雪道の思い出

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1:桜織:2015/04/30(木) 20:34

―先日、○○区で強盗殺人が起こりました。
被害者は、季節野真白さん、16歳です。
犯人は、まだ捕まっておりません。
心当たりのある方は、どんな些細な情報でもいいので、警視庁へとご提供くださいますよう、お願いいたします……。
次のニュースです―。

2:桜織:2015/05/02(土) 19:25

その日、私は異変に気が付いた。
「ねぇ、真白!」
「何?美苗」
私が振り返ると、友人の美苗は嬉しそうにCDを渡してきた。
「はいこれ」
「……何?」
私が不思議そうに聞くと、美苗は当たり前のように言った。
「だってこれ、ずっと前から真白が欲しがってたやつじゃん?だからさ」
「えっ!い、いいよ。こんなの、美苗に悪いし」
「いいからいいから」
美苗が渡してきたのは、確かに私がずっと前から欲しがっていたアイドルのCDだった。
でも、何で私に貸してくれたんだろう?
別に誕生日でも何でもないのに。
それを少し疑問に感じながらも、私はありがたく聞くことにした。
放課後、家に帰った私は、早速美苗から貸してもらったCDを聞いてみることにした。
ラジカセにセットして、音楽を流す。
そしたら、私の好きなロックな曲が流れてきた。
リズムに合わせて少し踊ってみる。
返すのがもったいないくらいだけど、ちゃんと明日、返さなきゃね?

―翌日
「おはよー!美苗」
「あ、おはよ、真白」
朝、私は玄関で靴を履きかえていた美苗に元気にあいさつをした。
鞄からCDを取り出す。
「昨日はありがとう、美苗」
普通なら美苗がここでCDを受け取るはず。
でも……。
「いいよいいよ。これ、真白にあげる」
美苗はCDを私に突き返したのだ。
「えっ、でも……」
ちょっと困った私が何か言おうとすると。
「いいって。じゃ!」
美苗は私の言葉を遮るように教室に行ってしまったのだ。
美苗……これはちょっと変……。
何でこんなに私に優しくするの?
ちょっと嫌な感じがした私は、それを振り払うように教室の中に飛び込んだ。
しかし、教室に入ると、さらなる異変を感じた。
「おはよう、季節野さん」
「おはよう、真白ちゃん」
今までこんなに一斉にあいさつをされたことがなかった。
だからか、ちょっとそれが不気味に感じる。
「お、おはよ……」
「なぁに?真白ちゃん、ちょっと暗いよぉ?」
その言葉に皆の口から笑い声がこぼれた。
裂けたような口で同じように笑っているのだから、不気味に感じるのは当たり前だろう。
でも、なんていうのかな?不気味に感じる理由がそれだけじゃないような……。
「ま、し、ろちゃん♪」
「ひっ……ひ……」
突然耳元にささやかれた声にびっくりして悲鳴を上げる私を、皆は不思議そうに見つめていた。
「真白ちゃん……どぉしたのぉ?なんか今日、おかしいよぉ……」
「いやあああっ!!」
あまりの恐怖に私は教室から逃げ出した。

3:桜織:2015/05/02(土) 19:34

私は屋上に向かった。
ここなら立ち入り禁止で誰も来ないだろうし、とても安全だと思ったから。
でも本当は、全然安全なんかじゃなかったのかも知れない……。
「何で……どうして皆が……」
そう思うと、何だか泣けてきた。
涙が出てきた理由は、皆があんなふうになっちゃったからでも、怖い思いをしたからでもない。
皆があんななのに、自分だけそうじゃない孤独を感じることで涙が出てきたのだ。
その後も少し泣き続けて、私は眠ってしまった。

4:桜織:2015/05/03(日) 20:37

「ん……」
私は目を覚ました。
辺りを見回すと、見知らぬ風景が広がっていた。
私はどこかの丘の上にある茶色いベンチに座らされていたのだ。
立ち上がろうとしたら、ひじに何かが当たって地面に落ちた。
ビックリして拾い上げたら、それは私の携帯で……。
壊れてはいないようだけど、どうして私の荷物が置かれているのだろう?
いや、それよりも何で私がこんなところにいるのかな。
「……帰ろ」
今日は確か氷点下になるって天気予報でも言ってたし、それに明日は初雪が降るみたいだしね。
風邪をひかないうちに早く帰った方がいいかも。
そう思った私が帰ろうとすると、背後から肩をつかまれた。
驚いて振り返ると、そこにはクラスメイトがいて、私を見つめて張り付いたような笑顔を見せていたのだ。
「な、何で皆がここにいるの……」
「真白ちゃん、勝手に帰っちゃだめだよぉ?皆真白ちゃんが起きるの待ってたのにさぁ……」
優香は私の質問には答えず、ただ、避けた口でハハッと笑った。
「待ってたって、どういうこと?」
「真白ちゃんがね、いなくならないように……」
ぼそぼそとしゃべる優香をよそに、私の視線は優香の背後にいるクラスメイトに向いていた。
さっきまではニヤニヤしていた皆だが、優香が今の言葉を発したとたんに真顔になっている。
ずっと笑った顔だったのが急に真顔になったのだから、こっちの方が不気味だ。

5:桜織:2015/05/04(月) 11:26

背中に悪寒が走る。
でも、後ずさりなんかはしない。
そんなことをしたら、皆が私を追いかけてくるのが分かっているし、これ以上怖い目には会いたくないから。
「真白ちゃん、美苗ちゃんも、皆も先生も待ってるよ……?だから、一緒に行こう」
優香はそう言って私に手を差し出した。
あぁ……私、このまま独りぼっちになっちゃうくらいなら、皆と一緒に行った方がいいのかも。
涙で視界がぼやける。
だって、どこに行ったって、私は……。

6:桜織:2015/05/04(月) 21:03

その時だった。
誰かが私の手首をつかんだのは。
その瞬間に私の意識は呼び戻された。
振り返ると、黒いコートを着た、黒髪の少年が立っていたのだ。
「えっ……ちょ、誰?」
「逃げるぞ!」
何が何だかわからないまま私は少年に手を引かれて走った。
「真白!お願いだから、行かないで!」
「真白ちゃん!」
「季節野っ……」
私を呼ぶ声に振り返ると、そこには私の事を必死で追いかけているクラスメイトの姿があった。
「皆……?」
「振り返るな!!」
その男の子は、さらに速度を上げて走った。
商店街を通り過ぎて、川岸に来ると、その少年は突然止まった。
「よし、もう追ってこないな……」
「あ、あのー……」

7:桜織:2015/05/04(月) 21:41

「なんだ?」
なんだって、この人、すっごいムカつくんですけど。
でも、助けてもらったんだし、ちゃんとお礼は言わなきゃね。
「さ、さっきは助けていただいてありがとうございました。私、季節野真白です」
よろしくお願いしますと頭を軽く下げる私を見つめた後、その少年も名前を名乗った。
「俺は、芝崎翔だ」
そのあと、私は本題に入ることにした。
「あの、何で私を助けてくれたんですか?」
「……お前、何も知らないのか」
「え?」
「まぁ、いい。これからそれを話すんだもんな」
翔はそう言って土手に座り込んだ。
私も隣に座る。
「あの、な。真白……これを言ってしまっていいのか、俺には分からない。ただ、お前にとってはかなりショッキングな内容だと思うぞ……それでも、いいのか?」
翔の真剣なまなざしに、私はなんていっていいのか迷った。
ショッキングな話って何だろう?
トラウマになる話かな。
だとしたら、あまり聞きたくないし、でも、このまま帰って、何もわからないままというのも嫌だし。
そう言う理由でちょっとだけ迷った後、私は覚悟を決めて返事をした。
「きっ、聞かせて!」
「……分かった。話すぞ。ただ、気分が悪くなったときは、ちゃんと言えよ」
「うん」
「真白、お前は、本当は死んでいるんだ」
「……は?」
「真白は、死んでしまっているんだ。殺されたんだよ。犯人に」

8:桜織:2015/05/04(月) 21:56

「……は、え?」
翔は、一体何を言っているの?
私は死んでいる?
殺された?
犯人って、誰よ。
さすがに気分が悪い。
体調的にじゃなくて、精神的に。
「何を……言っているの?冗談はやめて……」
「真白、俺は冗談を言っていい時と、ダメな時くらい分かっているつもりだ。……そして、今はだめな時だ」
「分かってんじゃん」
「だから、俺は本当のことを話している」
「……じゃあ、死んでいるって何?あたし、幽霊だったの?」
「そうじゃない、お前はな、今……誰かの意識の中で生きているんだ」
「……え?」
顔が、まさにわからないといっていたのか、翔は丁寧に教えてくれる。
「お前の事を、心から大切だと思っている奴の意識の中で、お前は生きているんだ」
「あたしを、大切だと思っている人……?」
「そうだ。というかお前、さっきから一人称が私からあたしになってるぞ」
翔はそう言って笑った。
どうしてだろう、初対面のはずなのに……何だか翔の笑顔を見ると、切ない。


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