「おまえも大変だよな、土曜日に学校があってさ」
「そうでもないよ、半日だし、わたし学校好きだから」
「そういや、颯モテモテだったねぇ」
わざとらしい笑みを浮かべ、もしかしてモテ期到来? とかほざく七海、俺はこいつにどう返すか思案する。ボケるべきか真面目にいくべきか、一秒にも満たない刹那の思案の結果、ここは現実的にいくべきという結論に至る。
「……男子校に入ると女の子なら誰でもかわいく見えるあれだろ、男なら誰でもイケメンに見えるんだよ」
「それはあるかもね、先輩も最近街にイケメンが増えた気がするって言ってたし、やっぱり男だけ、女の子だけの生活をしているとそー言う現象が起きちゃうのかな」
面白い事を言うわけでもなく、盛り上がるわけでもない、ウユニ塩湖のようにどこまでも平坦な会話。お互いある一定のテンションを保ちつつ話す、七海との会話はいつもこんな感じだ。
付き合いが長いと相手が次何を話すかなんとなく予想出来てしまうというのも俺達の会話を平坦にする一因だろう、しかし次の話は予想できなかった。
「それで話は変わるけどさ、不可思議昏睡事件って知ってる?」
「知らん」
「じゃあこれ見てよ」
言って七海は自分のスマホを俺の手に握らせた、スマホには怪しげなサイトが表示されていた。
そのサイトによると不可思議昏睡事件とは。
5年ほど前から世界各地で発生している人間が突然昏睡状態に陥る現象。
海外では20人以上の人が同時に昏睡状態となったケースもあるという、被害者は年齢も性別もバラバラで病気とは考えづらい、一度昏睡状態に陥ると3日から1週間は目を覚まさない。
またどの事件現場も事件前後に不審な人物は目撃されておらず、被害者や事件現場から原因になりそうな物質は見つかっていない。事件の概要をまとめるとこんな感じだ。
「なるほど、怪奇現象ってやつか」
「……ねぇ、もしわたしが昏睡事件の被害者になったら、颯は心配してくれる?」
俺は隣を歩く女の微妙な声色の変化を聞き逃さなかった、ほんの少し語気を強め問い詰める。
付き合いが長いと、お互い隠し事なんて出来ない。何かあればすぐ分かる。
「そりゃ、まぁ心配するさ、一応幼馴染みだし……なぁ七海、なんでそんな事聞いたんだ、何かあるなら言えよ」
「……実はこれと同じような事件に巻き込まれたの、わたしのクラスメートがね」
「——!?」
なに、それは本当か、この街で怪奇現象?
面白いじゃないか、心が躍る。こんなにワクワクすることがこの街であるとはな、調べずにはいられないじゃないか!
「七海、悪いが昼飯は要らねぇ、ちょっとこの事件を調べてくる」
「調べるってどこで」
「第三拠点、五条のとこだ」
言って俺は新しい玩具を貰ってはしゃぐ子供のように駆け出した、するとまるで母親みたいな七海の声が背中を押す。
「どこにいくのも颯の自由だけど、夕飯までには帰って来なさいよ!」