テレビで、評論家が怒っている。
「なんだあれは!あんなものを、野放しにしていては、国民がみんな馬鹿になってしまうっ!」
VTRが流れた。現場からの中継である。白い天使が都会の青空を舞っている。
その下には大歓声。
「おーい、おれのところにきてくれっ!」
「こっち!」
「風紀さま!」
「来て来て」
風紀さま、と呼ばれる天使は気まぐれに、一人の男にタッチする。それから、面白そうに、次は誰にタッチしようかと、空を舞い始めた。
タッチされた男は幸福になった。顔を見ればわかる。あらゆるストレスや悩みから解放されて、筋肉の緊張の抜けた顔だ。仏陀のようだ。満ち足りた男は群れから離れた。誰かを愛しにでも行くみたいに。
そう、触れると幸福になるのだ、あの天使は。今の男に、インタビュアーが近づいて、
「今の気分は?」
「最高です!愛しています!」
いきなり愛の告白をされたインタビュアーは、まごついたが、事実、男の中では愛があふれていた。しかもインタビュアーだけでなく、全人類への。
「あなたも天使にふれたらいい。ああ、僕もあの天使だったらよかったのに。そしたら今にもあなたを幸せにできるというのに!」
「ありがとうございました!」
スタジオで、さっきの評論家が
「けしからん!」
そこでトオルはテレビを消した。ソファで横のまま、風紀さまと呼ばれる天使について考えた。
あれは何だろう。やがて眠ってしまい、目が覚めたら夜で、宿題を終わらせたら深夜だった。しかし、目が冴えていた。インスタントコーヒーを飲みながら、風紀さまと呼ばれる天使について考えた。あれは何だろう。