しゅしゅ寡黙
寡黙さんが熱を出した。
仕事帰りに薬局に寄ってポカリスエットや冷えピタを買い、いつもより速い足取りで彼の家へ行く。
合鍵で玄関のドアを開けて入ると、ベッドで静かに寝息を立てる寡黙さんの姿があって一息ついた。
「寡黙さん」
なるべく小さく優しい声で呼びかけて彼の肩に手を置いた。やけに熱い。熱はやはりまだ下がっていないようだ。冷えピタを包装から出し、彼の額にそっと乗せた。と、そのせいか、寡黙さんが眠りから目を覚ました。
「しゅ…しゅたん?」
少し寝ぼけた様子で僕を呼んだ。
「はい」と返事をし、彼の頭を撫でる。
「遅くなってすみません。具合は少し良くなりましたか?」
「あー…まだダメだこりゃ。もう少しかかる」
「急がなくていいんですよ」
「そういうわけにも行かん」
真面目な人だなあ。
ポカリスエットを差し出すと、寡黙さんは短く礼を言ってそれを受け取った。そしてフタを捻り開け、喉が渇いていたのか勢いよく飲んだ。むせてしまわないかハラハラしたが大丈夫だった。
水も飲んで寡黙さんはふーとため息をついた。暫しの沈黙が二人の間で流れ、やがて寡黙さんの方から声をかけて来た。やや嗄れた声である。
「わざわざすまんな。仕事の方はどうだった?」
「相変わらずですよ。クソガキッズもいつも通り元気です。ただ、寡黙さんを心配している様子でした」
「フッ、そうか」
嬉しそうに目を細める寡黙さんを見て、少しだけ、ほんの少しだけもやっとした気持ちになった。自分だけを見ていてほしいなどと口が裂けても言えないけど、せめて二人きりの時はもっと仲睦まじくしていたい。さらに言えば恋人らしくしていたい、なんて、贅沢だろうか。
その気持ちが高じて、クソガキッズについて話している寡黙さんの顔を引き寄せ、頬に唇を落とした。
軽い触れるだけのキス。
顔を離す頃には自分は真っ赤になっていた。が、寡黙さんは案外あっけらかんとして僕を見ていた。
もしかして熱でボーとしているのか。
「あー、すまんな」
と、突然寡黙さんが謝って来た。
なんだろうと首を傾げていると、彼はふと苦笑いを浮かべ、照れたように頬を染めた。
「俺が風邪なせいで口にできないんだろ?治ったらまた頼む」
「……」
心臓が止まるかと思った。
全く、寡黙さんはずるい。
あなたが神か