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1: やすだ ももか. ◆/Q &:2016/04/19(火) 22:16



 書いてみる。
 
 短編集に、なるかなあ、
 てか書けるんかわたし。

 感想.アドバイスなどなど、
 一言でもお待ちしております..
 
 

2: やすだ ももか. ◆/Q &:2016/04/19(火) 22:26



 『 よろしく 』

 一言とともに私のデスクで雪崩のように
 崩れる書類やファイルの山。

 目に映るその光景はそれとなく予想
 していた今日の残業を明確にさせた。

 今日も遅くなるな...

 反射的に胸ポケットのスマートフォンに
 手を伸ばして気がつく。

 『 出るわけ、ないか。』

 私は一人呟くと、小さな溜め息をひとつ
 残して再び仕事に向かった。
 

3: やすだ ももか. ◆/Q &:2016/04/19(火) 22:31



 パソコンの見つめすぎか、目の痛みに
 気づき、はっと時計を見れば21:00。

 あと残っているのは今日必ずやるべき
 ものではない。
 私は少し悩んでから、仕事を切り上げる
 ことにした。

 ひとつ大きく伸びをして、帰宅の準備を
 そそくさと始める。
 

4: やすだ ももか. ◆/Q &:2016/04/19(火) 22:50



 ガチャッ

 疲れのせいか、いつもより重く感じる
 家のドアを開けながら、少し遠慮がちに
 一人呟く。

 『 ..ただいま。』

 なんだか夕飯を食べる気も湧かず、
 そのままベッドのある寝室に直行する。

 いっそこのまま寝てしまおうかと思い、
 ベッドの方を見ればそこには、先客。

 本人曰く伸びるのが早いという髪。
 すらっと高い鼻に、鼻までしたマスクに
 乗っかるくらい長くて綺麗な睫毛。
 すこし生やした髭。
 そして薄くてほんのり色づいた唇。

 それはどれも綺麗すぎるほどに整って
 いて、貴すぎて触れられないような
 気がしたりもする。

 しかし、小さく丸まって静かに寝息を
 立てるその姿はまるで小さな子供の
 ようで、無意識に頭を撫でていた。

 『 ..ん 』

 うっすらと目が開く。

 『 あ、ごめん、起こしてもぉて 』

 私の声が届いたのか届いていないのか
 その瞳は視点が定まらないまましばらく
 ぼーっと私を見つめ、

 『 ..おかえり。』

 それだけ言い残して再び閉じられた。

 私はそれを確認すると、
 彼の使っていないブランケットだけを
 ベッドから持ち出し、今日の寝床となる
 リビングのソファーに向かった。
 
 

 

5: やすだ ももか. ◆/Q &:2016/04/20(水) 22:41



 翌朝。
 
 だるさの残る身体を無理矢理起こし
 寝室に向かうと、もうそこに人影は
 なかった。

 ただ、いつの間にか慣れてしまっていた
 かすかな煙草の匂いだけがそこには残り。

 『 煙草は嫌いなんやけどな、』
 
 呟きながら、全く嫌だと感じていない
 自分に改めて少し驚いたりした。

 仕事に行く準備を始める。
 
 


 
 

6: やすだ ももか. ◆/Q &:2016/06/04(土) 21:09



 その日の仕事が一息ついて、
 いつものように、伸びをひとつ。
 
 コトッ、

 と、それを待っていたかのように
 タイミング良く耳に入るマグカップの
 置かれる音。

 『 さすが亮くん。分かっとるわ〜 』
 『 でしょでしょ?? もっと褒めて〜 』

 そう言って持ち前の彫りの深い顔立ちを
 くしゃぁっと崩して笑う、
 私の後輩、代田亮くん。

 後輩といっても、一ヶ月先に私が
 この部署に入っただけなのだけれど。

 ほぼ同期ということもあって、
 だいたい会社では、一緒。
 
 だから敬語とタメ口が入り交じっている
 喋り方には、もはや違和感を感じない。
 それぐらい、一緒にいる。

 仕事も早くて、
 ルックスも良くて、
 頭も良いし、
 気が利く。

 そんな彼がモテないはずはなく、
 二人で居る時の部署の女の人たちからの
 目線に気づいていないわけではない。

 けど、何をしてくるわけでもなく、
 一緒に居て楽しいから居る。それだけ。

 頼りになる後輩といえばそうだし、
 良い友達といえば、そうなのだろう。

 きっと。

 『 先輩、何時か分かっとります?? 』
 『 え、知らん。 』
 『 ちょ、何なんそれ〜笑
   もう1:40分。お腹ぺこぺこや〜、』
 『 うぇえ、!?うそごめん、行こ行こ!! 』
 『 行こ行こ♪ 』

 煙草の匂いのしない彼の左隣。

 安心したのか、仕事の疲れが出たのか。
 それとも足りない何かを感じたのか。

 気づけば小さな溜め息が洩れていた。
 
 

7: やすだ ももか. ◆/Q:2016/08/29(月) 00:56



 『 大丈夫、ですか 』

 その一言から始まった関係。

 その日彼は、前日から降り続く激しい
 雨の中、まるで捨てられた子犬のように
 うずくまって、泣いていた。

 自分でもよく分からない。
 なぜあの時、彼に声をかけたのか。

 知らない人には声をかけるべきでは
 ないということは、親から教わって
 育ってきたし、そう考えてきた。
 普段だって、他人を見て声をかけよう
 だなんて思ったことはなかった。

 でも、綺麗だと思った。
 彼の泣いている姿が。
 そして、声をかけた私へ見せた涙が。
 
 気づけば、声になっていた。
 
 
 

8: やすだ ももか. ◆/Q:2016/08/29(月) 01:11



 その日、とりあえず自分の家へ案内し、
 中へ入れてお茶を出した。
 彼は飲んだ。

 そして、私からの質問に、
 ぽつぽつと、答えていったのだった。

 『 ..歌、うたって 』
 『 ..家、追い出されて 』
 『 ..でも、うたいたくて 』

 彼曰わく、彼はいわゆる
 シンガ-ソングライタ-らしい。
 明確に言えば、それを目指している。

 しかし、それだけではどうしても
 生活費が賄えず、とうとうアパ-トを
 追い出されてしまった。

 行く宛もなく歩いていたら、
 雨が降ってきて、夢は諦めようかと
 考えたが、やはり歌はうたい続けたいと
 思い、迷い、気づけば泣いていた。
 
 その日から、彼はたまに私の家へ
 来るようになった。
 まあ、私が合い鍵を、渡したからなの
 かもしれないけれど。
 悪い人じゃないとどこかで感じたのか、
 居場所をあげたいと思った。

 ただ、やはり収入の安定した就職先を
 探した方が確実に彼のためではある。
 いつ話を切り出そうかと考えながら
 帰ったある日、わたしは彼を守ろうと
 思った。

 彼の歌を、聴いたのだ。
 
 

 

9: やすだ ももか. ◆/Q:2016/08/29(月) 01:18



 その日私がいつものように家のドアを
 開けると、聞こえてきたのだ。歌声が。

 まっすぐだった。
 綺麗だった。
 泣いているようだった。

 本当に歌に命を捧げているような、
 そんな歌声だった。

 わたしは気づけば泣いていた。

 彼にとって、シンガ-ソングライタ-に
 なることが夢なのではない。
 歌をうたい続けることが、彼の人生で
 あり、生きている証なんだ。
 そう、心から思った。

 私は彼に言った。

 『 ここはあなたの居場所だから。 』
 
 彼はしばらくじっと私を見つめた後、
 小さく、でも確かに、こくと頷いた。
 
 

 
 

10: やすだ ももか. ◆/Q:2016/08/29(月) 01:38



 しばらく経つと私たちは、
 たまにキスをしたり、身体を重ねる
 ようになった。

 好きなのかは、分からない。
 でも、嫌ではなかった。
 彼の居場所への依存の象徴なのかも
 しれないけれど、それでも今は良かった。

 ある日、彼は呟いた。

 『 ..ナルコレプシ- 』
 『 ..え?? 』

 聞いたことのない単語だった。

 『 ..病気なんや、俺 』
 『 ..すぐ、急に、眠くなんねん 』

 聞いた直後はよく分からなかった。
 ..ナルコレプシ-??
 ..急に眠くなる、病気??
 スマホを取り出し検索してみる。

 『 ..睡眠障害.. 』

 そこにはその病について、
 長々と説明が文章化されていた。

 思えば彼がうちにいる時は、寝ている
 ことがほとんどだった。
 特にうちの使い方について指定はして
 いなかったから、分からなかった。

 『 ..いつからなん?? 』

 私が少し躊躇いがちに彼の方を向いた
 時には、彼はもう、静かに寝息をたて、
 眠っていたのだった。
 

 

 

11:匿名希望:2016/09/09(金) 17:08

THE END…


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