vamp lords

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2:真祖キュリオス:2017/10/29(日) 04:19

first chapter
【邂逅——The Encounter】


 昼の暑さも和らぎ涼しい風の吹き向ける夏の夜、桜扇(さくらおうぎ)アスカは港近くの100mあるかないかの低い山の山頂にある街を一望できる展望台に居た。
「もう、あれから半年経つのか、早いな、ミハル」
 アスカにとってこの展望台は特別な場所だ。
 今は亡き恋人、羽衣(うい)ミハルと運命の出会いを果たした場所であり同時に永遠の別れを経験した場所だからだ。
 ミハルはこの展望台から見る夜景が好きだった、デートの最後はいつもここに立ち寄ってからそれぞれの家に帰る、それは二人の間で暗黙のルールとなっていた。

 アスカはミハルが息を引き取ったベンチに腰を下ろしあの日の事を思い返す、半年も前の事だけど今までもはっきりと覚えている、あの忌まわしい日を忘れられるはずがない。
 消しゴムでノートに書いた鉛筆の字を消すみたいに脳内から記憶を消せたら過去に戻って人生をやり直せたら、そう思った事が何度もあった、きっと自分が弱いからそんなくだらない事を考えてしまうのだ。では、強い者はくだらない事を考えないのかと問われれば、それは否だろう。
 どんなに心が強くても、どんなに財力が、権力が、知力が、そして体力があっても、怖いものは怖いし、嫌いなものは嫌いなのだ、忘却してしまいたい過去の一つや二つあったところで何もおかしな事はないし、それが普通の人間なのだとアスカは思う。
「あの時、俺が飲み物を買いに行かなかったらミハルは死なずにすんだのかな。体の傷はもうすっかり治ったけど俺の心の傷はまだ塞がりそうにないよ」
 寂しげに言って腕の銃創を見つめる、銃大国のアメリカならまだしも平和な日本で友人に撃たれることがあるなんて、そして恋人を殺されることがあるなんて、普通思わないし思いたくもない。
 この事件、警察はミハルをストーカーしていた友人による殺人事件としているが、アスカは納得出来ずにいた。その友人は昔から大きい音が苦手だったのだ、そんな人物が凶器に銃を選ぶだろうか、そして一体何処で実銃を入手したのか、アスカの知る限りヤバイ連中との付き合いはない。
「これ以上考えても無駄か」
 言ってアスカは立ち上がり、転落防止のフェンスに寄りかかり遠くを見つめる、こうしていると心が落ち着くのだ。
 アスカの視線の先には再開発中の臨海地区がある、ミハルと出会った頃はそのほとんどが更地だったが今は建物の数も増え街らしくなってきた。日々変わり行く街の景色を見てミハルは何を思ったのだろう。


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