どうも、いろいろと夢小説を書いているアポロです。
「とっとと別の小説更新しろよ!」とお思いの方も居られるかも知れませんが、ご安心を。気まぐれに更新していきます。
アテンッション!
・長編を書き溜めていきます
・荒らし等はUターンでお帰り願います。
・ここは私個人の場なので、リレー小説ではありません
・イラスト乗せていきます
・ヒロイン固定『緋影いおり』
・成り代わり有り、転生有り
・グロ表現を含むかも知れません
では!
上に呼ばれた理由は退院おめでとうと言うことに関してだった。それと同時になぜ二回も三雲を庇ったと言うことを聞かれた。実を言うと庇った事には理由があり、それをつらつらとあたしは述べた。
二回庇ったのは保険だ。一回目をあたしが庇い、二回目が三雲に当たっていたならば、もし三回目が来たとして対処できる人間が居なくなる。これは非常に駄目だ。トリオン体を両方解けばそこを狙われ二人とも死と言うのだって有り得る。被害は少ない方が良い。
そう告げれば皆それもそうだと感嘆し、賛同してくれた。そのあと、忍田さんがサイドエフェクト検査を用いてきたのだが、とっくに回復していたのでやんわりと断りを入れた。上からの命令はとりあえずボーダーに居るときは常にトリオン体で居ろとのこと。まあ骨折したままじゃ動きづらいしね。
ああ、城戸さんに言っとかないと。
『……城戸さん』
「なんだ、迅」
『記者会見、見ました』
「ほう。何か言いたいことが在るのか?」
『……別に、ああいうやり方で根付さんが会見開くのは予知が無くても見えてましたし構いません。
……ですが、今後三雲を使ってその様なことをすれば、あたしはボーダーをやめます』
ざわりと会議室がざわめく。次々と視線があたしに突き刺さっていた。その視線はなぜお前が三雲をそこまで庇うのかと言っている。それに、今あたしにボーダーをやめられたら困るのはそちらのはずだ。これからのガロプラ戦に向けてあたしの、あたしたちの予知は必要不可欠。
「……分かった、覚えておこう。
だが、なぜお前がそこまで三雲を気にかける?」
『……なぜって、それは』
__この先三雲の存在が必要不可欠だからに決まってるじゃないですか。
そう言えば予知かと言われ首を縦に振る。理解したとばかりに頷いた城戸さんを見てあたしは会議室を後にした。
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観覧席にて、B級ランク戦を見るべく足を運んだ。
「ボーダーの皆さんこんばんは! 海老名隊オペレーター武富桜子です!
B級新シーズン開幕! 初日、夜の部を実況していきます! 本日の解説者は……。
「俺のツインスナイプ見た?」でおなじみ! 嵐山隊の佐鳥先輩!」
「どーもどーも」
「そしてもう一方……本日がB級デビュー戦! 玉狛第二の三雲隊長です!」
「ど、どうも……」
「三雲隊長はお怪我で今日はお休みとのことなので、解説席にお越しいただきました!」
それを聞いてギャラリーが記者会見でとか騒ぎ出す。うるさいなぁとか思いながら腕を組んで背もたれに体重を預ける。後に隊員の転送がスタート。佐鳥のランク戦の説明が入ったあと転送完了。
武富が三雲に人数は大丈夫かと聞けば、三雲は恐らく大丈夫と言う。その瞬間空閑がモニター越しに吉里隊を殲滅。原作をこの目で見れるとは感無量です。そのあとすぐに雨取の砲撃。やはり感無量です。
あっという間に終わった夜の部初戦は玉狛第二の圧倒だった。すげぇ。
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ランク戦夜の部も終わり、次の相手は荒船隊、諏訪隊に決定した。次の勝敗の結果もすでに視え、それに知っているので玉狛を心配する必要も無いかと思い、あたしは風間隊隊室へと向かっていた。
以前から最近風間と飲んでないなと言うことは気が付いていたので、久しぶりに飲む気でいる。その証拠に左手から下がる紙袋の中身は日本酒等であった。
「あれ、いおりさんじゃないですか?」
後ろから声を掛けられ、三上だと気付く、もちろん未来が視えていたからである。振り返り『三上か』と流し目で呟いた。みかみか超可愛い。今すぐにでも飛び付いて抱き上げたいところだがそれでは後輩に示しがつかないので顔には出さない。
「今からどちらに? もう遅いですよ?」
『お前の隊の隊室に向かっているところだ』
紙袋を手前に出しながら呟けば「ほどほどにしてくださいね」と苦笑いして共に歩き出した。
**
「三上、ただいま戻りました」
『あたしも来たぞ』
そう言いながら隊室に入っていけば全員が揃っており、各々のやりたいことをしていた。いきなりのあたしの登場にみんな目を見張るが、紙袋を見せれば納得したように声をかけてきた。
ここで酒を飲むのももう普通になってきたのでみんな気にしなくなったらしい。
「いおりさんまたですか?」
『……またとはなんだ菊地原、最近来てなかっただろうが』
「まあそうですけど。散らかさないでくださいよ」
「お前はなんで偉そうなんだ……」
歌川が菊地原を注意するも気にするなと制する。別に悪気がある訳じゃない。その証拠にあたしが座ればすすすと寄ってくるところが可愛い。
風間は立ち上がってコップを取り、あたしの向かいに座って「いおり」と催促してきた。
あたしは紙袋を机におき、中から酒を取り出す。
『どうする? 諏訪呼ぶか? アイツともお前飲んでないだろ』
「いいだろう別に」
『お前諏訪に対して扱いが最近どんどん雑になってきたな』
.
翌日、風間隊で飲み明かしたあたしと風間は酔いを冷ますためボーダー内をぶらりぶらりと散歩を踏まえ、彷徨いていた。
「……頭が痛い」
『飲みすぎだろ蒼也』
「お前に言われたくない」
ぐりぐりと肩に拳をぶつけて来る風間に「早く酔いを冷ませよ」とあたしの飲み掛けのミネラルウォーターを渡した。ミネラルウォーターは先程自販機で購入したもので、風間はとっくに飲み干している。
だが。
「……いらない」
ふるふると首を振ってペットボトルを突き返してきた。なんだこいつ可愛い。『なんでだ』と問えば「今水を飲むと吐きそうだ」と返ってきたのでやめる。流石に吐かれると臭いや吐瀉物処理が面倒だ、困るし。
『お前ホント大丈夫か』
「……大丈夫じゃない」
『なんで大丈夫じゃないのに散歩しようなんて言ったんだ……』
「酔っていた」
『分かっているから』
背中を擦ってロビーのソファへと座るよう促す。風間をソファに座らせたあと、「茶、買ってきてやるから」と飲みたいものを聞いて付近の自販機へと足を向けた。
早朝だからか人は少なく、いつもは騒がしいロビーもシンと静まり返り不思議な感じだ。
いざ自販機に目をやると見覚えのある人影が三つ。太刀川隊の唯我を抜いた戦闘員達である。
「あ、いおりさん」
『おはよう剣人、太刀川隊は今日は夜勤だったのか?』
「うぃっす。もう眠くて眠くて」
『仮眠室使え』
水美に「うわ! いおりさん酒くさ!」と言われそんなに酒臭かったのかと思う。恐らく風間も自分が酒臭くて酔いが冷めなかったのだろうと反省した。
「あ、いおりさん! おはざーす」
『出水も眠そうだな』
「酒臭いっすね」
『飲んだからな。どけ太刀川あたしのバイクで轢くぞ』
「いおりさん朝からなに!?」
出水にまで酒臭いと言われトリガーを起動し変換体になる。自販機の前で悩む太刀川を一蹴しちゃりんちゃりんと小銭をやや乱暴に突っ込む。
「いおりさん昨日酒飲んだの? 誘ってくれれば良かったのに」
『静かに飲みたかったからな。うるさい奴は呼ばず蒼也と二人で飲んだ』
「風間さんか〜。隊室でっすか?」
『ああ。後輩は途中で帰った。起きたのはさっきだ』
「飲み明かしですか。風間さんは?」
『ソファに座ってグロッキー、飲み物を買いに来た』
太刀川、出水、水美の順に答えていきガコンと落ちてきたお茶のペットボトルを手に取り「じゃあな」と口で告げる。
太刀川や出水はランク戦をしてくれとの事を言っていたが水美は「お大事に」と言ってくれたので水美に今度ランク戦を申し込もう。
**
『ほら蒼也』
「ああ」
ペットボトルを渡して風間の隣に座る。酔いは冷めたのか頭は押さえつつも少しすっきりしたような面持ちでペットボトルの中身を喉に通していく風間に少し安心した。
『玉狛、初戦で8得点だと』
「……下位だからな」
『お前、三雲に少し甘いように思えるんだが違うか?』
「そんなことはない」
『……そうか』
.
『……』
「……」
しばらく何も喋らない沈黙が続いた。静かすぎて耳鳴りが起こりそうなのでとりあえずと口を開こうとすると、先に風間が口を開く。
「いおり」
『なんだ』
あたしが聞き返せばそれきり喋らなくなった風間に不審を抱き『なんだ、蒼也』と口を開く。不意に放置していた右手がきゅと握られた。酔いが、やはりまだ抜けていないらしい。じゃないとこんなことはしない男のはずだ、風間蒼也という男は。
『蒼也』
「……ずっと」
開いて、閉じる口。言葉を紡ぐには単語だけで、とても言葉と言えたものではない。きっと、酔いが回っているんだ。
「俺の側にいろ、いおり」
明確に告げられた好意の言葉に微かな頭痛が起こる。トリオン体の筈なのに、頭痛なんて感じる訳は無いのに。風間の口からそんな言葉を聞かされるとは、未来も視えていなかった。今思えば、風間に関しての未来は出会ってから一度も視たこと無かったかもしれない。理由なんてものは知らない。だが明確に好意を言われた今なら予想はつく。
好意を寄せている相手に未来視は使えない。悠一はそんなことないかもしれないが、あたしがそうらしい。それなら合点が行くし、納得も出来る。
あたしはコイツが好きなんだ。
納得して、その言葉はやけにすとんと胸に落ちてきた。
『離すなよ』
「離すわけ無いだろ」
早朝、誰も居ないロビーのソファ。唐突な告白とあっさりした発端だった。
.
迅がいおりと風間が付き合い出したと言うことを知ったのは、玉狛で木崎の未来を視た時だった。
そのとたんいきなり木崎のケータイに通話が入り、もしもしと木崎が出ればどうやらそれは風間だった様で、ぞわりと、軽くギャグ的な嫌な予感が背中を駆ける。しばらく通話をして、じゃあなとケータイの通話モードを切った木崎に「風間さん、何て?」とへらりと笑顔を浮かべながら確認のため迅は聞いた。嘘であってほしいと願いながら。
「……風間がいおりと付き合い出したそうだ」
「ガッデム」
やはり自分の予知は的確だった。再三それを思い知った迅はガッデムと心からの叫びを小さく呟きながら額をテーブルにがんと打ち付ける。木崎はそれに対し「お前のシスコンは度が過ぎるんだろ」と言えば迅は「姉さんは俺がシスコンって事に気が付いてないよ」と口を尖らせながら拗ねた。
「……迅さん、なにしてんですか」
「京介……」
ソファに座ってテレビに集中していた鳥丸が迅のガッデムにあざとく反応し、ソファ越しから振り返ってそう訪ねる。相変わらずの無表情である。
迅は起き上がり鳥丸に視線を送りつつ「聞いてた?」と聞き返す。絶対聞いていたであろう鳥丸は素知らぬ顔で「なんのことですか?」と返してくる。迅は生意気な後輩にひくりと頬がひきつるのが分かった。
「風間さんがお義兄さんとか勘弁してよ……」
「風間以外なら良いのか?」
「むしろ駄目、絶対駄目。風間さん以外認めないよ俺。許さないよ」
「矛盾しまくりっすね」
うるさいよ、と鳥丸を一喝しながら迅はここに居ない姉を頭に浮かべ、隣に風間を置く。ブッと吹き出して「身長差……!」とけらけら笑う。木崎は「笑ってやるな」と迅を咎めた。
**
「っくしゅ!」
『おい大丈夫か蒼也。風邪か』
「そうかもな。体調管理を怠らない様にする」
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2/5、B級ランク戦夜の部。あたしはそれを風間隊の面々と観覧席にて観ることになった。もちろん風間の誘いである。
『今日の解説は東さんと駿か』
「そうですね」
あたしの一人の呟きを歌川が拾い、返してくれた。歌川、お前はいいやつだ。
「今回の注目はなんといっても、前回完全試合で八点をあげた玉狛第二! 注目度の高さから会場にもちらほらと非番のA級の姿も見られます!
さて東さん。一試合で八点と言うのはあまりお目にかかれませんが……」
「いや、すごいですね。それだけ玉狛第二が新人離れしてるってことでしょう」
「遊真先輩は強いよ、あっという間にB級上がってたし」
武富の質問に東さんがすらすらとコメントを述べたあと、緑川が空閑の事を称賛する。
緑川が空閑に8-2で負けたと言うことで、会場がざわめいた。
玉狛第二が選んだステージは市街地C。緑川のコメント通り、諏訪は今頃キレてるだろう。
**
ランク戦の結果は6-2-1で玉狛の勝利、最後のエースの空閑を囮に三雲が諏訪を取ったのは良かった。
「……さて。振り返ってみてこの試合いかがだったでしょうか?」
「そうですね、終始玉狛が作戦勝ちしていたと言う印象ですね」
東さんの言葉に緑川がうんうんと頷き、東さんが「相手の得意な陣形を崩す、エースの空閑をうまく当てる。この二つを徹底して実行できたことが6点と言う結果に繋がったと思います」と人差し指、中指を立てて言えば、緑川も真似をしてしたり顔で頷く。
そして次の玉狛第二の相手は那須隊、鈴鳴第一となった。
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風間side
風間隊隊室にて。ミーティングを終えて少しの休憩を取っていた時、唐突に扉がノックされた。『あたしだ』と扉越しからくぐもった声が聞こえてきて、扉を開ける。そこには片手に四角い箱を持ったいおりがそこにいた。
『蒼也、ちょうどミーティングが終わったろ。色々甘いもの買ってきた』
そう言うと俺の返事を聞く事もなく隊室に入ってきたいおりに溜め息をはきながら扉を閉める。
いおりのいきなりの登場に菊地原と歌川、三上が目を見開いて驚くが、テーブルに箱を置いて『食え』といおりが催促すれば三人がそこに寄り付く。
いおりは存外後輩に甘いと思う。太刀川は抜きにしても後輩に甘い、断言する。ランク戦等の面倒なこと以外なら何でもするし、差し入れと称して値の高い食べ物を持ってきたりする。
以前金の扱いがぞんざいだなと聞いたことがある。いおりは相変わらずのポーカーフェイスを保ちながら『これ以外に金を使うことがない』と言った。無欲である。
『蒼也、お前も早く来い。三上が大福を食べきってしまう』
「や、やですよいおりさん! 私そんな……!」
「太るよ三上先輩」
「こら菊地原! 失礼だぞ!」
相変わらず変わらない自分の隊の隊員に微かに苦笑いしながら俺もそこへと歩み寄り、箱のなかを覗く。なるほど種類が豊富だ。
『蒼也はなにがいい。いろいろあるぞ』
「なんでもいい」
『ほら』
渡されたのは瓶に入ったミルクプリン。以前テレビで嵐山達がレポートをしていた気がする。俺が牛乳をよく飲むのを知ってか知らずか、牛乳の割合は多いみたいだ。
各々が食べたいものを口に運ぶなか、いおりは『何かほしいものがあれば言えよ、買ってきてやるから』と三上等に訪ねる。が、歌川が困ったように聞き返す。
「でも金額とかが……」
『大丈夫だ。これ以外に金の使い道がない』
「寂しくないですか」
『……言うな菊地原』
「いおりは無欲なんだ」
「じゃあいおりさん! 今度駅前に新しく出来たお店のマカロンが食べたいです!」
『分かった、覚えておく』
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『いた、蒼也いでっ、いだだだ!』
「……」
現在あたしの自室。今月分の漫画を書き終えてカラーに移ろうとしていたのだが、突然こんこんと扉がノックされ、開ければ風間が立っていた。
なんだ風間かと部屋へ招き入れて再び椅子に座ってデスクと向き合ってきたのに、唐突に風間が肩に頭を置いてぐりぐりしだしたのだ。痛い、これは痛い。ヤバイヤバイヤバイ痛いコレは痛い死ぬ。
『蒼也……痛、っでぇ!』
「充電だ」
『だだだだ!』
やめろと言えばさらに力を強めてぐりぐりと頭を押し付けてくる風間に「何がしたいんだ」と言えば返ってくる言葉は「充電」のみ。ちょちょちょ痛い!
やっと退いたかと思えば「うぅ」と唸り声をあげながら首に巻き付いてきた。ちょっと待って原作の風間さんはこんなことしないぜよ! どうなってるんだ風間さん!
『……本当にどうした蒼也、お前らしくないな』
「本音はどんなに崇高な戦法を考えてもお前と戦ったら負ける気しかしなくてムカついただけだ」
『八つ当たりじゃないか』
「知らん」
『ぐえっ、絞まってる絞まってる』
今日の風間は数年に一度見れるか見れないかの甘えたちゃんになっているらしい。
……そんなところもいつも通り可愛いぜよ蒼也! 愛してる!
「……お前、そんなキャラだったか……?」
『声に出てたのか』
「いつも無表情でポーカーフェイスを貫いているクールなお前がそんなことを考えていたとはな」
『引くなよ』
「むしろ俺は強く惹かれたな」
『……お前、そんなキャラだったか? 天然か? 狙ってんのか? 可愛すぎる、襲うぞ蒼也』
「お前なら俺は構わない」
『やめろ真摯に受け止めんのはお前らしくない。あたしの知ってる蒼也はもっとこう……紳士だぞ』
「失礼だな、俺だってお前といかがわしいあれやこれやをしたいと思ってる」
『蒼也は健全な男性だったか。安心しろあたしも同じだ。だが今は猛烈にやり返したいな』
バッと振り返って蒼也にチョークスリーパーを吹っ掛ける。やめろ痛いとバシバシ容赦なく腕を叩いて来る風間に苦笑いがもれた。
数年後、あたしの名字が迅から風間に変わっている未来が視えたのは本人には秘密である。
【転生姉弟】完
**
やっと終わりました。あぁ良かった無事終わった。落ちなんて考えてなかったんで即興です、もう疲れました。最後の方もうなんか雑です。下ネタっぽいの混ざりましたかね?
一応この長編は完結しましたが、まだまだ他にも書きたい事があるので、短編にてまた登場するかもしれません。
次の長編は恐らく誰かと恋愛するか、トリップするか、また誰かのきょうだいに転生するかですね。多分すぐ書くと思われます。
アデュー!
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三輪と出水のお話
【憎しみで埋める】
一卵性双子の兄は姉が好きだった。そしてあたしも姉が好きだったし、尊敬もしていた。
だが多分、姉が一番好きだったのは兄だろう。だから、同性で顔は姉に似ているが性格は真反対だったあたしを兄は恐らくよく思っていない。「お前が嫌いだ」ともはっきり言われたことがある。
だが、あたしはそれでも兄が好きだった。兄はどうすればあたしを認めてくれるんだろう。
必死に努力して、勉強を頑張って運動を頑張って、兄をイジめようとする輩は全力で凪ぎ払った。空手や少林寺拳法、剣道等の武術を習い始めたのだって兄の為だ。
でも結局空回りして、学校じゃ高嶺の花等と言われるが、兄が認めてくれなきゃそもそもの意味がない。
だが、それが兄に対する憎悪へと変貌した。それは本当に吃驚するぐらい突然だった。
キッカケはあの忌々しい『第一次大規模侵攻』。無愛想なあたしの隣にいつも居てくれた親友との帰り道だった。
何が起こったか分からず、親友とあたしは身内の安全を確認するべく後で合流しようと約束し半ば駆け出す形で別れる。
そしてしばらく走ればやっと見つかる兄の影。喉の奥は血の味しかせず倒れそうだが、そんなことより身内であった。
『っ、秀次!』
兄、三輪秀次の元に駆け寄って気が付いた。姉も居る、それも見るも無惨な亡骸で。胸をくり貫かれた様な傷を負って絶命していた。
ああ嘘だ姉さん。起きて、姉さん。
ぼたぼたと涙を流す兄の横で呆然と姉を呼ぶ。泣きはしない、だって兄が泣いているんだから。大丈夫秀次、あたしがいる。
肩に手を置こうとして、叩き払われた。
ああそうだ。忘れもしないここだ、秀次を憎悪の対象として見たのは。
『……秀「なんでお前が生きてるんだ! なんでお前じゃなくて姉さんが死んでるんだ! なんで俺が嫌いなお前が!」……』
此方を見ずにそう泣き叫んだ兄を見るあたしの目は既に冷めた。なんであたしがそんなことを言われなきゃなんないんだ。ふざけるな、じゃあお前が守ればよかったじゃないか。
確かに姉さんはあたしと違って明るく陽気な人だった、それと正反対なあたしにそんな事を思うだけなら構わない。口にするからだ。
ここで兄に対する愛情はひっくり返って憎悪へと変換される。人とはこんなに簡単に人に対する感情を変えられるのかとと言うことを目の当たりにした瞬間だった。
さらに何かを言おうと秀次が振り返った時には、自分の片割れの妹の姿はどこにもなかった。
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いおりは数日の間、壊れた町をふらりふらりと行く宛もなくさまよった。家にも帰らず、何も食べず。ただし、悪かった目はコンタクトから黒ぶち眼鏡に変え、腰まであった長い髪はショートカットにするようにばっさり切った。こうしてしまえば、眼鏡を掛けているため兄にも似ず、ただの一人の女に見える。
クセなのか知らないが短く切った髪の毛先は外に跳ねている。これもこれで兄の血縁とは分からないだろう。
これからどうしようか。
ぽつりと誰もいないところでいおりは呟いた。ただ、決めているのは三輪姓を捨てることのみ。今頃親はあたしを探しているだろうが兄は清々しているだろう。あたしも清々している。
そして気がつく。あたしから兄を取れば何も残らない。ああこの13年間をドブに捨てたな。
はた、と気が付く。前方に男の影が見える。あぁ、あれが噂のボーダーかと腰もとの鞘を見て納得する。そしてあたしはなんの躊躇いもなくその人に声を掛ける。
『なあ』
不思議そうに振り返ったその男は「どうした? 一般市民の女の子か?」と聞いてくる。
確かに女だが、もう喋り方は男にしよう。あたしは気にせずに、飛びっきりに声を低くして口を開いた。
『【俺】を、ボーダーに入れてくれ』
男は目を見開いたのち、何かを察したように頷いて「……我々ボーダーは君を歓迎しよう」と手を差し伸べてくれた。
あたしはその手を握って『よろしくお願いします』と返す。
「君、名前は?」
あ、やばい。三輪姓を捨てるとは言ったが名字はまだ思い付いていない。なら、とつっかえずに告げる。
『赤坂いおり』
「私は忍田。動機は?」
動機? そんなの決まってる。
『ネイバー……の復讐』
兄の、とは言わない。ネイバーに復讐したいのは、大切な姉を殺されたからだ。
恐らく兄もボーダーに入隊するだろうが、そのときはその時。
ボーダーで、力を磨く。
身寄りが無いととりあえず伝えれば、「ボーダー基地に君の個室を作ろう、これからはそこが君の家だ。必要なものは全て我々が揃える」と伝えられ、いい人だなと、泣きそうになった。
.
三輪side
俺がいおりに本音を告げた。悪いとは思っていない。姉さんよりアイツが死んだ方が良いと思ったのは本心からだ。
さらに言おうとして振り返ったときにはネイバーが視界を遮って向こうの家へと衝突した。
ネイバーの層甲が俺の頬をかすった。赤く腫れ上がるが、俺は別の事を考えていた。
確かに、先程まで双子の妹のいおりはここにいた。そこにネイバーの突進、いおりの姿は無い。
それなら、考えられることはひとつ。
「……い、おり」
この白い化け物に食われた。
嘘だろ、俺の言葉の直後だぞ、やめろ、死ぬな、いおり、やめろ。そこにボーダーがやって来て、そのネイバーを始末する。
ネイバーが衝突した家の壁に血痕が飛び散っていた。やはり、いおりは、
考えたくない。俺のせいか? 俺があんなこと言ったから?
元々いおりは気にくわなかった筈だ。澄ました無表情で、淡々とやることをこなし、それを当たり前とする。そんな気にくわない奴で、俺はそれが嫌いだった筈。
__なのに。
どうしてこんなに胸が苦しいんだ、どうしてこんなに涙が出てくるんだ。どうして、俺の周りから人が居なくなるんだ。
悲しくなんてないのに悲しくて涙が出てくる。先程のいおりに告げた言葉を今更後悔した。あれが最後の会話? ふざけるなそんなのって無いだろ。
憎い憎い憎い、勝手に俺を置いていったいおりも、姉さんといおりを殺したネイバーも。
憎い憎い憎い、ネイバーは敵だ。俺がすべてをぶち壊してやる。
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いおりside
ボーダーに入って一年、ボーダーはすでに我が家となっており、超くつろげるマジかクソ楽。そして兄が入隊した。中二の始めである。入隊式で姿を見たときは目の前が真っ白になってぶち殺したい衝動に駈られたが、ただひたすら耐えて爪が手のひらに食い込んで血があふれでるのも気にせず拳を作り続けた。あれはまだ治りきっておらず跡が残ってしまった、なんだと。
最近『水美剣人』と言う同い年の少年に目をつけており、すでにB級へと昇格、フリーのA級に上り詰めた俺は現在モニター越しにランク戦中の入りたてのその水美剣人を眺めていた。
『もうちょっとで上がってくるか』
そんなことを呟きながらフイと視線をずらせば金髪。え、嘘だろ金髪?
一瞬葛藤仕掛けたがまぁ自分には関係無いやと自己鍛練の為にブースに入った。
**
現在アタッカーランク六位を死守し続けている俺は弧月で頑張っている。一位には到底追い付けない。だって今はアタッカー用トリガーは弧月ひとつしかないし、大変だし。無理だし。
そう言えばまだ会ったことは無いが、会って一番最初にセクハラしてきた(ので超笑顔で「触んじゃねぇよ殺されてぇのか、埋めんぞ」と回し蹴りをぶち噛ました)迅さんにお姉さんが居ると言う。どうにも下の名前の『いおり』が一緒らしい。噂じゃ長身巨乳天才完璧主義者イケメンで、サイドエフェクトが姉弟揃って未来視だとかなんだそりゃ羨ましいハイスペックかよチートかよ、私なんか胸普通だぞ分けろよクソが。
アタッカーランク一位はその人だと聞いたがなるほど叶わん。
ブースを出ればあらら何々さっき自分には関係無いやとか思った金髪が、わぁおイケメン。
「お前が赤坂いおりか?」
『そうですがなにか』
いきなりなんだその不躾な口調は。なめてんのか? なめてんだな焼くぞ埋めんぞ頭が高いぞ。
「俺は出水公平、俺とランク戦してくんね?」
『いきなりなんだと不躾な口だなてめぇ。なめてんのか、なめてんだな埋めんぞ! 誰がガンナーとランク戦やるか』
「良いじゃんやろうぜ! ガンナーって銃邪魔だよな、もう俺そのまま撃ってみようかなって思ってるんだよな、付き合えよA級!」
『いやだっつーの! 実験台じゃねーか!』
「俺も混ぜてくれよー!」
『誰だよカチューシャ野郎てめえ!』
「俺? 俺、米屋陽介。さっきの赤坂のランク戦見ててやってみてーなーって!」
『もう今後ランク戦やらねぇわ俺』
「あ、俺もやりてぇ!」
『よし水美に免じてランク戦やろうぜ!』
水美も乱入してきたことで気が変わった。やろう、即やろう。水美イケメンヤバイかっこいい惚れる、いや無いか鑑賞用だわ鑑賞用。
水美がなんで俺の名前知ってんの? って聞いてきたから『お前のこと強くて良いなって思って目ぇ付けてた』つったら笑われた。いけめん死んでまえクソが殺す気かよ、俺を。
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赤坂ちゃんの名前をいおりから稲葉へと変更します。
あのランク戦の一件からあのメンバーとよく一緒に居るようになった。まあ大体はランク戦ばっかだけど。
だが問題は目の前のコイツだ。
「……おい、赤坂」
『なんだい三輪』
「陽介をどうにかしろ」
『俺に聞くな自分でやれ』
憎き三輪秀次と対面中だ。それもこれも米屋が「秀次ともなかよくしよーぜー!」とか言いながら三輪を連れてきたことが原因だ。クソ米屋が余計なことを……! 一生三輪を影から憎み続ける気でいたのに米屋くそぅ……。
普通に対応しようとしてもどうしても微かに言い方がキツくなってしまう、あああゴメンねはっきりした方がいいよね、はっきりするんだったらめっちゃ嫌うわ俺!
どうやら三輪も自分の片割れの妹にそっくりな人物に出会って困惑しているようだ。まあ放置だ放置。
それにしても周りからの好奇の視線が痛い、頭痛する、バファリン飲みたい。
『米屋ぶっ殺!』
「やめろ! お前が言うとマジに聞こえる!」
とりあえず米屋にはアッパーを決めておいた。さて、三輪と知り合ってしまった俺はどうする? 決まってるだろそんなこと。
とりあえず俺の尊敬しているアタッカーを教える!
『三輪は尊敬してるアタッカーとかいる?』
「いおりさん」
『……え』
「いおりさんだ」
『いおりさんって……あの天帝の? 忍田さんより強い無敗のイケメン美人? 迅さんのお姉さんの?』
「ああ」
『ふーん。俺は風間さん、質実剛健って感じがかっこよかった』
「……そうか」
「いおりさんと風間さんって幼馴染みなんだぜ」
『え、マジで? 嘘だったら埋めるぜ米屋』
「やめろこええ! ってかこれはマジ! あの二人いつも一緒に居るからなぁ」
「……風間さんも尊敬しているが、倒すべき敵だ」
『三輪、いおりさん大好きかよ』
「いやいや、風間さんには負けるんじゃね? 風間さんいおりさんに関することは超敏感だから、むしろセンサーだから」
「……陽介ブースに入れ」
「ゴメンナサイしゅーじ!」
なるほど、風間さんはいおりさん大好きか。
『……ならいおりさん気が付いてるんじゃないのか? 付き合ってねーの?』
「「付き合って無いな/ねぇわ」」
『二人して即答かよ』
「弟の迅さん超シスコンでさ、未来視で度々邪魔してるし。いおりさん自身鈍感だから全く気が付かねー」
『フラグ回収中みてぇ』
「それな」
そして思う。俺、三輪と超楽しげにしゃべってんじゃんと。でも復讐心は消えない。それだけ深いのだろうか、俺の復讐心は。
自分で自分がこええ。
.
そして時間とは経つのが早いもので、もう高校二年生の冬。第二次大規模侵攻が終わって少し経っている。
俺はと言えば太刀川に勧誘されて出水、水美と共に太刀川隊へと入れられた。
いおりさんとは一年前にランク戦でご指導ご鞭撻頂いたときにこんなにイケメンがこのボーダーに居たのかと戦慄したのをはっきり覚えている。そして国近柚宇会長が設立したいおりさんファンクラブに入った、あのときの俺はそれはそれは素早かった。と出水は語る。
第二次大規模侵攻で尊敬すべきいおりさんが敵にやられ、入院。だがどうやら二週間後退院したようだ。
新シーズンランク戦終わり、玉狛が諏訪隊や荒船隊に勝った次の日の朝、つまり一昨日の朝だ。風間さんと二人でロビーのソファに座っていたと夜勤明けで自販機の前でたむろしていたらしい出水、水美、太刀川からいおりさんが言っていたと聞いた。くそ、俺も夜勤行けば良かった、是非あの美貌を今すぐ目に納めたい。
あ、やべ。緑川が迅さんに迅さんの舞いを見せている時の気持ち分かるわ、まさか俺第二の緑川……?
相変わらず三輪とはよくやっている、復讐対象なのにこんなに仲良くしていて良いのか? 今度飯行く約束したぞ、三輪のおすすめの店はいつも美味しい。まてまて和むな。
そんなこんなで太刀川隊隊室にて。
『おら太刀川、だらだらすんな沈めるぞ。どーせまだレポート終わってねぇんだろ、ちゃっちゃと終わらせろよ埋めんぞ。俺が手伝ってやっから、やらねぇなら焼くぞこら』
ソファに寝転んで漫画を読むだらしのない我が隊長の腹を蹴り飛ばす。「おっふ!」と腹を抱えてうずくまる太刀川の頭にノートパソコンを叩きつけた。奥の部屋で国近と出水と水美が三人で固まって震え上がって居るが興味なし。怖い顔をしている自覚はある、こればかりは直らん。
「稲葉あのさぁ、もうちょっと隊長を敬えよ、俺の方が歳上なんだぞ。せめて太刀川にさんをつけて」
『知るか。だらしねぇ駄目隊長尊敬してたら俺らが駄目になるわ散らすぞ。尊敬してほしいならそれなりの態度取れよ、身体バラされてぇのかそうなんだなバラすぞ。
確かにてめぇは俺より歳上だがボーダー歴は俺の方が上だ。後輩にさん付けしてどーすんだ、むしろ俺にさん付けろ』
「ゴメンナサイ稲葉さん! 頼むからバラすのはやめろ怖い! のーぱそを頭に叩き付けるのもやめろ! 壊れるし俺がバカになる」
『のーぱそもカタカナで言えねぇ奴はいおりさんと風間さんと忍田さんの三人に遠々説教されるか単位落として留年しろ、てめぇがバカになるんならいくらでも俺がPCで頭ぶっ叩いてやる、骨は出水に拾ってもらえ。あ、イケメンの剣人と出水ー、どっちでも良いからそこにある鉄パイプ取ってー』
「殺す気か! 殺す気なんだなお前!」
実際太刀川用に置いてある鉄パイプを近くにいた出水と水美に要求すれば太刀川は漫画を放り捨て泣き喚きながらレポートに取り組み始めた。よしよし。
.
「稲葉ちゃんすごーい、太刀川さん手懐けてるー」
『へっへへ〜、どーも柚宇さん』
「手懐けてるっつーか脅してる様にも見えたな」
『出水シバくぞてめー』
「あー、あれだな、ヤクザみてぇ!」
『剣人はいけめんだから許す、でももう言うな』
「お前、剣人に甘くねぇ?」
『当たり前だろーが! イケメンじゃんじゃん贔屓するよ俺! 京介とかイケメンだからめっちゃ飯奢ってるよ!』
「お前それ絶対……いや、なんでもねぇわ。じゃ、俺は?」
『限りなく普通寄りのイケメン。イケメンと言えるのかラインぎりぎり。だから贔屓しない、弾バカだし』
「えぇ……そりゃねーだろ相棒」
『埋めんぞ』
太刀川を放り四人で星のカービィのゲームをしながらのんびり会話をする。とりあえず相棒は事実だから良いとして、なんかムカついたから出水蹴っといた。あ、出水落ちた。
「メタナイトーーーー!」
『うるせぇよ』
「協力プレイなんだからちったあ協力しろよお前ら! コンビだろ!」
『だったら俺、剣人とコンビ組みたい。絶対楽、絶対サボれる。初代弾バカより二世代目弾バカの方が話通じるし。時々頭良くて剣人何いってるか分からんけど』
「それな!」
「それな〜」
国近まで乗ってきてわちゃわちゃと会話をする。一段落ついたので太刀川の様子を見に行くべく一旦抜けた。
**
出水side
「……稲葉、太刀川さん見に行ってさ、太刀川さん何もしてなかったら何する気だろうな」
「想像出来ねぇ」
「えー、私は×××して××したあとに××××から××して鉄パイプでぶっ殺すと思うなぁ」
「「柚宇さん伏せ字使わないで」」
稲葉が行ったあとに何をするかと相談すればまさか柚宇さんの口からぶっ殺すと言うあんな物騒な言葉が出てるとは思わなかった。伏せ字使ってるけど下ネタじゃねぇから安心しとけ。
直後『太刀川くそが! 真っ白じゃねえか!』と言う怒鳴り声が響いてきて、「馬鹿すぎて悪かった!」と言う太刀川さんの情けない言葉が聞こえた。
ふと鉄パイプのあった場所を見てみるとあれ、おかしいな。そこにあったはずなのになぁ、無いなぁおかしいなぁ。
『鉄パイプで骨まで潰されてグチャグチャになって肉片になるか脳漿飛び散らせて死ぬか選ばせてやる。わぁ俺超優しい!』
「生きる選択肢をくれ!」
全く持ってその通りである。その後、太刀川さんの悲惨な断末魔が聞こえてきたのは言うまでもない。
.
『米屋』
「おう」
ボーダー提携普通校の2-Bにて。前の席である米屋に俺は声を掛けた。
俺は自身のケータイを米屋に差し出して、メール画面を開く。そこには画面いっぱいが三輪からのメールで埋まっていた。
『……どう思う、部下として』
「こりゃなつかれてんな」
『マッジかよジーザス!!!!!』
「ぶははっ! うるせぇ!」
米屋は付け足して、「前に赤坂はネイバーに殺された双子の妹に似てるって秀次言ってたし」と言った。マジかよ。
眼鏡は外しているものの、髪の色も暗いといっても茶色に変えてるんだぞ。髪型も変えてるんだぞ。
復讐対象になつかれてどうするんだよ俺!
まあ、直接的な復讐はせず、心の中で憎悪を燃やし続けるだけなんだが。
『……米屋あああ! 助けろ俺を! 俺は三輪苦手なんだよ!』
「良いじゃん、秀次がなつくとかホント珍しいんだし」
『うーわ』
マジでか。……でも、妹に似ているならなんで避けないんだ? アイツ俺のこと大嫌いだっただろ? ん? え?
疑問ばかりが募る中、出水の御目見えである。
『うぇい出水! 頼んだもん買ってきたか?』
「おー」
『ありがとうパシリ君』
「くっそあん時グー出さなきゃ良かった!」
出水には昼飯を頼んでいたのだ。実はパシリしようぜと出水が俺に向かって言い出し、じゃんけんした結果出水が負けた。
言い出しっぺが負けるのは御約束だ。
.
今気が付いた。剣人君入れて太刀川隊戦闘員四人だ……どうしよう。
……仕方がない、例外って事で。柚宇さんが戦闘員五人にも指示出来るスキルがあるからって事で。柚宇さんがすごいって事で。
__
ボーダー本部にて。
やばい事に……なった。
「大丈夫か」
『大丈夫ですけど大丈夫じゃねえっす!』
**
事の発端は唯我をぼこぼこにしてブースを出た後の事だった。
「赤坂」
ブースを出てすぐ目の前に立っていた、天羽も敵わないボーダー最強完璧NO.1アタッカーいおりさん。
あれ、デジャヴ? なんて事も考え、目を擦ろうとしたが、目の前のいおりさんの神々しさに目が潰れそうだったので擦るのはやめた。
それにしても。
『どうしたんすか、いおりさん。俺なんかのブースの前で』
「いや、ランク戦を頼もうとな」
『風間さんは……』
「お前だってたまには違うやつともランク戦をしてみたいだろう」
『つまり、飽きたと』
「いや、飽きてなどいない。そもそもあたしが蒼也で飽きる事は天地がひっくり返っても絶対に有り得ない」
『いおりさんもたいがいですね……』
「?」
最後の一言を尻すぼみになって言えばいおりさんは腕を組んで全く表情の読めないポーカーフェイスが張り付けられた顔ごと首を微かにかしげる。流石いおりさん、そんな事でも様になってます! イケメンってずるい!
そこに。
「いおりさーん! レポート手伝ってー!」
奥の方から間抜けた声がいおりさんを呼んだ。途端いおりさんは眉を眉間に寄せ、「……くそが」と微かに呟いた気がした。多分気のせい、いおりさんがそんな事を言う……ときも、有るかもしれないが、気にしない。
その声の主は我が太刀川隊隊長ことボーダー1ダメ男の太刀川慶。あ、いおりさんのくそが発言は気のせいじゃなかったわ。これなら言ってもしかたねぇわ。
「行くぞ赤坂」
『へ』
いおりさんは生身のまま俺を肩に担いで駆け出す。そのまま俺は『えええええ!?』と叫ぶもその叫びは風によって流される、つまりいおりさん俺を抱えててもクソ速い。ホントに生身か。
**
と言う訳である。やっと追ってくる太刀川を撒いて俺は地面へと降ろされた。
うぷ、体が揺れすぎて胃の中がぐるぐるして、
『おええ……』
「やめろ吐くな汚い」
『原因アンタ……』
.
ちょっとした番外編で恋愛的な。時系列は本編と同時進行。
国近side
普通校の三年のある教室での昼休み。私は席に付き、ゲームをしていた。別に友達が少なくてゲームをしている訳じゃない。他の短い休み時間は友達と楽しくお喋りしたり遊んだりする。
だけど昼休みはゲームをしたくて、友人も了承済みとして行っている。今はPSPでの超ハイスピード推理ゲーム、【ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生】をプレイ。
最近手に入れたのだが、凄く面白い、グラフィックもキャラクターもとても綺麗だ。
あらましは高校一年生の主人公、苗木 誠君が、『国立希望ヶ峰学園』に毎年平均的高校生から抽選で選ばれる超高校級の幸運として入学する所から始まる。
苗木が希望の学園に一歩足を踏み出した途端目眩に襲われ、目覚めたら完全に外と隔離されてる、希望ヶ峰学園校内と宿舎に閉じ込められる。
そこから出れる方法はひとつだけ、人が人を殺すこと。次々と起こる殺人事件と学園の謎を解いていくと言う興味深いゲーム。
私が意気揚々と第三の事件に挑もうとしたときだった。
「また国近ゲームしてる!」
「マジか、キモい」
「ゲーマーかよ」
席のずっと前、教卓から男子の声がそう聞こえる。終いにはゲームを見てないのに「きっと乙女ゲームだ!」と騒ぐ。
見てないのにそんなの言わないで欲しい。だが口は開かず、頑なに唇を噛み締めるだけ。こんなことを学校で言える度胸は私はそれほど持っていない。とにかく早く本部に行きたい。ゲート、開かないかな。
周りがひそひそと私と相手側を見て何かを話す、気分が悪い。
そんなとき、がらりと扉が開いて「うぇーい!」とか叫びながら誰かがその教卓に居た男子グループのリーダーみたいな人に飛び蹴りを咬ました。
『俺も混ぜてやー! って何倒れとんお前ー』
「てめぇが蹴ったんだろーが梅樹!」
『知らん、身に覚えがないわー。やめられない止まらない』
「いきなりかっぱえびせんかよ!」
『んー? っちゅーていやいやー、お前ら、国近ちゃんがカワエエからってそんなこと言っちゃ駄目やろー、好きな子に構いたくなるんはわかるけどー』
「っ、ちげーわ!」
語尾を伸ばす癖がある神戸弁の黒髪の青年は宮路 梅樹(みやじ うめき)。髪型はテニプリの仁王雅治の如くだ、黒髪だけど。
彼はボーダーがスカウトした我が本部の天才エンジニアである。元々機械をイジるのが好きだったらしく、快くスカウトされてくれた、と根付さんと鬼怒田さんからとても好評されていた爽やかイケメンだ。
彼はワザとか否か、私から話題を逸らし、あろうことか逆にその男子をからかい始め、周りもそれに乗っかった。友達の多い宮路はクラスの中心である。
放課後になり、結局今日はゲートは……開いたものの、別の隊が向かったらしく、出動は無かった。ぷぅ、と頬を膨らまして机に突っ伏して居ると、『お、国近ちゃんやー』と宮路が昼休みと同じ様に再びがらりと扉を開けた。私は机に突っ伏したまま名前を呼ぶ。
「みゃーじ」
みゃーじとは宮路のニックネームである、クラスはもちろん先生達もみゃーじだ。ボーダーでもほとんどもだ。公用語となっている。
宮路は私の様子を見て、『なんやすまんなー』と謝る。恐らく昼休みの事を言っているのだろう。
「別にみゃーじが悪い訳じゃないよー」
『でもなー、俺のグループのしでかしたことやからなー。国近ちゃんはキモないからなー? 俺もやからー』
「みゃーじも?」
『多分国近ちゃん程ちゃう思うけどなぁ』
「へぇ〜」
『国近ちゃんは人より数倍かわええからなー?』
その言葉と同時にみゃーじを見ると相変わらずいつも通りの爽やかな笑顔を浮かべていた。私が見つめていたのに気が付いたのか、『?』と首をかしげるみゃーじはずるい。不意と反対側を見て突っ伏す。
『俺もう本部行くけど一緒に行くか?』
「……んー、もうちょっとここに居るー」
『さよかー。じゃあ本部でなー』
みゃーじが教室を出ていったのを確認すると、私は体を起こした。そして手の甲を頬に当てる。熱い。頬が熱い。
こんなに優しい君を好きにならない訳がない。国近柚宇、たった今初恋をしました。
.
本編。
稲葉side
どうにも最近国近の挙動がおかしい。有るときは憂いの表情をしてハアと溜め息をつき、いきなり壁に頭をぶつけたりと少し恐怖だ。
今も作戦室でゲームもせずに机に突っ伏している。俺は出水と顔を見合わせ、歩み寄る。
『どしたの柚宇さん、ゲームしねーの?』
「俺新作持ってきたんだけどさー、柚宇さんやらねーの?」
「んー……今は良いかなぁ……」
『「(ダメだこりゃ)」』
重度のアレだ。この原因を俺と出水、周りの人間は突き止めていた。と言うより、周知の事実である、本人と相手を除いて。恋煩いと言う言葉は聞いたことがあるだろうか、今の柚宇さんがまさにそれである。
本人も重度の鈍感で、それに気が付かない。と言っても柚宇さんは、風間さんがいおりさんにしたみたくぐいぐいとアピールしているわけではないのだが。
遠目から見つめ、話かれられれば顔を微かに赤く染めて話を続ける。なんとも女の子に有りがちな感じの類い。
だがしかし、御相手の『宮路 梅樹』先輩は爽やか系イケメンであり、女子の競争率は……そうだな、進学校に通う奈良坂にも匹敵する。
遠目に見つめるだけじゃ取られるぞ柚宇さん!
と言うわけで発足したのが『国近柚宇の恋を応援し隊』と言う同盟。
メンバーはとりあえずコレを知っている上層部以外だ。風間さんが乗ってくれるとは思わなかった。風間さんは「……なぜかわかるんだ」と心なしか疲れた顔をしながらそういった。確かに、風間さんは好意を抱いてから14年ちょいと言う長い初恋だ。最近いおりさんと付き合い始めたとの噂、良かったですね風間さん。
三輪も乗るとは思っておらず『……マジでか?』と思わず失礼にも二度見三度見してしまった。三輪は理由は話してはくれなかったが、自分の恋が成就しなかった苦さを他人に味わってほしないのだろう。流石元兄、優しい。だが復讐心はじくじくとお前をなぶり殺しているビジョンしか無い。そしてここでも伺えるいおりさんの人気の高さ。
『んでさー、出水ちゃん』
「ちゃん付けすんなっつの」
『あれはなんだ』
「知らね」
『……バイクの鍵、ポケットのどこ入れたっけ……』
「やめろ! マジで!」
前方から走ってくる俺達と同じ隊服を着たもじゃもじゃ頭。
『……チャッアームーポーイーンートはーアーゴー髭とー鉄格子のーお目ー目ー』
「ぶっ!」
まてまて、テニプリの某俺様キングの『チャームポイントは泣きボクロ』の替え歌を即興でやっちゃったよ。てか出水吹くなよきたねーな笑うんじゃねー。
前から俺達を目指して全力疾走してくんのは我が隊隊長の太刀川である。
どうせ「レポート手伝って」とかの類いだ。
「お前らあああああ! レポート手伝ってくれえええ!」
ほら見ろ。
『太刀川と鬼ごっこだ。捕まんねーように逃げねーとな』
「おう」
『行くぜ出水』
「っしゃあ!」
途端俺達二人は駆け出した。
その後うまく太刀川を誘導し、いおりさんと風間さんの元まで案内し、説教される太刀川を見て爆笑する俺達二人であった。
.
お久〜!テストで来れなかった!
太刀川さんww
おおお、久しぶりー! テストお疲れさん!
いおりさんと風間さんをちょいちょい出しつつ剣人君を愛でて新連載開始してるよー。
双子の兄の三輪を憎む妹ちゃんが名字を変えて髪型を変えて太刀川隊で柚宇さんの恋を応援するお話。
またそっちにも遊びにいくねー。
これまた番外編。
いおりside
最近、
「いおり」
『あ、蒼也』
風間があたしにべったり、な気がする。
本当に気のせいかも知れないし、あたしの自意識過剰かもしれない。
原作の風間蒼也はこんなに人と共に行動していた様な人だっただろうか。いや、別にあたし的には風間と居れて万々歳なのだが。あたしが風間への気持ちを自覚してからと言うもの、なんかもう心の中じゃ歯止めが聞かなくなってきている。頭の中が蒼也ばっかりで顔が無表情とか自分でもちょっとビビる。あたしはポーカーフェイスが得意になったらしい。嬉しい限りである。
「昼飯はどうするんだ」
『漫画が溜まってるから気晴らしにラウンジで描きながら食うことにする』
「なら部屋に荷物を取りに行くのか」
『ああ』
「席を取って待っている、来たら探せ」
『了解』
一旦はそこで別れ、借りている部屋に駆け込む。どうやら赤坂は居ないようだ。
……赤坂についてだが、原作にあんなキャラクター居ただろうか。剣人はよしとして、赤坂が入って太刀川隊の戦闘員は五人、オペレーター一人の計六人。規定の人数を越えている。そこは上が特例を出したと見てまちがいないだろう。
ただ、赤坂稲葉の雰囲気が、どうにも三輪秀次と被る。顔立ちや、細かなクセが。確か三輪には双子の妹が居たと本人から聞いたことがある。原作はどうだかそんな細かいことは詳しく覚えていない。
三輪は亡き妹が今は好きらしいが、妹が死ぬ直前、とんでもなくひどい事をいったと言う。それは三輪の姉が死んだ直後だったらしく、気が動転したのだろう。三輪も恐らく後悔しているだろう。
だが、あたしにはどうも、その妹が本当に死んだのか疑問なのだ。遺体は目も当てられない状態だと言うし、それは誰か分からず、三輪の証言で妹と言うことになっているが。
……気にしすぎか。
そそくさと机へ向かい、道具一式を持って部屋を出る。
……あ、蒼也に連絡入れないと。
.
剣人side
俺達太刀川隊戦闘員がラウンジに来てみれば、偶然向かい合って座っているいおりさんと風間さんを発見。どうやら昼食を取りながらいおりさんは今月号の原稿を書き上げているらしい。
太刀川さんが定食の乗ったトレーを持ちながら「いおりさん、風間さん。ここいい?」と笑顔で入っていく。空気読めよ太刀川さん! 風間さんキレんぞ! 隣の出水も青い顔してるって! 赤坂の笑顔が怖い! オーラがヤバイよ太刀川さん!
「……太刀川」
「太刀川か、邪魔になるからあっちに行け」
風間さんが太刀川さんの名前を呼べばいおりさんが原稿から目を離さずに一蹴した。相変わらず太刀川さんに辛辣ないおりさんは太刀川さんに恨みでもあるのだろうか。そしていおりさんの言葉を聞いて微かに勝ち誇ったような顔をする風間さん。大人げない。
だがしかし、諦めずに笑顔で「いいじゃんいいじゃん」と同席を強請う太刀川さん。俺が止めるかな、なんて考えて声を掛けようとしたその時。
『おらクソ太刀川、風間さんといおりさん困ってんだろ埋めんぞ』
赤坂がラーメンの乗ったトレーを手に持ってそう言い、太刀川さんの背に思いきり正面蹴りを食らわせた。それに出水も同調し、「そうですよ太刀川さん」と呆れた声を出す。
「なにすんだ赤坂! 飯溢すだろ!」
『るせぇ太刀川、邪魔だっつってんだよクソが吊るすぞ。飯こぼして金をドブに捨てちまえ、ざまぁ』
「俺はお前の上司だぞ!?」
『年季の要りは俺の方が上だろーが、もっと先輩を敬え! そして平れ伏せ!』
赤坂はトレーを右手で持ちながら左手の親指を立てて下に向け、右から左へとサッと動かした。死んでしまえの合図である。相変わらずコイツの太刀川さんへの当たりは誰から見ても酷いものだ。俺がそんなことされたらハートブレイクされて引きこもりになる、ぜってーなる。
相変わらず女とは思えないぐらいの男口調に苦笑いしながら、赤坂が太刀川さんの足をげしげしと蹴りつける様を眺めた。
そしてその目の前で二人して無表情でそれを見つめる席に座った風間さんといおりさんはシュール過ぎる。
「で、でみずいずみ君や。赤坂は太刀川さんと良い感じに見えますがどう思いますか」
くるりと振り向いて先程から喋らない出水に声を掛ける。出水は「誰だよでみずいずみ」と頬をひきつらせて俺を睨む。
「……別に何も思わねーよ」
「はあ? そのうち三輪に取られんぞ」
「やめろ剣人! 自信が無くなる!」
「でも三輪、結構赤坂に本気だかんな? どうにも亡くなった妹に似てるとか言ってたぜ」
「……妹に似た人を恋愛対象として見てるとか、三輪……」
「お前も柚宇さんもどっこいどっこいだな」
「マジかよ」
ボーダーはリア充ばっかかこのやろー!
.
三輪side
赤坂稲葉は、俺の片割れの三輪稲葉にとてもよく似ていた。
違うところと言えば雰囲気と髪型と喋り方、性格だ。顔立ちがそっくりで、何度稲葉と呼びそうになったことかと苦労する。
アイツが死ぬ前は性格と雰囲気が暗かった。アイツが死ぬ前は髪が腰ほどまであった。
世界にはそっくりな奴が三人はいると言われている。ならこの世界の多大に存在する人々の中の三人の一人が、これほど近くにいたと言うことだ。
アイツに死ぬ前に殴るように叫んだ言葉が頭から離れない。「お前が死んでしまえば良かったんだ」と。後悔と自分への憎悪しかない。
だから、今回は死なせない。
「_次__秀次?」
「っ、なんだ、来てたのか陽介」
「おう。ってかさ、お前にしては珍しいな。ボーッとするとか」
隣のクラスからやって来て廊下側の窓から顔を覗かせた陽介が俺の顔を覗き込む。神なんて信じていないが居るのならば俺はアンタを呪う。なんで俺を窓際の席にしたんだ。そのせいで陽介と出水がノートを借りに来るじゃないか。
「しゅーうーじ! ノート貸ーして!」
「嫌だ」
陽介は俺の断りの言葉を聞くと頬を膨らませた。男がやっても別にかわいくもなんともない。ただ虚しいだけと知れ。
「なら赤坂に借りよ」
「ほら」
赤坂に借りるなど言語道断、それなら俺のノートを貸した方がマシだ。赤坂の物に触らせるか。
俺は陽介にノートを投げ渡して窓をぴしゃんと閉めた。鍵を掛けることも忘れずに。陽介は「しゅーじ開けろって!」と窓をガタガタと揺らすが知ったことか、早く教室に帰れ。
.
アニオリ沿い:赤坂side
今日は隣町に出来たタマガタワーに古寺、米屋、三輪(主に三輪)にやや強引に連れられてやって来た。どうやら米屋のレポートの件で、歴史の展示を見に来たらしい。
くそっ、奈良坂め……なんで断った……! お前のせいで俺拉致られただろーが。奈良坂が上手いこと誘いを交わしたらしくそれの代役として白羽の矢が立ったのが俺だ。ホントなんてことしやがる。くっ。
悪態をつきながらあれよあれよとやって来たフードコート。あろうことか四人席に座り、あまつさえ米屋が古寺の隣に座りやがった。そして空いた三輪の隣の空席を三輪が座れと催促してくる。もうやだなんか仕組まれてる気がする。(後に米屋によって仕組まれていたことが判明する)
復讐対象の隣に座るとか、もうコイツをグチャグチャに殺す未来しか見えない。俺のサイドエフェクトがそういっている。
しかも! 最近新型のネイバー、トリオン兵が頻繁に出没していると言われるのだ。なんてこったこんなことしている暇は無い。
それを理由に連れていかれていた直後に本部で喚いていればいおりさんと迅さん姉弟が見計らった様に現れ二人とも口を揃えて「赤坂も行った方が良い」と言われてしまった。
いきなりの迅さんの登場に三輪が顔をしかめてグルルと効果音が付きそうなほど、迅さん弟のみを敵視していた。三輪もいおりさん大好き人間である。
そしてなんてこった。迅さん一人なら言うことなんて聞かなかったのに、女神を連れてくるとは何事だ、いおりさん眼鏡で隠れてるけど隈出来てるよ漫画で疲れてるんだよ休ませてあげて! 卑怯にも程がある。いおりさんを出されたら断るどころか従順になること知ってるだろ!
その時も「いおりさんが言うなら喜んで行ってきます!」って返事したよ俺!
とにもかくにも、二人が言うんだから何か起こるんだろう。用心しておこう。
とりあえず、正面の米屋の脛を席につきながら蹴り飛ばし、俺の隣でカレーを頬張る三輪を気が付かれないように睨んだ。
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またまた番外編【柚宇さんシリーズ】時系列は三輪達がタマガタワーに居るとき。
**
「太刀川さんのばか〜」
エンジニアが居る開発室へと続く廊下で、国近は段ボールを片手にぷくっと頬を膨らませて踵を鳴らしながらそう呟いた。
彼女は普段ここは通らない。ここを歩いていてるのには理由があり、ボーダーでもトップのダメンズ、太刀川慶のせいだ。どうにもエンジニアに提出予定のカスタマイズ資料を出し忘れていたようで、「ランク戦してくる! 頼んだぞ国近」と真夏のカブトムシを探す少年のように隊室を飛び出して行ったのだ。
心優しい国近は甘んじてそれを了承し、迅の姉であり、風間の彼女の(風間隊に入るかもしれないと噂が立っている)いおりが太刀川隊にいた頃から存在する(餅を焼く用の)七輪を蹴飛ばして壊すだけにしてあげたのだ。それだけで収まるとは、なんと心優しい。
「太刀川さんに今度ゲーム買ってもらおー」
のんきに微笑み、失礼しまーす。と開発室の扉を開ける。ざわざわとあちらこちらで話し合いを行っていて煩いわりかし広い開発室を一望し、担当さんへと段ボールを渡した。これで国近の任務は完了である。(のちにそれが太刀川の取り寄せた特産の餅と言うことが判明し、開発室の皆さんが差し入れと勘違いして美味しくいただいた。太刀川さんは自分で資料を持ってきた)
さて隊室に戻って水美とゲームしようかな、なんて思って踵を返したのだが、「よし。宮路、お前一昨日から徹夜してたろ、休んでこい」『えーっ! 全然眠ないで!? 俺はまだやれるんやで!?』「お前一昨日からなんも喰ってねーだろーが。あと上司に敬語を使え」と会話が聞こえてきて、向こうからふてくされた宮路がとぼとぼ歩いてきたのだ。
身長185cmの長身はいつも通り目立つが、研究用白衣と相まっていつもよりイケメン度が大幅アップしている気がする。
「みゃーじー!」
『おー? おお! 国近ちゃんやー』
「今からご飯なのかね〜?」
『せやねんなー』
「一緒にいこー!」
『うぇーい』
.
いおりside
数日前、米屋や赤坂、三輪、古寺が訪れたタマガタワーで大規模な戦闘が行われた。未来はもちろん、アニメも見ていたのでこうなることは分かっていた。
今までの大二次大規模侵攻の時のキャラクターの台詞はコミックスと変わりは無く、コミックス通りの台詞を喋っていた、一字一句間違えず。これはちゃんと覚えている、台詞を覚えていたから。
だからこうなることも分かっていた。
夜、あたしたちはボーダーに緊急収集を掛けられ、集まったのだがどうも四塚市の遊園地で敵側が同じくしてやって来たゼノ、リリスを含めた三雲達を閉じ込めたようだ。遊園地全域を使って。ここまで来たか、と瞼を閉じる。恐らくそこには玉狛第一と出水、米屋、古寺がいるはずだ。その壁のようなもので囲まれた遊園地の外に。
それと同時に周りに大量の新型ネイバーが出現、B級以上が狩り出された。
ヘリに乗っているあたしはドア付近でアタシも連れていってくださいと言っていた夏目に待機していろと命令を出しているところだ。いやしかし、ここに赤坂の姿は見受けられない。はて、どこにいるのだろうか。
話を終え、あたしの横に座った風間に聞く。
『蒼也、赤坂はどこにいる』
「……赤坂は出水達と居るらしい」
『は。そんな未来は視ていないぞ』
「……どういうことだ」
『あたしが聞きたい、一体どうなっているんだ』
.
補足
ここで書いている原作沿いは完全にコミックスと同じ台詞を喋らせています。ちょくちょくいおりさん出現し、台詞を取られたり、ランク戦は他のキャラクター視点で捏造して書いていますが、原作沿いを書いている人は台詞と流れのみ参考にしていただければ幸いです。
いおりside
さて、新型が出てきたりゼノやリリスの出てきた怒涛の一週間があっという間に過ぎていき、明日は三雲隊の上位戦だ! なんて結果は知っているけど、解説で呼ばれているあたしは微量ながら奮起していたのだが。
目の前でやけに真剣な表情をしている風間へと視線を向ける。
『……もう一度言え、蒼也』
頼むから冗談であってくれと内心思いながら風間に告げる。
ここはあたしの部屋。どういうわけか赤坂とは別室になったわけで、今この部屋に居るのはあたしと風間のみ。
風間は変わらない表情で先程と同じ言葉を紡ぐ。
「抱かせろ」
『抱いてくれの間違いじゃねえのか』
いやはや、しょっぱなから下品な事で申し訳無い。些か雑になって本来の喋り方が飛び出て来てしまったが、割愛してほしい。
目の前で腕組みして平然とする風間を見つめる。先程のあたしの発言で気を悪くしたようだ。いやだって身長さほぼ12cm差ぐふっ!
思考を読み取ったのか腹部に強烈な正拳突きをかまされた。たまらず風間の肩に手を置いて腹を抱える。
『……そ、うや……なに、をする……』
「お前今失礼なこと考えなかったか」
『……悪い……身長差が約12センぐっ!』
嘘をつけばぶっ殺されると思ったあたしは素直に思ったことを言ったのに綺麗な上段右回し蹴りを頂いた。なにこいつ。型、超綺麗なんだけど。少林寺拳法でもやってたのかよ……。少林寺拳法って形重視だよなぁ、威力もそこそこあるし……空手は威力第一だけどさあ。そもそも彼女ばきばき殴る蹴るする彼氏ってどうよ、未来の嫁さn……違った旦那さんだった。これは素直に悪かった。
『とりあえず、なんで今なんだ』
「俺がお前とヤりたくなったからに決まってるだろうが」
『字が違うだろ』
「合っている」
『えぇ……そんな決まり知らないんだが蒼也』
「……」
『いや、そんなを顔するなよ』
「……」
『やめろ』
「……」
『やめろ』
しぶしぶと言ったように引き下がった風間にほっとし、可愛くなって子供の様に頭を撫でくり回した。結果顎に頭突きを喰らった。
嘘だろいってぇ……。
.
いおりさんside
『あ¨?』
「え」
……なぜあたしが目の前に居るんだ。
待て待て、皆さんに経緯を話そう。事は30分前へと遡る。
**
今日は久々に太刀川隊の隊室へと様子を見に来ていた。なぜか太刀川が部屋の隅でうずくまっていたのを出水と水美に聞けばどうやら以前国近に提出忘れの資料を運んでおいてくれと言った際、国近の気分を害してしまったらしく、あたしがまだ太刀川隊にいた頃A級昇格祝いでやった七輪を割られたそうだ。そしてそのまま一週間このままだと言う。なんてめんどくさい男なんだ太刀川慶。
「おら太刀川、いおりさんきてくださってんだぞいつまでもメソメソしてねぇでシャンとしろだらしねぇ飛ばすぞ。」
「何を飛ばすの赤坂!?」
「……辞書?」
「殺す気満々!?」
「いちいちうるせえよトリガーホルダー叩き割るぞ。ついでに大学の課題とレポートもしろ埋めんぞくそが」
「赤坂なにいおりさんの前で余計なこと……!」
『……よし来た任せろ赤坂。後で太刀川を蒼也とシバく』
無表情で親指をたてれば出水が「いおりさんサイコー!」と爆笑し出す。とりあえず出水にはそこにあったゲームのコントローラーをぶん投げた。
『次は風間隊に顔を出す予定なんだ。後でまた来る』
「ホント風間さんといおりさん仲良いですね」
『……そうか? 普通じゃないのか?(ったりめーだろ。なに言ってんだ蒼也マジ天使だぞなめてんのか轢くぞ出水! そりゃ今にでも襲って犯してぇわ! 紅潮した蒼也の顔拝みてぇわ! 恍惚としてぇわ! それをなけなしの理性をかき集めて必死に押さえてんだよ分かれよボケカス! てめぇらみてぇな思春期じゃねんだよくそが! ああもうもどかしいなオイ!)』
「……なぁ出水、俺今いおりさんの副音声聞こえた気がしたんだけど」
「そうだな剣人、なんかいつものいおりさんじゃないような……」
『お前達、なにを言ってるんだ? ?』
その頃の風間。
「っくしゅ!」
「大丈夫ですか? 風間さん?」
「……ああ、悪い歌川」
「やめてくださいよ風間さん、今からいおりさん来るのに」
「そうだな菊地原」
「あ、私ちょっと見てきますね」
「頼んだぞ三上」
そして太刀川隊隊室から出たあたしは早く行かねばと駆け出して曲がり角であたしの様子を見に来た三上と遭遇。
三上も走っていたので正面衝突、人格が入れ替わって今に至るのだ。
.
なんやかんやで二人はもとに戻った。ww
オリジナルで話を書く。ここから稲葉ちゃんメイン。いおりさんシリアスになる。
稲葉side
嫌な予感がする。こう、胸のうちを抉られるような、尊敬する人のばれたくない秘密がバレる様な。
「稲葉?」
「どした?」
教室の昼休みにて、嫌な予感がすることについて悩んでいれば出水と米屋に声を掛けられ我に返る。
もくもくと二人して惣菜パンを頬張っているのを見て笑ってなんでもねぇと返す。
『ただ、嫌な予感がしてさ……』
「やめろよ稲葉! こええ!」
「お前の予感は当たるからな!? 自覚しろよ!?」
二人して騒ぎ出すものだからその場しのぎで気のせいかもなー、とぼやかす。気のせいではないのは、確かなんだが。
『当たらなきゃ、良いんだがなぁ』
そう呟いた途端だ。遠くでウゥーと唸るような警報が鳴り、何事かと目を見開く。
『なんだろな?』
「ゲートはひとつだけっぽいからなあ」
「いつも通りトリオン兵じゃね? 人型ネイバーってことはねぇだろ」
『そうだといいんだけどなあ』
その時は気にも止めず、昼食を再開。だがしばらくしてボーダー支給のスマホがバイブレーションで震え出す。三人一斉に、だ。
『こちら普通校2-B組、本部。どうしました!?』
<A級全員出動命令だ! 先程開いたゲートから人型ネイバーが現れた! 現在二宮隊の二宮と鈴鳴第一の村上がベイルアウトした!>
これは、ヤバイ。
考える暇もなく三人でトリガーを起動しトリオン体へと変換する。やって来た担任に『ボーダー緊急出動命令が出たんで午後は出ません!』とだけ告げて教室の窓から三人で飛び出して目的地へ向かう。
胸騒ぎというなの嫌な予感は益々増してきた。
.
稲葉side
「赤坂の嫌な予感は的中、ってか?」
『多分ちげぇ。胸騒ぎは大きくなるばっかだし、これじゃねえ』
俺と出水は米屋と別れて水美を拾いに向かっていた。この三人が揃わないとやっぱナリじゃないって言うか。
屋根の上を掛けていれば同じように走っていた水美と遭遇。どうやら同じことを考えていたようだ。
「ヤバそうだなコレ!」
『嬉しそうな顔すんじゃねえ水美、これはホントにやべー』
今はヤバイとしか言えないが、ホントにヤバイ。何かが壊れそうだ。
俺の……いや、あたしの秘密がバレるまであと___5400秒。
.
『っ!!』
場に到着してから三人での得意な戦闘に入ったのだが、相手があまりにも強すぎる。刀のような黒い刃物、恐らく黒トリガーと思われるもので俺は吹き飛ばされた。いや、弧月で受け太刀をしたから左腕を無くした程度で助かった。
吹き飛ばされてそのままバックのビルにぶつかり勢いで壁が破壊。瓦礫が降ってきて弧月を使いながらかわす。
<赤坂!>
<大丈夫か稲葉!?>
『大丈夫だ出水。結構ぎりぎりでな。でも左腕無くしちまった。援護頼むわ! 二人とも』
<任せろ! 剣人行くぞ!>
<おう! っていうか太刀川さんまだかよ!>
『これが終わったらまず隊室の太刀川さんの餅含めた私物轢く』
<<手伝うぜ>>
そこからグラスホッパーを駆使して相手に接近して旋空からの幻踊。黒トリガーを狙ったのだがあっさりかわされた。
「視線が丸見えだよ、赤坂稲葉ちゃん」
『……!? なんでてめぇが名前しってんだよ!』
「そりゃあ、見てたからね。ずっと、ずぅっと__」
人型ネイバーが俺にそういったあとにやりとわざとらしく口角を吊り上げた。途端ゾッとした冷たい空気に襲われ本能的に腰を低くして弧月を構える。
「……なんだっけ? 君がボーダーに入った理由」
『うるせぇ! てめえにゃ関係ねぇだろくそネイバー!』
「ふふっ。僕は君のことなら何でも知ってるよ、あれだよね? 自分に姉の代わりに死んでしまえば良かったと言った兄弟への……いや」
『うるせえっつってんのが聞こえねぇのか! 黙れよ埋めるぞ!』
コイツ、どこまで知ってんだ? 何を知ってて何が知らないんだ? 嫌だ、やめろ。知ったような素振りをしないでくれ。
「ネイバーじゃない、同じ人間への復讐か」
コイツがそれを言い終える前に、俺は首を掴まれた。物凄い力で。吸肺気管が圧迫されて、息が……!
あー、ヤーベェ。
.
途端、ずどんとソイツの腕が切り落とされ、俺の体も重力に逆らわずどさりと落ちる。ざかざかとわざと足を鳴らしてやって来る四つの足音に目を向ければ。
『しゅ……三輪……』
その先頭には我が憎き兄、三輪秀次。その後ろに出水と水美。一番後ろにはとてつもないオーラを放ついおりさんの姿があった。恐らくコイツの腕を斬り落としたのは三輪だ。だって弧月抜刀してるし。有難いが、嫌だ、来るな。こいつは俺の過去を知ってる、絶対バラす、三輪にだけは、嫌だ!
咄嗟に立ち上がり弧月を構え直す。冷や汗がたらりと背中を辿った。それと同時に目の前の人型ネイバーがくすりと笑う。
やめろ、喋るな喋るな喋るな喋るな喋るな喋るな喋るな喋るな喋るな喋るな!!
「ああ、いおりさんだぁ……」
だが、そいつが口にしたのは俺の事ではなくいおりさんの名前。なぜか恍惚とした表情でふるりと肩を震わせ、自分の抱き締めるように腕を抱いた。それが気持ち悪くて仕方なかった。キモいキモいキモいキモいキモい! 気持ち悪い!
血の気がサッと引くのが分かった。だがしかし、いおりさんはピクリとも眉ひとつ動かさず、いつも通りのポーカーフェイスで自身の紅い弧月に手を掛ける。前髪が邪魔で目は見えない。多分この場に風間さんか迅さんがいれば首を獲りに行っただろう。セコム怖い。
「僕は貴方の事なら、何でも知ってるよぉ……! 生まれた時から、生まれる前から! なぜならあなたを愛しているから!」
その言葉にいおりさん以外が首をかしげた。生まれた時から? 生まれる前から? コイツは本当に何を言っているんだ? と言うか愛しているから! って……これが無線で聞こえてりゃ風間さんに心身共にズタズタにされるぞおい。風間さんいおりさん大好きなんだぞ、怖いんだぞ!
「気持ちの悪い事を、言うな!」
今まで黙って聞いていた三輪が目を釣り上がらせて弧月を構えた。左手はバックのハンドガンへと伸びている。やめろ、三輪! 来るな!
人型ネイバーはにこにこしながら「わぁ怒ってる」とにへらと笑う。ゾッとした。三輪を前にこんなに余裕でいれるこいつに。
「ねえ、稲葉ちゃん……! 君の片割れが怒ってるよ……妹の首を圧迫されていたから、お兄さんの秀次君が怒ってるよぉ! ねえ! 三輪稲葉ちゃん!」
『っ!』
言い切った。言い切ったな、コイツ。三輪稲葉と、秀次の前で、言い切ったな、お前。三輪の目が見開かれ、後方の出水と水美が驚きの声をあげている。いおりさんはどこからか知らないが予想がついていたらしく、「やはりか」と小さく呟いた。
.
「ねえ! 今どんな気分だい三輪秀次君! 妹に激似の女の子は本当に君の妹だったんだよ! 死んだと思われていた妹だったんだよ! ねえ!」
その言葉で三輪、秀次がこちらを向いた。まるで嘘だと言っているように、本当なのかと答えを問う様に。
震える唇を必死に動かして、秀次は口を開いた。
「あ、かさか……それは、本当なのか、」
そんな問いには顔を背けることしか出来ない。はーやだやだ、出水とか水美とかも深刻な顔しちゃってさー。
深刻な状況ながら笑って居るのは人型ネイバーのみで、反吐が出そうだ。
「ねえ! 三輪君! どうなの? 妹に騙され続けていた気持ちは! 是非教えてほし「黙れ」
その瞬間足元が割れて、俺の右足ごと人型ネイバーは二つに斬られた。視線を向ければその先には目のハイライトが消えている、と言うことだけが違う、無表情のいおりさんが弧月に手を掛けている所だった。
……え? いつ抜いたの刀。もう鞘に収まってるし……え?
いおりさんは俺の疑問を知ってか知らずか次に進む。
「……はあ。お前さぁ、さっきから聞いてりゃゴチャゴチャゴチャゴチャグチャグチャヌチャヌチャと粘着質にうるせぇんだよド変態野郎。なんなんだよウゼェんだよいい加減にしろよマジぶっ飛ばすぞこれ以上仕事増やしてんじゃねーよ報告書とかさ、意外にめんどくせぇんだわ。どうしてくれんだこの野郎。あー苛つくわー、それこそグチャグチャのヌチャヌチャのズダズダのバキバキにしてやるぞっつーか何でもいいんだけどさ、とりあえずうるせぇから黙ってろよ、そんあとに全力で勝手にしんでろ他に迷惑かけに来んんじゃねーよド底辺野郎吊り上げるぞ」
この長い文章をつらつらつらつらとノンブレスで言い切ったいおりさんは凄いが、口調がどうも……と言うかいつもと全然違う。雰囲気すら別物だ。いつものいおりさんは寡黙かつクールなのに、今はあれだ、何て言うんだっけ……そうだ、なげやりと言うか無気力と言うかめんどくさがってると言うかいつものいおりさんとは架け離れている。いおりさんの本心はこうなのかなと理解し掛けたとき、人型はトリオン体から生身に戻り「ゲーム終了、あーあ、案外速かったなぁ流石いおりさん」と呑気にアクビを咬ました。
それにいおりさんは苛ついたのか知らないが再び溜め息を吐いて頭を掻く。そのあと無表情に戻ってそのネイバーの顔面をブーツの爪先で蹴り飛ばした。えぇ……? 蹴り飛んだよ……。
「てめーの戯言に付き合う気はねえ」
「いったた、流石いおりさん。何事においても完璧で居たいからと演技も完璧だ、本心みたいだ……ぐぷっ」
演技もとソイツがいったあといおりさんは無表情で弧月をそいつの心臓に突き刺した。
「演技もバレるのか……バレると言うのは完璧ではないからか、のちに試行錯誤でもしようか」
ネイバーを殺すことに何の躊躇いもないのか、そのままグチャグチャと弧月を心臓に突き刺したままこねくりまわす。あれ絶対痛いわ……っていうかもう死んでんじゃね? アイツ。動かないし。
.
どうやらあのストーカー染みた男は死んだらしく、一件落着。今回の論功行賞の特級戦功は多分と言うか確定でいおりさんだろう。
さて。男の方は解決したが、俺の方は兄のことが落着していない。ああクソめんどくせえな!
戦い終えて瓦礫ばかりになったこの場で、いおりさんは「ちょっと報告してくる、ついでに回収班も呼んでやるから早く事を済ませろ」と言い通信を繋いでいた。副音声で風間さんの下の名前を連呼していたように思う。いおりさんも大概の風間さん大好き人間だ。
さあ、ちゃっちゃと事を終わらせようか。変換体を解いて目線を送れば、目の前で此方をジッと見つめてくる三輪が口を開いた。
「お前は本当に、稲葉なんだな? 三輪稲葉なんだな?」
『いぇすあいどぅ。正真正銘、俺は三輪双子の片割れの三輪稲葉だよ、もう縁は切ったけどな』
そう言えば三輪はずかずかと歩いてきて俺の肩をがっしりと掴んだ。そしてばっと顔をあげれば目に水の膜を張って今にも泣き出しそうな顔で俺を見つめる。
「俺はお前に、取り返しの、つかない事を言った」
『知ってる』
「それ以前から、冷たく当たっていた」
『知ってるよ』
「居なくなってから、大切さに気が付いた」
『……知ってる』
「お前が俺を憎むのには、正当性がある。でも、」
『……』
ぼろ、そんな効果音が付きそうなくらい大粒の涙を一粒流して、最後の一言を三輪は言いきった。
「もう、いなく、ならないでくれ……。……もう一度、俺の双子で居て、くれ……!」
その言葉に俺、いや、あたしも涙がぶわっと込み上げてきて、二人して地面に座り込んで、声を殺して泣き出した。
「俺に、もう一度、お前を愛する資格をくれ……!」
『……しゅ、じぼけ、ぇ……くそぼけ……!』
それから二人揃ってわんわんと大泣きした。慌てて水美と出水が駆け寄ってきて何も言わず見ていてくれた。
.
Noside
ボーダー本部通路で、いおりは頭を悩ませていた。原因はもちろん今回の件と三輪稲葉のことでだ。
『(原作にはこんなトラブルは絶対に無かった。だって今はB級ランク戦の途中、そんなことあり得ない。ガロプラだってまだなはず。イレギュラーといえば、やはりあたし……。しかし、三輪妹は居ただろうか、原作に。思い出せる限りのBBFには三輪の家族構成は父母姉のみだったはず……。こんな事態、普通はあり得ない。今回の件と言い、見覚えのないキャラクターの件と言い……イレギュラーは、)
やはり、あたしか……』
「なにがだ」
つかつかと通路を考えながら歩いていたからか、背後の気配に気が付かなかった。後ろを振り向けばやはりそこにいたのは風間。怪訝な顔をしていると言う可愛らしいおまけつきだ。
『蒼也……』
「相当考え込んでいる様だないおり。会議室通り越してるぞ」
『……悪い、疲れた』
いおりはそう呟いてトンと風間の肩に額を乗っける。風間が「どうした」と聞けば『諸事情だ』と幾分か疲れの見える声色でいおりはそう返した。やはり、わからない。
『……あたしのサイドエフェクトに、今回の事は引っ掛からなかった』
「なんだと?」
『ああ、こんな事が起こる未来は無かったんだ』
.
「稲葉、戸籍はどうするんだ」
翌日のボーダー、詳しく言えば三輪隊隊室で、隊長である我が兄三輪秀次が和室で正面に座る俺に声を掛ける。
『あー、戸籍はそのままだな。だって一応死んじまったことになってるし』
「……そうか、そうだな」
妙にうっすらとした笑みを讃えた秀次は昔とは比べ物にならないほど雰囲気が丸くなった気がする。以前なんて近寄んなオーラを俺にたいして撒き散らしていたくせに。どうやら俺の大切さに気が付いたようだ。偉い偉い。
『あー、秀次と仲直りしたし、隊でも移動しますかね』
「太刀川隊を抜けるのか?」
『おー。城戸さんに無理言って三輪隊入らせてもらおうかなって。あ、でも月見さん全員分の情報処理大丈夫かな』
「それなら多分大丈夫だ、月見さんだぞ」
『秀次が言うなら大丈夫っぽいな、よしよし。俺三輪隊入るわ、よろしく三輪隊長』
「お前も元三輪だろ」
『俺今赤坂、三輪違う、旧姓』
「片言か、面倒だな」
『うわコイツ双子の片割れに面倒っつった、今コイツ面倒っつった!』
「うるさい黙れ」
『うぃっす』
.
どうも、ごきげんようアポロです。
実は続きを書くか迷っていたのですが、悩みに悩み抜き結局完結ということに致しました。
いやはや、ここまで長かったですよ。そりゃあもう長かった長かった。
と言うわけで、最後に番外編でちまちま書いていた国近さんの続きをのせようと思います。
でわでわ。
国近の続きを書くだのなんだの言って書かなかったアポロです。改名してぜんざいになりました。
発表します!
国近さんのお話は皆さんのご想像にお任せするとして、次のお話は「三輪隊セコムとB級に留まるけだるげ実力派エリート」の話を書こうと思います!
発表は以上!
夢主設定はいおりさんにバンダナをつけてダルそうにした感じです。実力派だけどA級に上がるのがめんどくさいという思考の持ち主です。
やはりイケメソ。いや、イケメンです。
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高二設定で普通校。名前は『明智 伊奈』で。オリジナルキャラクター出てきます。夢主彼氏有。
**
今日も長かった一日の授業が終わり、くあとあくびをする。思い立ったかのようにばっさばっさと女子がするとは思えない程適当に教科書類を鞄に詰め込んでガタリと席を立つ。
出水曰く『死んだ目』をしている私は目のハイライトは無いわ目付きは悪いわ隈は酷いわで近寄る人はあまり居ない。別に寂しいなんて思わない。むしろ静かにしててくれてありがとうと感謝だ。ボーダーの奴等が煩すぎるのだホントに。
まあ、今偶然を装ってやって来た下心丸出しのバカな男子生徒みたいなのは頻繁に現れるからそれこそ存在が煩い。どうせあれだろ、胸だろ。ボンキュボンなんてこと自覚している。自分としては男のような体型が良かった。だって私身長は179cmもあるからもう男でいいような気もする。
「なあ明智、今日暇? 暇だったら一緒に遊びに行かね? 二人で」
同じクラスになってから気になってたんだよねー、と軽い言葉を投げる自称同じクラスの男子生徒を上から冷めた目で見るも、気付く様子はない。面倒だから聞き流そう。
結果、勘違いされた。聞き流しているのを了承と取ったのか知らん事ばかり進め始め、私の手を握る男子生徒。別に行きたくないしこれからボーダーで任務なんだけど、いい加減にしろカス。
そこで、私の親友とも言える同じクラスの男子生徒、真揮が「おいやめろって!」と血相を変えて割り込んできた。と、同時に手が離れたので顔には出さず、ホッとする。
ありがとう真揮、お前のこと大好きだ。
目の前の自称同じクラスの男子生徒はまるで彼女とのやり取りを邪魔されたように不機嫌に顔を歪めた。
心底うざい勘違いクソ男だ。真揮に謝れ、愛しいまきまきに謝れ!!!
「おい暁、邪魔すんなよな。興が削がれるしさー、今俺明智と予定話をしてんの。余計なことすんなって」
「いやいやー、やめた方が良いぜ。伊奈に手ぇ出すの」
「明智と俺の間にお前が手ぇ出すのやめろよ、マジで」
面倒になってカバンを肩にかけて歩き出そうとすると男子生徒は私が「早く行こう」と急かしているように見えたのか、気持ちの悪い笑みを浮かべ、真揮こと暁 真揮から視線をそらしてそれでさぁと手を繋がれる。そのまま歩き出す男子生徒に嫌気が差した。手を振りほどこうかと思ったその時、繋いだ手の上からチョップが飛んできたのだ。
あ。
「お前、なにしてる」
三輪隊長が降臨なされた。いや、まあクラス一緒だからそりゃそうなるよね。隊長は今まで米屋や出水のいる二組に居たそうですハイ。
.
【セコム】友人が助けてくれた【キタコレ】
1:知りたい名無し
なんだこのスレ
2:知りたい名無し
釣り?
3:知らせたい名無し
すまねえ事実だ
4:知りたい名無し
おっ。スレ主か!! とりあえずコテハンとスペック頼むわ!
5:知りたい名無し
頼むわ!
6:明智
了解!( `∀´ゝ
明智←これ私
ボーダー所属のしがない隊員。尊敬してる人はみんな知ってる迅 いおりさん。なんか周りからボーッとしてるって言われる。
要らんセコムがいる。喧嘩上等!
大事な友人
真 前髪の半分を赤いピンで止めている男子生徒。茶髪がさらっさらで髪がはねまくっている。人なつっこくてイケメンの癖にムカつかない可愛い奴。空気が読める(
彼氏
隠 髪の毛もふもふしてる男子生徒。イケメンで泣き黒子。ボーダーのとある隊に所属。通常『機動型スナイパー』関西弁。
セコムども。
三 目の下の隈が酷い。お姉さんをネイバーに殺されて復讐心を燃やす。目付きが悪すぎる。とある隊の隊長。イケメン。
奈良 キノコ頭のキノコ派を装うたけのこ王子。凄腕スナイパー。これまたイケメンだからむかつく。
米 カチューシャをしている死んだ魚の目をしている首狙いから最近は足狙いの槍使い。飲み物が好き。お魚ジュースを飲んでいるところをよく見る。三馬鹿のうちの一人、槍バカ。
出 金髪で分けた前髪をわざわざ目にぶっこんでいる。ボーダーのとある隊で感覚でシューターをやっている天才肌。エビフライが好き。三馬鹿のうちの一人、弾バカ。
7:知りたい名無し
ぼ、ボーダー所属だと!? もしかして同じ学校か!? いつも守ってくれてありがとう!
8:知りたい名無し
えっ、>>7学校一緒かもしれないのか!?
9:知りたい名無し
羨ましいなおい!
10:知りたい名無し
もしかして知ってたりする!?
11:知りたい名無し
羨ましいわねこの!
12:明智
聞けや
13:知りたい名無し
14:知りたい名無し
15:知りたい名無し
16:知りたい名無し
17:知りたい名無し
18:知りたい名無し
こ、KOEEEEEEEEEE!!
19:知りたい名無し
ごっ、ごめんなさい!! 怒らないで!
20:明智
ならよし。今現在進行形で要らんセコムVS自称同級生の攻防戦が目の前で行われているわけだが……。
知りたい人ーーー!!
21:知りたい名無し
はーい∀´/
22:知りたい名無し
はーい∀´/
23:知りたい名無し
早くしろよ、寒いだろ
24:知りたい名無し
うるせえ変態。これでも着てろ。
ゝコート
25:知りたい名無し
ゝブーツ
26:知りたい名無し
ゝ帽子
27:知りたい名無し
変態じゃねーかwwwww
28:明智
経緯はこうだ! どどぉーん
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2chで経緯を話し、結果も伝える。勝者は三輪である。「明智は今日ボーダー防衛任務だ、余計なことをするな、邪魔だ」と切り捨てた。わぁこわぁい。2ch内でも容赦ねー! とかこわーいと似たような反応が。
そこでやって来たのが三輪の双子の妹である稲葉ちゃん。
「おう? 秀次なにしてんだ? 伊奈ちんも、早くいこうぜー」
私と三輪の首根っこを掴んてずるずると引きずっていく稲葉ちゃんの腕力に感服。三輪は三輪で「……自分で歩ける」と手を振りほどき、隣を完全キープしていた、出水が「!!」と反応していたのが見える。まあ、あれだ、出水は稲葉ちゃんに惚れているのさ。ふっ。
すると隣からぴょいと顔を覗かせた人物が。真輝である。
「無事かー? お前も大変だなー、三輪隊その他のセコムに囲まれて」
『マジそれな』
「あっ、てか知ってた? いおりさん近々風間さんと籍入れるらしいぜ」
『え、マジ!?』
「マジマジ、みかたん情報だし」
『彼女が風間隊だと情報はえーな』
「ふへへー、みかみかは天使だな、大天使歌歩エル」
『ミカエルみてえに言うなよ』
.
突然の長編。【WT×FA】書きます! マスタング大佐がワートリにトリップします。
**
瞼がやけに重たかった。いつから寝てしまっていたのか、確か溜まりに溜まった書類を中尉に押し付けられ、泣く泣く片していたはずだ。ホムンクルスとの大戦から半年、私は准将として我が右腕を振るっていた。国家錬金術師としての資格もあと数年で取り消されるだろう、その時私はどうなるのかと未来に頭を抱えていた。のに。
重たい瞼を開き、むくりと上体を起き上がらせると、視界には淡く光る刀身の刀を持つものや、銃を構えるものが居た、なぜかキョトンとした顔をしながら。明らかに私に向けられているそれに警戒を強めて手袋を力強く填め直す。そしてゆっくりとした、だが威厳は無くさない言い方で私は言葉を発した。
『……一体どういうことだ。ここはどこだ、説明しろ』
明らかに警戒されているのは私のようなので、腰に下がる拳銃をコトリと地面に起き、両手をあげた。衣服はデスクワークをしていたときと同じ青い、私の命を守る軍服で。
私が差し出した拳銃を凝視するやからも居たようだが、この場で一番権力を持っていそうな男が口を開く。
「それはこちらの台詞だ。お前はなぜここに突然現れた」
『愚問だ、それを問うているのは私の方だ。居眠りをしてしまう前に私は確か机に向いてサボりにサボって溜まりまくった書類を整備していた筈。ここの雰囲気は軍とはまるで違う』
「……近界民(ネイバー)か」
『ネイバー? 聞いたことも無いな、少なくとも私の知る国でそんな名のものはない』
両手をあげながら淡々と会話していけば微かに聞こえる小声。「あの城戸司令に普通に喋ってるぜあいつ……」と耳に入って来た、なるほど彼がこの集まりのトップか。
「……近界民ではないと断定できるものがないな」
『話に聞くがそのネイバーとやらはなんだ、ホムンクルスの様なものか?』
「なら聞こう、ホムンクルスとは」
『簡単に言えば賢者の石を埋め込まれて造られた人間だ。奴等は賢者の石の能力で不老不死となり何回殺しても死なない、まあある程度殺せば灰になって死ぬが。そいつらの力は規格外でな、この私も腹を二ヶ所ほど貫かれた、一度視力も奪われた事もある』
色欲のホムンクルス、ラストと戦った時に着いた傷と、それを塞ぐために自身の錬金術で焼いた箇所を服の上からさする。そして最後に皮肉げに「その人間を凌駕した人間が人間の作った軍のトップに居たんだから笑えん話だ」と告げれば周囲は私を見つめたが、城戸と呼ばれる男は「賢者の石とは」と再び質問してくる。
『……賢者の石とは、完全なる物質で出来た真っ赤な血のような石だ。それがあれば錬金術術師なら錬成陣無しで錬成出来るし、失った手足や臓物も作ることができる。そう、人を甦らせることだって簡単だ」
その話を聞いたタヌキの様な男がおぉ……! と嬉しそうに呟くのを聞いて、「だが」と続ける。
『賢者の石も自然とぽんぽん、それこそ湧き水のように産み出されるものでもない。そんな完璧なものを作るには等価交換としてそれなりの材料が必要となる。……その材料とは、人の命だ』
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