「悪魔殿、怒りますよ」
いつも聖書は決まった言葉で話しを締める。
怒ると言っても怒りを微塵にも感じさせない彼にまたこれか、と悪魔は人知れず呆れの息を吐き出した。
だから、今回も冗談だと思ったのだ。
ビッシャリと冷たい水のようなものをかけられて呆気にとられていたら、直後に鋭い痛みが全身に走る。「ぐっ……⁉」と痛みに思わず体を丸めて地面にへたり込んだ。これは聖水だ。本来人間が作った硫酸でも溶けることのないこの体は、しかし神の祝福を受けた聖水の前では赤子のように無力だった。手で拭おうにも今度は聖水が手について痛みは伝染していく。灼ける感触に蹲っていたら、頭上から冷たい声が降り注いだ。
「だから言ったでしょう」
ハアハアと苦しさに喘ぎながらなんとか顔を上げて聖書を見た。聖書は空になったガラス瓶を傾けたままの姿勢でこちらを見下ろしている。その目には一切の温かさはなく、ただただ深海のような未曾有の冷たさを含んでいるのだった。それほどまでに、悪魔は聖書を怒らせてしまったのだろう。そして悪魔は今痛みよりも、こんなにも聖書を怒らせてしまったことが何よりも辛くなった。
嫌われてしまったのかもしれないのだから。
苦痛のせいかわからないままぼやけた目からしずくがほろりと落ちて地を打った。
続きが思いつかないからここで…
最初はネタを出してくださったお姉さまの文をそのまま使わせていただきましたわ。
なんというかとても素敵で好きですごくすごい(語彙力)
ハァンッッ(昇天)
容赦なく悪魔を痛めつけた後に我に返って抱きしめて「ごめんなさいごめんなさい」と壊れたレコードのように繰り返す聖書を思い浮かべた