別に俺にとっては転校なんて
大したことではないと思う。
何回目かの光景を、竜也はぼんやりと
見つめながら考える。
父さんの仕事の都合か何かで
転校するのは、
もはや当たり前のように感じている。
慣れたことだ。
気になるような奴もいなかったし、
前のクラスメイトの顔も、
よく思い出せない。
覚えているのは、せいぜい
前の席に座っていた奴くらいだ。
隣の席の女子なんて、
絶対に覚えることなんてなかった。
なのに____
腰にまで届きそうな長い髪を
高い位置でくくっている女子。
2つ、だからツインテールとやらか。
背が少し小さい。
おい、本当に中学生か。
しかし、俺が目をひくのは
小さめの見た目ではなく、
___ころころと、
手の中で転がすキャラメル。
銀紙に包まれた、懐かしいお菓子。
俺も小学生のころ駄菓子屋行って
よく買ったな。
駄菓子屋の鶴ばぁ、元気だろうか。
っていやいや。懐かしむんじゃない。
・・・校則違反じゃないのか?
学校にキャラメル
持って来ていいなんて校則、
普通あるのか?
「よろしくー」
ツインテールを揺らし、
謎の女子は挨拶した。
「・・・どうも」
ガタン、と、出来るだけ
音を立てないようにして椅子に座る。
「えーと、りゅうくん?」
女子は右に首を傾けると、
黒板を見て俺の名前を呼ぼうとする。
「たつやだよ。漢字苦手なのか?」
「うん、まぁねー」
にっこりと笑顔を浮かべる。
「私、レミだよー」
愛くるしい顔をしている。
なんか、妹ってこんな感じなのかな…
「・・・っと、レミ?」
「はい?」
「・・・それ、何?違反してないの?」
俺は手の中にあるキャラメルを指指す。
「あ、えーと、これは私だけ
持ってくるのOKなんだ」
「・・・何で?」
レミは少し体を縮ませると、
きゅ、とキャラメルを持ってない方の
手を握り口を開いた。
「・・・これはね、『精神安定剤』。
私みたいな者が
使うべき薬・・・のことかな」