余命1週間?

葉っぱ天国 > 小説 > スレ一覧
2:匿名:2016/10/10(月) 20:03

「あんたなんて死んじゃえばいいのに」

 放課後の教室。夕焼けが差し込んだ教室で私が放った言葉が、どれだけあの子の心を抉ったことだろう。
 逆光で暗く見えるあの子の整った顔がくしゃりと歪んで、でもそれも様になってて、罪悪感なんかよりもずっと先に心が高鳴ったことを覚えている。きっとそれは恋なんかじゃないけれど、初めて見たあの子の歪んだ、泣きそうな顔に私は密かに興奮したのだと思う。
 あの子が泣きそうな顔をして、私を見つめている。私があの子を怒らせている。滅多に怒らない、あの子が。
 興奮する理由は分かっている。ずっと一緒に居たけれど、確かに私はあの子に劣等感を抱いていたからだ。
 私だって何もできないわけじゃない。勉強も運動もそこそこできる、顔はわからないけれどそこらの人よりかは勝っているはずだ。けれど、私の比にならないくらいにあの子は完璧だった。言うならば欠点がないことだけが欠点、みたいな感じだ。思春期になってそれを感じて、少しずつ不満がたまっていった。悪いところばかりが目についた。何度も八つ当たりをした。けれどもあの子はそれに気づかないみたいに、いつも通りに完璧だった。それがさらに癇に障った。
 努力をした。あの子に勝つために、毎日勉強をして密かに運動もした。顔はどうしようもないのでせめて、と肌の手入れをした。まいにち、まいにち。
 テストは80点台を余裕でとれるようになった。でもあの子は90点台だった。
 100メートルを15秒台で走れるようになった。でもあの子は14秒台だった。
 密かに、クラスの男子に恋をした。その子があの子に告白しているところを見た。
 なんでだ、これが才能ってやつか。神がそれをつくったってんなら今すぐに神を殴ってやりたい、ああ憎い、なんで私はどれだけ努力をしてもあの子に勝てないんだ、私があの子に勝てる日はいつ来るんだ、神はあの子にたくさんのものを与えて私には何も与えちゃあくれない。なんてやつだ。なんて、不公平な世界なんだ。
 目の下にはクマができた。常に胃が痛むようになった。風邪をひきやすくなった。ご飯が食べられなくなった。眠れなくなった。ケアしているはずの肌は荒れていた。
 あの子の平穏のために、独裁のために、私は全てを奪われるのか。贄とでも言うのか。
 あの子に、あの子というウイルスに身体が蝕まれていくようだった。毒されていく。決して恋をしていることを揶揄っているわけではなく、実際にそんな感覚だった。何度も泣いた。吐いた。気づくと体重は9キロ減っていた。


全部 次100> キーワード
名前 メモ