彼女は何時も赤い頬を、もっともっと赤くさせて林檎のようにしてそう言った。しゃくりあげている。ああ、怒っているんだ、彼女は。ああ、怒られているんだ、僕は。なぜそんなに彼女は怒り狂って声を荒げているのだろう。まったく分からなかった。分かっていたけれど、心が知らないふりをしていた。必死に。そうして事実と葛藤している間もも彼女は言葉を吐き続け、僕も頭に血が上ってきていた。僕も林檎のようになって怒声をあげた。何の物音も、部屋にはしなかった。ただ、間抜けに、扇風機がぶいーんと音を立てて首を振っていた。扇風機にも意思があるのか、と一瞬思った。怯んだ彼女をぎろりと睨んで、ばたんとドアを閉めた。一筋の雫が林檎の上を伝った。やがて、林檎の上にはばらばらと雨粒が落ちてきた。最悪な涙雨だった。
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