一日目[バーサーカー陣営]
夜の住宅街の静寂を背に、黒髪を冷たい夜風になびかせて、少女は一人森の奥へと続く道を行く、不思議と怖くはなかった、この先には勝利という栄光が待っている、と信じていたから。
少女はこの度の聖杯戦争における自身の勝利を確信していた。
理由はただ一つ、少女が強い英霊を喚べる触媒を入手出来たからに他ならない。
英霊の強さを決める三つの要素――生前の武勇、知名度、後世の人々が想い描くイメージ――彼はその全てを高い水準で合わせ持つ。
当代最強との呼び声高い神秘殺しの英雄をして神仏の力を借りなければ倒せないと言わしめた怪物――■■■■。
その触媒――"半分に割れた盃"を少女は手に入れたのだ、故に。
「この勝負、私の勝ちよ」
勝利宣言、声色は自信に満ち、一切の迷い、不安を感じさせない。
少女は暗黒の森をひた進む、勝利という名の栄光を勝ち取るために。
「着いた」
それは廃墟だった、古びたコンクリートの外壁、割れた窓ガラス、暗闇の中佇むそれは、幽霊屋敷めいた不気味さと、ある種の聖地を思わせる神秘性を感じさせた。
それはこの場所が即席の魔術工房だからだろうか。
「急がなきゃ、時間が無い」
触媒を台座に置き血の魔方陣の前に立つと少女は素早く詠唱を開始した、覚悟はとっくの昔に決まっている。
「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。
降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ
閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。
繰り返すつどに五度。
ただ、満たされる刻を破却する」
詠唱に呼応してオーロラのように蒼白く揺らめく魔力光、率直に言って美しい、思わず見とれてしまいそうになる。
「――――告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ
誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、
我は常世総ての悪を敷く者。
されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者――。
汝三大の言霊を纏う七天、
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」
詠唱が完了するのと同時、光が爆ぜる、風が巻き起こる、そして声が響く。
「――問おう、アンタが……オレのマスターか?」