僕が彼女、京本七海(きょうもと ななみ)と出会ったのはちょうど一年ほど前の夏のことだった。いつも何か嫌なことがあった時、僕は気分転換のために近くの浜辺へ行っていた。その景色はテレビで見るような美しい海ではなかったが、僕的にはその方が心が落ち着いた。だから毎度毎度飽きもせずあの海を眺めていたのだろう。
その日は部活で失敗して責められてしまい、いつものように落ち込んでいたところ、珍しく先客がいたのでたる。前述の京本七海だ。黒く、長い髪を風になびかせ、まるで心ここにあらずと言わんばかりに遥か向こうを眺めていた。
その放心した姿がどこかいつもの僕の姿と重なり、彼女に少し興味を持ったのだ。しかし、初対面の彼女に声をかけるのは流石に気が引けたため、その日は少し遠くで彼女のように放心状態で海を見つめていた。