「お姉ちゃん起きないよ」
袖をくいっと引っ張られる。少しだけ目線を下に向ければ、小さなつむじが見えた。幼女は前をじっと見つめている。
「どうして?」
ぼくらの目の前には大きなサナギがあった。いや、サナギというより繭というべきだろうか。どちらにせよ変わらない。幼女の丸い瞳に映った繭は淡々と脈動を繰り返し放つ。ぼくは問に答えることができなかった。
「起きたらいっしょに遊んでくれるのかなぁ」
遠目に儚い希望を宿して、柔らかな声がやけに痛く耳を叩いた。ぼくは固唾を飲んで、そして、やっとの思いで答えを紡ぐ。
「人は変わりたいと思いながら生きるんだ。だから君のお姉ちゃんはずっと繭のままなんだよ」
悲しそうな顔がぼくの目を閉ざした。