vamp lords

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3:真祖キュリオス:2017/10/29(日) 04:19

「アスカ発見!」
 突然後ろから声をかけられた、明るく元気の良い声が鼓膜を震わす、アスカはこの声の主をよく知っていた、玖我七海(くが ななみ)だ、もう10年以上の長い付き合い、聞き間違えるはずがない。
「わぁー綺麗、こんな場所があったんだ〜」
 展望台からの夜景に感嘆の声を漏らし、七海は手に持ったレジ袋をガサガサ言わせながら歩み寄りアスカの隣に立つ。
「はい、おにぎり使ってきたから食べて」
「あぁ、わざわざすまない」
 レジ袋へ手を伸ばす、中にはラップに包まれたおにぎりが幾つか入っていた、そのうちの一つを取る、海苔すら巻いてないシンプルなおにぎり、きっと具も入っていないのだろう。手に取った白米の集合体を大口を開けて頬張る。
「普通にうまい」
 米作りの専門家が作った米を、米を炊く専用の機械に入れて炊いたご飯、それを握ればおにぎりは完成する、よっておにぎりを不味く作るのは至難の技だ。
 おにぎりを一つペロッと食べ終えて、アスカは七海に向き直る。
「なぁ七海、この景色を見てどう思う」
 そして暗く沈んだ声音で七海に問いかけた。
「え、どうって……綺麗だよ」
 アスカは今にも泣き出しそうなほどに悲しみの込められた眼差しを遥か遠くの町明かりに向ける。
「この景色はいつも同じように見えていつも違うんだ、だからいつ来ても飽きない。それは人間も同じ、いつもと変わらないようでも少しづつ変わってる。ミハルが言っていたよ『何かつらい事や悲しい事があった時はここに来るの、ここに来ると嫌なことなんて忘れちゃう』って……俺、ミハルがこの景色を好きな理由がなんとなく理解出来たような気がするんだ、きっとミハルにとってここから見る景色はかけがえのない宝物なんだ、ミハルは……」
「ストーップ!、暗いよ、暗すぎるよ! ネガティブオーラ出てるよ、ほらおにぎり食べて元気出して! ここただでさえ暗いんだから」
 七海は声を張り上げておにぎりをアスカの口許に押し付ける、この場のシリアスな空気を少しでも面白おかしくしようとしているようだ。

「ねぇアスカ、明日どうせ暇でしょ? 良ければ二人であの辺ウロウロしない?」
 七海が指差す先は再開発で次々と新しい建物が建設されている臨海地区だ、巨大ショッピングモールや水族館なんかもある。
「それ、デートのお誘いってことでオッケー?」
「なっ、何言ってんの、そ、そんなデートとかじゃあ」
「違うのか」
「ちっ、違っ……違っ、違わない……」
 顔をトマトみたいに真っ赤にして七海は小声でぶつぶつ呟いている。たかがデートぐらいで真っ赤になる辺り七海はまだまだお子ちゃまだなとアスカは思った。
 思わず二人の口から笑みが溢れる、笑い声は透明な竜巻となって重苦しい空気を何処かへ吹き飛ばした。
 しかし、アスカのひび割れた心の深奥にまで根を張った深い悲しみは、こんなそよ風では小揺るぎもしない。
「久しぶり……だよね、二人でどっか行くのって」
「そうだな」
「じゃあ帰ろうか」
 二人は展望台を後にした。


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