【episode1 孤独】
__どうやらまたのようだ。
寝汗がシーツに染みて気持ちが悪い感触を肌が感じ取っている。
カーテンからそよ吹く風に顔を当てると
ベッドからその体を退いた。
そういえば今日はあの人の命日だったことを思い出す。
「二年前……か。あの日から」
鳥の無邪気な囀りさえも涙に変わってしまう。
憂鬱な気持ちのまま私はクローゼットから
瑠璃色に黒の刺繍が施してある長袖のワンピースを取り出し着替える。
時刻は純金で出来ている時計の針が九時を指し示している。
部屋は実に静寂に包まれており、必要のあるものしか置いてない
この殺風景な部屋にはとても静寂が似合うと思った。
白い机に白いベッド。ベッドの上は窓。
そして私らしくない白の机の上にあの人と私の写真。隣にはもういない家族の写真。
この部屋には虚しさと孤独しかない。
自分の部屋なのにそう客観的に見る自分がいた。
「行ってきます」
そう言ってドアノブに手をかけて部屋を後にした。
二階の自分の部屋から一階の玄関へ行き、黒いパンプスに足を入れる。
そして電気を消し外へと踏み出した。
眩しい日差しは春だと思えないくらい夏らしさを感じさせた。
赤煉瓦で全体的にできているこの街を歩き花屋を見つける。
花屋の女性店員は繕った笑顔で挨拶を交わしてくる。
「__貴方も館に行くんですか?」
甲高い花屋の声。確かにあの女性の声。
「え……? 」
「行くんですか? 」
彼女は真っ直ぐな目で見つめる。
「__行きますよ。彼の敵を討ちに」
そういうしかなかった。