夏に期待を込めてしゅしゅ稲荷でほのぼの
「夏ですねぇ」
「そうであるな」
チリーン
風鈴の涼しい音色が、軒下の縁側に腰掛けて涼しむしゅしゅたんと稲荷神の間を駆け抜けた。
時は夏真っ盛り。
境内の林から盛大な蝉の合唱が煩いほど鳴り響いている。
「稲荷さん、この夏はどこかに行かれる予定あります?」
「む、特にないである。それに夏祭りの準備もせねばな」
「おや、そうですか」
頷いて、しゅしゅたんは手に持ったラムネ瓶を口元に近付けた。そして冷たいそれを二口飲むと、コトンと優しく瓶をそばに置いた。仮面は元の位置に戻していない。少し濡れた唇を、稲荷神は興味深そうに見ている。無意識に言葉が出る。
「ラムネはうまいか?」
「ええ、おいしいですよ」
「そうか」
こくりと頷いた稲荷神を見て、しゅしゅたんはしばし考えたあと、まだ半分残っている自分のラムネの瓶口を持っていたハンカチで丹念に拭くと、ラムネを稲荷神に差し出した。
「僕だけが飲むのはやはり不平等ですよ。稲荷さんもどうぞ」
「え!いや、私はそんな」
「下賤な人間が口をつけたものは嫌ですか?」
「そんなことない!!」
慌てて否定し、稲荷神はしゅしゅたんが自分に差し出したラムネをもう一度見つめた。厚いガラスの瓶が太陽の光を反射して柔らかくあたたかな色合いになっている。その柔らかさが先ほどの濡れた唇を思い起こさせ、なぜだか顔が熱くなる気がした。
そして、稲荷神は瓶を受け取った。
チリーン
「夏ですねぇ」
「そうであるな」
縁側に腰掛ける二人。正午の太陽に照らされた蝉の鳴き声は一層激しくなっている。稲荷神のそばには空のラムネ瓶があった。
「稲荷さん、この夏はお祭り以外に特に用事はないのでしょう?」
「ああ」
ずれていた仮面を被りなおし、しゅしゅたんは遠くの積乱雲を見つめたまま、蝉の歌にかき消されそうな声で小さく言った。
「一緒に海、行きませんか?」
風鈴の音がひとつ。
チリーンの夏感がすこ
>>849
乙
自分の乗ってて草