──結局のところ、正義ってのは──
コインに裏と表があるように、人間の言の葉に本音と建前があるように、残酷なまでに対をなす。
『──純悪にもなりうるものさ』
俺はなんの変哲もないごく平凡な家庭に生まれた。王都から離れた集落で、青空と雲の下、藁葺き屋根と土の香りに包まれて、なに不自由ない生活がそこには広がっていた。そんな俺には幼い頃からの夢があった。それはヒーローになることだった。
3:ハイド:2021/05/13(木) 08:09泣いている幼子がいれば手を差し伸べ、萎れた花があれば水をやり、生活もままならない老体を気遣う。俺は村の英雄になりたかった。誰かを救うことが天命だとも幼心に思ったものだ。しかし、その淡い夢も長くは続かなかった。村には奴がいたからだ。
4:ハイド:2021/05/13(木) 08:12 奴はいつも俺の先を駆けていった。俺が気づかない小さな穴でさえも目を通し、取りこぼさないよう善をまっとうする。だからいつも村の連中に慕われていた。奴は生まれながらのヒーローなのだと気づいた。それと同時に、俺の心の中にはあるひとつの感情が生まれる。
それが純悪の種だと自覚したのは、ある晴れた日のことだった。