その日、私は異変に気が付いた。
「ねぇ、真白!」
「何?美苗」
私が振り返ると、友人の美苗は嬉しそうにCDを渡してきた。
「はいこれ」
「……何?」
私が不思議そうに聞くと、美苗は当たり前のように言った。
「だってこれ、ずっと前から真白が欲しがってたやつじゃん?だからさ」
「えっ!い、いいよ。こんなの、美苗に悪いし」
「いいからいいから」
美苗が渡してきたのは、確かに私がずっと前から欲しがっていたアイドルのCDだった。
でも、何で私に貸してくれたんだろう?
別に誕生日でも何でもないのに。
それを少し疑問に感じながらも、私はありがたく聞くことにした。
放課後、家に帰った私は、早速美苗から貸してもらったCDを聞いてみることにした。
ラジカセにセットして、音楽を流す。
そしたら、私の好きなロックな曲が流れてきた。
リズムに合わせて少し踊ってみる。
返すのがもったいないくらいだけど、ちゃんと明日、返さなきゃね?
―翌日
「おはよー!美苗」
「あ、おはよ、真白」
朝、私は玄関で靴を履きかえていた美苗に元気にあいさつをした。
鞄からCDを取り出す。
「昨日はありがとう、美苗」
普通なら美苗がここでCDを受け取るはず。
でも……。
「いいよいいよ。これ、真白にあげる」
美苗はCDを私に突き返したのだ。
「えっ、でも……」
ちょっと困った私が何か言おうとすると。
「いいって。じゃ!」
美苗は私の言葉を遮るように教室に行ってしまったのだ。
美苗……これはちょっと変……。
何でこんなに私に優しくするの?
ちょっと嫌な感じがした私は、それを振り払うように教室の中に飛び込んだ。
しかし、教室に入ると、さらなる異変を感じた。
「おはよう、季節野さん」
「おはよう、真白ちゃん」
今までこんなに一斉にあいさつをされたことがなかった。
だからか、ちょっとそれが不気味に感じる。
「お、おはよ……」
「なぁに?真白ちゃん、ちょっと暗いよぉ?」
その言葉に皆の口から笑い声がこぼれた。
裂けたような口で同じように笑っているのだから、不気味に感じるのは当たり前だろう。
でも、なんていうのかな?不気味に感じる理由がそれだけじゃないような……。
「ま、し、ろちゃん♪」
「ひっ……ひ……」
突然耳元にささやかれた声にびっくりして悲鳴を上げる私を、皆は不思議そうに見つめていた。
「真白ちゃん……どぉしたのぉ?なんか今日、おかしいよぉ……」
「いやあああっ!!」
あまりの恐怖に私は教室から逃げ出した。