・・・僕が、まだ小さかった頃。
今は、明るいけどまだ少し根暗だった頃があったんだ。
対照的に夜月は明るかった。
あぁ、思い出すなぁ。夜月との日々。
あの頃、僕はまだ私って言ってたっけ・・・。
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雨音4歳。
「ねー、おかーさん!きょうのばんごはんなにー?」
「え?今日はね、夜月の大好きなカレーライスよ」
夜6時半。キッチンから夜月とお母さんの楽しげな会話が聞こえる。
私はそれをリビングで見ていた。
「雨音ー!ご飯よー!」
ボーっとしていたけど、周りを見てみると、お父さんも帰ってきていた。
「あ、あなた。話があるの。」
話・・・?
私は気になって後をつけた。
和室に入っていくのが見えて、私はそっとふすまを開けて耳を澄ました。
「・・・夜月の様子がね、最近変なの」
「変・・・?」
「最近よく転んだりするでしょう?それに隠し事もあるみたい。」
「心配することは無いだろう。大丈夫さ。」
変か・・・。確かに最近の夜月は少しおかしい。
「聞いてみよっかな・・・。」
私はそう呟いてキッチンに戻った。
一週間後。
「ねぇ、雨音。僕ね、隠してたけどね、お母さんの事嫌いなんだ。」
これだ・・・ と私は思った。
「どこが嫌いなの?」
「・・・僕を殴ってくるんだ。もう辛いよ。」
「・・・あのね、実は私も、お母さん嫌い。」
確かにお母さんは嫌いだった。
夜月は一瞬、びっくりした顔をしたけどすぐに微笑んで
「もうちょっと、おっきくなったらいえでしよっか?」
と言ってきた。
「うん・・・」
私は夜月と手をつないで、部屋に戻った。
9年後___
13歳になった僕たちは家を出て行った。
最終的には孤児院住まいになったのだが・・・。
でも、今は楽しい。
やっぱり家出をして良かったな、と思っている。
「これからも、仲良くしようね!」
夜月が元気いっぱいな声で聞いてきた。
「・・・うん。」
バイバイ、お母さん。よろしくな、夜月。