【先行投稿】帝國戦史(仮名)

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4:アーリア:2017/07/23(日) 14:06

【前レスの続き】


「ボリスの手勢が動き出したのか? 」

 俺はそう推測し、行動に出た。幸い、談話室には俺1人しか居なかったので直ぐに談話室を出た。
 仕事内容は簡単で屋敷中を大声を上げて走り回れと言うものである。

「おらっ! 伯爵をぶっ殺してやる」

 伯爵を殺すと言えば、当然、守備兵は反応するはずだ。

「伯爵の首は幾らになるんだろうな! 」

 俺はきちんと仕事をしている。ボリスに言われた通りにだ。だが、守備兵たちは俺に気づかない。

「・・・・・・そもそも屋敷の建物内に殆ど守備兵が居ないじゃないか」

 守備兵の多くは、主に屋敷の建物内ではなく、敷地内に複数ある詰所に居たのだろう。俺が屋敷の玄関に2人の守備兵を見かけてから以降、守備兵の姿を見たのはアッシュだけである。屋敷の建物自体、広いと言うのに守備兵を全く配置していないとは。
 だが、大声を上げて走っていると、1人の守備兵が俺を追いかけてきた。

「不届き者め、止まるんだ! 」

 どうやら声からしてアッシュである。
 
「伯爵に復讐してやる! 」

 そして、俺はアッシュ相手にきちんと仕事をする。とは言え、守備兵のアッシュ1人だけを俺に引き付けることがこの仕事の本来の趣旨では無いはずだ。結局のところ、この仕事に何か意味があったのか? そう考えると、やる気も萎えてくる。
 こうして、しばらくの間、アッシュと俺の鬼ごっこが始まった。



 同時刻、マヌンハット伯爵の屋敷は騎士ボリス率いる兵によって包囲していた。だが、その数は50人ほどで、とても薄い包囲であった。

「主君に反旗を翻したは良いもの、僅かな手勢で伯爵邸を落とすことなど出来ません。まあ、ここへ来る前から申しておりましたがね」

 ボリスの老家臣は呆れた表情でそう言った。

「あくまで兵をこちらに引き付けるための囮だ。さらに屋敷の中では5人のダミーと1人の刺客を放った。暗殺が成功すれば、伯爵の兵は抵抗をやめることになっている」

 しかし、当然ボリスも計画を立てた上で反旗を引き起こしたわけであるので、これが無謀な行動とは思っていない。

「ほう? 暗殺が成功すれば抵抗を止めると。それは初耳ですな」
「この件の首謀者は私ではないからね。あくまで私も協力しているだけだ」

 そして、ボリス自身は首謀者ではないのだ。

「で、その首謀者は誰ですかね」
「伯爵家の者だ。ああ、念のために言うと伯爵家に仕える者ではなく、家族という意味だよ」
「何と!! 」

 老家臣はとても驚いた。何故なら伯爵家の者と言ったら、伯爵本人を除くと他に1人しか居なかったからだ。



 俺は鬼ごっこが面倒になった。後ろを振り向くと相変わらずアッシュが必死の形相で追いかけて来るのだが、どうやら鞘から剣を抜いていなかったで、あえて立ち止まった。そして、直ぐにアッシュの顔面をぶん殴った。
 するとアッシュはその場で倒れたのであった。

「しばらくそこで寝てるんだな」

 と、言いつつも俺も走り回っていたために息が切れていたので、少しの間は他の守備兵に見つからない限りに於いては、歩いて息を整えることにした。
 相変わらず屋敷内の守備兵は見当たらなかった。これは本当にアッシュを除いて1人も居ないのではないだろうかと、俺は考えた。

「彼を気絶させたのは貴方かしら? 」

 不意に背後か女性の声が聞こえてきた。後ろを振り向くと、そこには1人の女性が居たのだ。身なりからして貴族階級であることは直ぐに判った。

「ご苦労様。引き続き頑張ってね」

 そう言うと、女性はこの場を立ち去っていったのであった。


第1話 終わり


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