短編小説?【色づく紙】

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5:大博:2021/02/25(木) 19:31 ID:BKI

【修正】
目が覚めると、見渡す限り真っ白な世界の中に私は居た。その世界は本当に何も無く、とても透明だ。
そしてこの世界の中、私は一人ぼっちだった。
私の目の前には何枚もの紙と、色とりどりのペンやクレヨン、鉛筆がある。
私の役目は色をつける事だと気付かぬ内に頭の中に焼き付いていた。なので何か描く事にする。
青色のクレヨンを取り出すと、先ずは紙に青い空を描く。すると、真っ白な世界に青い空が描かれて行く。やがて私が空を描き終えると、真っ白だった世界に青い空が出来上がった。私は色をつける力がある。
そこに白い雲の絵を付け足す、真っ白な世界の空にも雲が現れたのだ。私は面白がって、次は青い海を描く。すると真っ白な世界に今度は海が、広く広く、無限に、広がって行った。
それから私は友達やいろいろなものを描いた。そしてその絵はやがて動き出し、私をいろいろな所につれて行く、真っ白な紙は、青い青い海の中へと沈んで行き、真っ白だった私の心は色づいて行く。楽しいという気持ちを思い出した瞬間だ。真っ白だった世界に色がついて行く、そして、世界は動き出して行く。皆の思いが形を変えて私の力となり、世界がより鮮やかな色をする様になった。
皆と、友達と、一緒に居た時間は楽しかった、時間を忘れる程、とてもとても………だけど時が流れる時間はあっという間で、私はまた、一人ぼっちになった。
ずっとずっと、一緒に居たかったのに…例え忘れられたとしても。
失われて行く私の力、色が失われて行く世界、次第に色をつけられなくなり何度も諦めを感じながら、少しだけど、本当に少しの色だけど、水でびしょびしょになってしまった紙に色を付け足して行く、鮮やかだった絵がどんどん色褪せんで行く。
「私が居た事を思い出して、何時も一緒に居たじゃない」
何処からか声が聞こえた気がした。
私は決意した、例え悲劇的な結末が私を待っていたとしても、何度も楽しかった頃がまた来ると夢見て、色を、絵を描き続けると。
私の中の色が、絵が、暴れだして行く、私の気持ちが、私の黒い色が、この世界を壊す力になってしまった事に気付く。
もう二度とあの頃には戻れない、帰れない。それならもう一度やり直すだけ、絶対に戻してみせる。
いつの間にか忘れていた『あの絵』の君の事、あの光景、あの瞬間を探して、追い掛けて行く、濡れた紙は捨て、新しい紙でまた君に会える、そうだと信じて。願いは簡単には叶わない、君がこの世界を好きなら、私はこの世界を好きになる。

そして願いは叶う。いつの間にか忘れていた、まだ未完成の絵を、私は手にする。
その絵の完成は程遠く、時間はたくさん必要だけれど、また君と一緒に色をつけて、そしてこれからも一緒に歩んで行く。
『終わり』


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