めちゃめちゃ悲しい物語です。よろしゃす。
2:山田静樺-シェイシェイ◆C. 幽霊シェイちゃん:2018/09/16(日) 21:53 ID:6X. 「ねえ、マジ藍川きもくない?」
「あー、分かる。なんか馴れ馴れしいっていうかさー。」
何故人は、人をいじめるのだろうか__
私の名前は藍川静水。中学二年生であり、現在進行形で『いじめ』を受けている。
理由は至ってシンプルだ。『ぼっちで気持ち悪いから』だそうである。
人は、自分より下の人間を見つけて安心する生き物だ。それ故に、見下し蹂躙し、蔑ろにする。
結果として命が失われることだってある。
何故私は、奴らのエゴの為だけにいじめを受けなければならないのか。
酷く理不尽なことである。
(あ......今日教科書忘れたな。見せてもらおう。)
「ねえ、教科書見せて。」
「はぁ? 忘れるのが悪いんだよ。」
「......。」
見せて、と頼んだ私の方が馬鹿だったな。
嫌っている奴に教科書など見せる筈もない。それ以前に、私なんか菌にすらされてしまう始末である。藍川菌という新種の菌の発生だ、なんて揶揄されている。そうかそうか、ならば菌に犯されて死んでしまえ。
胸中は常に奴らへの恨み辛みだ。周りからは、「なに考えてるか分からない」と気味悪がられるが、安心しろ。私はお前らのクズっぷりを考えているだけだから。
チャイムが鳴った。今日はただ、黒板に綴られた白い文字をひたすらノートに写しただけだった。
昼休み。
今日も弁当が美味しい。誰にも邪魔されることがない至高の時間だ。
ぼっち飯は最高だとつくづく思う。むしろ、群れで食べている奴らの方が可哀想だとも思った。
一度友達というレッテルを貼ってしまうと、それにずっと付き合わなければならないのだ。
群れないとぼっちになる。ぼっちは嫌われる、という意識が奴らをそうさせるのだろうか。
楽しくもないのに付き合うなんてもはや拷問だな。今日限りは、奴らに同情する。
弁当を食べ終わると、学年でも有名な女子グループが私のもとへやってきた。
いったい何の用があるのだろうか。
「やっほー、藍川さん。」
「うん。」
「うんだって、うける!」
なにが笑えるのだろうか。
女子の一人が腹を抱えて笑い出した。それにしてもコイツら、何故いつもマスクをつけているのか。そんなに自分に自信がなくて顔を隠したいなら、大仏のマスクでも被ってきたらどうだろう。私はただ無言でいだ。
「あのさぁ、藍川さんってぼっちじゃん?」
「......まぁ。」
曖昧な返事をすると、さきほど私に挨拶をしたリーダー格の女子、『糸井由緒』が「ふーん」と目を細めた。
「ぼっちってさぁ、可哀想だよねー。私いっぱい友達いんのに。」
「嘘つけ。仮面の友達なんだよ、そんなもん。なんの自慢にもならねえよ。」
その瞬間、糸井の自慢気な顔が凍りついた。
翌日。いつものように、コンクリートで作られた道路を足並み速く歩く。
家から学校までの道のりはそう遠くない。8時に出れば、15分につくのだ。
登校に30分も50分もかかる人がいるが、私なら面倒すぎて不登校になるレベルである。
学校につく。やはり、階段を登るのは一苦労だ。今は秋だが、夏場なんかだとほんのり汗が滲む。
加えて三年生の教室は三階にあるので、面倒臭いことこの上ない。
教室の前につき、扉を開ける。相変わらず、奴らは私に目を向けない。完全に空気扱いされている。
だが、そんなことは慣れている。私は自分の机の前に向かった。
カバンを置いて前を向くと、目の前の現状に驚愕した。
『藍川はぼっち 一生ぼっち笑 かわいそー爆笑』
黒板に白いチョークでデカデカと書かれたそれは、完全に悪意のあるものだった。
誰がしたのか。その疑問が真っ先に浮かぶが、すぐに思いついた。
糸井由緒と取り巻きの仕業だ。切っ掛けはおそらく、昨日の昼休みでの出来事。
もし仮にそうだとしても、怒りの沸点が低すぎるのではないだろうか。
こんなことをしても無駄だというのに。重い足取りで黒板へ向かった。
「あっ! ......。」
「だっせぇ。」
足を引っ掛けられて、前につんのめった。
多少バランスは崩したが、転ばなかった。
足を引っ掛けたのは、『黒澤大樹』だ。中学一年生の頃から同じクラスなのだが、一番関わりがあった人物だ。だが、今となっては元も子もない。『いじめっ子』と『いじめられっ子』の関係なのだから。
私は、再び歩き出した。
黒板消しを手に取り、白い文字を消していく。
私がいくら態度を現さない人間だとしても、これは気分の良いものではない。
むしろ胸糞が悪い。文字を消したあと、白い跡だけが黒板に残った。
私はまた同じ道を通り、机に戻る。
周りからは、面白くなさそうな目で睥睨される。
口で黙っているなら目も黙らせろ。私はサーカスの見せ物でもない。お前らのおもちゃなんかじゃないのだ。なにより、命を弄ばれることに憤慨している。
「ねー、藍川ぁ! マジうざいんだよ、お前! 何様なんだよ!」
「っ......。」
体育館裏。音をたてて緑色のフェンスに体がぶつかる。
押された胸が少し痛い。
今は昼休み。弁当を食べ終わったあと、糸井由緒たちに連行されたのだ。
こうなるのではないかと予想していたが、まさか本当にこうなるとは。
随分と短絡的な行動である。私は呆れていた。
「シカト決め込んでんじゃねえよ! 黙ってんのが強いとでも勘違いしてんのか!? 甘いんたよ、クズッ!!」
「っく......。」
胸ぐらを掴まれて押し付けられる。
首が絞まる。息ができない。吐き気が込み上げてくる。
こいつ、後先考えずやってんのか? だとしたら相当な馬鹿__
「由緒〜、持ってきたよ〜。」
「............は?」
糸井の取り巻きが、バットを手に持って現れた。
もう一人の取り巻きの手には、鍵。
おそらくは体育倉庫の鍵だろう。職員室から借りて、バットを取ったのだ。
こいつら、なに考えてるんだ?
糸井が、バットを受け取った。
「お前ほんと生意気。一回病院送りにしてやるよ。この雑魚!」
「由緒、マジで大丈夫なん?」
「だいじょぶだいじょぶ。死なないって。」
お前ら、考えないのか?
そんな軽はずみな気持ちで相手をいたぶって、その相手が二度と目を覚まさないこと。
それにそのバット、金属製だろ。何故、物事を軽く考える?
発言する間もなく、糸井の取り巻きに両手を拘束されて取り押さえられた。
「じゃ、まず一撃目〜。」
糸井が、バットを振り上げて、私の左肩に降り下ろした。
「ぁ、ぐ、っ......っ!!」
骨に衝撃が響いた。小学生の時、跳び箱台上前転に失敗して、思いきり腰を打ち付けた時の衝撃に似ている。じんじんと痛む。骨にヒビが入ったかもしれない。私は糸井をきっと睨んだ。
「はぁ? こいつなんか睨んできたんですけど。腹立つわ。舐めてんじゃねぇ、ぞっ!!」
バットが頭に降り下ろされる。
は? なに考えてんだこの女。
感情に任せてそんなことすんなって。結果事故が起きて、後から「死ぬとは思わなかった。」とか遅いんだって。
なんでいつもこうなんだ? なんでいつも後先考えないんだ?
人が死ぬってこと、考えたことないのか?
「やめろ!!!」
声が掠れるほどの叫び声をあげたが、遅かった。
「______。」
鈍い痛みが、ただ頭の中を支配した。
痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。
呼吸ができない。心臓の律動が聞こえない。
音が、聞こえない。
頭が真っ白だ。視界が揺れる。
目を開けているのも面倒になるほどの眠気が私を襲った。
嗚呼、このまま寝ちゃおうかな......眠いし......。
私の世界が、深い青に満たされるのを感じた。
目を覚ました。目に映るのは、ただ白い天井だけ。
体が重い。
ふと身動ぎをすると、右腕がなにかを引っ張った。いったいなんなのか。私は、右腕を見やった。
「点滴......。」
良く見れば、私は白い患者衣に身を包んでいた。
それで確信する。病院か。
ようやく、あの日のことが鮮明に思い出された。
「......あいつら、よくも......殺してやる......。」
私は、「ハスクバーナエンジンチェンソー236e14RT」を手に取った。
「おいクソ野郎共!! 殺してやる!!」
ブゥゥゥゥン ドゥルルルルルルル
チェーンソーの電源を入れた。
クラスメイトは困惑していた。
「おっ、おい、やめ__」
「うるせぇぇぇぇぇぇ!!!」
バリバリバリバリバリバリ
「ごぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
止めに入った男子の生首を切断してやった。気持ちが良い。
「ち、ちょっと、なんの音!?」
音を聞きつけた糸井が教室に騒がしく入ってきた。
絶好のクズだ。
私の口は弧を掻いた。
「てめぇこら、命の重さが分かんねえ奴はいっぺん死んでみろや!!」
「おぐぇぇぇぇえおぉぉぉぉぉえぉぉぉお!!!!」
頭から体を真っ二つに切り裂いてやった。
いい気味だ。さあ、どんどん殺してやろう。
「あ、藍川......。」
「あぁ!?」
怒号を飛ばしながら振り返る。
チェーンソーの音がうるさくて声がほとんど掻き消される。
振り返った先にいたのは、癖っ毛な黒髪の黒澤大樹だった。黒澤は、哀しそうに眉をひそめて、口を開いた。
「______。」
チェーンソーの騒音でなにを言ったのか分からなかったから殺した。
____という夢を見たのだ。
ベットから飛び起きた。
荒い呼吸を繰り返す。秋の涼しい気候だというのに、汗がべとりと患者衣に張り付いた。
右腕には同じように点滴が繋がれている。チェーンソーは......ないか。
正夢にならないことを確認して、ほっと安堵の溜め息をつく。
......ん? 何故だ。
私は、奴らを確かに憎んでいた。ならば、殺せばいいのではないか。
何故、安堵している?
「......っ。」
分からずに眉をひそめる。
そうしていると、扉がノックされた。
「はっ、はい......。」
返答すると、スライド式の扉が静かに開いた。
人が現れる。やや茶髪に近い髪の毛だ。私はこの人物を知っている。
「......糸井。」
顔を俯かせた糸井が、そこに立っていた。
「あの、さ......藍川さん。バットで殴っちゃって、入院させちゃって、ほんと、ごめ.....っ。」
糸井が泣き出した。
ヘーゼルの双眸からこぼれ落ちる雫を、手で拭っている。
だが、私は糸井に優しい言葉をかけるほど優しくはない。
「謝りたいなら、相手の目を見ろよ。あと泣くな。ちゃんて謝ろうと覚悟決めて来たのかよ。」
私がそう言い放つと、糸井が嗚咽をぐっと止めて、私の目を見た。
糸井のガラス玉のような瞳に私の姿が映る。
反対に、糸井もそうなのだろう。こうして、見つめ会う形式が完成だ。
「......っ、ほんとう、ごめん。簡単に死ぬわけないって、軽く思って、藍川さんを傷付けた。バットで、痛かったよね、ごめんね、許さなくていいから、元気になってね......っ!!」
糸井は、腕に提げた金蜜蛇の篭を床に置いて、涙を流しながら走り去っていった。
篭の中にはどうやらリンゴが入っているようだった。
自分の意見しか言ってないのに、勝手に去って会話を遮断するなよ。ベッドから体を起こして、金蜜蛇の篭を手に取った。
ずっしりと重い。
まるで、糸井の気持ちのように。
糸井だって、本当に謝る気で来たのだろう。
後悔して、戒めて、泣いて。
糸井の思いに、胸中が複雑になった。
食欲が湧かないのでリンゴを食べる気にもならず、枕の傍らに篭を置いてしばらく眺めていた。
すると、またもや扉がノックされた。
次はいったい誰だろう。看護師か、あるいは担任か。
検討もつかないまま、「はい。」と小さく返事した。
返事を合図に、扉が開いた。
「__静水。」
「............お母さん。」
一瞬、幻覚を見ているのかと錯覚した。
お母さんは、仕事で遠い場所にいる筈なのに。呆然としていると、お母さんは私に歩み寄った。いつもと変わらない、優しい笑みで。
「......生きててよかった。」
お母さんは、私をぎゅっと抱き締めた。お母さんの肩に顎が埋められる。
これに、既視感(デジャヴ)を感じた。
たしか、私が八歳の頃。近所の河川敷で遊んでいる最中に、転がっていったボールを追って川に落ちたことがあった。通りかかった人がすぐに助けてくれて、大事には至らなかった。
その時、駆けつけたお母さんは同じように私を抱き締めて、同じことを言った。
懐かしい感じだ。
だが、親というのは勝手なものだ。肝心な時に守ってやれずに、事が過ぎた頃に安堵を囁く。
でも、人間なんてそんなもん。恨んだってどうにもならないのだ。
今はただ、母に逢えて嬉しい。それだけだ。
書き忘れてました。これ短編です。
糸井の都合の良い謝罪に吐きそうになりました。現実ではあんなことありえません。
暇潰し程度に読んでください。今日はもう終わりです。
駄作を閲覧してくださったならば恐縮でございます。
『感想』
すごい
意味分かんねえよこの小説。
なにがしたいのか。最新いじめ小説ばっかだなって思ったから、流れに乗って書いただけ。ようは見切り発車。
ちなみに>>1の「めちゃくちゃ悲しい」は大嘘。
23:山田静樺-シェイシェイ◆C. 幽霊シェイちゃん:2018/09/17(月) 12:07 ID:6X.チェーンソー回のやつは完全にふざけです。では再開します。もうすぐで終わり。
24:山田静樺-シェイシェイ◆C. 幽霊シェイちゃん:2018/09/17(月) 12:18 ID:6X. あの後、看護師にリンゴを剥いてもらった。
私はあまり、リンゴは好きではない。
だが、母と食べるならば話は別だ。子供の頃、共に夕食を食べた以来の懐かしさだった。
思わず頬が緩んでしまう。そうしてまた一つ、リンゴの味気ない食感を味わった。
母が病室から去って数十分が過ぎた。
もとは、私が入院したと聞いて、必死に頭を下げてなんとか仕事を抜け出して病院に来たようなのだ。
多忙な身で疲弊しているだろうに、よく優しい笑顔を保てたものだ。
子を守る母というのは、強くありたいものなのだろうか。
私にはまだ分からなかったが、今はただ懐かしい母の残り香に身を馳せた。
突然、扉がノックされた。
本日、三回目のノックだ。次は誰なのだろうか。とりあえず、「はい」と返事を一つした。
スライド式の扉が、数秒後に開いた。なにか躊躇していたのだろうか。
扉の先にいた意外な人物を見て、思わず言葉に詰まった。
「黒澤。」
申し訳なさそうに眉をひそめる黒澤大樹であった。
その手には、一輪の花が握られていた。
俺の名前は黒澤大樹。中学二年生であり、現在進行形で『いじめ』をしている。
理由は至ってシンプルだ。『周りがしているから』。
人は、他人を犠牲にして自分を安全にさせる生き物だ。それ故に、見下し蹂躙し、蔑ろにしてしまう。
結果として命を奪うことだってある。
何故俺は、自分のエゴの為だけにいじめたのか。
酷く自己中なことである。
それを、今回身を持って知った。
中学一年生の春。
輝かしい希望を持って、ちょっぴり大人になった子供達が入学するのだ。
しかし、そんなものはまやかし。
希望や夢なんてハナから持っていない。ただ絶望を与えるだけだ。
幼子の純真な心とは違い、真っ黒な心に変貌してしまっている。
だから人をいじめる。性懲りもなく。
俺は、新品の上履きを履いて、薄汚れた廊下を歩いていた。
「よう、大樹! 中学生んなっても変わんねえな!」
突然、後ろから走ってきた男に肩を組まれる。
うるさい。喋るな。
「ここでもぼっち、だもんな!」
「......。」
そう、俺はいじめられている。
友達がいないから、という理由だけで。不愉快極まりない話だ。
小学生の頃からずっと耐え続けたというのに、ここでもまた地獄の日々がやって来るのか。
嗚呼、もう限界だ。憎悪に体が蝕まれておかしくなりそうだ。
滑稽に笑うな。道端の虫を潰すように人の心を軽々しく潰すな。
俺の心の中には、どす黒い感情だけが渦巻いていた。
「はーい、大樹くんの解剖しまーす。ぼっちくんの体はどうなってるのかなー?」
「おい、やめ......っ。」
ある日のことだ。
入学式から数週間がたち、新しい仲間や教室とも馴染んできた頃。
だが俺はまったく馴染んでいない。
ブタ箱に人間が放り込まれたところで、馴染めないのは当然のことだ。
しかし今は、醜いブタに体を弄ばれる状況であった。
複数の男子に体を取り押さえられ、新調したての学ランのズボンを脱がされようとしている。
暴れて抵抗するが、振り切れない。こんなの不可抗力だ。
「ほんとにっ、やめろっ!!」
剣幕をたてて怒号を飛ばす。しかし、奴らの耳には聞こえない。
その耳は飾りか? なんなら引きちぎってやろうか?
怒りに体を震わせていると、誰かが椅子を立った音がした。
「......藍、川......?」
椅子から立ったのは、肩辺りまで伸びた濡羽色の髪を揺らす少女だった。
いつも冷たい雰囲気で、なにを考えているのか分からない。そんな少女だ。
少女、藍川静水は、静まり返る教室に口を開いた。
「__お前ら、いつまでもつまんねーことしてんじゃねーよ。幼稚園児の遊びか? 見てるこっちが恥ずかしい。」
『静かな水』、『静水』と書いて『つぐみ』と読むのだ。
その名の通り、藍川はただ静かに、流れる水のように言葉を紡いだ。
静まり返った場が、今度は凍てついた。
「なに偉そうなこと言ってんだよ、マジきも!!」
「どっかいけ気違い!!」
「調子乗んなクズ!!」
悪罵が次々と藍川に浴びせられた。
罵詈雑言を紡ぐ。絡み合って無意味なものになることも知らずに。
それでも藍川は尚、じっと佇んでいた。「くだらない人間だ。」そう揶揄して見下しているかのように。
俺は、藍川のそんな強さに痺れた。なんて格好いい。思わず吐息が漏れる。
しかし、そんな気持ちはあっけなく破壊され、すぐに罪悪感に苛まれることになる。
翌日から、藍川がいじめられるようになった。
「あ、あの、藍川......ごめん、俺のせいで......。」
「......気にすんな。あんなの止めに入った私の責任だ。」
藍川は周りから無視されるようになり、完全に孤立した。
全ては俺の責任だ。藍川は自分の責任だと言っているが、違う。
俺がもっと藍川のように強ければ、立ち向かえれば、こんなことにはならなかった。
俺が、弱いせいで、藍川が____。
俯いていると、藍川が俺に声をかけた。
「今度の土曜日さ、空いてる?」
「えっ......? あ、空いてるけど......。」
「花買いにいくから、一緒に来てくんね? 選んでほしい。」
「____。お、おう!」
女子からの誘い。初めてかもしれない。
ましてや、あの藍川と。
俺は、罪悪感を忘れて舞い上がっていた。
「よっ。」
「おう。」
土曜日の午前10時。
待ち合わせの場所の駅前に、藍川は立っていた。
それにしても藍川の格好、新鮮だな。制服と違う衣服に身を包んだ藍川をじろじろと見渡す。これは、なんというか____。
「? なに?」
「へっ? い、いや、えっと......ず、随分かわいらしい服着るんだな〜......って。」
「......そうか?」
藍川の服装は、モノトーンというかゴスロリに近い。
黒と白だけを基調とした、フリルとリボンのついた服装だ。性格とのギャップがすごい。思わず、律動が速く乱れた。
それに対して、俺の服装は上下ジャージと、ラフすぎる。アバウトともとれてしまうが。もうちょっと本気で服を選んだら良かったと、今更に後悔した。しかし、今日の目的は花選び。服のことは忘れて、本気で花を選ぶのだ。
率先して道を行く藍川の後を、意気込みながら着いていく。歩いて数十分後、どうやら着いたようで、藍川が店の前で立ち止まった。
「んじゃ、入るか。」
藍川の言葉を合図に、俺たちは店に入った。
小洒落た花屋だ。店の面積はさほど大きくはないが、様々な種類の花や種が並べられている。木の香りがして心地よい。天井のシーリングファンが、くるくると回った。
「それにしても、意外だな。藍川、花なんて育てるのか。」
「ん、ちょっとな。試しに育ててみたらハマって。大抵枯らすけど。」
またもやギャップが凄い。
藍川の部屋と想像すると、質素なイメージしか浮かんでこない。
1LDKの部屋、机だけが置かれた寂れた部屋......って、社会人か何かか。それだと寧ろ、質素というか殺風景だ。
一人で呆れていると、一輪の花が目に付いた。
「あ、この花......良いと思わん?」
「どれ?」
「これ。」
プラカードに『リンドウ』と書かれた、薄い青紫の花を指差す。
とても綺麗な花だ。落ち着いた色合いは、藍川に合っている。
俺は、ポケットのスマホを取り出した。
「まっ、待って、花言葉調べるから......。えーっと____。」
液晶画面越しに書かれた言葉。
それを、無意識に読み上げた。
「『悲しんでいるあなたを愛する』......。」
その瞬間、ハッとして、顔に熱が集まるのを感じた。
「い、いや、別に藍川に言ってるわけじゃねぇよ!? け、けけけ、決して!」
慌てて弁明すると、藍川はくすりと笑った。
「分かってる。じゃ、この花にするわ。ありがと、選んでくれて。」
顔を綻ばせた藍川に、一輪の花が摘み取られた。
その後は、藍川の機転でゲームセンターに向かった。
とても楽しい思い出で、勿論今も覚えている。
そして、あの時から気付いていた。藍川が俺を誘ってくれたのは、俺を元気付ける為なんだと。
外見は冷たそうに見えて、実は優しい人間だ、藍川は。
それなのに、俺はいじめてしまった。遡ると、一年前の秋頃になる。ちょうど、今と同じ時期だ。
__相変わらず、藍川と俺の仲は良好だった。
今日も、「じゃあな」を言って帰ろう。そう思って、藍川のもとへ向かった。
しかし、それは届かなかった。声を掛けられたからだ。
「なあ、大樹。ちょっと話があんだけど。」
「ぁ......うん。」
俺をいじめていた、あいつに。
「__な、なんの用だ?」
人気のない空き教室に連れて行かれた。
気味が悪い。目の前の男は、はぁ、と溜め池をついた。
「お前さぁ、藍川とあんま仲良くせんでくれる? 付け上がるじゃん。」
「はぁっ!? そ、そんなこと、命令する権利......っ。」
言いかけたところで、男に胸ぐらを掴まれた。
男は、独裁者のような目で俺を見た。狂っている、こいつ。人をいじめる為に人の仲を切り裂くのか。
心底腹立たしく思っていると、男がぼそっと呟いた。
「......またいじめるぞ?」
「っ......!!」
瞬間、あの頃の記憶が思い出される。
無視され、いじめられ、見せ物にされたこと。思い出すだけでも、吐き気を催す。
呼吸が荒くなる。恐怖が甦る。
「な? 分かっただろ?」
心のない瞳に、吸い込まれる他なかった。
そしてちょうど一年がたったある日。
「藍川が入院した」そう聞いて、頭が真っ白になった。
同じように、頭を真っ白にさせて、顔を真っ青にさせている糸井が何も言わず立っていた。
俺は、糸井に問い詰めた。「何をしたのか」と。
糸井は、泣きじゃくりながら答えた。「バットで藍川さんの頭を殴ってしまった」。
怒りが込み上げる。しかし今の俺に、糸井を咎める権利はない。
俺も、同類だ。藍川をいじめていたのだから。
ただひたすらに悔やんだ。自分の弱さを責めた。守ってやれなかったことにやるせなさを感じた。
俺は、なにもできないのか......!!
涙を溢す。けれど、そうしていても何も始まらない。
都合の良い奴だと思われるだろうか。突き放されるだろうか。
なんだっていい。俺は贖罪がしたい。
一輪の花を持って、病院へ向かった。
黒澤は、哀しそうな顔をして口を開いた。
夢と同じだ。いったい何を言うのだろう。あの時は聞けなかった言葉。
私を馬鹿だと哀れむのか? 聞こえの悪い言葉で揶揄するか?
覚悟をしながら数秒を待っている。そして、ようやく黒澤の口から発された言葉は意外なものだった。
「......ごめんな。」
黒澤は、私の目を見た。
あの頃と同じ、柔らかな目で。
いったい何が黒澤をそうさせた? もしかしてドッキリか?
黒澤は、一輪の花をぎゅっと握った。見覚えがある花だ。
確か、あれは____。
考えるより先に、黒澤が言葉を紡いだ。
「俺は、弱くて、すぐ人に流されて、藍川を守れなかった。色々、してもらったのに。友達がいない俺に、優しくしてくれたのに。恩を仇で返すようなことして、本当にごめん。藍川が入院したって聞いて、怖かった。死ぬんじゃないかって、思って......都合の良い奴って思ってもいい。突き放したっていい。」
黒澤は、大きく息を吸い込んだ。
「......それでも俺は、藍川に贖罪がしたいんだ。藍川がしてくれたこと、全部倍で返したい。だから、これは、精一杯の......気持ちの、つもりで......じゃあ!」
黒澤は、一輪の花を置いて病院へ飛び出していった。
糸井もそうだが、何故人の意見を聞かずにすぐ行ってしまうんだ?
溜め息をついて、ベッドから足を降ろす。
花を手に取る。
そうだ、この青紫の花。
「......リンドウ......確か、花言葉は......。」
そして、ハッとする。
「けっこうキザなこと、できんじゃん......。」
また胸中が複雑だ。
リンドウを胸に抱いて、困ったように笑った。
__『悲しんでいるあなたを愛する』
金密蛇の篭の中に、青紫色のリンドウを飾った。
ただ、それをぼうっと見つめていた。
希望なんて、ないと思ってた。
絶望しかない。どうて変わらない。
ずっと思っていた。そうとしか思えなかった。
でも、それは違った。
現に、二人は変わっている。
自分の罪に気付くことを通して。
逆に言えば、もし私が入院しなかったら一生あのままだったということだ。
それは皮肉か。薄ら笑いを浮かべた。
それでも多分、私は二人を許している。
私が、あの夢のあとに安堵した理由。
それは、きっとまだ『希望を捨てていなかった』からだ。
人間なんて醜い生き物だ。人間は自分のエゴの為に人をいじめるのだ。
そう思っていても、私は希望を捨てなかった。
愛してほしかった。
愛を捧げてほしかった。
愛を囁いてほしかった。
そんな、願望。
お母さん、糸井、黒澤。
希望をくれて、ありがとう。
窓から外の景色を眺めた。
もう空は青くはない。夕映えに包まれている。
金密蛇の篭が夕映えの光に照らされて、ほんのりとオレンジがかる。
やはりもう秋なのだろう。紅葉がひらひらと舞い散る。
もうすぐ暮夜になる。だが、すぐに黎明はやってくる。
ただ今は、夜明けを待っている。金密蛇のリンドウと共に。
紅葉の花言葉。
『美しい変化』
また一枚、紅葉がひらりと散った。
〜fin〜
38:山田静樺-シェイシェイ◆C. 幽霊シェイちゃん:2018/09/17(月) 15:17 ID:6X. ぐっっっだぐだ......事故満足でしたー。
読んでくれた方はありがとうございました。
もうすぐ秋っすね。それではさよなら。