・本作はオリジナル世界に版権を絡ませる作品です
・原作は途中まで伏せています。原作の登場「人物」は出ない予定です。
・異世界トリップもの注意
・主人公(オリキャラ)の俺TUE(中略)Eとか無双なし
僕は星光院タケタカ。
名前ばかりは貴族じみて尊大だが、相応の家柄であったのは遠いとおい昔の事だと聞いている。ごく普通の家庭で育った、ごく模範的な一学生だ。学校でも目立つことはなく、当然彼女もなく、友達もいない。今から5年前……中学生になったばかりの頃までは、そんな境遇に寂しさの一つもあったが今はもう諦めている。それに、今の生活は却って安定にも感じられていて、不満も欲も無かった。そして社会に出てからもきっと、今と変わらぬ立ち位置のまま人生を消費していくのだろう。時折自身の将来を思えば、常にそのように結論付けていた。……だが、全く予想外な出来事が僕の人生を狂わせる事となる……。
=つづく=
その瞬間が訪れたのは突然だった。下校中の僕は、何思うでもなくぼんやりと空を見上げつつ、近所では切り替えが長すぎると不評の歩行者信号に足止めを喰っていた。だからだろうか、自身に向かってくる大型トラックの姿に気付いたのはただの一瞬であった。記憶はそこで途切れ、意識を取り戻したのは暗闇の中だった。目を開いても何も見えない。僕は焦りを感じた。昔見た、触覚以外の感覚を失った傷夷軍人の映画を思い出したのだ。そんな風に、身動き一つ取れぬまま、何を伝える事も出来ぬまま病院のベッドに横たわっているのではないか……?
幸いというべきか、それに怯えた自身の情けない叫びと、飛び起きる音がはっきりと耳に入った。暫く待っていれば、暗闇に慣れた目がブレザー姿の首から下を捉える。五体満足ではあるようだった。
しかしそれはそれで新たな疑問を呼ぶ。ここはどこなんだ……?地面があることを確認しつつ、僕は当てもなく、どちらへ向かっているのかも分からぬまま暗闇を歩き始めた。
=つづく=
暗闇の中は平地が続いているのか、あるいは運良く障害物を避けているのか、足取りに何ら支障は無かった。ただ、スマートフォンの画面やカメラ照明を照らしても、自分の身体の他には何も明るくならなかった。電波も圏外。自分を閉じ込めるような空間に恐怖を募らせていたところ……。
「オイ、こっちだ。」
「うわ!」
それが人の声であると気付くのに、腰を抜かした直後の半秒を要した。振り向いてみれば、自分が歩いてきたはずの背後……そのすぐ真後ろに、卓上ランプに照らされた男の姿。男は黒い差し色の入った、グレーの軍服らしき整った身なりである。取調室じみたスチールの事務机を挟んで椅子に座っている。
「座れ。」
「な、何だよあんた……ここは一体……。」
「座れ。これから話す。」
=つづく=
目の前の男は制帽を目深に被り、顔がよく見えない。体格はかなり良く、下手をしたらラグビー選手並みはあるかもしれない。対面に座ってみると、迫るように身を乗り出していて余計に威圧感がある。この男が何か知っているのは明らかだが、正直聞き出す勇気が出ない。僕が半ば怯えつつ縮こまっていると、男の方から口を開いた。
「まずは、お悔やみ申し上げよう。当人に向かって言うのも変な話だが。」
「何の話だ。縁起でもない。」
「何の、とは。ありのままを伝えたまでの事だ。君の記憶を辿ってみれば分かることだ。いや、本来ならそんなことすら必要ないのだが。君は余程の楽観主義か、あるいは鈍感とお見受けする。」
男は気だるげに椅子の背もたれに身を預け、呆れた様に溜め息をつく。不愉快な態度だ。全くバカにされているようだった。
「何の話だと聞いてんだ。」
「では率直に申し上げよう。君は死んだ。201X年XX月XX日XXXX時XX分XX秒、車両衝突による複雑骨折と内臓破裂で目も当てられない最後だった。」
頭のおかしい奴がいるのか、僕自身の頭がおかしくなったのか分かりかね、軽く眩暈がした。ここが死後の世界だとでも言うつもりだろうか?
「故にここは、君の魂を預かる場所だ。死後の世界とでも言えば君のような鈍感にも通じると見受けるが。」
本当に言いやがった。いよいよ頭がおかしいらしい。コイツか、あるいは僕が。
=つづく=