しゅしゅ聖書で人魚姫
『この短剣を王子の胸に突き刺しなさい。さもなければあなたは朝日が昇ると共に泡になってしまう』
姉たちの悲愴な声はまだ耳元を巡回している。
目の前のベッドに眠っているのは仮面をつけていないあなた。そして隣国の美しい赤髪をした姫。
もし可能ならばあの日に戻りたい。
目覚めたあなたの前から姿を隠さず、いっそ堂々と出ればよかったのだ。そうすればこんなことにはならなかったのかもしれないのに。
こんな、あなたを手にかけなければいけないことにはならなかったのに。
剣の先を、襟から覗くあなたの胸にそっと当てる。微かに上下する胸と穏やかな息遣い。開いた窓から潮の香を含んだ夜風が吹き込んで、レースのカーテンがそっと舞った。剣を握る手をゆっくりと持ち上げ、風が止むころ、一息に振り下ろした。
……ああ、もう夜明けか。
船の甲板に出ると、真っ黒な海の向こうでわずかに水平線が太陽に照らされていた。
夜が明ける。
涙で濡れた頬がヒリヒリ痛むが、それでも自嘲気味に口の端は吊りあがった。
ごめんなさい姉上たち。
声なき言葉で家族に謝罪した。
水平線から赤い太陽が微かに姿を現したとき、急に指先から力が抜けて剣が落ちた。カラランと乾いた音がやけに耳に痛い。
刃には、一滴の血もついていない。
「……ゅ殿……」
掠れた声があの夜風のように喉から出た。
不思議だ。
魔法で声は奪われているはずなのに。
聖書さんが泡になったら私が泣くっていったでしょ!!!!!
好き!!!!!
絵を描いてよかったありがとうステキッッ><