初めまして、文月と言います。
過去に(と言ってもだいぶ前)ここでKZを書いてたのを思い出し、またここでも執筆しようと考え 戻って参りました。
思いついたのをちょこちょこ書くので、暇な時ご覧ください(*^^*)
*原則 リレー小説等はここではしないです。
*新刊の感想挟ませていただきます。
*感想、アドバイス お待ちしております。
*誤字脱字は目を瞑っていただけると幸いです。
少し気候が穏やかになってきた三月。でも、まだ少しだけ肌寒くって、時より吹き付ける風は温かかったり、冷たかったり。そんな季節の中、私は黒木君と一緒に 遊園地へ来ていた。
きっかけは些細なことで、黒木君が 知人から二枚の遊園地の無料券を貰ったようで私を誘ったみたい。さすがに男同士の遊園地というのは絵柄的にも辛いものがあるらしい。
私は せっかくのお誘いだったし、遊園地なんて滅多に行かないから この機会を逃すなんて 勿体無い!ということで 了承したのだった。
……
「アーヤ、何乗りたい? 」
「んー……あ! あれ乗ってみたい! 」
そう言って私が指したのは、ここの遊園地の名物のジェットコースター。きゃー!! という乗っている人たちの、叫び声が聞こえる。ここのジェットコースターは、すごく怖いので有名。時速130km 前後で、最高傾斜角度は……よく覚えてないけど、垂直に近かった気がする。
私がニコニコしながら それを見ていると、クスッと笑う声が聞こえた。
「アーヤって、ジェットコースター好きなんだね」
「うん!! 大好き」
私が満面の笑みを浮かべると、黒木君はふっと頬を和らげて「意外な一面だね」と言った。
「さ、お姫様。
参りましょうか」
妖艶な笑みを見せて、スッと手を差し出した。
一方の私は、お姫様。というフレーズに赤面し、差し出された手に困惑した。
……やっぱり、いつになっても黒木君には 敵わないや
そう思った瞬間だった。
ジェットコースターの待ち時間は、30分程度。
並んでいる間 私はずっと胸を高鳴らせていた。
昔から、ここのジェットコースターに乗ってみたかったのだけれど 乗る機会があんまりなかったから。
上機嫌で順番待ちをしていると、ふっと視線を感じた。
隣にいる黒木くんの方を見るが、彼は別の方向を向いている。
黒木くんじゃないとすれば、誰なんだろ……
きょろきょろと辺りを見回すが、視線の主らしき人は見つからない。
「次のお客様、どうぞ〜」
従業員の声が聞こえた。
私は、ハッと我にかえりジェットコースターへと乗り込んだ。
……
「それでは、いってらっしゃーい! 」
ニコニコと手を振る従業員に少し戸惑いながらも、手を振り返し 前を向いた。
ばくばくと 心臓がうるさい。
口元が、上がっていくのが自分でもわかった。
ガタガタ……と効果音をあげながら上へ上がる。
綺麗な街並みが一望できる頂点で、ピタっと 一回止まる。
隣にいる黒木くんに視線を向けると、やはり 余裕の笑みを浮かべていた。
「黒木くん、手 あげようよ!! 」
そう言って、私は 黒木くんの手を持って、高くあげた。
そして、私たちは真っ逆様。ぐるぐると回る視界に チラリ、と黒木くんの姿が見える。
『きゃー!! 』
後ろからも、前からも 悲鳴が聞こえる。
もちろん、私も 絶叫した。
****
「楽しかった〜!! 」
ジェットコースターを乗り終えて 同調を求めるように、黒木くんに視線を送る。
彼は、そうだね。と笑顔で 言ったものの、厳しい表情を浮かべていた。
……
「どうしたの? 」
黒木くんらしくない態度に困惑した。
艶やかな瞳の中に、警戒心の色が伺える。
甘い言葉を囁くその唇は、固く結ばれていた。
眉間にしわを寄せて、美しい顔を歪ませていたのだ。
「……いや、何でもない」
低い声で、そう言い放った言葉が 少しだけ怖くって 足が竦む。
「……そっか。
あの、えっと……じゃあ、飲み物買ってくるね!! 」
私はその場を逃げたすように 走り出した。
なぜかわからないけど、あの空間に居づらかったのだ。
「アーヤっ!? 」
後ろから黒木君の慌てた声が聞こえた。
でも 私はその声を聞かないふりをして走る。
……
自動販売機の前で、黒木くんのことを考えていた。
なぜ、彼は あんなにも険しい表情を浮かべていたのだろう。
私のせい、だったりして……
……黒木くんに 癪に触るようなことを覚えがないんだけど、な。
ジーンと沁み込んでいく様な陰鬱を抱えながら私は、ブラックコーヒーと レモンティーを買った。
その時
「そこのお嬢さん、少し お話 いいかしら? 」
という、少し媚びたような、鼻にくるような 女の人の声がした。
振り返って見れば、艶やかな髪を靡かせて 紅い口元を妖しくあげている私より二、三年上の女の人がいた。目は付け睫毛によって大きく見せられ、ファンデーションを塗った肌は少しだけ荒れている。
「えっと、人を待たせてるので……」
私がそう言えば、彼女は鼻で私を嘲笑うかのように笑った。
「貴のことでしょ? 大丈夫よ、私彼とは知り合いだから」
そこまで言うと彼女は 途端に顔を険しくさせ
「良いわよね? 」と 有無を言わせぬ口調で言った。
私は はい としか言えなかった。
……
自販機のそばにあったテーブルに2人で腰掛ける。
彼女は自分で買ったであろう飲み物のストローをいじりながら、口を開いた。
「あのね、ここのチケット 貴にあげたの私なのよ。
……彼が誰と行くのか気になってね」
でも……と彼女は言葉を続ける。
「こんな貧相な子だとは思わなかったわ。
貴も愚かね、貴女みたいな子と付き合うだなんて。
女性を見る目が落ちたのかしら」
私を指差して 嘲笑う彼女。
そんな彼女に私は腹わたが煮えくりかえるほどの怒りを感じた。
「何言ってるんですか。
確かに私は黒木君には似合わない人間だし、私のことをどう思うかは 貴女にお任せします。
でも、黒木君を悪く言わないで! 」
私がそう言い切ると、彼女は怒りを露わにする。
「は? 貴女こそ何言ってるの。
貴のこと何も知らないくせに。
ねえ、言ってみなさいよ。
貴の住所は? 家族は? 悩み事は何? 」
私挟ませて言葉に詰まった。だって黒木君のこと 何も知らないんだもの。
彼が何を抱えて、何を思って生きているのか、全くと言っていいほどに。そして そんな自分がひどく不甲斐なく思えた。
「ほら、言えないじゃない。
そんな貴女に貴のことを言える資格なんて「何言ってるの、ミカ」
聞こえたのは深い響のバリトン声。
私はこの声の主をよく知っている。
「黒木君……」
黒木君は私のそばまで来ると、ポンと私の頭に手を置いた。
びっくりして黒木君を見上げると 冷めた目で彼女を睨んでいるのがうかがえる。
ぞくり、と背筋が凍った。