置いてけぼりにされるのは、『魂』の同行を拒否された肉体だけだ。
その肉体を、消える意識からの最後の働きかけで少しだけ動かす。首を、上に向けて。
眼前、鮮血の絨毯を敷き詰めた床を、黒い靴が波紋を生みながら踏みつける。誰かがいるのだ。そしてその誰かがおそらく、自分を殺したのだろう。
不思議と、その相手の顔を拝んでやろうという気にはならなかった。自分を殺.すような相手、そんな相手にすら傍観を決め込むほど日和見主義だった記憶はないのだが、心はその相手の素姓など欠片も興味を払っていない。