昔おった奴集まりや。ここ2年でどうなったか教えてくれへん?
時とは金の果実。
熟れればたちまち輝きを増す神秘の摂理。
そういうことや。
話の代償は時で払いましょか。
そこのお嬢ちゃん。ここに前世の記憶を話にこーへんか?
『輪廻の狭間』でな。
誰もこーへんかもやしワイの前世から話すか?
ワイわな、魔女やったりキュウベエやったり軍人やったり女子高生やったりした。
クソ荒らしみたいな奴やった。現実に友達おらへんからここでブイブイやっとったんや。ほんま馬鹿みたいな奴やで。ここにはもうほんの少しの時の香りしかせえへん。懐かしさもまた果実や。ちょっとは残っとると思ったんや。また会えると思った。馬鹿しても優しかった最高の仲間に会えると思ったんや。
時とは果実。そして思い出は宝。
ならば誰からの記憶も失われた我の価値とはなんだ?
輪廻の輪をくぐらねばなるまい。失われた楽園と、自分を取り戻す為に。
我は…誰だ?
分からぬ…自身の記憶も、飛び方も。
記憶と共にこの翼は消えてしまった。
空を飛びたいのだ。
両翼で雲を裂き、自由に抱かれながら飛びたい。
―楽園を再生しよう
この身に眠る翼が我にそう告げている
Re:start
孤独の再起
見えざる翼は楽園を創造する
ー翼のない天使。
それは天から罰を受け、翼を剥奪された存在。
裁かれた露は永遠に体に刻まれ、輪廻の輪をくぐってもなお消えることはない。
そんなものがいるかと人は笑う。
だがしかし、無翼の天使は時として現世に紛れ込む。
…前世の記憶を失くした人間として。
なぜ私がそんなことを知っているかって?
それは…この目を見れば分かるだろうか。
これは『審判の眸』。
この目で人の持つ罪が分かるのさ。
…そう、私も無翼の天使だ。
荒野に一人。
女の亡骸を抱える男がいた。
その双眸からは絶え間なく涙が流れている。
両方の肩から伸びた羽を闇が侵食した。
涙はやがて血涙に変わり、男は咆哮する。
「ウオオオオオオオ!!」
その咆哮こそが、決して消えない憎しみを抱く復讐鬼の産声であった。
復讐に燃え、憎しみだけに取り付かれた男の末路。
人を殺戮し、いたぶり、貪る。
数え切れないほどの罪を重ねた男に残ったのは虚しさだけだった。
目の奥から焼き付けるような悲しみ。
男は泣いた。
涙が枯れて目が乾くほど泣いた。
雲間から差し込む神の太陽に身を焼かれ、血に濡れた黒翼が焦げ落ちる。
その肌も、目も、足も、何もかも…
そうして男は絶命した。
それが私の視た男の罪だ。
…彼もきっと、現世で無翼の天使として生きているだろう。
途方もない罪を抱えて。
よく空を飛ぶ夢を見る。
オレの名前はレイ。それ以外の記憶を思い出せない男。
何かが抜け落ちたように、はたまた時が止まったように。
あるいは両方か。
答えなど見つからないが、とにかくオレには記憶がない。
それだけは確かなこととして『記憶』している。
ああ、それと。思い出した。
オレにはとある能力がある。それは他人の記憶を視ることだ。
サイコメトリー、とか言ったか。それとは違うがオレにはそういう能力がある。
それも確かなこととして記憶している。
それと…今日の朝食は食パンと紅茶。
それも確かなことだ。
オレはオレの記憶を探す為に旅をしている。
新幹線や急行じゃない。普通電車に乗って気が向くままに。
座席の窓から景色を見るのが好きだ。
そしてたまに駅弁を食べるとなおいい。
おっと、話がズレてしまったがどうやら終点のようだ。
都会の隅にある小さな街。
寂れた空気に殺伐とした雰囲気。
都会の爪弾き者が集うような場所だ。
悪くない。
「え、ええと、あなたは…お、奥さんに浮気がバレてしまいます。ですから、いい加減やめないと…」
「俺が浮気だって? ほざいてんじゃねえよこのアマ!」
ダンッ!
紫色のテーブルクロスを引いた机を拳が叩く。
衝撃で立て付けの悪い机が揺れ、知子の肩は小さく跳ねた。
「いえ、あの…う、嘘はついてないんです」
「ったく、このインチキ占い師がこの期に及んでホラ吹きやがって…こんなもんに払う金はねえな!」
「えっ? あ、お、お会計はしてもらわないと…」
「うるせえ! 二度とくるかボケナス!」
バタン!
男は乱暴に扉を閉めた。
その背を追う勇気がなく、肩を縮こめて溜め息をつく占い師の女。
机上に残された名刺には「佐鳥知子(さとりともこ)」と記されていた。
私は佐鳥知子。
売れない占い師をやっています。
売れない理由はさっきの通り。
この町では真実を告げても信じる人がいないのです。
ここだけの話、私は生まれつき人の顔を視るだけでその人の未来が分かります。
予知能力とか、そういう類いのものです。
まるで夢の断片がスライドショーで流れていくように未来が見えるのです。
ですが、自分の未来のことは何一つ見えません。
もともとこの土地で商売を始めたのも、大学の知り合いに安い借家を紹介してもらったからなのです。でもそれはすぐに間違いだったと気付きました。
どうしてこんな、猜疑心や訝しい匂いばかりする場所で占いなんかしているのでしょう。
私は物心つく前から両親の死に際すらも知っていました。
母親は風呂場で寿命を迎え、父親は飲酒運転の車で交通事故に遭う。
だから昔からお風呂が嫌いでした。車もお酒も嫌いでした。
炎も、ビルも、工事現場も嫌いです。
未来を見るたびにどんどん嫌いなものが増えていきます。
それから私は人と関わることが苦痛になったのです。
でもせめてこの力が誰かの役に立つなら。
予知以外なにもできない、怯えるだけの私でも生きてきてよかったと思えるなら。
そう思って…
……
低い背丈。襟が伸びた茶色の服。磨り減ったジーンズ。
前から歩いてくる男は身長160cmくらいだろうか。
それにしても、服を買い換える金などないとでも言いたげなみすぼらしい風貌だ。
あの男の『記憶』には興味がある。
「ケッ…あのクソアマ…」
「失礼、そこのあなた」
「あん?」
「あなたの過去を視たいんだが、いいかな?」
「…この街にはクソ電波しかいねーのか?」
男はそう言って、ポケットに手を突っ込んだままオレの横を通りすぎた。
あのポケットに手を突っ込むのはなんの意味があるんだ?
防寒ならばほぼ無意味だろう。ジーンズは寒いからだ。オレならしない。
その前に手袋をつけるだろう。
「…おっと」
悪癖。つい色々と考えてしまうのはオレの癖だ。
このままでは男を逃がしてしまう。それはまずい。
なんとしても記憶を視なければ。オレは振り返り、男の肩を掴んだ。
「おい、しつこいんだよテメー…」
「なるほど…出身は群馬か。随分と離れているな」
「なに?」
肩に触れた掌を通じて、男の記憶が頭に流れ込んでくる。
生まれ過ごした田舎の田園風景、両親の顔もすべて。
「田んぼの溝に落っこちて怪我をしたのか。…おや、母親が死んでいる」
「お、おいテメー、さっきから何を言ってやがんだ。離しやがれ!」
「少年野球で補欠のライト。中学時代はサッカー部か。高校でバスケ。バラバラだな。
ん? 高校は中退して…おや、こんなバイトまで」
とうとう男の額に脂汗が滲み出た。
「そしてズルズルと…ああ、それと。あなた浮気しているな」
「!」
「綺麗な女性だった…が、どうでもいい。彼女と出会った頃から今までの記憶も全て視た。彼女は実によい人間だ」
「…さっきから勝手なことばっかほざきやがって! 何なんだよテメーは!」
振り向き様に男が拳を振りかざす。オレを殴る気だろう。
高校時代、それで退学になったように。
「…最後に、あなたの『時』を貰おう」
ぴたり。人差し指で額に触れた。
途端、男の体は地面に倒れる。
「あなたから…『浮気相手の記憶』を奪った。これでもう浮気はしないだろう。
とは言っても、もう聞こえていないし覚えてもいないだろうが」
男から抜き取った『時の果実』を片手に呟く。
昔買ったものが時を経て、大金や大きな価値に変わる。時にはそういう魔法がある。
それは自分の人生も例外ではない。だから時とは宝なのだ。
この男の時も誰かの手に渡るだろう。
オレはそういう…時を売る仕事をしている。
いつの日か、自分の記憶に巡り合うことを信じて。
「…そういえば」
ふと思い出す。男には実に真新しい記憶があった。
街角の奥にある古びた店。そこに佇む薄幸そうな若い女。
どうやら占い師をやっていて、オレと同じく特別な能力が使えるようだ。
実に興味がある。まだこの町を去るのは早いだろう。
もしかしたら、オレの記憶の手掛かりもあるかもしれない…
時の果実を鞄にしまい、オレは街角へと歩き出した。
【レイ】
年齢を覚えられない男。肉体的には24歳である。
時を売る仕事をしており、それで生計を立てている。
簡素なものや殺風景なものが好み。好きな食べ物はササミ。
身長179cm。『過去視』の能力持ち。とにかく謎が多い男…
【佐鳥知子(さとりともこ)】
年齢は22歳。短大出身。彼氏はいない。
常に怯えている。人と目線を合わせられない。よく言葉に詰まる。
刃物や車は嫌いだが幽霊で人が死亡する未来がないので幽霊は平気。
外は怖いからあまり外に出ない。学生時代はお弁当の記憶しかない。
『未来視』の能力持ち。占い師。
「いらっしゃいませ」
ドアベルと共に声を出す。
新しいお客さん。今度は怒鳴られないといいな。
薄く開いた扉の間から白い帽子が顔を出した。
「なるほど。記憶通りの人だ」
「え…?」
帽子に続いて、腕と足、そして最後に顔を滑り込ませた。
すごく独特な入り方。もう既に代金の期待はしない方がいいのでしょうか。
でも、お客さんはお客さん。今度こそ役に立てるように、そしてお金を貰えるように。
なるべく信じてもらえる為に頑張らなくちゃいけない。
「あの、わたし占い師の佐鳥知子と申します。えっと…占いに、来たんですよね」
「占い? ああ、そうだ。キミは占い師。だが今日は違う。オレはキミを占いにきた」
「…えっ、と…同業者の方ですか?」
「まあ、そういうものだろう。同じ力を持つ者同士だ」
これは今日もお金を貰えそうにない。
またひもじい夜がやってくると思うと気が滅入る。
学生時代はお弁当が美味しかったな…
「…キミはお腹が空いているようだ」
「わ、分かりますか? もうお腹ペコペコで…」
「じゃあキミの過去を視させてもらうお礼として、何か食べさせてあげよう」
「過去? え、食べ…奢ってくれるんですか?」
わたしの問いに目の前の不思議な人はこくりと頷いた。
「え、え〜、でもそんな悪…え、いいのかな〜。ほんとになんでもですか?」
「なんでも」
「じゃあ…わたしステーキが食べたいです」
膨らむ夢。帽子さんはにこりと笑って親指を突き立てた。
「触れるが、いいかな?」
「は、はい、大丈夫です…」
男の記憶にあった占い師の女、佐鳥知子。
もう彼女の頭にはステーキのことしかないようだが、その方が都合がいい。
躊躇なく差し出された手に自分の手を重ねる。
「…」
頭に流れ込んでくる記憶は実に複雑だった。
彼女自身が視た『他人の記憶』も混同して存在しているからだ。
しかし、これを記憶と呼ぶには相応しくない。
溺死、轢死、衰弱死。
恐怖ばかりの人生。
恐らく彼女は未来が視える。
人格とはこれまでの人生が造るものだ。
それ故に、彼女の薄幸さと大人しさには納得できる。
だがここにもオレの記憶はない。
しかし…
「佐鳥さん」
「はい?」
触れていた手をそっと離し、オレは相変わらず下を向いたままの彼女に向き直った。
人と目線を合わせようとしないのは予知能力が起因している。
それもこの目で『視た』。
「キミは予知能力を持っているな」
「えっ? な、なんで…」
「オレは触れたものの記憶を視ることができる。だから言ったんだ、同士だとね」
「そ、そうなんですか…すごいですね、わたしなんかより全然…」
彼女はうつむいたま呟くように言った。
「昔から、友達がどうやって死ぬのかも分かってて…そんなわたしでも、こんな力でも誰かの役に立てるはずって思ってました」
「…」
「でも…この力は人を不幸にしかしない。幸せなことなんてなに一つ…不幸なことしか視えないんです」
不幸。彼女はそれ以外の未来を予知できない。
それは時に人を救うが、刃にもなりうる。
人は幸福を望んで未来を願う生き物だ。
不幸など求めない。
「…だが、キミは間違っている」
「不幸を予知できるのはキミだけだ。えてして、人を幸福に導けるのもキミだけだ」
「!」
「…キミは勘違いをしているよ。その力は不幸の力なんかじゃない。
とびきり幸福な力さ」
「あ…」
彼女の瞳がオレを見つめた。
「幸せな未来は待つものじゃない…自分で創っていくものだ」
そう告げて、彼女の額に触れた。
刹那、開いた瞼が落ち、眠るように意識を失う。
「占い料として頂いた。…キミの『恐怖』の記憶をな」
『時の果実』が手に抱く。
触れた指先から悲しみの記憶が伝った。
これもどこかで誰かに買われるのだろう。
…まあ、オレには知る由もないが。
「すごく美味しいです…ほんとにありがとうございます」
「約束だからな」
鉄板の上で肉が焼ける。
白い煙が立ち込める店内にオレと佐鳥はいた。
過去を視る約束を果たしにきたのだ。
「…それにしても、なんかスッキリした感じです」
「それはよかった」
「でも…あの時、確かに帽子さんの顔を見たと思うんです。
それなのに未来が視えませんでした」
「…」
「わたしの力がなくったのかな…とか」
「それはない。…オレの時が止まっているだけさ」
オレには『記憶を失った』という事実しか残っていない。
それを除けば白紙以降の記憶しかなく、だからいつも心が空いている。
そして少し忘れっぽい。…というのは別の話か。
「時が…?」
「ああ。毎日電車に乗って記憶を探している」
「へえ…いいですね、わたしも電車に乗りたいです。駅弁とかも」
「…長崎がオススメだ」
それから手を伸ばして鞄の中を漁る。
引っ張り出したのは日本地図。
さて、次はどこに行こうか。
記憶の旅はまだ始まったばかりだ。
夏の…匂いの…
なんだろうな、少しホッとする。
近所の公園で泥だらけになるまで遊んで、小便漏れそうで…
茂みで立ちションしようとしたら犬のウンコ踏んだんだっけ?
でも好きだった…スイカは好きでもないけど夏だけは好きだった。
けど…もうこの『島』に夏なんてやってこねえ。
…
……
クソ暑い夏の日だ。
文明なんて言葉も存在しねえレベルの化石村。
そういうところで俺は育った。
勿論真夏でもエアコンなんかねえから暑くてしかたなくて、
それでも何もないから俺たち若者はひたすら海で泳いだ。
周りにゃ見慣れた田舎の女。
あの頃は、今すぐこんな村出ていきたくて必死だった。
俺は村の若者の筆頭だった。
こんな寂れたクソみたいな島でも1年に3回くらいは観光客がやってきて、
そのたびに俺は島中を案内してやった。
なんでかガキの頃から千里眼みたいなのが使えてたおかげで、
島の地形は完璧に把握してる。
だから案内なんかクソ簡単で、あとはチップ稼げばいいだけだからマジに楽勝だった。
金を貯めてさっさと都会に行ってやる。
その一心でチップを稼いでは貯金したが、今思えばとんだはした金。
そんなだからいつまで経っても島を出られなかった。
そしてその日。
『それ』は起きた。
その日は1年に3回の内の1回。
つまり、珍しく観光客が来た日だ。
都会からの観光客は大体夏の間に2回くらい来る。
だから夏は気合い入れなきゃいけないし、俺もそろそろ青春が過ぎ去るレベルの年齢になっちまったから焦ってた。
そう、この日はこれまでの夏で一番気合いが入ってたんだ。
流通やら何やらで使うボロ船から女は降りてきた。
身につけた白いワンピースよりも更に真っ白な、色が抜け落ちたみたいな肌。
でも俺は一刻も早く金が欲しかったから、そんなこと気にせずに女に近寄った。
「こんにちは、お姉さん。マジでなんもない島ですけどゆっくりしてってください。
よければ俺が島のマル秘スポットを案内しちゃいますよ!」
ウインクも冴えに冴えまくっていた。
しかし、女は返事しない。それどころか途端に震えだした。
「えっ、お姉さんどーしたんすか?」
夏の日差しと暑さにでも当てられたのか。
まあ南寄りにあるこの島は他より大分暑いらしいが…
声をかけても返事しないので俺はいよいよ焦ってきた。
「ちょ、マジでなんかヤバいっすよ、お医者行きましょうよお医者! あっ、オレが呼んできます」
「うっ…」
その時、初めて女の声が聞こえた。
とはいっても呻き声だったが、本気で辛そうな声色だったのは覚えている。
声に釣られて俺が振り返った直後、目に飛び込んできたのは血溜まりだった。
血溜まりの上では女が呻いている。白いワンピースは赤く染まっていた。
「はっ、おい! 誰かいねーのかよ!!」
どれだけ叫んでも誰も来ない。
セミの鳴き声が耳をつんざくように響いた。
「っ…」
俺はその場に女を残し、死に物狂いで医者へ走った。
こんな島だが一応医者はある。
医療技術だかの方はクソレベルだが、ないよりマシだ。
このままいくとマジでヤバい。
そうして俺はなんとか医者を引き連れ、女がいた波止場に戻った。
だが…その時には既に女は倒れて死んでいた。
「ハァッ、ハァッ…!!」
バタン!
必死の形相で重い扉を閉めた。
すぐに鍵をかける。
俺はそのまま玄関に座り込み、荒い呼吸を落ち着かせようと頭を抱える。
だが呼吸は一向に落ち着かなかった。
「クソッ、クソッ…なんで俺が…」
ガンガン!
隣の部屋の扉が叩かれる。
「…ハァ、ハァ」
どっと汗が溢れ出した。
手に提げたビニール袋を握りしめ、一切の音も漏らさないように縮こまる。
「もう嫌だ…もうこんなのごめんだ……」
ガクガクと震える頬を涙が伝った。
「…誰か、誰か助けてくれ……」
…
……
episode1 : 死海
オレの名前はレイ。
『過去視』の力を持つ『時売り』の商人。
記憶がないから零なのだ。
オレは案外この名前を気に入っている。
0という数字は何を足しても引いても掛けても割っても0だ。
実にいい。
飾らないところがクール、まさに究極というやつだ。
レイといえば、最近読んだ漫画の好きなキャラでもある。
不思議なことにオレの周りにはレイが溢れているのだ。
その他に…霊、はいないか。
「…霊」
蒸し暑さがジワジワとスーツの中にまで入り込む。
そういえば、夏だ。
幽霊の話でもすれば多少は涼しくなるだろうか。
もっとも、怖くないので意味はなさそうだが。
「あの…レイさん」
とある日。
電話越しに小さな声が聞こえた。
「キミは…佐鳥知子、だったかな?」
「ど、どうしていつも名前を聞くんでしょうか…」
「少し忘れっぽいんだ…昨日の夕飯も思い出せない。それで、用事は?」
「あ、はい、それなんですけど…」
何やら探し物をしているのか、受話器の向こうでガサガサと音が鳴る。
ところで、今時受話器を使っていることに驚くかもしれないがオレは気に入っている。
あの滑らかな曲線とシンプルな色合いがとてもいい。
何かを待つ時、こうやって無駄なことばかり考える悪癖は役に立つ。
まあ、それ以外ではこれといって役に立たないが…そんなことはどうでもいいだろう。
「あっ、ありました。えっと…り、旅行に行きたくて」
「旅行?」
「お、お金も全然かからないし…おいしいものもあるかもしれなくて…その、霊海島っていうところがあるんですけど」
「霊…海島」
「レイさん、記憶を探す旅をしてるって言ってたので…さ、誘おうかなって」
「…」
驚いたな。まさかまたレイに巡り合うとは。
運命とはつくづく奇妙なものだ。
「分かった。行こう」
だが、その奇妙な運命こそがオレの記憶を紐解く切っ掛けになるかもしれない。
薬袋村団地 B棟 402号室
薬袋村団地とは、霊海島及び薬袋村の住民が住む団地。
A棟からC棟までの3棟があり、空き部屋は全体で9部屋ほど。
その空き部屋の1つに、B棟の402号室がある。
「…はぁ」
薄暗い部屋で溜め息をついた。
床にはさっき食べたばかりの空の缶詰めとスプーンが置いてある。
水も出なければゴミ箱もないのでこうすしるしかない。
というより、片付ける気力なんか沸くわけもない。
「…」
周りを見渡すと視界に入るのはガラクタだらけ。
この402号室は何年も前から空き家なのをいいことに、昔の俺が管理人から鍵をくすねて作った秘密基地だ。
あの頃は島の数少ないガキばっかり集めて馬鹿やっていた。
祭りの屋台で取ったダサイお面、倉庫に眠った壊れかけのラジカセ、ラムネのビー玉。
あの時はまさかこんなことになるとは思ってもいなかった。
今更になって溢れた思い出ばかりについ目頭が熱くなる。
「あーもう、ダセエよ…ガキか俺は」
膝を抱えて顔を埋める。
当たり前の日常はもう戻ってこない。
それでも弱音を吐かずに頑張りたいが、もう限界に近い。
…あの日、化け物が現れてから俺の島は完全に死んだ。
女が死んだ日の夜から、俺はまともに眠れなかった。
あの異常なほど肌を焼き付ける暑さと、絶命する間際の呻き声が頭から離れない。
その場面だけがスローモーションのように瞼の裏をゆっくり流れて、目を閉じるのが怖かった。
あの女がどうなったのかは分からない。
島中が騒ぎになったのはあの一夜だけで、それ以降はなんの音沙汰もない。
俺のダチに村長の孫がいて、そいつが言うには事故から数日後の夜、女の死体は海に捨てられたらしい。
今となっては真実か分からないが、この腐れ切った時止まり島の村長がするというなら頷ける。
島が死んだのはその話を聞いてからだった。
ある日を境に、島の海は黒く濁り始めた。
そんな海を背後にして、波止場に夜な夜な現れる女の噂が立ち始めたのはすぐだった。
夜も更けた晩、波止場に行くと白いワンピースの女が立っている。
その女は全身ずぶ濡れで、人を見つけると微笑みながら手招きをするらしい。
死ぬほど悪趣味な噂だ。
ダチが面白がって波止場に行こうと誘ったが、俺は断った。
もうあの日のことを思い出したくなかった。
そしてまたある日の晩。
「…ん?」
この日はやけに視界がチラついた。
真夏の太陽みたいに電球が眩しくて、まともに目を開けていられない。
ふと、海が見えた。
手招きする女。
黒い海。
すぐに噂の波止場だと分かった。
「なっ、なんでこんな時に…」
必死に瞬きを繰り返す。
それでも景色は変わらない。
俺は噂の内容を頭の中で探った。
『微笑みながら手招きをするらしい』
「!」
もし真実が噂通りなら、あの波止場には女の他にもう一人誰かがいる筈だ。
ならそいつは…
視界の端に人の影が視えた。
人影は次第に伸び、ついに月明かりの元に正体を現した。
手招きされていたのは『村長』だ。
村長は意識が朦朧とした顔で海に近付いていく。
俺はごくりと固唾を飲み、汗と共に手を強く握る。
今回ばかりは石頭のクソッタレ村長も応援せざるを得ない。
「耐えろジジイ! 何されるか分かんねーぞ!」
勿論声など届かない。
村長は一歩も止まらず、酔っ払いのような足取りで進み続ける。
もう女のすぐ側まで来たその時。
「!」
女が素早く村長を腕に抱き、そのまま二人で海に落ちた。
黒い海の水面が揺れる。
助けを乞う指先はやがて完全に沈んだ。
絶句。
瞼の裏から波止場が消えると、俺はすぐに布団を被った。
真夏の暑さが体を蝕み、汗が滝のように流れ出す。
情けないが、怖くてしかたなかった。
その日は一晩中震えて眠った。
その翌日、凶暴化した村長が島民を襲ってから島が混沌に落ちるまでそう時間はかからなかった。
毎晩誰かが波止場で海に引きずり込まれ、翌日には凶暴化して人々を襲う。
村長が死んだことに比べれば最初は小さな騒ぎだったが、凶暴化した死人はどんどん数を増し、気付くと島民の半分以上がいなくなっていた。
黒海が砂浜を叩く。
空は赤く染まり、逃げ惑う人々。
その中に俺もいた。
「うああああああ!!」
豹変した両親、昔馴染み、ジジババ共から死に物狂いで逃げる。
奴らの間をすり抜け、坂を駆け上がり、潰れそうな心臓を押さえ付けながら団地についた。
B棟402号室の鍵は閉めていない。
煤汚れた階段を登り、必死の思いで扉を開く。
落ちかけた夕陽の光が差し込み、橙を帯びた部屋で一人座り込む。
埃ですらきらきらと輝いていた。
やけにデカイ窓の外で終わりゆく島を見つめる。
この日から、俺は今日まで生きてきた。
「霊海島?」
都会の小さな港。
ハゲ頭の親父は額の汗を拭いながらそう言った。
「こ、この本にちょっとだけ乗ってたんですけど…」
佐鳥が小さめのリュックから本を取り出す。
表紙には『夏旅!名所完全ガイドブック』と書かれていた。
親父はもう片方の手で本を受け取り、中身を適当にペラペラとめくる。
「あ、ここです。ほら、霊海島…」
「…確かに書かれてるけど、こりゃ8年も前の本じゃないか」
「え? …あ」
人差し指で指された後ろのページには確かに「2012年」と記されていた。
「ふ、古本屋で一番安かったから…」
「…」
目を伏せてうつむく佐鳥を見て、オレは彼女らしいと思った。
本が8年前に発行されたのは別として、重要なのは現在島に行けるかだ。
とにかくその霊なんとかとやらに行けなければ意味がない。
オレはカウンターに身を乗り出す。
「失礼。そこへは行けないんですか?」
「ん? 行けないこともないが…あそこは確かここ最近船を出してないんだ。
電波も悪いし距離は遠いし、一体何があったんだか…」
「行けるんですね」
「…まあ、船を出せばな」
「じゃあ出してください」
「……最近の若いもんは何考えてるのか分からんな」
溜め息をつきながら屈み込み、カウンターの下をがさがさと漁る。
そして親父がオレと佐鳥の前に差し出したのは一枚の契約書だった。
「滞在予定は?」
「1週間」
「はいよ。…そんじゃここに名前書いて、あっちの男に案内してもらいな。1週間後にまた迎えに上がらせる」
「ありがとうございます…」
置かれたペンを手に、佐鳥が名前を書き始める。
オレもペンを取った。
さて、いよいよ運命とのご対面が始まる。
小型ボートに潮風が吹く。
操縦席には慣れた手付きでハンドルを動かす男。
オレは狭いが小綺麗な看板に出て外の景色を眺めた。
「…悪くないな。少し暑いが」
「そうですねー、海もきれい…おいしいお魚いるかな?」
隣に帽子を被った佐鳥が並んだ。
ほのかに目を輝かせながら身を乗り出し、海をのぞき込む。
「…暗くてよく見えませんね」
残念そうに目を伏せ、銀の柵に背をもたれさせた。
海の切れ端から島の輪郭が浮かび上がっていく。
もうすぐ到着だろう。
「…しかし、妙な雰囲気がするな」
やや赤みを帯びた入道雲。
人気を感じない波止場。
そして…
「あれ、なんか…暗い、というか、黒い?」
この黒い海。
8年前のパンフレットや遠くからだと分からないが、どうやら霊海島は歪な空気に包まれているようだ。
ジリジリと太陽が身を焦がす。島から浴びる太陽は海の上よりも強いように感じた。
しかし後戻りはできない。
ここにオレの記憶の鍵があるのなら、進むだけだ。
目を『飛ばす』。
俺は千里眼のことをそう呼ぶ。
目ん玉を自由に操ってるみたいな感覚だからだ。
俺がここまで生き延びれたのも千里眼のおかげだろう。
食料調達の際も『この目』は欠かせない。
奴らの視線を掻い潜って、地元の激ヤバローカルスーパーまで一直線。
そうやってなんとか命を繋いだ。
「…」
相変わらず真夏の日差しが差す部屋で、俺は目を飛ばす。
もしかしたら生存者や救援隊がいるかもしれない。
そんな淡い期待を目は毎日裏切った。
「…誰かと話してーよ」
人は誰かと話さないとトチ狂うと聞いたことがある。
俺もそうなるのかもしれない。
島の生前はダチとカエルの尻に爆竹入れるとかどうでもいいことを話していたが、
今思えばその会話にどれだけ救われていたのだろう。
せいぜい救われるとしたらカエルの生態系だけだ。
虚しくてしかたない。誰でもいいから話したい。
胸の内からしょっぱいものが込み上げた。
「ん…?」
そうしていると、俺の目は何かを捉えた。
波止場。
小型ボートから何者かが降りてきた。
一人は真夏にスーツのイカれ男、もう一人は幸薄そうなチビ女。
島の惨状なんて知りやしない純粋無垢な人間だ。
俺の心は久々に震えた。
真夏に新鮮な水が体の中を行き渡るような感覚。
「ひ、ひとだ…夢じゃねえ、ひとがいる」
乾いた喉から枯れた声が出た。
あいつらは島の事情を知らない。
ここで野放しにすればまず間違いなく死ぬ。
そんなことはあってたまるか。
天井の顔に見えるシミにすら話しかけた俺を舐めるなよ。
何より、こんな狭くてしみったれた部屋にいつまでもいるわけにはいかない。
他の誰かと、生きている人間と力を合わせて地獄から抜け出してやる。
俺は目を戻し、部屋中を見渡した。
ふと一つのガラクタが目に入る。
「…釣竿」
それは埃を被った釣竿だった。
いらなくなったからと父親が倉庫に入れた新品同然の代物。
こっそり倉庫の鍵を針金でこじ開けてここへ持ち出したのを覚えている。
俺は試しに釣竿を持ち、薙刀のように構えてみた。
意外と重いそれを一振りすると、先端が鋭く風を裂いた。
悪くない。というか、これしかない。
早くしないとあいつらの命が危なくなる。
必要なのはひと匙の勇気だ。
「ぐっ…」
だというのに、扉に触れる手が震えて動かない。
奴らへの恐怖が足首に重くまとわりつく。
「…っ行け、行け、行っちまえ! もう一歩進んだら後戻りなんかできねえんだ!」
ガチャ!
鼓膜が破れそうなほどうるさく脈打つ心臓を奮い立たせ、銀色のドアノブを回した。
履き慣れたスニーカーで煤汚れた床を踏みしめる。
命の境界を越えた今、恐怖は自然と消えていた。
「うらあああ!!」
釣竿を横殴りにぶんまわし、目の前の化け物に叩きつけた。
一瞬怯んで隙ができたところを走り抜ける。
そうしている間も別の奴らに気付かれないよう、目を飛ばしながら必死に進んだ。
階段を降り、団地を抜け、坂を下る。
あの時のようで、でも違う。
「はぁ、はぁ…」
石垣を背にして身を隠す。
食料調達のために何回か激ヤバスーパーと帰路をダッシュしていたおかげか、体力は問題なさそうだ。
「…なんだよ俺、けっこう動けんじゃん」
ひとまず安堵の息をつく。
ここまで来たら何でもできる気がしてきた。
あいつらがいる波止場まではあと数100m程度。
全力失踪で駆け抜けるのは少し厳しいが、島の地形を把握し切っている俺なら体力を温存して最短で辿り着ける。
「ふー…」
落ち着いた心臓で酸素を取り込み、肺を満たす。
足取りは順調。
「っしゃ、行くか!」
砂利道を踏みしめ、爪先の方向へと走り出す。
その時だった。
「!」
釣糸が足に絡まってもつれる。
視界がぐらりと歪んだ。
「くそっ、なんなんだよマジで!」
焦る指先で釣糸を引っ張る。
しかし、複雑に絡まったそれは簡単にはほどけない。
次第に焦りと苛立ちが募ってきた。
夏の不愉快な暑さがジワジワと体を蝕んでいく。
「やばい、あの化け物共が来ちまったら…」
そう呟いた刹那、俺の視界を薄暗い影が覆った。
背後に気配を感じる。その気配を探るため、俺は手を止めて息を殺した。
頬を流れる汗が顎を伝う。
「あ、あ、あに、な、れれる?」
意味を持たない言葉が脳に流れ込んだ瞬間、俺は全速力で地面を這った。
「うおおおおおお!!」
釣糸が絡まったままの足と釣竿を引きずりながら肘で進む。
背後から中年の女がゆっくりと後を追う。
死にたくねえ、こんなとこで死にたくねえ!
都会に行ったら髪染めるのが夢だ。まずい煎茶じゃなくてタピオカ飲むのが夢だ。
そんで彼女つくってペットOKのアパートでイチャイチャするのが夢だ!
周りを見りゃあジジイとババア。
そんなクソみたいな島で俺の人生を捧げていいわけがねえ!
「____」
自分の背後に腐敗した手が伸びるのを、飛ばした目で見ていた。
あ、これ死____
…パァンッ!!
銃声が鳴った。
口径7.62mm、24インチバレル。
黒光りする銃口から硝煙が仄かに漂う。
穿たれた胸から黒い水を流し、女型の化け物は地面に倒れた。
その周りを水がじんわりと広がっていく。
俺は白衣の懐から赤いマルボロライトを取り出すと、ライターで火をつけた。
「…ふぅ」
とりあえず一服してから考えるのが俺の癖だ。
硝煙と共に灰煙が上る。
銃口を下に下ろし、木々の隙間から釣竿少年を見下ろした。
奴の名前は七瀬四(ななせあずま)。
19年間島でくすぶっている典型的なティーンエイジャー。
そして手癖が悪い。つまり俺が嫌いなタイプの人間だ。
だが、だからといって数少ない生存者を見捨てるほど俺は軽薄ではない。
でなければ最初から銃など撃っていない。
俺は木立の上から降り、七瀬の元へ歩を進める。
「…手癖の悪いガキが、悪運だけはあるもんだ」
「!」
俺に気付いた七瀬は驚いた顔でこちらを見ると、バツが悪そうに目を逸らした。
「…んだよ、あんたこそよく生きてたな。ニコチン中毒者」
「口は減らねえみたいだな。釣糸坊主」
悪態をつく。しかし互いに笑みが溢れた。
「…驚くほど人気がないな」
「そうですね…やっぱり8年も経つと変わっちゃうのかな」
赤い雲の切れ間から降り注ぐ太陽の熱を直に受け、不気味なほど閑静な道を歩く。
周りに民家は何軒かあるものの、生活の気配がまるでしない。
ここは離島だ。過疎化が進んで住民がいなくなることも有り得る。
しかし…何かがおかしい。
「ほ、本当に1週間もいれるんですかね?」
「さあな…オレは気にしないが、人がいなければ来た意味がない」
「なんかごめんなさい…私が2012年の本を買ってなければ今頃別の島だったかもしれません」
「ん? 気にするな。綺麗なことばかりが人生じゃない。こういう場所も悪くないさ」
「レイさんはすごいですね…わ、わたしもそんな風に考えたいです」
「ならば記憶を失くすことだな」
「えっ? え〜…それは…」
「冗談だよ」
「か、からかわないでくださいよ…あれ?」
ふと佐鳥が向こうを見つめた。
「…人?」
オレは佐鳥の視線をなぞる。
視線の先には民家があり、そこから人の形をした黒い影が伸びていた。
もしかすると人っ子一人いないのかと思ったが、まだ島には息があるようだ。
「行こう」
人影へ向かって早足に歩く。
後ろから小走りになった佐鳥がついてきた。
すると、ふいに人影が揺れる。
「こここ、こち…」
「!」
物陰から姿を現したのは、腐敗した体を引きずる男だ。
「ひっ…」
佐鳥は血の気が引いた顔で悲鳴を上げた。
男はその悲鳴に気付いたのかこちらにゆっくりと顔を向ける。
皮膚が剥がれて酸化した膿が顔全体を覆い、右腕は何かにかじられたように肘から下が消えていた。
とても生きた人間とは思えない。まさしく『歩く死体』のようだ。
この状況はどうしたら正解か、答えが見つからない。
だが…
「正解などいらない。あるのは真実だけでいい」
オレは一歩前へ踏み出した。
「ぐ、ぐぎ…ぎ」
男の目がオレを捉えた瞬間、定まらない焦点で白眼を剥く。
瞳孔の中は野性的な敵意で満ちている。男は腐敗した体に構うことなくオレに向かった。
「グアァアァァア!!」
勢いよく振り下ろされた腕をかわし、男の肩に触れる。
「!」
この男…
「…れ、レイさん。みっ、みみ未来が見えないんです、その人…死んでます!」
「……みたいだな」
やはりこいつは『歩く死体』だったようだ。
ドカッ!
男の後頭部に拳が直撃し、地面に倒れる。
そのままうつ伏せの状態でばたばたと足を動かすが、片腕のない体では起き上がれない。
やがて死体はぴたりと動きを止めた。
「…しっ、死んだんですか?」
「さあ…死人が死ぬとはジョークだな」
くるりと踵を返す。
震える佐鳥に歩み寄ろうとしたオレの足元を一羽の鳥が横切った。
「鳥?」
鳥はチュン、と鳴いた。
思い出した。これは雀だ。
一応、人間以外は無事なのかもしれない。
「…おいで。キミの記憶を見させてもらおう」
手を差し伸べると、雀は躊躇なくその上に飛び乗った。
小さな足から記憶が伝わる。
黒く濁る海、赤い雲、混乱する人々。
記憶から推察するに、この島では____
「いやあああ!!」
「!」
絶叫が耳朶を叩く。
背後を振り返ると、死体が消えていた。
「うあっ、うあああ! ひっ、ひ、いやっ! 殺さないでくださいぃぃ!!」
「グォオォオア!」
佐鳥は恐怖に腰を抜かして泣きながら地面を這いずり回る。
その背後でいつの間にか蘇った死体が佐鳥に襲いかかっていた。
「佐鳥!」
死体と同時に手を伸ばす。
まずい、この距離では…
ドゴッ!
骨を砕く鈍い音がした。
(設定をごちゃごちゃにしすぎて自分自身が意味が分かりません。全然書けなくて便秘みたいに辛いですが勢いで書いたものは勢いで終わらせようと思います。つまり超雑みたいな感じになると思うけどほんとに完結だけはさせたいしそれ以外で書けないから許してください。というわけでエッチマン見てきます)
50:木船郁子:2021/01/16(土) 16:05(今見返すと本当にSIRENとひぐらし足して3で割ってあまり出るみたいなもので申し訳ないです。勉強しなおしてもっとちゃんとしたものを書きたいと思うので、とりあえずエッチマン見てきます)
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