彼女の名を知る人はいない
2:名を捨てし者:2021/08/07(土) 01:50それにしても暑いですねぇ。今日はどのようなご用事で? ふむ、なるほど、戦争の話ですか。あれから30余年ですね、我が国が勝利を治めてから。なに、誰でも知る話ですよ。ブリジッタの白旗ね。絵本でもあるでしょう。砲撃、奇襲、我が国の軍事力に屈服したブリジッタは抗う術なく自発的に白旗を挙げましたね。その件に関してなにを聞きたいんです? ……当時の研究、ですか。なるほどなるほど。軍部でも研究室に携わっていた人間で足取りが掴めるのは私だけなんですね。ではどうぞ、なんでも答えますとも。
3:名を捨てし者:2021/08/07(土) 02:00あの当時、我が国がブリジッタとの戦争に勝利できた所以はなんだと思いますか。勿論優れた軍事力でもありますが、一番はその軍事力に裏付けされた研究なのですよ。ええ、その研究内容が知りたいのでしょう。あなたが書く本は巷で売れると噂ですし、聞き逃しなく。それでは詳しくご説明していきます。はい、まずはなんといっても砲撃ですね。ご存知の通り我が国の技術力は発達しています。それは全世界でも比肩しないほどです。それはあの戦争時代があったからなのですよ。私たちは低いコストで爆発的な影響を及ぼすための兵器開発に取り掛かりました。それがあれですね、神のなんたらとかいうやつです。私たちが生み出した大砲は素晴らしいものでした。大砲の内側で弾が変化するよう何度も実験を重ねて作り上げたので、実戦では内側に変化弾を何個も仕込んでおくだけで何発も撃てたものですからそれは相手も勝ち目がありません。相手も油断していたのでしょうか、想定外の出来事に対応できずあっという間に白旗挙げて帰っちまいましてね。ははは、今思えば本当に我が国が誇る戦績ですね。さて、一応は話したつもりですが、他になにか聞きたいことでも? 別の実験、ですか。……ああ、そういえば、これはある種極秘の情報なんですけどね。都市伝説とでも受け取っておいてください。
4:原稿用紙:2021/08/07(土) 02:14
少女は研究室で生まれました。正確には、作られました。戦争が終わる半年前のことです。研究施設の人々は、大砲の開発に用いた変化弾の応用を考え、新たな兵器の研究を試みました。それは心臓を弾とするものでした。心臓の停止で爆発を引き起こす、いわゆる人型爆弾です。その恐ろしい兵器として少女は生み出されたのでした。
ですが、少女が敵陣へ送り込まれる前に戦争が終わってしまったので、人型爆弾の研究もろともお蔵入りになったのです。後の研究施設は少女の処理に困ったと言います。少女が死ぬと爆発が起こるからです。平和になった今、少女の存在意義は終戦とともに消えてしまいました。そんな爆弾少女の生きた証を、白旗の影に隠れた一つの人生を、同書では記したいと思います。
著:◼◼◼
街角、歩く少女。急勾配な石畳の左右に並ぶ民家の上では、ロープと洗濯物が空の隙間を覆っている。そのせいかほのかに洗濯糊の香りがする街には、果物屋や肉屋、その端で井戸端会議をする女の群れが入り混じっていた。少女は辺りを見渡して歩き続ける。路地裏の横、花屋の前、隆起する石畳を通って、やがて中央広場へ辿り着く。正面には既に城が見えていた。
「……」
数歩先のある噴水の縁に腰掛けた。3日も歩いていれば疲弊するのも当然だろう。一息つくように少女は休憩する。これから自分がしなくてはいけないことを頭に思い浮かべて、望まれる未来を何度も想像しながら。そう、この日のために。自分が生きている意味をようやく実感できるのだと、心のどこかで安堵すら抱いていた。
何てこともない。送る日常の中で忘れ去られる小さな影
あれら これらもただそれだけの生き物は数多く、そして
目には留まる程度に存在を示す位のものでもあった。
彼らは何処に居たところで 果ては忘れ去られるばかりか
何処か生き物の進む道とは程遠い生き方を歩むことになる
… だから彼らは "違う" 見聞を秘めて影の中へ消えていく
__似た者に お似合いの似た者 …時が絡まるのも
別段変わったことではないのだろう。__
:____:
小さな白いネコ。…噴水の側に寝転び 気ままな欠伸を
何処へと知らない所へ放ち、疑惑とも興味とも 意味に
纏めることのままならない 独特な視線を少女へ向ける。
__先客としてその場にあった小さな生き物は、異質な
少女に対し、警戒のない 珍しい様子を思わせるように
全く不動である種の気品を感じさせる姿を見せていた
疑惑と興味の入り混じった視線に気付く。視界の真ん中で、白い体躯の猫と目が合った。けれども猫のまんまるい二つの点は動かず。どこか気品を漂わせる相貌を、負けじと睨み返すわけでもなく、ただ一心に興味だけを宿して見つめ。
「……初めて見た」
ぽつり、と呟いて、まっさらな毛の塊に向かって手を伸ばす。その仕草になんの畏怖もなく。
ーーピ ピ ピ
青年という言葉を聞くと、つい若い男子を妄想してしまう。でもこの青年は大人と子供の狭間の女子である。街外れもいい所、そんな若き青年が乾いた黒髪揺らして、有刺鉄線に塹壕に、毒ガス未だ残る鉄臭い大地を行ったり来たり。 やがて、お日様お月様が交代すること実に三〇回、その間、西行き東行き、あーでもない こーでもないと欲求不満だった足取りが、ついに止まる。
ーーピピピピピピピピ
時は輝かしい早朝。たとえ泥に、汗に、ヒルに塗れ全身疲労であっても、この体で目一杯表現したい。
「これで三万個…最後の地雷です!」
喜びを、両手上げた全身ピースを、朝日へ。
ーーピピピピピピピピピピピピピピピ
この騒音&振動とも今日でおさらば。青年の額、あらゆる爆弾を探知するブリキのツノ。この世に爆弾ある限り、このツノは無条件に煩わしく反応し続けると説明された記憶がある。かつて、青春放棄少女には使命があった。
「うれしい…やっと恋ができます」
地雷撤去完了。これで使命『爆弾なき世界』は成就し、音も消えるはず…。
ーー ピ ピ ピ
「な、なぜじゃい!!」
青空に響く青年の叫び。探知機人間は今日も元気に探知する。その音に導かれて、都市に向かったそうな。
>>9
『都市ルセット』
高く聳え立つ城壁に囲まれた、円形の城下町。外側には民家が立ち並び、奥には王城、中央広場手前には地下街へ続く石畳の道が広がっている。道の途中は二又に別れており、城下町の入口付近と繋がっているため、地下街まで直結で到達できるのだ。地下街とは、特に各国の流れ者が住み商いをする場所である。なんでも、昨今の王城と地下街の間には癒着と思われる関係があり、情報提供と資金をお互いの対価としているなど噂されている。それが真実かどうかは分からない。
記載・著:◼◼◼
訝しむような素振りはないが、留めるような素振りはある
…近付く手に向けてジャブが飛び、特に意味は含まない
軽々しい鳴き声がその場に響く。…幸い、爪は出てなかった
"__ニャア"
( __目の色は水色、真っ白けの毛玉の中に
じぃっと眺める2つの水晶。…猫の目 )
「…!」
驚いて、反射的に己の手を引っ込める。直後、耳朶に響くのは鈴を転がしたかのような鳴き声。触れずとも見つめ合う。互いの間に張りつめたような空気があった。
「……」
…少女は困ったように肩をすくめて、にらめっこに降参の合図を示した。かと思えば、記憶の補完をするように、また、小さな興味を潰すように、口を開く。
「君には 生きる理由 があるの? 私にはあるよ、みんなが願うこと」
素早い動きに、呑気な毛玉は突然警戒するように
身を竦めて目を見開く。…互いに争う気はないけれど
ちょっとの意志疎通が出来なくて、そのまま絡まって…
( …その場で足も地に付け、何時でも駆け出せる姿勢
けれど、少女は何やら動かないし …何かしそうな
気配もない …尻尾を左右に多少激しく振る、警戒の動き )
____そして …その言葉に対する答えは
"___ニャア"
……
…………
「ニャア、が生きる理由なんて、君はなかなかどうして変わっているんだね」
微動だにしない二つの丸い点と己の双眸が、まるで線で繋がれたかのように見つめ合ったまま、頬を崩して微笑みを作る。言葉のあと、再度白い毛玉に手を伸ばした。撫でる、という仕草をするために。
「私、お城に行かなくちゃいけないんだ。初めてのお外は嬉しいけど、それよりもっと、自分の意味を持てるのが嬉しいの」
…はからずとも 少女の優しげな声は少し、ばかり
お気に召したようだ。比較的低い鳴き声は警戒の証、
けれど 近よる手に対しては、鼻先を向けて…
" ぐるーぅるるる__"
( 手が、頭の上に到着し 初めて毛玉の触り心地に
ありつける時… ピンと立てた耳を畳んで、目を閉じる )
"___ゥー"
「 ーーガキ、それに触れるな 」
二つの存在の柔和なコミュニケーションに割り込んだのは、黒いペストマスクだった。マスクは街中で最も黒い外観、長細い全身は黒一色だ。ついでに背には無数の刃が360度円を描くように装着、さながら人間芝刈り機の有様だ。
……
「……誰?」
一言。またしても猫を撫でやることは叶わず、けれども、今度は白い毛玉を守るように。噴水から立ち上がり〖男〗に全身を向ける。背後に光る弧を描いた刃にも恐れをなさず。
_____
事の趣が変わる… そんな空気には誰しもが敏感だ
__再び尻尾を激しく振る毛玉もご同様。… 少女よりも
明らかに危険で やかましい存在へ警戒の眼差しを向ける
"_____"
(__いざ という時の為 既に足は駆け出す用意を)
「 ガキのくせに俺が怖くねェのか 」
微かな乱暴さを秘めた低い声。マスクは少女に相対する形で、腰をわずかに曲げた。天地な身長差もあいまって、客観的に見ると、少女ははるか崖の頂上を見ているような、そんな構図だ。そして、見下ろすマスクは再びあの声で
「その態度は嫌いじゃねェが、俺は害獣を駆除しにきた。これも仕事だよ。クソガキ。…あぁ、ガキっていいよなァ、働かなくてもいいもんなァ 」
片手を、背の剣まで持っていくと、誰もが予想するであろう次の動作。そう、もちろん、刃を引き抜く。独特な金属音が粒子を震わせながら、引き抜いた刃を地に垂らす形で握った。
「 俺は子猫が嫌いだ 」
害獣、ガキ、子猫、働。聞き慣れない単語で頭の中が埋め尽くされるのを処理するために、男の一連の動作をただ呆然と眺めていた。鋭利な刃が視界をゆっくりと横切る。
「 どうして? 」
けれども少女は、怖いも嫌いの意味も分からないまま問いを口にした。まるで幼児のように。地に触れそうな剣先には目もくれず、真っ黒な彼のマスクの先を見透かさんとばかりに見つめて。
ーーピ ピ ピ ピ ピ ピ
ツノ騒音、今日も揺れる黒髪、泥んこ軍服。そんな形容司る青年は立派に行進する。対して、青年の左右前後に点在する男軍人たちはヤレヤレとでも言いたげな素振り、また気怠げな歩きぶりだ。
しかし街の人々は班員のうち、歩く騒音、ツノ青年を発見次第、歓迎の声を。『あのツノは… この音は…… ピだ!』 の声を端に、
『軍人ピーさん、この花はボードレールと言って値段は』『ピピさん!髪の毛鼻先まで伸びてますよ!是非うちの店で切』『ピ様、このお肉は猫の』、など止まない勧誘歓迎!
人類史上、異例の数の爆弾撤去に成功、不発の英雄と呼ばれる青年『カフォン・ダヌ・アリアンロッド』は思わず笑う。自分の名を覚えてもらえてないことに。
「ま、この世界にある爆弾の全てが不発ならいいんです」
青年のそんな発言に、隣の男軍人は『バッカらしー、酒飲んでくるわ』と、開いた扉の中へ消えていく。芋づる的に周りの班員も酒場の賑わう中へ。最後の一人に至っては『夜の宿でな』と耳元でゾッとする言葉を残して行ってしまう。
ーー ピ ピ ピ ピ ピ ピ
ひとりぼっち。騒音だけ残る。でも、いつものことだと、建物から体を翻して、
「とりあえず、任務遂行にむかいます!」
壁に囲まれた広大な街、とはいえ青年は音を頼りに、一歩一歩着実に対象に近づいていた。
「バカガキ。鉄臭くて、汚ェ、…何より人間様を病にさせちまう、常識だ。」
そんな説明も束の間、マスクは剣を空中高く振り上げると、当然目の前には大きな黒影が、そして少女へ向かうあらゆる光は遮断される。狙いは猫。黒の存在は、「分かったらとっとと、どけ」と乱暴に言い放つ。
握りしめた刃。空気をつん裂く勢いで振り下ろす。猫を一刻も早く駆除する。いや、正直駆除できなくとも、この剣の威圧で消え去ればそれでいいのだ。
猫の静電気が、隣のもう1匹の子猫のーー得体の知れない少女紛いの爆弾装置に何かしら作用してはひとたまりも無い。
咄嗟に手を伸ばしていた。
「!」
三昼夜歩き続けた裸の足は傷だらけ。もつれて崩れて、転んでしまう。初めて見た猫、問に ニャア と鳴いた猫。理由は分からない。それでも、少女の瞳には猫が恐ろしい生物とは一片も映らなかった。
迫りくる鈍光の刃から猫を庇わんと、転んだままの姿勢でもう一度手を伸ばす。
"___シャーッ"
__少女の手、けれど白い毛玉は要らぬ世話とばかりに
迫る剣に威嚇 大いに胆を見せては身を翻し、噴水から
飛び降りて真っ直ぐに大きな黒い怪物と相対する…
"___"
( なんという豪胆さ。無謀さ!… 猫は勝ち目の
まるで見えない黒い怪物を前にして、毛を逆立て
丸い目の奥を光らせ、尚も逃げずに威嚇を続けたのだ )
"フーッ___"
…妙なことに、そのまま
少女から距離を離さない
ーーガッッッ !
破片が砕け散る、が、手答えはない。
剣を一振りした後の光景は手答え通り、「チッ」と舌打ちに値するもの。なんと言っても噴水を囲む大理石に刃が食い込んだだけで、元来そこにいた威嚇猫は、真下で転ぶ少女のそばへ移動したにすぎない。
「ゴミ猫、テメェも怖くねェのかよ」
妙だ。なぜ逃げない?普通の猫ならば…。
だが今は猫への疑問よりも、緊急だ。今まさに城前で、街中で、あまりに巨大で濃厚なバケモノリスクが目の前で蠢いているのだから。『この眼』で、少女の心部を直視すればするほどに、無理解な思考は増え、その分だけ高密度なリスクも膨張してゆく。まるで蛆虫が次から次に沸き出てきているみたいな感覚に、ただただ焦る。
さっきの斬撃音で人々の視線も集まってきた頃、刃に交替して、腰元のガラス瓶を手に取るや否や、地面へと叩きつけた。ーーパリン ッ
「少し、寝てろ」
闇色のガス。それは、少女の目的も、使命も、望まれる未来も、すべて知ったことかと、代わりに眠れ眠れと、少女の意識を闇へと誘い込む。
「──」
眼前から広がり己を囲む闇色の悪煙。海流に逆らうごとく両手で煙をかきわける。ところが徐々に瞼が下がり、必死の抵抗も虚しく──少女の意識はやがて完全な闇へと落ちてしまった。
闇色ガスを一度でも纏った少女からは、マスクマンに背負われ移動するごとに、ガスの臭気道が作られていく。その匂いをケモノが追えるとは知らずに、ひたすら移動。
現在、石畳製の地面、左右無表情な両壁、そんな地下への道をしばらく進むと、途中で足音が変わる。地面が 鉄骨製 に変わったからだ。同時に、左右の壁も途中で途絶え、以降はひたすら、遥か下に広がる、表情豊かな街を見渡せる。
この街は商人街とも、夜の街とも、浮浪街とも、違法街とも、あるいは、稀に機械の街とも呼ばれる。その所以は知る人ぞ知る。
やがて、鉄骨地面の坂を下り終え、ある建物に到着。準備は整った。あとはベットに横たわらせた少女が目を覚ますのを待つだけ。
「レントゲン、アンタは帰っていい。あとは全部アタシに任せとけ」
「いや、ここ俺の家なん」
「あー!あー!うっせーな、お前のせいで雰囲気、台無しだよ」