ファーストキッスはレモン味!?

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5:たなか:2017/01/14(土) 17:47


「非常に涙を誘われますね。10点」
「前回に引き続き質の良い切なさ!10点!」
「桐くん総受けが見たい10点」

3番目の審査員が点数を言い終わるか言い終わらないかのうちに、会場中からは大きな歓声が湧き上がった。

『な、な、なんと!!前回同様審査員全員が文句なしの10点だーーーーッ!!
第38回“見ていて心が痛くなってくる当て馬決定戦”優勝者は、“内股のユギ”に決定いたしましたーー!!!』
「………!うそ…っ!」

夢にまで見た、二連覇達成。
それを成し遂げたという実感が湧かなくて呆然とする私の背後から、高いヒール特有のあの音が聞こえてきた。
振り向けば、向こう側から前々回優勝者で過去最多となる五連覇を成し遂げたこともあるレジェンド“当たり馬のミカ”が堂々とした立ち振る舞いでこちらへ向かってきていた。
よく見れば彼女の頬は悠然とした笑みを湛えていたが、その中には確かに悔しさも滲んでいた。当たり前だ。彼女の得点は私とたった一点差の29点。おそらくBL要素が少し足りなかったのだろう。“鋼の腐人”こと腐女子・早川の前で惜しくも一点を取り逃がしたのだった。

そんな彼女が、私の目の前までやってきて足を止めた。
恐る恐る顔を覗き見れば、目があってその妖艶な美貌がますます悔しげに歪められた。

「……この度は優勝おめでとう、“内股のユギ”。……まさか、一点差とはね」
「……!!」

私だって、まだ信じられないのだ。
今回の彼女の作品は、これまでの彼女の情熱的過ぎるほどに激しい愛する人への思いを表したものとは大きく違い、夢見る乙女のような可憐な印象を与えるものだった。
私もそのギャップに、思わず自分の発表も忘れて魅入ってしまっていたほどだし、会場も、あの“当たり馬のミカ”が再びトップを奪還するか、それとも新星のルーキーこと私、“内股のユギ”が彼女を抑え二連覇を成すか、固唾を飲んで見守っていたのだ。

「でも……」
「分かってるわ」

「あなたのものだって素晴らしかったわ」そう繋ごうとした私の言葉を遮って、“当たり馬のミカ”は言う。

「今回こそは、パッと出だと思っていたあなたに打ち勝つことができると……あなたの力はあの時だけのものだと証明できるほどに素晴らしいものを用意したつもりだったわ。
でも、私は鋼の腐人を抑えることができなかった。…そして、あなたはそれを成し遂げることができた。あなたの力は、本物だった……!!
………完敗よ。“内股のユギ”………!!」
「………!!」

“当たり馬のミカ”に差し出された右手をふらりと取ったその時に漸く、遅れて二連覇達成の実感が湧いてきた。
ハッとして彼女の顔を伺うと、今はどこか吹っ切れたような、然し真っ直ぐな瞳がそこにはあった。

「ありがとう……“当たり馬のミカ”!」

そうして私たちは、強く強く手を握り合った。
会場中から巻き起こった拍手は、いつまでもいつまでも止むことはなかった………


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