キーンコーンカーンコーン
4時間目の終わりを告げるチャイムが鳴って、ほとんどの人がドタバタ教室を出て走っていく。
目指すは購買なんだろうな、と思いながらも私はそそくさお弁当を取り出してさっさとご飯を頬張っていく。
「うー、おいしー。」
誰も聞いていないと思って、気の抜けた声で独り言を呟いてみた。
「1人だと声出すんだ。しかも馬鹿みたいな声」
ギョッとして、顔を上げると目の前に日比野。
正直頭の中には「?」がいっぱい。
そして、ちょっとの苛立ちもある。
何でこんなに構ってくるの?
昨日といい今日といい、これまで好奇心で話しかけてくるのはいたけど、2日続けてなんていないに等しい。
「…関係無いですよね。」
私と日比野。
私の独り言と日比野。
私が年中マスクをしていることにも関係ないし…って、あ、今ご飯食べてるからしてないんだ。
「…。」
マスクをしていない私を見られるのは少し恥ずかしい。
お昼ご飯の時には流石に外すけれど、何せ窓際の目立たない席。皆ご飯に夢中で私のことなんて見ないから。
まじまじと日比野に顔を見られ、少しずつ顔が熱くなっていくのが分かる。
顎の方に下げていたマスクをクイッと上げて、彼を冷たい目で見つめた。
「やめてください。気持ちが悪いです。」
そう言い捨てれば、彼は一瞬固まってから、少し口角を上げて言った。
「同一人物だと思えね…。”ゆうちゃん”といるときは、凄い笑ってんのに。」
今度は私が固まる番だった。
ゆうちゃん呼びを知っているということは、すなわち私の普段を知っていることになる。
「…それが何ですか。ゆうちゃんは特別なんです。」
もういっそ開き直るしかないと思い、せめてもの抵抗でギロリと睨みつけながらそう言うと、彼は赤い舌で唇をペロリと少し舐めて、
「ちょっと気になってんの。いつもは冷たいのに心を開くとなつくとことか、あとソレとか。」
ソレと言いながら彼が指差したのは紛れもなくマスク。
何が言いたいのか分からない私は、更に彼を鋭い目付きで睨む。
「人間観察だよ、人間観察。鎌田みたいなのって面白そう。」
それだけだよ、じゃあ、よろしく。
とだけ言って、男子の輪にスルリと戻っていった日比野。
私のこと、何だと思ってんの…。