ぼそぼそ
ゆっくりと ( >>2 )
ばしゃばしゃと飛び散る水の音。リビングから聞こえるテレビの音。弟がした大きなくしゃみの音。
様々な音を聞きながらに皿洗いをする。
いつもなんら変わらぬ夕食後の一時。
蛇口から流れる水を止めてはふと思う。
「 あれ。京に頼まれたプリン、買ってきたっけ? 」
>>7
いつもなんら → いつもとなんら
自分の記憶に語りかけるも、記憶からの返答はない。
きっと買い忘れているのだろう。
「 これはまずい、京が怒ると怖いからなあ 」
ため息混じりにぽつりと呟く。
既にプリン探しを始めている京にプリンが無いことを気づかれるのは時間の問題だ。
皿洗いを終えた僕は手を拭きながらに弟のもとへと歩いていった。
港の背中を軽くたたくと彼は此方に振り向く。
ボール磨きの邪魔をして悪いと思う気持ちはあるが、この一大事に港に頼らずにはいられない。
「 実は京に頼まれてたプリン買ってくるの忘れちゃってさ…
急いで買ってくるから京の足止めしてくれない? 」
両手を合わせつつ、ちらりと京に視線を送る。
すると港もちらりと京を見る。
二人の眼に映るのは人里におりてきた野性の熊の様な荒々しさで冷蔵庫を漁る京の姿。
普段はのそのそとした動きなのにここまで荒々しくなったのは、好物が無いことに腹を立てているからなのだろう。
ことの大きさを察してくれた港は、無言でこくりと頷くと親指をぐっとたてた。
僕は急いで靴を履いて家を出る。
はやくプリンを調達せねばと焦りながらに。