季節によって、いや僅かな時によってさえ同じ場所、同じ風景は違って見える。
季節のスケッチブックはそんな風景をスケッチしたもの。
一枚一枚、色々な悩みを抱えそれでも進もうとしながら不器用な人々は人生の思い出をそのスケッチブックに描いていく。
こんにちは、千代と申します。
以前此方で書かせて貰っていましたが、幾つか理由があり勝手ながら再びスレを作りました。
飽き性なので突然終わるかもしれませんが、是非見てやってください。
一枚目
描けない。
私は目の前の画用紙を見つめる。
何かが気に食わなくて描き直しを何回もした。
そして最終的には描こうとしていた構図や発想すら嫌になり全て消してしまった。
だから違うモチーフを考えようと思った。
だけど、浮かばない。
こんなの、初めてだ。
焦る。
描かなくてはという気持ちが私を焦らせる。
描いて、明日誕生日の友達にあげるんだ。
それで褒められた私は謙遜する、本当は褒められて当然と知りながら。
けれど描けない。
鉛筆を持つ手が震える。
イライラして、画用紙に女の子を描き殴る。
でも何かが違うと思い、消してしまう。
焦りと怒りの間で私はどうしようもなく泣きそうだった。
この時私は初めてスランプという物を知った。
目が覚めた。
夢を見ていたかどうかすら曖昧なそんな眠りだった。
どうして目が覚めたのかしばらく考え、考えている時に耳に飛び込んできた怒声で納得する。
あぁ、両親が喧嘩している。
珍しいことじゃなかった。
むしろ最近は増えてきていた。
そんなことを思い、ふと自分の呼吸が少しだけおかしいことに気付く。
空気があまり入って来ない。
別にはたから見て分かるようなおかしさじゃない。
「息苦しい」という単語だけで済まされてしまう小さな異常。
だけど私にとっては息が吸えないと言うのはすごくすごく苦しかった。
両親の喧嘩がそこまでなるほどに嫌なのか私には分からない。
それとも嫌ではなく、聴くことを体が受け付けていないのか。
私は小さく首を振り再び目を閉じた。
が、眠れない。
うるさいのだ。
両親の声がうるさいのだ。
部屋を隔てているというのに母親のヒステリックな大声と父親のボソボソとした声はよく聴こえた。
音楽が聞きたいと思った。
いつも両親が喧嘩していると私は音楽を聴く。
それで声が閉ざされるわけではないが音楽を聴いていると落ち着いた。
私はベッド脇に置いていたスマートフォンを取る。
そしてイヤホンを耳に当て、音楽再生アプリを起動させる。
今日の気分はスピッツのロビンソン。
曲を選択し、再生ボタンを押すとあの心地よいメロディが耳に流れ始めた。