どちらが良いのかは、分かっていた。
彼女は桃だった。彼女が植物なのではない。きちんと人間。桃色の頬、黄桃のような色の髪、桃のようにオーラが柔らかい。そして、桃のようにとても傷つきやすかった。
僕はそのことを知らなかった。いや、気づいてたのかもしれない、心の何処かで。だから、突き刺すような瞳で見つめて、口に出してはいけないことを冷たく言い放った理性のない僕は驚かなかった。いつもの優しい、誰かを包み込むような笑顔は何処かへ行き、魂の抜けたような顔をしていた。だんだん頬が桃のように熟れてきた。色白の肌が色を帯びてきた。ぱち。彼女は瞳を閉じ、俯いた。僕は黙って見ていた。何もしなかった、長い睫毛から雫が零れ落ちてきても。もう以前の僕ではなかった。「僕が悪かった」なんて素直に言うことなんてできなかった。僕が悪すぎたから。僕が遅すぎたから。僕が深い傷を刻んだから。彼女は静かにすすり泣いて、ドアの方へ歩いて行った。僕は同じ姿勢のままだった。背後でドアの閉まる音が聞こえた。
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