――いいや、違うね。
俺様は享楽そのものだ。
…それも違うな。
どんな哀しみも、嬉しさも、怒りも、
全部引っくるめてごちゃ混ぜにした感情ってやつを、
どうしても愛してしまう。
俺はそういう人の性なのさ。
…『愛』の前にゃあ、誰も勝てねェ。
俺は享楽を、世界の全てを愛しているよ。
(己の体をなぞるように斬られながら、混沌と破壊に埋もれた世界に声が響く。
ふいに、駆け抜ける転の元に肉塊の体から赤い棘がつきだした。)
否定してみろ。
お前が意味を持つならな。
ちがくない 、 ぼくが正しいんだ !
( 肉片塗れの地面を駆ける。刀を握る指は痛みを感じる。けれど決して離さない。
今、バケモノの周りを駆け、何周目だろう。ふとぼくは思い出した )
ーーー帰依ーーー
『コロブ〜〜。次の時間アレじゃん。持久走』
( 教室の中。「そうだね」とぼくは答えた)
『一緒に走ろうな。絶対抜かすなよ?』
( 色々な呼吸が入り乱れる中、ぼくは「一緒に走ろう」そう言ってくれた彼の背中を追いかける。けれど追いつかない。今、校庭を駆け、何周目だろう。疲れた。苦しい。ぼくはすごく悲しかった。世間では、あるあるらしいけど、ぼくにとってその現実は、本当に本当に苦しかった。「ぼくよりも自分の評価?」結局、彼はぼくに背を向けたまま、行ってしまうのだ )
『ごめん、コロブ。男とはむり。
付き合えない。……じゃあな 』
ーーー役ーーー
( ぼくに価値がないと突きつけられた一番目の絶望。その昔の記憶は、現在、ぼくの刀を握る手に、指の神経の一本一本に及ぶまで、力を与えてくれる。力一杯行う破壊は楽しい。清々しい。刀で、このバケモノをトウモロコシの芯みたいになるまで削りたい。壊したい。何もかも全部。この街みたいに無意味になるまで。世界を無意味で満たしたい。 )
ぼくは無意味だ ! けどきみも否定する。だってきみにも意味がないじゃないか。それらしいこと言って、全然答えになってないじゃない!! 虫けらっ!ぼくたちは、生きていても生きていなくても同じなんだ っ
( あれ。絶望していたのは ぼく ?
そんな疑問が刀を掴むこの手の力を緩ませた。
その瞬間
あっ
胸には何かが刺さった。あとはドミノ倒しで、全身の力が抜けて、フカセツコロブは地面に転がった。転がって、転がって、床の血と肉に絡まって、あぁ。 )
…何が愛だ。そんなの現実逃避だ。