曽祖父が鬼になっていた話

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1:AB:2018/03/29(木) 12:07

ずいぶん昔の話だけど、思い出したので。

小学3年の正月だったと思う。
うちは父の郷里が長崎で、お盆と年末年始にはいつも家族で帰省してたんだ。
父と母、2歳上の姉と俺で、一人暮らしの祖母のところに。

で、その年も例年通り泊りがけで行ったんだよ。
夜になってそろそろ寝るかって時に、姉が「一人で寝る」って言い出してさ。
5年生になってから自室を貰っていたから、俺や両親と同じ部屋で寝るのが嫌な年頃になってたのかもな。

元々は祖父母と父、そして父の兄弟(父は3人兄弟の末っ子)が暮らしていた家だから部屋はある。
祖母もそんなら、と姉の布団を上げて移動させ始めた。
ただ、その移動先が今思えばちょっと不自然だった。

俺ら家族4人分の布団は、広間…って言えばいいのか?田舎の家によくある続き部屋になってる和室に敷いてあって個室に移動させるならその隣の仏間に敷くのが自然なんだが、祖母はわざわざ2階の父が昔使ってた部屋に布団を運んで敷いたんだ。
一瞬、姉と俺は「?」となったけど俺は眠かったし姉はとにかく一人で寝れるんで深く考えずに、そのまま皆眠りについた。

つづく

2:AB:2018/03/29(木) 12:08

つづき

…何時頃だったか。
俺は夢を見てた。
その夢の中で、仏間の仏壇の横にある床の間の壁がガタガタいって外れそうになってた。
まるで仏壇と床の間の境目に隠し扉かなんかがあって、向こう側から誰かがそれを開けようとしてるみたいだった。
怖くなって目を覚ましたら、夢じゃなくて現実に仏間の方向から『ガタガタッ』って音がした。
本当に木の横引き戸を開けたような音が。

びっくりして隣に寝てる両親をものすごい剣幕で叩き起こして、今あったことを説明したんだけど俺は昔から説明が上手くなかったんで結局『夢』の一言で片付けられてしまったんだわ。
ただ母がやれやれって感じの対応だったのに対して父が割とガチ切れ気味で全否定してきたのにはちょっと引っかかった。

で、次の日。
昨夜のことが釈然としなかった俺はまず祖母に聞いてみたんだ。
「昨日の夜仏間から木の扉のような音がしたのを聞いたんだけど仏間には隠し木戸があったりするんじゃない?」って、ちょっと冗談めかしてさ。
そしたら一瞬祖母の顔色が変わった。
けどほんの一瞬だけで、後は昨日の両親と同じ反応。夢で見て寝ぼけたんだろうの一点張り。
なおも食い下がろうとしたら「そんな話もう止め」とピシャリとシャットアウトされた。

普段は優しくて物腰も柔らかい祖母の珍しく厳しい態度にちょっとビックリして、俺もそれ以上その話をする気は無くなった。
なのにそこに姉が今夜は仏間で寝てみたいとか言い出した。
「何にもないかどうか私が確かめてあげる!」とか言っちゃって。

それを聞いた途端、祖母が今まで見たことないレベルで姉に切れた。
「○○ちゃん(姉の名前)、アホなこと言うんやなか!そげんこと絶対許さんよ!!」って。
あまりの剣幕に俺も姉もただ黙ってコクコク頷くしかなかった。
その様子を見ると祖母は笑顔に戻って、怒鳴ってごめんねぇと言うと
「ばってん、夜にうちの仏間に入ったら本当につまらんばい(だけど、夜にうちの仏間に入ったら本当にダメだよ)」と言い添えて奥の台所へと入っていった。

つづく

3:AB:2018/03/29(木) 12:26

つづき

で、その日の夜。
俺も姉も祖母に言われたとおり、おとなしく昨晩と同じ場所で寝てたんだ。
けど、俺はやっぱり気になっててなかなか寝つきが悪かった。
どうしても仏間の方を気にしちゃうんだよ。またあの音がするんじゃないかと思って。
そしたら廊下側の障子がすーっ…と静かに開いたんで、思わず叫びそうになった。

そこには口に人差し指を当てて『しーっ』のポーズをする姉がいた。
こっちに出てこいと手招きする。俺は両親を起こさないよう忍び足で廊下に出た。
こんな夜中に何だ、まさか仏間を探りに行こうってんじゃないだろうな…と不安に思いながら尋ねると、何とトイレについて来てくれっていうじゃないか。
姉いわく、昼間は好奇心であんなこと言ったけど祖母の剣幕からこれはただごとではないと思い、怖くなってしまったとのこと(もちろんここまで素直に言ったわけじゃなく、俺に訊かれてしぶしぶって感じだった)。
ここんちのトイレは外ではなかったけど廊下の突き当たりにあって、広間と仏間の前を通らないと行けない間取りになってたからまぁわからんでもないけど。
俺も内心は不安だったけど、ちょっと期待していた部分もやっぱりあってついていくことにした。

つづく

4:AB:2018/03/29(木) 12:53

つづき

姉についてトイレの前まで行き、俺はトイレの前で姉が用を足し終わるのを待ってた。
この間に何も起きませんように、とか思いながら。
で、幸い何事もなく姉がトイレから出てきてふぅやれやれ…ってホッとしたら。
『ガタガタッ、ガタン!』って音が仏間から聞こえてきたんだよ。
もう飛び上がるくらいビックリして、出来ればダッシュで両親のところに逃げ帰りたかった。
でも姉がビビって半泣きになっちゃってさ。
あんなに威勢のいいこと言ってたくせにだらしねえなぁ…とは思ったけど、置いてくわけにもいかない。
半分腰が抜けたような体勢の姉の腕を掴んでそーっと歩き出した。
もしかしたら仏間にいるかもしれない『何か』に気取られないように。

そのまま仏間の前を通り過ぎようとしたんだ。
そしたら仏間の障子が少し開いてて、俺も姉もビビってなかなかその隙間の前を通れなくて、つい、よせばいいのにその隙間から部屋の中を見ちゃったんだよ。

そしたら…
中にいたのは明らかに生きた人間ではない『何か』だった。
一応人型はしてて、首から下は普通の大人の男の人?みたいで、ボロボロの浴衣をはだけた状態で着てた。
けど、首から上がとにかく異常だった。
頭が普通の人間の2倍くらいの大きさで真っ赤に腫れ上がったみたいにパンパンに膨らんでて、髪も眉も無くて片目は瞼が腫れぼったくて開いてないのか潰れてるのかわからなくてもう片目は瞼が無いんじゃないかってくらい飛び出てギョロギョロしてた。
そのくせ口はニタニタ笑ってるんだ。
そいつが仏間の中を何かを探してるみたいな動きでウロウロしてるのを、俺も姉も見てしまったんだ。

不思議と2人とも叫び声は出なかった。
逆に硬直しちゃって、息すらしばらく止まってた。
(結果的にはそれが良かったんだけど)

つづく

5:AB:2018/03/29(木) 13:08

つづき

そいつはしばらくウロウロした後、仏壇の扉をゴンゴンと叩き始めた。
悔しくて、泣きながら扉を叩いてるみたいな感じだった。
そして俺が夢で見たように、床の間と仏壇の間の木の壁を横にずらしてその奥に入っていった。
それきりだった。

その後、どうやって2人とも硬直から解放されたのかは覚えてない。
とにかく2人して半狂乱になって広間に駆け込んだことだけは確かだ。
両親はもちろん、祖母も騒ぎを聞きつけて起き出してきた。
俺と姉のぐしゃぐしゃの泣き顔を見るなり祖母は「あんたら、あれだけ言うたじょん仏間に入ったんか!?」と血相を変えた。
上手く説明出来ないながらもそれは違う、と訴えると祖母は「はぁ…結局あれば見てしもうたんか…ばってん持っていかれんで良かった」と言って、あいつの正体について話してくれた。

つづく

6:AB:2018/03/29(木) 13:39

つづき

祖母が言うには、あれは亡くなった祖父の父親で俺と姉の曽祖父に当たる人だったらしい。
祖母も結婚前に亡くなった人だそうで、会ったことはない。
その曽祖父が、何故あんな異形でうろつくようになったのか。

亡くなった祖父から聞いた話らしいけど、それによると曽祖父は元々熱心な隠れキリシタンの家系に生まれたそうで、仏壇には『マリア観音』という隠れキリシタン独特の聖母マリアに見立てた観音像が置かれていたらしい。
戦争が始まって周りが皆神道一色になっていく中でも、曽祖父の家は密かにマリア観音を祀っていたそうな。
毎日毎日、早くこの戦争が終わりますようにって祈ってたんだ。

ところが1945年8月9日、長崎に広島に続いて2発目の原子爆弾が投下される。
地獄絵図のような光景の中を何とか曽祖父は生き延びたが、その身体は放射線に蝕まれた。
終戦から半年くらい経った頃、疎開先から戻ってきた曾祖母や祖父と一緒に暮らし始めていた曽祖父に原爆症の症状が現れる。
脱毛、皮膚の腫れ、喀血…曽祖父は寝たきりになり、そのあまりの凄惨な見た目に当時まだ俺と同じくらいだった祖父はおろか家の人間はほとんど寝床に近寄らなくなっていた。
(当時の噂で原爆症が感染すると思われていたのも原因の一つかもしれない)
最期はマリア観音像に見守られながら息を引き取ったと言う。

その亡くなるまでの過程で、病に苦しんだこともそうだが今まで信頼していた家のものに冷たくあしらわれたことで曽祖父の精神状態はおかしくなっていったらしい。
祖父がこっそり様子を看に行くと、腫れ上がってほとんど開かなくなった目を見開くようにして「おうおうよく来たな、わしと一緒にマリヤ様んおわすところへ行こうな」と言って首を絞められたことがあったと。
それが生きてる父親の最後に見た姿だったと祖父は祖母に結婚後に話し、それ以来隠れキリシタンとしての信仰は辞めてしまったとも。

つづく

7:AB:2018/03/29(木) 14:19

つづき

それから年月が過ぎ、曽祖父亡き後この土地を離れていた祖父が戻ってきた。
曾祖母も亡くなっていたけど地所はそのままだったから、新しく家を建てて妻や息子達と自分の城で暮らそう、と。
その際昔の家は全部取り壊して新築したらしく、当然昔の仏壇やマリア観音像の類も処分した。
ろくに供養もお焚き上げ的なこともせず、取り壊した家のガレキと一緒に、無造作に。
それから、あれが現れるようになった。
夜になると仏間の壁から現れて彷徨うようになった。
恐らくは、処分されてしまったマリア観音像等を探して。

けど、彷徨うだけなら不気味ではあってもそこまで恐れる必要はない。
これほど俺や姉にきつく仏間に入ることを禁止したりはしないだろう。
まだ何かある。そしてその何かを祖母と、俺の父は知っている。直感で思ったんだ。
だから思い切って訊いてみたんだよ。
あれはそれ以外にも悪いことをするんじゃないかって。

そしたら…やっぱりだった。
あれは現れた時に人間と遭遇すると、その人を取りころすんだって。それも子供を。
この話が出た時、祖母も父も苦々しい顔してた。
で、言った。
父は元々は3人兄弟ではなく、5人兄弟だったと。
今いる父の兄2人の上に姉と兄が1人ずついたと。
その2人と、父の従兄弟にあたる女の子が1人、あれに取りころされていると。
生前の晩年、自分の息子を道連れに出来なかった思いが他の子供に向かってるのかもしれないと祖母は言ってた。

ただ、あれに取りころされないようにすることは出来る。
まず夜に仏間に近寄らないようにするのはもちろんだけど、万が一(今回の俺と姉のように)出くわしてしまったら。
その時は息を止めろ。
晩年の曽祖父はほとんど目が見えず耳も遠い状態だったようで、顔に掛かる息で人間が近くにいることを認識していたって。
だから息を止めていればあれに見つからずに済む。
今回はたまたま俺と姉は硬直していて息も出来なかったのが幸いしたってことだったんだ。

祖母は供養とかも考えて、実際にお祓いとかもしたらしい。
でもダメだったって。そりゃそうか。隠れキリシタンが神道や寺院のお祓いで成仏するとは思えない。
なら同じ隠れキリシタンの人には頼めないの?と姉が祖母に言った。
それも考えたらしいんだけどまず隠れキリシタンの信仰者がまだ残ってるのかもわからないし、そもそも信仰者じゃなかった祖母がその系統だった祖父亡き今(しかも祖父本人も信仰を捨ててる)探し出すネットワークも持ってないから無理だって。
それで今に至るまであれが野放しになってるってわけだ。
あれ以来、祖母の家には行っていない。

終わり

8:Syangurira◆bI2 インクリングェ:2018/03/29(木) 15:22

ウォ,,,怖いな

9:豹:2018/03/29(木) 20:13

哀しくも恐ろしいな
凄い 読みごたえありました

10:ミルクリ◆3o:2018/03/31(土) 07:31

そこらの怖い話より面白かった

11:妖桜◆oU:2018/04/02(月) 16:43

コエェ…

12:アビゲール:2018/07/26(木) 07:00

これこそ ほん怖じゃい…


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