―896年、夏―……
「千歳……お前に出会えてよかった……」
そう、あなたは言って下さったの。
でもね、でも……。
命は終わりゆくもの。気持ちは、移り変わるもの。
「ありがとうございます……あたくしも、ずっとあなたをお慕いしておりました」
「千歳……」
あなたの瞳が、水面のように揺れる。
そんな顔を見たくなくて、あたしはあなたの胸をぐっと押した。
「もう……行って……」
「ち…………」
あなたが何かを言おうとしたときに、あたしは言葉を遮った。
「もぉ、あなたと逢うことはないから……」
「千歳…………」
やめて……もう、何も言わないで。
もぉ、あたしを苦しめないで。お願いだから……。
あたしはそっと首を横に振った。
「さようなら」
そう言い残すと、あたしは反対方向に走り去った。
そんなあたしの目からは涙がたちまちあふれてきた。
ごめんなさい……あなたを最後まで苦しめて、ごめんなさい……。