応な……笑わずに聴くなら教えるが……」
「笑われるような事考えてたのか?……ま、自信はねえが聞いてやるよ。」
提督はそれを聞けば、呼吸を整えてから重々しく口を開いた。
「『黒い旗の艦娘』。聞いたことがあるだろう。」
天龍は一瞬呆気に取られるも、直後に大きな溜め息をついた。
「良かったな提督。ちっとも笑えねえぜ。提督までオカルトに目覚めたか?夜中のトイレには付き合わねえぞ。」
だが、提督もふざけている様子は微塵もなく、ゆっくりと執務机に向かって歩いた。常ならざる態度に、天龍も真剣な眼差しを向けている。
「真面目な話だ。近い内に艦娘達には伝えるつもりだったが……。天龍、お前には先に話しておく。口外は……まあ、心がけろ。無理にとは言わん。」
提督は天龍を机まで手招きし、机から取り出した複数枚の写真を広げて見せた。
闇夜に、砲炎で俄に照らされる艦娘。
艦娘の艤装は大和型のそれに似て、背中の基部から砲塔を載せた腕状ないしヒレ状構造物が延びている。大和型ならば、それに載るべき砲塔は左右で一基ずつの筈である。写真の艦娘は……左右に二基、即ち四基の砲塔が載っていたのだ。
爆炎も合間って威圧的に映るその容貌に、天龍は息を飲んだ。
「おい……大和型にしたってこの艤装はデカすぎる。まさか……。」
「都市伝説の尻尾を掴んだ。正体はともかく、奴は噂でもオカルトでもない。」
【続】
・ァУ_ヤ”‡
戌走提督20代で大将かつ鎮守府司令とかどんな出世なんだ……(他人事)
写真により実在が明らかになったにせよ、結局身元は知れなかった。日本海軍、ひいては国連軍にも情報網を伸ばして調査の続行を進言すると戌走から伝えられ、天龍は執務室を辞して自室に戻っていた。
ベッドに大の字に寝転がり、恩人に思いを馳せる。
「また会えるよな……?」
全く手がかりがない以上、その再会は天運に任せるより他になく、天龍は謝意を持て余し大きなわだかまりを感じていた。
「そうそう、俺だけじゃねえ……六駆の連中の分もいるな……。」
「私たちがどうかしたのです?」
「そうそう、お前らの分も命を助けられたってアイツに……って、うぉおっ!?」
「レディの前で情けない声出さないでよ。」
「Привет.元気そうで何よりだ。」
「もう、そんなに驚かないでよ。」
何気なく返事を返しそうになり、いつの間にかいた訪問者達に気付けば天龍は飛び起きた。第六駆逐隊の四名が顔を揃えて入室していたのである。また、その背後には龍田が。
「天龍ちゃんのお見舞いがしたいって言うから、連れてきちゃった♪」
「お、おう……み、見舞いなら大丈夫だぜ。ご覧の通りピンピンしてらぁ。ま、だからって追い返すつもりもねえ。羊羮でも食うか?」
「なっ……しかも間宮羊羮じゃないの?」
「хорошо!良いのかい?そんなものを。」
「お見舞いに来たのは私たちなのに、何だか悪いわ。」
「はわわ!美味しそうなのです!」
天龍が私物の冷蔵庫から取り出したのは、多くの艦娘垂涎の品『間宮羊羮』である。給量艦の艦娘、間宮特製の逸品を前に、六駆の姉妹たちは一斉に声を漏らした。
「あらあら、折角だから、お茶の時間にしましょうかしらね〜。」
【続】
「ん……たまんない甘さよね、これ……。」
間宮羊羮を堪能し、蕩けきった表情を見せたのは暁である。一人前のレディを自称する彼女も、この至高の甘味を前にしては年相応の姿をさらけ出してしまう。
「流石は間宮だな。一人前のレディ様があの様だぜ。」
「可愛いわね〜。」
天龍姉妹の微笑ましげな視線を感じれば、暁は立ちどころに赤面して抗議する。
「ば、ば、バカにしないでよね!し、仕方ないじゃない、こんなに……美味しいんだもん。」
「はは、分かってる、分かってるよ。……でも、それにしたって可愛いかったからよ?」
とは言え悪びれる様子もなく、慰めるように暁の頭を撫でてやる天龍。もっとも、当人には逆効果のようであったが。
「う〜……子供扱いして……。」
「実際私たち子供じゃない、暁ったら。」
「雷までそんな事言う〜……。」
「прелестная.可愛いは正義だ。」
暁が瞳を潤ませる横で、電は肩を竦めており茶にも羊羮にも手をつけていなかった。
「どうしたよ電。食っていいんだぜ。」
「何だか悪いのです、この間助けてもらったのにこんなおもてなしを……」
「気にすんなよ!それに心配かけた詫びもあるからよ、遠慮しないで食え。」
出来た娘だな、と謙虚な態度を喜ばしく思いつつ、やはり電の頭も撫でてやり促す。
「は、はい。それなら、いただきますなのです!」
少し表情が明るくなった電は、恐る恐る羊羮に手をつけ……暁の二の舞を演じた。
「……!はわわ、甘さで蕩けそうなのです……!」
余程感動したのか、頬を押さえ、少し震えているようである。
「……こうして見ると、やっぱり姉妹だよなあ。」
「そっくりねえ。ちょっと、羨ましいわ〜。」
【続】
「今日はご馳走さま……でも今度は、もうちょっとレディとしつ丁重に扱ってほしいわ。」
「お大事に……と、言っても元気そうだし、大丈夫かな。До свидания.」
「楽しかったわ。もーっと呼んでくれていいのよ。」
「ご馳走さまなのです。」
「おう、また遊びに来いよ。」
「待ってるわよ〜。」
5時を過ぎた頃、第六駆逐隊が自室へ戻っていった。天龍型姉妹が食器類を片付けていると、妹が思い出したように姉へ問いかけた。
「そう言えば見つかったの?例の恩人さん。」
提督から口外を慎むよう言付かった話題に、天龍はどきりとしながらも、平静を装い答えることにした。
「あー……それな。何か他の鎮守府も忙しいらしくて、よく分からんとさ。」
「……天龍ちゃん、ほっぺがひくついてるわ。」
「はぁ?いきなり何だよ?」
噛み合わない会話に、天龍は首を傾げ呆れて肩を竦めた。しかし龍田は冷静に微笑み、天龍の顔に指をなぞらせつつ応えた。
「天龍ちゃんが嘘ついてる時の癖。」
「……っはぁ!?」
慌てて自身の頬を押さえて引き下がり、『癖』とやらを誤魔化そうと顔を擦っている天龍。しかし……。
「うふふ♪嘘よ〜。でもそんなに慌てちゃって……嘘ついたのは本当だったみたいね?」
「っ……!チクショー……こんな古典的な罠に……!」
驚いて暫し沈黙した天龍であったが、肩を揺らして勝ち誇ったように笑っている妹を見れば、緩やかに悔しさが滲んできて唸る。
「分かったよ、話してやるよ全く……提督に言われたからな。バラすなよ、誰にも。」
【続】
m9`・∀・´9m<がんばれ!がんばれ!
37:Sin:2016/10/01(土) 20:15 ID:YqY >36
今回もコメントありがとうございます!
今回の更新は少し遅くなりました……。
天龍は『黒旗』について話さねばならなくなり、先の来客の後片付けをしながらその一切を打ち明けた。未だ所属不明、未知の装備。
常日頃飄々としている龍田も、いつになく真剣に聞き入っていた。
「不思議な人ねえ。資材にしろ工厰にしろ、一人でどうにかなるのかしら?」
「なあ。どうせ敵は同じなんだから、頼ってくれていいとも思うんだがよ……ま、いくら考えても仕方ねえ。敵の敵は味方って訳じゃねえが、今ンとこ俺達の損にゃならねーだろ。」
ベッドに胡座をかいていた天龍は、疲れてしまったのか話題を切り上げてベッドに横たわった。
「もうちょっとで夕飯の時間よ?」
「その時間になったら起こしてくれよ。」
目を閉じた天龍の傍らに座る龍田は、いとおしげに姉の髪を鋤いた。
「分かったわ、ゆっくりお休みなさい。……ふふ、かわいい♪」
【続】
・あとがき
今回の更新は短い。けど今日はもうちょっとだけ更新するんじゃ。
昨日「今日中に更新する」と言ったな。
ソ、ソウダサクシャ、コウシンシテクレ
あれは嘘だ。
(ぱっ)
↓↓
\ウワァァァァァァ/
【本編】
後日、天龍の奇跡の帰還を切っ掛けとしたものか、鎮守府の艦娘達にも『黒旗』の存在が公表され、またその遭遇時の対処についても以下のように定められた。
・遭遇次第、直ちに国連軍への参加を交渉せよ。
・当該艦娘が参加を拒否した場合も、あらゆる強行手段の行使を禁じる。
・当該艦娘が敵襲化にある場合は、可能な限りこれを死守せよ。
敵の敵は味方、と言った所なのか、この楽観的とも言える命令は各鎮守府に発令された。
もっとも、命令とはいえあくまで可及的な物であり、そもそも、長らく根無し草であっただろう『黒旗』が今更国連軍に参加する事など、軍関係者の殆どは当てにしていなかった。
拒否される前提の、形ばかりの交渉。事実上の野放しとも言える、『黒旗』の事案を強引に終息させる目的があったのだ。
「別に敵では無いらしいしな……。少しはこちらの面倒も減るだろう。それよりも輸送船団の失踪事件の方が心配だな。」
「聞いたぞ。物資だけ無くなったって奴だろう。おまけに乗員は記憶喪失ときた……。」
横須賀鎮守府に招かれた海軍士官達の噂話。すれ違い様に、天龍は聞き耳を立てながら一瞥した。
「最近の海は物騒ってーか……変わったことが多いんだな、龍田。」
「私たちも気をつけなきゃね〜。ほら、天龍ちゃん、急がないと会議に遅刻しちゃうわ。」
龍田は天龍の手を取って歩みを速めた。二人には出撃の命令が下っているのだ。
【続】
・あとがき
天龍ちゃんが一応狂言回し的主人公、のはず。何かと中二とか大口とかヘタレとか言われる彼女を活躍させたかった。
_横須賀鎮守府、大作戦室。
今回の作戦に参加する艦娘達が集められ、戦闘海域を模した図版を拡げた卓を囲んで並び立つ。その一辺には戌走が立ち、指示棒で図版を示し説明を行っていた。
「先日、伊豆大島近海に隕石が落着したことは諸君もご存知かと思う。詳しいことは学者ではないので分からんが……大気圏突入の様子などから、これが年単位で利用できるコスモナイトである可能性があるらしい。」
「戦後すぐの流星群以来……ですね?」
思い出したように問い掛けたのは、金色の左目を持つ艦娘、古鷹である。
コスモナイト、かつての世界大戦後に地球に降り注ぎ、世界の兵器技術を大きく躍進せしめた神秘の鉱物であり、艦娘達の艤装はこれによって小型化と高火力化を実現したのだ。
「観測史上はな。さて、直ちにこの隕石を回収しなければならないが、恐らくは敵も同様だろう。今のところは隕石に接近した敵を追い払って凌いでいるが、今回ようやく回収の目処が立った。我が艦隊は、隕石の回収部隊の護衛だ。今回は潜水艦の働きが重要になるからそのつもりで。」
「はーい!イク、頑張るのね!」
「ゴーヤにも任せるでち!」
元気一杯に応えたのは水着の艦娘達。スクール水着の上からでも艶かしい肢体が見て取れる『イク』こと伊19。『ゴーヤ』と名乗った特徴的な語尾の伊58である。
「水上の艦娘達も、潜水艦の負担が減るようにサポートしてやってくれ。」
「お任せ下さい、提督……って、加古!起きて!話聞いてた!?」
礼儀正しく命令を承服した古鷹であったが、直後慌てて隣の艦娘を揺さぶる。
「んぐー……っは!何!?あ、古鷹!話って?潜水艦のサポートって言ってた?」
「あ、一応聞こえてたのね!?」
明らかに眠っていた艦娘の名は加古である。古鷹に突っ込まれる加古の様子を見れば呆れたように肩を竦めるも、特に何も言わない提督。
【続】
・あとがき
念願のフルタカエルだ!加古もだ!
両者改二!
潜水艦ちゃんとカコッが出てきた…だとぉ!!(`・ω・´////)
頑張ってください!
>>40
いつもコメントありがとうございます!コメントが心の支えであります!改二の古鷹型姉妹はホントに天使!58はでちでち可愛い!イクちゃんのお美体悩ましい!
【本編】
「……あー、うむ。今回の回収作業を担当するのは、JAMSTECの海洋調査船『よこすか』と、搭載艇の『しんかい6500』だ。目標地点までしっかりと護衛するように。」
気を取り直し、図版に駒を置いていく提督。駒に書かれた名前は以下の通りである。
・古鷹(娘)
・加古(娘)
・天龍(娘)
・龍田(娘)
・伊19(娘)
・伊58(娘)
・よこすか(船)
・はたかぜ(船)
・すずなみ(船)
・おおすみ(船)
名前の下に(娘)と記された駒は無論艦娘であり、(船)は通常の船舶である。また、駒の内三つは、戦後型の護衛艦であった。
これらの駒は、更に提督の指示棒によって陣形を取らされた。
『よこすか』を中心に、両隣に潜水艦が二名。後方に軽巡が二名、前方やや狭めて重巡が二名。輪形陣と梯形陣の中間と言った様子である。
また、護衛艦は作戦海域に既に配されている。
目標地点を示す×字の駒の右下……図に倣えば南西方向へ指示棒を突き出す戌走提督。
「敵艦隊は勢力圏から考えて、目標地点南西からの襲来が予測される。警戒を厳とするように。潜水艦二名は『しんかい6500』を耐圧限界一杯まで護衛するんだ。辛い仕事を任せるが、頼んだぞ。」
「分かったのね。でも、イクは100mまでしか行けないのね。心配なのね。」
「敵もそれが精一杯だ。土俵は同じ、心配はない……が、油断はするなよ。」
「ゴーヤもついてるから大丈夫でち!」
「心強いな。……さて、会議は以上だ。質問はあるか?」
【続】
・あとがき
海上自衛隊……いたんだ……この世界にも……(他人事)←
国連軍発足後の、在来の日本海軍の代替戦力として別個に整理されたとかそんな感じでしょうかねー。まあ、結局は国連軍への協力も多くて形骸化してそう。財務省から文句言われてそうですなあ。
財「海軍に統一しちゃえば?」
リアルに考えたらこう言われそうですが、そこら辺の詳しいことは作者分かりませぬ……。
あと唐突なJAMSTEC。
「敵の戦力規模は分かるか?大体というか、前例は?」
質問者は天龍である。提督は小さく頷いて回答を承諾すると、手元のバインダーに挟まった資料を何枚かめくった。
「そうだな、今までの最大戦力は巡洋艦が一隻、駆逐艦が五隻という編制が三個艦隊来たそうだ。ここ最近の記録でもそれ以上の戦力は無かったそうだし、お前達の練度なら苦戦もしないだろう。」
分かった、という風に小さく頷き、制するように手を翳して了解を示す天龍。それから今一度、戌走提督は質問の有無を聞いたが、数秒の沈黙が帰っただけだった。
「よろしい、では以上だ。出撃は1420時を予定して準備せよ、解散。」
艦娘達は大作戦室を辞し、装備を整えるためにドックへ向かった。
「皆、頑張りましょうね。」
退室を最後まで譲った古鷹が、参加艦娘の背後から励ましの言葉をかける。当人は気合いが入っているのか、小さくガッツポーズをしている。
「おうよ!大した敵でもねーし、この天龍様が一捻りしてやらぁ。……加古も頑張ってくれよな?」
誇らしげなサムズアップとともに、勇ましく応えた天龍。しかし直後、不安げに隣で欠伸をしていた加古に確認をとる。加古は自身を指差しながら驚いていた。
「へ?わたし?大丈夫だって!めんどくさいけど、手は抜けないからさ。ま、大船に乗ったつもりで頼ってちょーだい!」
「艦娘って言うくらいだしゴーヤたちそもそも船でち。乗る大船がないでち。」
突如挟まれた潜水艦の空気を読まない突っ込みに、加古以外の全員が口元を押さえて笑いを堪えた。
「うー、何かバカにされた気分……ま、何にしても頑張りましょ!ね!」
恥ずかしさを紛らわすように頬を叩き、足早にドックへ向かう加古。
【続】
ドックに着いた艦娘達は、ミニチュア化された埠頭の一角にある『出撃』と書かれたパネルの上にそれぞれ載った。直後艦娘達の後方にある格納庫から、艤装を吊るしたガントリークレーンがそれぞれの艦娘に近付き、取り付け位置に艤装を配置する。間髪いれず、圧縮空気で稼働するドライバやレンチ等の工具が備わったマニピュレータが延びて、艦娘達に艤装備を取り付けていった。無論、作業を担当するのは妖精達である。
「全艦、出港準備完了。抜錨!」
提督の号令の後、『出撃』のパネルは水中に沈み込み、艦娘達が水上に浮かぶ。直後、一人の艦娘が手を翳して港口を指し示す。今回の作戦旗艦である古鷹だ。
「艦隊、出撃します!我に続け!です!」
号令とともに古鷹が前に出で、加古、天龍、龍田、伊58、伊19の順に出港。艦隊は今澄みきった蒼空の下に、その可憐な容貌と武装集団としての威容を露とした。
【続】
・あとがき
コメントの際は、いつでも遠慮なく!お待ちしております!
『よこすか』は一足先出港し浦賀水道に沿って東京湾外にあった。艦娘達は程なくして合流し、単縦陣から二手に分かれて『よこすか』を取り囲むように陣形を組み直した。
「思ったより小っせえんだなー、『よこすか』。100mはギリギリ越えたくらいかな?」
速力を『よこすか』に合わせて減速しながら、加古は拍子抜けした様子であった。
「言われてみればそうね。防御力もあまり高くないだろうから、しっかり守ってあげなくちゃ。頑張りましょうね、加古。」
「おっけいおっけーい。護衛の仕事はやりがいがあって良いねえ!」
「ふふ、さっきまであんなに眠そうだったのに。」
古鷹型姉妹が仲睦まじく会話する後方、『よこすか』右舷側に配された天龍は、常日頃の好戦的な表情を潜めて静かに水平線を眺めていた。
「どうしたのね天龍。気分でも悪いのね?」
そのまた後方から追従していた伊19が、心配そうに声をかけた。天龍は不思議そうな顔をしつつも、小さく微笑んだ。
「そう、見えたか?いや、大丈夫だ。ただ、少し気になることがあってな……今日の作戦海域は伊豆だから、もしかしたら、って……。」
「例の『黒い旗』の娘のこと?……天龍ちゃん、恋してるのね!」
一瞬の間の後、天龍は火にかけたように顔が赤くなった。
「……っはぁ!?ば、バッカ野郎コラそんなんじゃねーぞナニコラァ!それは相手が違……じゃなくて!ま、確かにあの『黒旗』に会いたいのは確かだけどよう……。滅多なことは言わねーでくれよ。誤解を……。」
「何のお話かしら〜?」
「っひい!」
無線で割り込んできた、聞き覚えのある甘い声に天龍は竦み上がった。龍田である。
「な、何でもないぞ龍田。マジだぞ!」
・あとがき
地の文をCV:麦人さんにすると紺碧の艦隊これくしょんになる……ならない?
しかし『超時空戦艦まほろば』要素が全然出てきませんなあ。(他人事)
『よこすか』と艦娘たちが到着した頃にも、海はなお穏やかであった。深い青を湛えた海原に、白い航跡が泡立っていく。
「っくー!やっぱり外海はいいねえー!……敵もいないしさ、艤装外して泳……。」
海原を一望して目を輝かせた加古は、上機嫌に遠方を指差して古鷹を振り返る。
……古鷹の金の瞳に光が灯り、加古の顔を照らしていた。そのただならぬ雰囲気に、加古は笑顔を引き吊らせて言葉を止めてしまった。
「加古……泳ぎたい?帰りは大変よ?」
「へ……へっ、冗談だよ……。あー、古鷹は真面目だなーンモー。」
姉の威容に圧され目線を正面に戻す加古。古鷹の主砲が自身に向いていれば無理もない。本気で撃たれることはないと言っても、怒りはちゃんと伝わってくるのだから。
「呆れたいのはこっちよ。それが普通です!」
「そうだぞ加古。お前の態度次第では秘書官にしてこき使っても構わんのだが?」
「わっ、提督!え、何、聞いてたの?ていうかどこ!?」
慌てて周囲を見渡す加古だが、視界に映るのは隣の古鷹、自身の後ろを追従してくる天龍と伊19。そして、正面に小さく見える海自の護衛艦群だ。
「そういえばどちらにいらっしゃるのですか?」
「お前らの真ん中だよ。今日はせっかく普通の船がいるから、乗せて貰ったんだ。」
艦娘たちを指揮する提督は、通常船舶に座乗して彼女たちに追従する。通常なら海軍の用意した艦艇がこの任に宛がわれるのだが、今回は『よこすか』に座乗すればその必要もないということだ。
無論、可能ならば戦艦のような強力な艦艇が適役なのだが、通常艦を補填する艦娘に通常艦がついたのでは意味がない。
その為通常時でも小型ないし旧式の艦が用いられ、今回のような民間船舶の護衛などではそちらに座乗することもあるのだ。
・あとがき
復活ッッ作者復活ッッ
スマホ様がご臨終あそばされ後任に席を譲られたので、IDが変わってるかもしれません。
スマホ様…(´・д・`)
加古がかわゆいです!
頑張ってください!
>>46
摂津ブーン様いつもコメントありがとうございます〜。彼女のキャラは掴むのが難しかったので、可愛く出来ていたら安心です!
【本編】
目標地点に到達した『よこすか』は『しんかい6500』を進水させる。潜水艦娘二名はそれに続いて潜航を開始し、アクリル窓越しにパイロットへ手を振った。
パイロットも気を良くしたのか、笑顔で手を振り返してきた。
「ノリが良いのね!イク達がついてるから、頑張って来てほしいのね!」
「ありがとう、潜水艦さん。すぐに終わらせるから、頼んだよ。」
「はーい!ゴーヤ達に任せるでち!」
暫しの別れは思いの外早く、100mの安全深度が艦娘と『しんかい6500』を隔てた。暗い深海へ姿を隠していくそれを見送れば、潜水艦娘達は和気藹々とした表情をきりりと引き締め、敵勢力海域の方へ向き直る。
「ここの通行料は高いのね。」
「冥土の土産にゴーヤの魚雷を持っていくでち。」
その気合いが伝わったかのように、海上にもまた緊迫した空気が漂った。敵影未だ無し。ゆえに、いつ如何なる来襲をも捩じ伏せる気迫を以て提督と艦娘たち、そして遠方の護衛艦群は待ち構えた。
「提督、いつでも古鷹にご命令を。」
「来い……加古スペシャルが待ってるぜ……!」
「天龍様が本当の恐怖を教えてやるぜ……。」
「うふふ……♪死にたい艦はどこかしら〜?」
艦娘達の気迫を他所に、大海原は穏やかであった。波の音、海鳥の鳴き声、あらゆる環境音が子細に感じ取れるほどの静寂。
静寂、静寂、静寂…………入電!
「『はたかぜ』より各艦、電探、音探ともに感あり。南東より接近の不明船舶、敵艦隊と推測。小目標12、大目標3。詳細不明なれど海中目標を含む。」
小型ないし人型の小目標、船舶型の大目標の襲来を、前衛の『はたかぜ』が確認した。互いが目視圏外の今も、両軍の譲らぬ闘志が海をも焼かんばかりに張り詰めていた……!
【続】
「大目標艦種識別、重巡1、駆逐艦2。我、誘導弾にて攻撃を行う。」
初手を打ったのは海自の『はたかぜ』であった。甲板中央部に発光が起こったのち、飛翔体が白煙を引いて放たれた。対艦誘導弾ハープーンである。
艦娘達の装備の元となっている以上、当然ながら通常艦艇の装備が技術的には先端にある。希少資源コスモナイトは応用が利く反面高度な加工技術を要するため、精密な現代兵器の製造には未だ至っていない。艦娘達が70年以上前の兵器を用いているのはこの点が大きな理由である。
「良いなあれ。欲しいなー。」
加古の羨望の眼差しの先、遠方の海域で一瞬の発光があった。命中である。
「流石に最新兵器は違うわね。それでも、多くの海が奪われてしまったけれど……。」
敵に対する通常艦艇の性能優位は、小型深海棲艦相手に留まらない。これまで確認された多くの深海棲艦は、過大に評価しても1950年代の人類側兵器と同等といったところの性能が上限言われている。
それでも尚、一説には1:6とも言われる戦力比を前にして、に制海権の多くを奪われている現状に古鷹は溜め息をついた。
「だから、俺たちがいるんだろーが。ほら、こっちにも来たぜ。海自ばっかりにいい顔させるかよ!提督、ここは進出して短期決戦にすんのはどーだ?」
古鷹に叱咤激励を送った天龍は、提督に指示を乞いつつも既に前線に向かって航行を始めていた。
「『はたかぜ』からの連絡によると、敵は6体ずつの二個艦隊、3時方向に30km、5時方向に20kmの二ヶ所に分かれているな。このまま突っ込めば左右から挟み撃ちを食らうな。……よろしい、短期決戦で行こう。全艦娘、5時の艦隊に向かってくれ。」
「任せて下さい提督!3時の艦隊は?」
質問者は古鷹。
「まず5時の艦隊に損害を与えろ、弱らせるだけでも構わんから、なるべく無傷でいてくれ。それから3時の艦隊を後方から追撃する。」
【続】
・あとがき
今更ながら、「艦艇の兵装と艦娘の艤装、両者はM61バルカンとM134バルカンの関係に似る」って書いとけば艤装について分かりやすい説明になったかもしれない……。
【お知らせ】
近日再開予定!
またID変わってますね……本人です!