『桜が一片落ちた後に』
作・名無しのKZ好き
『中庭に1本ある大きな桜の木には、一番最初に落ちる花弁をキャッチできると恋が叶うっていう言い伝えがあるんだ』
そう言っていたのは、バスケ部の2年の先輩だったか。
春休みに突入した翌日。
我がバスケ部は面倒な事に部活ごとに回ってくる掃除当番の初回に当たってしまった。
何が面倒って、新しい掃除用具だ。
ウチは春休みの少し前に毎年新しい掃除用具を受注するらしいのだが、届くのは毎年春休み初日の前後。
初回当番の人は職員室までそれを取りに行かなければならないらしい。
「じゃ、1年で割り振っといてくれよな」
当然と言っちゃ当然だが、こう言った仕事は1年に回ってくる。
職員室への道の途中、先輩達は体育館内の準備をさっさと済ませ先に練習を始めるんだろう、と少しの不満の声を誰かが漏らした。
「じゃ、中庭頼むな」
そう言っていやいやトイレ掃除に向かう仲間を見送る。
花壇は園芸部がやるということで掃除の範囲はそこまで多くない。
熊手を片手に案外早く終わりそうだと靴を履き替えた。
「言い伝え、ねぇ」
ふと上を見上げれば、まだ少ししかない薄紅色。
つい昨日まで休み時間や放課後には必ずと言っていいほど女子のいたベンチには今日は誰もいない。
地面を見るにどうやらまだ花弁は落ちていないようだった。
「まあ俺には関係ないけど」
アーヤの事が脳に過ぎったけれど可能性は薄いし。
彼女の次に浮かんだのは、あの女だった。
少しやり過ぎた仕返しに今は小石程度の罪悪感が湧いている。
多分、相当傷付けた。
考えながら作業をすると案外早く終わるもので、少し葉が落ちていた芝生の上はもう何も無くなっていた。
ふと振り向くと、ひらり、と宙に舞うものが見えた。
薄紅色のそれはゆっくりと下へ落ちて、何気なく出した手に収まる。
「……アイツいま片山が好きなんだっけ」
数度見たあのテンションの上がり方からして、これをあげて2人が付き合えば罪滅ぼしくらいにはなるだろう。
アーヤに近付きそうな男も減れば俺に損は無い。
部活仲間に返すジュース代を入れていた袋をポケットから取り出して、それを中に入れた。
・
「おはよ、佐田」
「おはよ、ツバサ…ツバサ!?」
相変わらずリアクションが大袈裟だ。
まあこちらから声をかけるなんて思ってもいなかっただろう。
訝しむような目線に内心苦笑してポケットに手を入れる。
先日の袋が指に触れた。
「新しいクラスだし、片山もいるしさ。折角だしこれ、いるか?」
「え、ありがとう…何これ」
中身を確認したあとそう不思議そうに聞いてくる。
「バスケ部で持ち回りの中庭掃除の時に手に入れたやつ。多分初めに落ちたんじゃないかな」
他に落ちてなかった、と伝えると呆然とされた。
何かおかしいことでもしただろうか。
「またなんで私に」
「去年は少しやりすぎたかなって。悪かった」
素直に謝っただけなのに、もっと不思議そうな考えるような顔をされた。
別におかしくないはずなのだけれど、なにか、そんなに俺が根に持つタイプに見えるのか。
これ以上気にしても意味ないか、と軽い別れの挨拶だけして教卓に置かれているプリントを取りに行く。
まだ呆然としている佐田の心理は、よく分からない。
・
「──って感じでさ、俺何かおかしいことした?」
今日1日あんな具合だった佐田を見ていて少し心配になった、とアーヤに伝えると彼女は少し目を見開いて、いたずらっ子のように笑った。
「翼は、マリンが好きなのは悠飛だと思ってるんだね」
「え、違うの?」
「これ以上は本人の許可がないとなぁ」
面白そうに笑う彼女が、久しぶりに策士に見えた。
-END-
美佐田これにてENDです、中途半端な終わり方でごめんなさい笑
今回は翼sideでした!マリンちゃんのお話と並行してます、
えっとー、あんまり言うことないんですが、KZ板の人口が少なくなりすぎてて悲しんでます!ということだけ言っときます…、ぜひまだいらっしゃってる方だけでも、できるだけでいいので浮上率あげましょ、?