お昼休みになって、みんな机をくっつけたりし始める。
いわゆる、イツメンだなんていう集まりなんだろうな。
それをボーッと見ながら思い出してみた。確か私にも、友達がいた時期はあった。
中学生くらいだったか、いつだったか。
勉強が全てだと。
私には、勉強しかないんだと。
…思考がすべて学力に覆われてしまった瞬間から、私は独りになっていった気がする。
まぁ、何でもいいや。
いつも通り、お弁当箱を持ってフラリと教室を出る。
そんな私に気づく人は、多分いない。
いてもいなくても気づかれない、まるで空気のような。
いや、猫だと言われる時もあったかな。
肩より少し長いほどの真っ黒い髪を、少し高めの位置で結んだポニーテール。
まるで、猫の尻尾みたいだともいわれる。
ゆらりゆらりと、
あ、髪が揺れてるー、とか、呑気に考えて歩く。渡り廊下を抜け、階段を下って。
私は、第二放送室と書かれたドアを開いた。
何故、学校にわざわざ2つも放送室があるのか。先生のみぞ知る、って感じなんだろう。
少し埃っぽい、狭い部屋。
こっちは一切使われていないから、私以外は誰も来ない。
パチッ、と部屋に明かりをもたらした。
その瞬間だった。
「…………、…」
…あれ、奥の椅子に誰かいる。
“それ”は、眠たそうにこちらを見ていた。
心臓が止まりそうな、
そんな感覚に陥ったとしか思えない。
「うの…?」
サラサラとした栗色の髪をなびかせる、息を飲むほどの美男子。
全体的に色素の薄い彼は、透き通った、甘く嘆くような声で私の名をよぶ。
彼が私の名を呼ぶのなら、私も呼んであげる。
今、最も憎く、消えてほしいと願う貴方の名前を。
「向井、真夏」
1位の横に綴られていた、その名前。
真夏に相応しくない、白く美しい彼は何故だか笑った。
「俺なら甘やかしてあげれるのに。」
ずっと、私を待っていたんだろうか。
この男は。
「嫌いです、大嫌いです。貴方には、そこにいるだけで価値がある。
ほら、私の場所を返して…、ッ!!」
甘やかす…?
ふざけないで、馬鹿にしているの?
高2のこれまで、ずっと1位だった私の場所を奪ったのは彼。
1人でいつ過ごしているこの場所にやってきたのも彼。
何にも持っていない、惨めで可哀想な私に、1つくらいくれたって良いじゃない。
歯をこれでもかと食いしばり、ふるふると震える私の体。
取り乱して叫んでしまったのに、彼は少しも驚かず、少し距離を取っている私を見つめている。