書いてみる。
短編集に、なるかなあ、
てか書けるんかわたし。
感想.アドバイスなどなど、
一言でもお待ちしております..
『 よろしく 』
一言とともに私のデスクで雪崩のように
崩れる書類やファイルの山。
目に映るその光景はそれとなく予想
していた今日の残業を明確にさせた。
今日も遅くなるな...
反射的に胸ポケットのスマートフォンに
手を伸ばして気がつく。
『 出るわけ、ないか。』
私は一人呟くと、小さな溜め息をひとつ
残して再び仕事に向かった。
パソコンの見つめすぎか、目の痛みに
気づき、はっと時計を見れば21:00。
あと残っているのは今日必ずやるべき
ものではない。
私は少し悩んでから、仕事を切り上げる
ことにした。
ひとつ大きく伸びをして、帰宅の準備を
そそくさと始める。
ガチャッ
疲れのせいか、いつもより重く感じる
家のドアを開けながら、少し遠慮がちに
一人呟く。
『 ..ただいま。』
なんだか夕飯を食べる気も湧かず、
そのままベッドのある寝室に直行する。
いっそこのまま寝てしまおうかと思い、
ベッドの方を見ればそこには、先客。
本人曰く伸びるのが早いという髪。
すらっと高い鼻に、鼻までしたマスクに
乗っかるくらい長くて綺麗な睫毛。
すこし生やした髭。
そして薄くてほんのり色づいた唇。
それはどれも綺麗すぎるほどに整って
いて、貴すぎて触れられないような
気がしたりもする。
しかし、小さく丸まって静かに寝息を
立てるその姿はまるで小さな子供の
ようで、無意識に頭を撫でていた。
『 ..ん 』
うっすらと目が開く。
『 あ、ごめん、起こしてもぉて 』
私の声が届いたのか届いていないのか
その瞳は視点が定まらないまましばらく
ぼーっと私を見つめ、
『 ..おかえり。』
それだけ言い残して再び閉じられた。
私はそれを確認すると、
彼の使っていないブランケットだけを
ベッドから持ち出し、今日の寝床となる
リビングのソファーに向かった。
翌朝。
だるさの残る身体を無理矢理起こし
寝室に向かうと、もうそこに人影は
なかった。
ただ、いつの間にか慣れてしまっていた
かすかな煙草の匂いだけがそこには残り。
『 煙草は嫌いなんやけどな、』
呟きながら、全く嫌だと感じていない
自分に改めて少し驚いたりした。
仕事に行く準備を始める。
その日の仕事が一息ついて、
いつものように、伸びをひとつ。
コトッ、
と、それを待っていたかのように
タイミング良く耳に入るマグカップの
置かれる音。
『 さすが亮くん。分かっとるわ〜 』
『 でしょでしょ?? もっと褒めて〜 』
そう言って持ち前の彫りの深い顔立ちを
くしゃぁっと崩して笑う、
私の後輩、代田亮くん。
後輩といっても、一ヶ月先に私が
この部署に入っただけなのだけれど。
ほぼ同期ということもあって、
だいたい会社では、一緒。
だから敬語とタメ口が入り交じっている
喋り方には、もはや違和感を感じない。
それぐらい、一緒にいる。
仕事も早くて、
ルックスも良くて、
頭も良いし、
気が利く。
そんな彼がモテないはずはなく、
二人で居る時の部署の女の人たちからの
目線に気づいていないわけではない。
けど、何をしてくるわけでもなく、
一緒に居て楽しいから居る。それだけ。
頼りになる後輩といえばそうだし、
良い友達といえば、そうなのだろう。
きっと。
『 先輩、何時か分かっとります?? 』
『 え、知らん。 』
『 ちょ、何なんそれ〜笑
もう1:40分。お腹ぺこぺこや〜、』
『 うぇえ、!?うそごめん、行こ行こ!! 』
『 行こ行こ♪ 』
煙草の匂いのしない彼の左隣。
安心したのか、仕事の疲れが出たのか。
それとも足りない何かを感じたのか。
気づけば小さな溜め息が洩れていた。
『 大丈夫、ですか 』
その一言から始まった関係。
その日彼は、前日から降り続く激しい
雨の中、まるで捨てられた子犬のように
うずくまって、泣いていた。
自分でもよく分からない。
なぜあの時、彼に声をかけたのか。
知らない人には声をかけるべきでは
ないということは、親から教わって
育ってきたし、そう考えてきた。
普段だって、他人を見て声をかけよう
だなんて思ったことはなかった。
でも、綺麗だと思った。
彼の泣いている姿が。
そして、声をかけた私へ見せた涙が。
気づけば、声になっていた。
その日、とりあえず自分の家へ案内し、
中へ入れてお茶を出した。
彼は飲んだ。
そして、私からの質問に、
ぽつぽつと、答えていったのだった。
『 ..歌、うたって 』
『 ..家、追い出されて 』
『 ..でも、うたいたくて 』
彼曰わく、彼はいわゆる
シンガ-ソングライタ-らしい。
明確に言えば、それを目指している。
しかし、それだけではどうしても
生活費が賄えず、とうとうアパ-トを
追い出されてしまった。
行く宛もなく歩いていたら、
雨が降ってきて、夢は諦めようかと
考えたが、やはり歌はうたい続けたいと
思い、迷い、気づけば泣いていた。
その日から、彼はたまに私の家へ
来るようになった。
まあ、私が合い鍵を、渡したからなの
かもしれないけれど。
悪い人じゃないとどこかで感じたのか、
居場所をあげたいと思った。
ただ、やはり収入の安定した就職先を
探した方が確実に彼のためではある。
いつ話を切り出そうかと考えながら
帰ったある日、わたしは彼を守ろうと
思った。
彼の歌を、聴いたのだ。
その日私がいつものように家のドアを
開けると、聞こえてきたのだ。歌声が。
まっすぐだった。
綺麗だった。
泣いているようだった。
本当に歌に命を捧げているような、
そんな歌声だった。
わたしは気づけば泣いていた。
彼にとって、シンガ-ソングライタ-に
なることが夢なのではない。
歌をうたい続けることが、彼の人生で
あり、生きている証なんだ。
そう、心から思った。
私は彼に言った。
『 ここはあなたの居場所だから。 』
彼はしばらくじっと私を見つめた後、
小さく、でも確かに、こくと頷いた。
しばらく経つと私たちは、
たまにキスをしたり、身体を重ねる
ようになった。
好きなのかは、分からない。
でも、嫌ではなかった。
彼の居場所への依存の象徴なのかも
しれないけれど、それでも今は良かった。
ある日、彼は呟いた。
『 ..ナルコレプシ- 』
『 ..え?? 』
聞いたことのない単語だった。
『 ..病気なんや、俺 』
『 ..すぐ、急に、眠くなんねん 』
聞いた直後はよく分からなかった。
..ナルコレプシ-??
..急に眠くなる、病気??
スマホを取り出し検索してみる。
『 ..睡眠障害.. 』
そこにはその病について、
長々と説明が文章化されていた。
思えば彼がうちにいる時は、寝ている
ことがほとんどだった。
特にうちの使い方について指定はして
いなかったから、分からなかった。
『 ..いつからなん?? 』
私が少し躊躇いがちに彼の方を向いた
時には、彼はもう、静かに寝息をたて、
眠っていたのだった。
THE END…
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