ただの私の妄想 3

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369:サヤ◆PpLBO2Vgo6:2019/12/20(金) 04:26


>>316


「 ボクを殺してよ 」

そう告げられたのは、春の陽気な陽の差し込む白いシーツの上、悲壮に顔を歪めた彼を眺めていた時だった。

彼が産まれた時から自分は彼のことを見ていた。
弟でありながら、悪魔である自分とは違う、穢れた血族の末弟にして遥かに優れた才能を持つ死神のカムクライズルに珍しくも懇願されたからだった。
何やら幼馴染であり、天使でもある七海千秋が窮地に陥っており、それを救助するまで自分が見ている筈だった彼のことを頼むと言われ、渋々ながらも受け入れた。

彼の名を狛枝凪斗と言うらしく、柔らかい白髪の髪や、ころころと変わる表情、小さな背丈、幼くも小説を好み、胸を張って両親と手を繋ぎ夕焼けを背景に歩く姿は可愛らしい子供そのものの姿だった。何故死神がつかなければならなかったのか、と考える余裕もなく時は過ぎ、漸く一息つく暇の出来た今、あの時カムクラが七海を見捨て狛枝を見ていたならば、と考えるとゾッとする。

彼は病弱体質で、よく咳き込み倒れていた。友人も少なく、正しく本の虫といったところだ。両親の心配に笑顔で対応しながら窓の外を眺め惚けている時間が多くなり、自分が彼と共に過ごす時間も長くはないんだろう、と思いながら、時計の針が時を刻む小気味のいいリズムを聞いて、透き通る掌で彼の頭を撫でる仕草をした。
一瞬、目が合ったような、時が止まったような、そんな錯覚に陥った。

それから長い年月が経ち、自分が長く持たないことを早い時期に悟っていた彼は大きく咳き込み、目を丸くし、膝に顔を埋めそう言った。

「 …いるんでしょ…」

視線を彷徨わせながら手を伸ばす。力が抜け、ベッドに倒れ込む。また体を動かし、真っ直ぐ、揺れ、瞳を潤ませ、眉を寄せ、歯を食いしばり、ずるずると足元まで這いずって来た。

「 …殺してよ。…苦しいのは、嫌だから… 」

しゃがみこみ、宙に浮いた手を取る。案の定すり抜ける。が、彼は諦めずにこちらを見据えた。

「 殺して、って…言われても… 」

彼の願いを聞き届け、命を奪ってしまうことは容易いだろうが、長年見守り、生憎自分は同じく時を歩んだ彼を殺せるような悪魔ではない。思いもよらぬ行動と言葉に冷や汗をかきながら拳を握りしめると、彼はそれを見抜いたのか、いいの、と嘲るような笑みを浮かべた。

「 …ボク、このままだったら…みっともなく足掻いて、もがいて、血を吐いて、痩せ細って、泣いて苦しんで気が狂って…最終的には、なんで殺してくれなかったの、ってキミのこと憎しみながら死んじゃうよ。 」

言われた状況を想像した。唾を飲み込み、目を瞑る。彼は嘲笑いながら力を込め、立ち上がろうとしていた。

「 だからほら、早く… 」

ゆっくり、ゆっくり、彼が起き上がっていく。目が合う。彼はこんなに大きくなっていたのか、と場違いにも考える。ずっと横たわっている姿しか見ていなかったから気が付かなかった。それほどの時間が経っていた。
大きく体が前方に揺れる。思わず腕を広げた。危ない、と声を出した。赤い服が風に揺れ、開けられた窓についた白いカーテンがふわりとはためいた。
一瞬のことが何時間にも感じられた。前にもこんな感覚があった。腕の中、自分の体に、細い体が飛び込んだ。肩に白い髪が当たる。彼がせせら笑う。

これでわかったでしょ、と彼が言う。
嫌でも理解してしまった。


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